DRI食事摂取基準:カーボ130 g/日を食べることが脳に必須?

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食べることが脳に必須?



# この記事は、YCAT様のブログエントリー「糖尿病を借りてきた猫にする方法」へのコメントとして入力した内容に加筆修正を加え、再構成したものです。当該コメントをお読みいただいた方には、内容の重複部分が多いことを予めお詫び申し上げます。



 さあ、ADA勧告「カーボ1日130 g未満は非推奨」の元ネタを料理しよう。

 カーボ130 g/日の根拠は、(米国&カナダ)食事摂取基準(DRI:Dietary Reference Intakes for Energy, Carbohydrate, Fiber, Fat, Fatty Acids, Cholesterol, Protein, and Amino Acids (Macronutrients) )。大元の2002年版は見つからなかったが、2005年版がオンラインで無料で読めるので、これを参照。


 この食事摂取基準(DRI)は、基本的に、(少なくとも一見して)健康な(北アメリカ)人が最適な健康状態と長寿を得られるような栄養摂取量を提言することを目的としたもの。
 すでに何らかの病気や故障を持っている人は、前提から外れている。

 それなのに、すでに糖尿病ないし耐糖能異常という病態を抱えた人向けの勧告に、米国糖尿病協会(ADA)はなぜそのまま取り入れるんだ~? という疑問を、私は、ADA勧告の元ネタがDRIであることを見つけた8月末から抱えていて、ずっとそのまま。今回のこの拙文でも、その疑問は解けない。

 ADAの言うようにある一定の量のカーボが脳のために必要であるとして、それを食べなくてはならないというのは本当なのか?脳は消化器官に直結しているわけではないのだから、脳血流中のグルコースが必要量あれば充分ではないかと、私は思う。血中グルコース濃度を一定値以上に高く保つことにかけては、われら耐糖能異常者は正常者よりずっと得意なのに、なぜ我々がADAからそんな勧告を受けなくてはならないのだろう?

 さて、アメリカDRIの第6章265ページから338ページまでが炭水化物の章である。

 用語の定義や炭水化物の代謝の説明の後、275ページから「不適切な摂取の臨床影響」なる項が始まる。炭水化物の摂取量に関する記述を抜粋する。 もう少し詳細な引用と対訳はこちら。

The lower limit of dietary carbohydrate compatible with life apparently is zero, provided that adequate amounts of protein and fat are consumed.
適切な量のタンパク質と脂質を消費してよいのであれば、生命を維持するのに必要な食餌性糖質の最小量は、一見してゼロ
・・・・・・ the marginal amount of carbohydrate required in the diet in an energy-balanced state is conditional and dependent upon the remaining omposition of the diet.
・・・・・・ エネルギー的にバランスした状態の食餌中に必要な糖質の限界量は、他の栄養素の割合次第である。

 続いて、277ページから「炭水化物の平均必要量を見積もるのに考慮した証拠」の項。

The minimal amount of carbohydrate required, either from endogenous or exogenous sources, is determined by the brain’s requirement for glucose.
糖質の必要最小量は、体内で合成されたものであれ、外部摂取によるものであれ、脳に必要なグルコース量で決められる。
he requirement for glucose has been reported to be approximately 110 to 140 g/d in adults (Cahill et al., 1968). Nevertheless, even the brain can adapt to a carbohydrate-free, energy-sufficient diet, or to starvation, by utilizing ketoacids for part of its fuel requirements.
グルコースの必要量は成人でおよそ110 - 140 g/dだと報告されている。にもかかわらず、脳はエネルギー必要量の一部にケト酸を利用することで、エネルギー的には充足しているが炭水化物抜きの食餌や、あるいは飢餓にも適応できる。
In individuals fully adapted to starvation, ketoacid oxidation can account for approximately 80 percent of the brain’s energy requirements (Cahill et al., 1973). Thus, only 22 to 28 g/d of glucose are required to fuel the brain./td>
飢餓にすっかり適応した人々では、ケト酸の酸化によって脳のエネルギー必要量の約80 %をまかなうことができる。だから、脳を動かすのに必要なグルコースの量は、たった22 - 28 g/dとなる。

 この後、280ページからライフステージで区分けしてカーボの適切な摂取量というものを算出していく。子どものページは飛ばして、285ページ以降の19歳以上の成人の項。

Long-term data in Westernized populations, which could determine the minimal amount of carbohydrate compatible with metabolic requirements and for optimization of health, are not available.Therefore, it is provisionally suggested that an EAR for carbohydrate ingestion in the context of overall food energy sufficiency be based on an amount of igestible carbohydrate that would provide the brain (i.e., central nervous system) with an adequate supply of glucose fuel without the requirement for additional glucose production from ingested protein or triacylglycerols. )注:EAR:Estimated Average Requirement
西洋化された人々について、最適な健康状態を保つのに必要な代謝に相当する糖質の最小量を決定できるような長期間のデータはない。だから、食物から摂取すべき糖質の平均必要量推定にあたり、食べた糖質が脳(中枢神経系)に適切な量のグルコースを供給して、タンパク質や中性脂肪から生合成されたグルコースを余分に使う必要がない[という条件での]糖質量を、暫定的に提案する。

