Nelson-Atkins Museum of Art

カンザスシティーの週末

 

ネルソン・アトキンズ美術館

2008年6月14日

カンザスシティーの週末

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 カンザスシティー出身の夫に、「ネルソン・アトキンズ美術館に行ったことがある?」と聞いてみたら、「小学5年生の時、社会見学で行ったことがある」との返事が返ってきた。何でもこの美術館は無料で入れるし、所蔵品もたくさんあるということなので、ずっと行きたいと思っていた場所なのだ。

「それにしても、なんでこの美術館は、無料なんだろう。こんなに立派な建物で、いろんなジャンルの美術品があるっていうのに。」

「市が経営しているからだよ。昔は個人の持ち物だったんだけど、市が買い取ったんだ。」

美術には無関心の夫も、さすが生まれた時からの地元人だけあって、当たり前であるが、私よりもこの町のことを良く知っているらしい。

 

 

「今週の週末は、ネルソン・アトキンズ美術館に行きたいんだけど。」

「えー、やだ。美術館なんて、退屈だよ。」

こう言っていた夫も、妻の要望を承諾し、今週は念願の美術館訪問が実現した。インターネットで住所を調べた後、ハイウェーにのって、ダウンタウンに向かう。日本ではあまりおなじみではないが、カンザスシティーは、高層ビルが立ち並び、高速道路が複雑に入り組む、意外と大きな街なのである。街の中心部がミズーリ州とカンザス州にまたがり、人口が二分されるので、統計上大都市と認定されないため影が薄い、とどこかのインターネットの記事で読んだことがある。夫が運転する車でダウンタウンの高層ビルを見ながら、そんなことを話し合った。

 少々道に迷いながらも、お目当ての美術館を見つけた夫は、建物の脇の道に路上駐車をした。インターネットで調べたところ、カンザスシティーでは珍しく、駐車料金が5ドルとあったので、支払う覚悟はできていたのだが、路上駐車のおかげで、100パーセント無料になった。この美術館の周りには、緑が美しい広大な芝生の公園が広がり、敷地内にはたくさんのオブジェがある。その中で一際目立つのが、巨大なバトミントンの羽である。これは建物の前にいくつかあり、建物の前を通る道からも見えるほどである。

「なんで、バトミントンの羽なんだろう?」と夫に聞くと、

「緑が美しい公園で、いかにもバトミントンができそうだからじゃない?」

と言う。なるほど、言われて見れば、そんな気がしないでもない。車を降りて敷地内に入ると、ロングドレスやスーツを着た人たちがいた。美しい建物と公園は、この街で人気の結婚式会場なのだろう。

 

長い階段を登り、大きなドアを開けて、中に入る。入り口には大きな黒い柱が、ギリシャ神殿のように並んでいた。どこから始めればいいか分からないほど、大きな美術館である。まずとりあえず右に曲がり、鑑賞を始める。最初に入った場所には、大きな像がいくつか、立っていた。初めに裸の男女が肩を寄せ合っている像が目に入る。こういう美術館に来ると、いつも思うのだが、どうして絵画や彫刻は、裸でも「芸術」と見なされるのだろう。これが写真であったり、本物の人間であれば、「ポルノ」である。最近、ある雑誌に有名カメラマンが取った、アメリカで超人気のティーンエージャーのアイドルの写真が掲載され、その写真が「猥褻すぎる」と、小さな子供達を持つ父兄から反感を買った。ディズニーが作るテレビドラマに出演しているそのアイドルは、社会に対して謝罪しなければならなかったのだが、その写真は、こういった「裸の芸術品」に比べれば、何でも無いような代物なのである。この恋人達の像の写真を撮ったが、身体のあまりにも細かい部分まで、忠実に彫刻されているため、インターネットに載せるのは、問題があるのではないかと思うほどである。(だから、ここでは載せません!)この裸の恋人達の近くに、ギリシャの墓から発掘されたライオンの像があった。何でも紀元前の物らしい。インターネットの説明では、「アメリカでは、墓からこんな美術品が発掘されることはありえない。さすがギリシャである。」といったコメントが書かれていた。

