ADA栄養勧告「カーボ130 g/日未満は非推奨」の検証

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ADA栄養勧告「カーボ130 g/日未満は非推奨」の検証



# この記事では「炭水化物」「糖質」「カーボ」の用語を特に使い分けていません。だいたい、「でんぷん類+糖類+糖アルコール」くらいの意味で使っています。消化吸収されない食物繊維は含みません。読んでいて混乱されるかもしれませんが、ご容赦ください。

 日本流の栄養指導に背を向けるカーボカウンターの拠り所、アメリカ糖尿病協会(American Diabetes Association:ADA)。
 やはりADAの「糖尿病者のための栄養勧告と介入(Nutrition Recommendations and Interventions for Diabetes)」から話を始めるのが筋というものだろう。
 さて、この勧告のオリジナルを確認したことのある人はどれくらいいらっしゃるだろう。
 特に、「炭水化物を1日130 g未満にするのは推奨しない」ってアレ。

最新版は2008年1月に出されたもの。 推奨グレード付き勧告リストも表にまとめられている。
 話題になった「炭水化物をモニタリングすること」推奨グレードAは、確かにある。

・Monitoring carbohydrate, whether by carbohydrate counting, exchanges, or experienced-based estimation remains a key strategy in achieving glycemic control. (A)
・カーボカウントであれ、交換表であれ、経験に基づく推定であれ、糖質をモニターすることは血糖コントロール達成のための重要戦略である。(A)

 しかし、「カーボ1日130 g未満のダイエットは推奨しない」という項目は、勧告リストには無いのである。
 どうか、ご自分の目で確かめていただきたい。

→2008年版ADA栄養勧告リストから炭水化物に関する項目の引用と対訳

 では、と本文のほうを探してみると、あった。2箇所。

 まず、過体重と肥満の項に次のように記載されている。

The recommended dietary allowance (RDA) for digestible carbohydrate is 130 g/day and is based on providing adequate glucose as the required fuel for the central nervous system without reliance on glucose production from ingested protein or fat (22). Although brain fuel needs can be met on lower-carbohydrate diets, long-term metabolic effects of very-low-carbohydrate diets are unclear, and such diets eliminate many foods that are important sources of energy, fiber, vitamins, and minerals and are important in dietary palatability (22).
 食餌性炭水化物の推奨栄養所要量(RDA)は130 g/日であり、これは摂取したタンパク質や脂肪からのブドウ糖生産に依存せずに、中枢神経系が必要とする燃料を供給するのに適当なグルコース量に基いたものである。(22) 脳の燃料必要量はより少ないローカーボ食でも満たせるが、極少カーボ食の長期的な代謝への影響は不明であり、またそのような食餌は重要なエネルギー、食物繊維、ビタミンおよびミネラル源となる食物や美食の楽しみに重要な食物を排除することになる(22)。


→この段落の前段の引用と概略


 (22)というのは引用文献の番号で、その正体は、Institute of Medicine: Dietary Reference Intakes: Energy, Carbohydrate, Fiber, Fat, Fatty Acids, Cholesterol, Protein, and Amino Acids. Washington, DC, National Academies Press, 2002 。
私が「糖尿病を借りてきた猫にする方法」へのコメントで紹介したアメリカ(&カナダ合同)の食事摂取基準(DRI)の2002年版。これについては、別記事で再録する。

 今は、2008年1月のADA栄養勧告の続き。炭水化物の項の本文から。

A 2004 ADA statement addressed the effects of the amount and type of carbohydrate in diabetes management (40). As noted previously, the RDA for carbohydrate (130 g/day) is an average minimum requirement (22). There are no trials specifically in patients with diabetes restricting total carbohydrate to <130 g/day.
・・・・・・・・・・・・
Thus, questions about the long-term effects on intake and metabolism, as well as safety, need further research.
 2004年のADAの声明は、糖尿病管理における炭水化物の量と種類の影響を論じたものである(40)。前述のとおり、炭水化物(130g /日)のRDA(推奨栄養所要量)は平均最少必要量である(22)。糖尿病患者に限定して総炭水化物量を130g /日未満に制限した試験は存在しない。
・・・ 中略 ・・・
従って、摂取と代謝に関する長期的影響および安全性については、さらに研究が必要である。


