Cabela's

カンザスシティーの週末

アウトドア用品専門店 ケべーラ

2008年11月23日

カンザスシティーの週末

Isoko Durbin のブログ集

アメリカ人夫の一言

アメリカ生活録

アメリカで出会ったおいしい料理

 

 

 夫は食料品会社の倉庫で、マネージャーの仕事をしている。マネージャーの仕事の中にも色々あるらしく、最近、冷凍庫の中で働いている人たちの統括をするようになった。冷凍庫であるから文字通り氷点下の世界で、会社から支給される防寒具だけでは寒さをしのぐことが出来ないらしく、新たにブーツや特別な靴下などを買いたいと言った。そこで私たちは、夫が仕事から帰ってから、以前夫の姉と彼女の子供達と一緒に行った、カンザス州のモール「レジェンド」にある「ケべーラ」というアウトドア用品専門店に行くことにした。

 駐車場に着くと、店の前に大きな人だかりができている。まるで、感謝祭の翌日全国的に行われる大バーゲンの日、ブラックフライデーのような様子だ。その時はすでに日曜日の午後6時を過ぎていたので、実を言うとまだ店が開いているかどうか、心配していたのだが、どうやらその心配はしなくて良さそうだ。しかし店の入口の両端から、入場するための長い列が出来ているというのは、尋常ではない。何か特別な催し物でもあるのだろうかと、列に加わった私は、後ろにいた老夫婦に尋ねてみた。

「今日は、特別顧客だけが入場できるセールがあるのよ」

と言う。そんなことは全く知らなかった私たちは、招待券無しで店内に入れるのか、また入れたとしても、買い物ができるのだろうかと心配しながらも、他の客に紛れて店内に突入した。

 

 店に入る前に、ドアのガラスに書かれた営業時間を見ると、日曜日は6時で終了らしい。ということは、この特別セールがなければ、私たちは無駄足を踏む所だったのだ。招待券も無いのに図々しく店内に入った私たちは、たくさんの人たちが我先に応募用紙をつかもうとする中、入口で行われていた懸賞に応募する。なにやら旅行などが当たるらしい。店内にはクリスマスツリーが飾られ、すでにホリデーシーズン到来を告げていた。店内至る所、人だらけである。知らずにこんなセールに参加することになり、ラッキーだったのかどうか分からないまま、夫はお目当ての商品が売っていそうなコーナーに行った。

 私も夫もケべーラに行くのは初めてだったのだが、私はカンザスシティー近郊に住んでいる日本人のブログを読んでいたので、ケべーラがアウトドア用品専門店であること、店内には動物の剥製のような置物があり、まるで動物園のようであることなどの予備知識があった。なので、夫がケべーラに行きたいと言った時は、迷わずカメラを持参したのだった。夫が品定めをしている間、私はカメラ片手に店の中の様子を写真に収めた。中央には大きな山があり、鹿が客を見下ろしている。近くで写真を撮ったが、本物と見分けがつかないほど、良くできていた。子供達がこんな場所に来れば、大喜びであろう。一日遊んで楽しめる広さである。鹿山の横には、ライオンやシマウマ、象などがいた。これまた本物そっくりで、まるでサファリパークにでもいる雰囲である。

 

 

 店の2階では、客に無料でビールとおつまみを配っていた。私も夫が品定めをしている間、列に加わってみたが、あまりにも長い間待たされるので、途中であきらめて夫の元に戻った。これもホリデーシーズンらしいサービスである。こういう特別なことがあると、クリスマスももうすぐなんだな、という気がする。

 夫はまず、保温性のある特別布地で作られたシャツとタイツを選んだ。これを服の下に着るらしい。そして同じような布地でできたマスクを探していたが、なかなか見つからないので店員に聞くと、彼は店の奥にあったものを特別に持って来てくれた。ケべーラで働いているセールスマンは全員男性で、良くトレーニングされているという印象を受けた。客の質問にも的確に答え、対応も早く感じがいい。アメリカのサービス業には全くマナーを知らない店員が多い中、プロ意識が感じられる店があるということは、新鮮な驚きであった。

 夫はこの店員に招待券が無いが、買い物ができるのかどうかを聞いたところ、カスタマーサービスで再度聞いて欲しいとの事だった。人をかき分けカスタマーサービスまで行くと、きっと店のマネージャーであろう、きびきびと働く若い男性がいた。彼は、ケべーラのクレジットカードに加入し承認されれば、他の招待客と同じように、今日特別割引で買い物ができると言う。そこで夫は、笑顔で私を見下ろす。