 

 次に私の目に映ったのが、モネの蓮の絵である。カンザスシティーなどでモネの絵画があるなんて信じられないかもしれないが、本当に存在するのだ。この絵は横に長く、観賞用の椅子が前に置かれていた。印象派のモネの作品は、近くで見ると、ただ単に単純な線が走っているだけに見える。しかし、この椅子に座ってみると、子供の落書きに見えないでもないその絵が、不思議な印象を持つ名画に変る。ぼんやりと漂う蓮の花が、淡い紫と緑の水に浮かび上がっている様子が描かれている。そして明るめの色は、光が水の上で緩やかに反射している様だと思う。印象派という名がふさわしい名画である。

 この蓮の絵の横に、もう一枚モネの絵画があった。パリの冬の様子を描いた物だ。私は、モネのような印象派の絵画が好きだ。私のオフィスには、印象派の絵が毎月楽しめるカレンダーがある。今でこそ、印象派は一つのジャンルとして認められており、カレンダーになる程、ファンも多いのだが、モネが生存していた時代には、評価が低かったようだ。このパリの冬の絵も、その当時は高い評価を得られなかったと説明に書かれていた。今からは考えられないことである。

 ヨーロッパのどこかの宮殿の一室にあったらしい、中国風の絵が描かれた壁が飾られていた。淵が緑で、天井にはシャンデリアが垂れ下がっている。この壁に描かれた絵は、私の目にはどうしても「中国風」にしか見えないのだが、夫が「日本風だって」と言う。「これは中国よ」と私が言うと、「ここに書いてあるよ」と説明書きを指差す。「彼らは良く知らないのよ」と、私は強く主張した。大体、赤は中国の色だ。日本人は、このような朱色を絵画に使わない。後でインターネットで調べたところ、「日本風と呼ばれる中国の絵」という説明があった。つまり、その当時のヨーロッパ人は、中国の絵を「日本風」と呼んでいたらしい。

 

 上の絵は、Canalettoという18世紀の画家が描いたベニスの広場の風景である。細かい描写が、まるで写真のように精密で、広場の様子が手に取るように生き生きと伝わってくる。18世紀のベニスの街中に、突然タイムスリップしたような錯覚を起こさせる絵だ。私はこの絵の前でしばらく立ち止まり、人々の話し声や通りすがる靴の音などを、聞いたような気がした。それほど、写実的に描かれている。旅行した気分にしてくれる一枚である。

 

この美術館には、たくさんのジャンルの絵画や美術品があり、私たちは全て見ることはできなかった。展示の配列もよく知らなかったので、適当に歩き回った結果、基本的に常設の西洋画、現代アメリカ美術、古代彫刻、宗教画、陶器などを見たようだ。見た絵の一つ一つを説明したら延々と長くなりそうなので、この辺でやめておこうと思う。最後に一つだけ、左の写真は、館内にあるレストランの噴水だ。最近、噴水フリークになりつつある私は、この噴水の写真がどうしても撮りたかったのだが、美術館員に最初聞いたときは、「レストランは今閉まっている」とのことで、写真を撮るのを一時諦めた。しかし、たまたま歩いていた方向にレストランを発見し、ドアを開けて誰もいないレストランと噴水を撮影した。レストランも噴水も、ヨーロッパのようで美しかった。お目当ての写真が撮れ、満足だった。

 実を言うと、もう一つ言いたいことがある。後日、私の同僚が言ったことが本当であれば、この美術館は、エジプトのミーラを保管しているらしい。私たちは今回見れなかったが、次回必ず見たいと思う。

 

 美術館の外に出ると、美しいウエディングドレスを着た花嫁が、美術館の前で記念撮影をしていた。彼女の気品あふれる聡明な美しさを、そっと横から撮影した。その他にももう一組、写真撮影をしている結婚したばかりのカップルを、外で見た。やはり、人気の結婚式会場のようである。緑がまぶしい6月の公園を、こうして跡にした。