 ・・・と書いてある。
 実は、略した部分におかしなことが書いてあって、その検証もしてある。

→ ただし「炭水化物130g /日」の検証の本論からはやや外れるので、マニアックな方のみご覧ください。
(医療関係の方にはぜひ読んでいただきたいので、お時間に余裕があればお願いします。)


どうやら「カーボ130g /日」がADAに初登場したのは、2004年のADAの声明らしい。

→2004年ADA声明の当該部分の引用と対訳

 この2004年声明において「カーボ130 g/日未満は非推奨」の根拠とされたのも、やはりアメリカの食事摂取基準(DRI)の2002年版。

 さて、今はADA栄養勧告を1代だけ遡ってみる。ADAの栄養勧告の2007年版をチェックすると、ありました。

・Low-carbohydrate diets, restricting total carbohydrate to <130 g/day, are not recommended in the management of diabetes. (E)
・炭水化物総量を130 g/日未満に制限した低糖質食は、糖尿病のマネジメントとして推奨しない。(E)


 もう1年遡った2006年版では、過体重と肥満の項に

Although low-carbohydrate diets produce short-term weight loss, maintenance of weight loss is similar to that from low-fat diets, and the impact of these diets on cardiovascular risk profile is uncertain. Low-carbohydrate diets (restricting total carbohydrate to < 130 g/day) are not recommended.
ローカーボ食は短期間の体重減少をもたらすが、体重減少の維持についてはローファット食と同程度であり、これらのダイエットが循環器リスクプロファイルに与える影響は不明である。ローカーボダイエット(炭水化物総量を130 g/日未満に制限)は推奨されない。

と書いてあるだけ。炭水化物の項には、記載なし。グレード付きの勧告リストは、この年の勧告には付いていないみたい。

 世の中に出回ったカーボ1日130g勧告の出所は、上記2007年版ですな。


というわけで、「カーボ1日130 g」年表。

2002年 DRI(米国食事摂取基準)で初登場!
2004年 ADA声明で、これを根拠にローカーボ食を非推奨
~2006年 その後のADA栄養勧告も、これを継承
2007年 ADA栄養勧告で、勧告リスト入り。推奨グレードは(E)
2008年 ADA栄養勧告では、勧告リストから外れる。本文ではずっと継承

 あと片付けなくてはならない懸案は、ひとつ。
 2007年の推奨グレード(E)って何よ?


 というわけで、今度はADAの医学的証拠格付けシステム
 世の中、いろいろなランキング付けがされているけれど、ADAのやり方は、

Recommendations have been assigned ratings of A, B, or C, depending on the quality of evidence (Table 1). Expert opinion (E) is a separate category for recommendations in which there is as yet no evidence from clinical trials, in which clinical trials may be impractical, or in which there is conflicting evidence.
勧告は、証拠の質に従ってA,B,Cに格付けした(表1)。専門家の意見(E)は勧告の別カテゴリーであって、未だ臨床試験の証拠が無いか、臨床試験が非実用的であるか、あるいは矛盾する証拠があるものである。


 推奨グレードすべての定義一覧表で確認してほしい。
→原文と拙訳の対照表

 ここでは勧告(E)だけ紹介する。

E
Expert consensus or clinical experience
E
専門家のコンセンサスまたは臨床経験


「未だ臨床試験の証拠が無いか、臨床試験が非実用的であるか、あるいは矛盾する証拠があるもの」
  2007年のADA勧告リストでくっついていたグレード(E)というのは、この程度のもの。

 「専門家のコンセンサス」は、私に言わせれば、
「だって、みんなが言ってるも~ん」(違うこと言っている人もいるけどね・・・)ランク。

 では、その「みんな」とは?。

 それが、アメリカ食事摂取基準=DRI
「カーボ1日130 g未満は非推奨」の元ネタ。




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copyright (c)2009/10/31 えいりあん
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