 !!!
 なによ、ここに仮定が入っているじゃありませんか。
肝臓で合成されるグルコースは使わない場合、という仮定。


 結果の数字だけ引っ張るんじゃなくて、前提条件があるならそれもちゃんと併記しておいてよ~~~。
 (怒怒怒)

 この後、脳における酸素消費量のデータを基に、脳のグルコース消費速度が計算される。そこからタンパク質やグリセロールから日々どうしても合成されて循環に入るグルコース量を引くと、だいたい100 g/日になるというのが結論。

 糖新生を使えば、グルコースはゼロでも良かったのでは? という点に関しては、

In the absence of carbohydrate in the diet, and in the absence of a rise in ketoacids above the overnight fasting reference range, ingested protein sufficient to provide the brain with glucose fuel is theoretically possible, but is not likely to be acceptable. The amount of dietary protein required approaches the theoretical maximal rate of gluconeogenesis from amino acids in the liver (135 g of glucose/24 h) (Brosnan, 1999).
食餌で糖質を摂らず、かつ一晩食べなかった後のレベル以上にケトン体が上がらないのであれば、食べたタンパク質から脳に必要なグルコースを充分に供給することは、理論的には可能である。が、これは受け入れがたい。[なぜなら、そのために]必要な食餌性タンパク質の量は、肝臓でのアミノ酸からの糖新生速度の理論的最大値(24時間で135 gのグルコースを作る)に近くなる[からである]。

 という記述あり。
 つまり、仮に糖新生だけで脳を養おうとすると、普通の肝臓だったらほぼ100%フル稼働しなくてはならない、ということ。

 最後に、100 g/日がなぜ130 g/日に化けたかというと;

The RDA for carbohydrate is set by using a CV of 15 percent based on the variation in brain glucose utilization. The RDA is defined as equal to the EAR plus twice the CV to cover the needs of 97 to 98 percent of the individuals in the group (therefore, for carbohydrate the RDA is 130 percent of the EAR).
脳のグルコース消費利用効率の偏差がだいたい15 %で、この倍を見込めば97 - 98%の人をカバーできるから、推奨値は130 g/日。


 統計的に2σまで取った、ということみたい。まあ(アメリカ&カナダ)国民全般向けの基準を定めたわけだから、これは当然かも。

 以上、これが元ネタ。
 ADA勧告「糖質を130g/日喰え」の正体。



 私の個人的な要約を掲げると;

 どうしても口から食べなくてはならない糖質の極小値は、理論的にはゼロ。
 ただし、必要なグルコース量を合成できる身体を持っている人が、グルコース合成に使う他の栄養素を必要充分量摂取した場合に限り。
 少なくとも、短期的には。長期的影響は、誰も知らない。
 だから、長期的に問題が出なさそうな「平均」「推定」糖質最少摂取量を(体内グルコース生合成の助けを借りないという前提つきで)「暫定的に」見積もってみたら、100 g/日になりましたとさ。そして、1歳以上の北アメリカ大陸人の殆ど全部をカバーするために、2σプラスして、「糖質最少摂取推奨量は、130 g/日」。


 なんだ。
 私個人の食べている糖質量90 - 100 g/日は、北アメリカ人の脳にオーケーっぽい糖質最少量の平均値くらいかちょっと少ないだけじゃん。私はアメリカに居た頃も変人の部類には入っていただろうけれど、全人口の98 %の外側へ行くほど変な脳は持ち合わせていないと思うよ。
 だから私は、無理して今以上に糖質を食べようとは思わない。

 最少摂取量の計算に当たって、肝臓によるグルコースの生合成を除外するという前提を置いたのだったら、なおさら。

 なにしろ最近の私は、肝臓が張り切って作ってくれてしまうグルコースに、インスリン基礎分泌が対処できるかどうか心配しなくてはいけない状況なのだから。
 私が1日に130 gも糖質を食べるのはトレーニングを入れる日だけだけれど、だからといって私は、脳の心配はしない

#ただし、脳の心配はしないけれど、それは決して「何も心配しない」ということを意味しない。腎臓や肝臓のことは、それなりに気にしていかなきゃいけないと思っている。

##前記事のために、ADA勧告を過年度分まで遡る過程で、2007~2008年にアメリカのブログやbbsでは、さんざん「ADAがローカーボダイエットをディスカレッジした!」とか「1日カーボ130 gって、なんだよ?!」という議論がされていたことを知った。今頃こんなことを書くなんて、周回遅れもいいとこ。玉も石もいちいち集めなかったけれど、大御所をひとつだけ張っておく。


copyright (c) 2009- えいりあん

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