「僕はすでにクレジットカードを10個くらい持っているから、代わりにケべーラのクレジットカードに加入してくれない?」

と聞くのである。私は、クレジットカードがあまり好きではない。日本のように直接銀行とつながっていないので、アメリカのクレジットカードで買い物をすると、後に送られる請求書の金額を、クレジットカード会社に振り込まなければならないのだ。そんな面倒なことをわざわざするより、今お金があるのだから、サッサと取引を終了してしまいたいと、私は思うのである。しかし、今日クレジットカードに加入すれば、社員価格でケべーラの商品を購入することができる。社員価格といっても25パーセント引きで、これくらいのセールはいつでもあると思うのだが、この「社員価格」という言葉に人々は弱いらしい。どうも特別な響きがある。だから閉店後の特別時間に催されたこのセールに、これほどたくさんの客が訪れたのであろう。

「今回はたくさん買い物をしなきゃいけないから、25パーセントオフは大きいよ。」

と夫は懇願する。仕方がない。私は不本意ながら、ケべーラのクレジットカードに加入することにした。カウンターに行き、申し込み用紙を記入する。クレジットカード担当の男性は、加入するとケべーラの帽子とアーミーナイフが無料で貰え、更に15ドルの無料券が付いてくると説明した。もちろん夫は大喜びである。まあ、色々特典があるようだし、滅多に来る店ではないが、これも良かろうと、無料で貰ったケべーラの緑色の帽子を被った。

 夫は、ブーツが必要であると言う。そこで店の奥にある靴売り場に行く。これまで何度も書いているが、私の夫は背が高い。背が高いということは、靴も大きいということである。私の靴の2倍はある。なので彼のサイズを見つけることは、なかなか大変なのだ。今回も値段、デザイン、防寒性を考えながら全ての靴を見たが、どれもイマイチといった感じだった。たとえ少し良いと思っても、彼のサイズが無い。毎度のことながら、彼にとって靴を選ぶのは、時間のかかる仕事だ。彼が店員に他のサイズがあるか聞いている間、私は隣の特設コーナーに行くことにした。その売り場だけは雑多に物が配置され、いかにも見切り品のバーゲン会場といった雰囲気である。そこに入った瞬間、私の目にブーツが映った。近くに行って手に取ってみると、夫のサイズである。デザインもなかなかおしゃれで、どっしりと重く暖かそうである。そのブーツを抱え、すぐに隣の靴売り場に行く。夫はまだ店員を待っていた。そこで「このブーツはどう?サイズも丁度14号よ」と差し出すと、目を輝かせて「どこで見つけたの!」と言う。早速履いてみると、履き心地良く、夫は気に入ったようである。

「さっきまで1時間以上見て回っても、一つも見つからなかったのに、こんなに簡単に僕が気に入る物を見つけてくるなんて、すごいね。ここの店員なんか、まださっき頼んだ靴を探しているよ。」

もちろんである。妻の腕の見せ所である。それも100ドル以上するブーツだったが、35ドル引かれていて70ドル代である。後にレジで「社員割引」の価格になったので、最終的には60ドルくらいになっていた。これは、正規の靴売り場にあるブーツよりかなり安い。サイズ、デザイン、防寒性も良く、その上割引商品のブーツを、私は特設会場に入った瞬間に見つけた。妻として、またバーゲンハンターとしての私の能力は、ほとんど野生化しているといっても過言ではない。運が向こうからやってくる、といった感じである。

 今までアウトドア用品店に出入りすることが無かった私は、なんとなくケべーラをスポーツ用品店のように考えていた。しかし、その二つには大きな違いがある。どうやらアウトドア用品店とは、狩猟や魚釣りをする人たちを主に対象にしているようである。だから店内に動物の剥製もどきがたくさんあるのだ。夫が手袋を見ていた時、カンガルーの皮でできたものを見つけた。「まあ、カンガルーを殺して手袋を作るなんて!」と思ったのだが、きっと店内にいる大半は、狩猟を趣味にしている人たちなので、そんな動物愛護な私の意見など、気にはしないだろう。客の中には、大きな鳥の形をした物を担いでいる人がいた。「まあ、あんなかわいい品物がここに売っているんだわ!」と、また乙女チックな意見の私だったが、何のことは無い、それは狩猟用の「おとり」だった。つくづく、私の意見は場違いである。長い狩猟用の銃も売っていた。冷凍庫で働くための防寒服を買いに来た夫とその妻の私は、あの店では異人種なのだろう。少なくとも私はそうである。

 長い間待たされたり、レジ係が最初、特別割引をしなかったりと、支払の段階では色々あったが、交渉の結果、約束通り「社員割引」と同じ価格で買い物ができ、クレジットカード加入の際の15ドル無料券や、特別ブーツの割引を加えれば、この日の割引価格は130ドルにのぼった。思いがけず、招待客だけが買い物できるセールに出くわし、ラッキーな週末であった。