Bike Ride

カンザスシティーの週末

バイクに乗ってお出かけ  

2008年5月24日

カンザスシティーの週末

Isoko Durbin のブログ集

アメリカ人夫の一言

アメリカ生活録

アメリカで出会ったおいしい料理

 

 夫は古いバイクを持っている。調子が悪くめったに乗ることが無かったが、最近修理し、快適に走るようになった。そのバイクを自慢したかったのか、「バイクに乗ろう」と私を誘い、ダウンタウンまで行くことになった。ヘルメットを被り、彼の後ろに座る。車に乗るのにシートベルト着用が法律で義務付けられているが、どうしてバイクの後ろに乗ることは違法ではないのだろうかと思う。私の命綱は、夫にしがみ付くだけであり、危険この上ない。それに私の足は後輪のすぐ近くにある。少し間違って、足がタイヤに挟まれることも十分あり得る。運転手よりも後ろにしがみ付いている者の方が危険であると思う。とは言え、バイクに乗るのは、車には無い開放感があり、とても気持ちの良いものだ。

 ミズーリ川の畔を走り、ダウンタウンの端にある寂れたゴーストタウンのような場所にまず行った。ここにある建物は、たぶんカンザスシティーが初めて開拓された頃に建てられたもので、その一角だけ、まるで19世紀にタイムスリップしたようだ。きっと当時は、近くにある家畜市場と共に活気に満ちた場所だったのだろうが、今では倉庫と化し、全く人気が無い。夫と一緒でなければ、決して来ることは無かっただろう。なんだか、帽子を被り葉巻を口にした19世紀のギャングスターが、どこからか出てきそうな雰囲気だ。その古い建物の中に、「The Edge of Hell」という一応は商売をしているような建物があった。

「屋根の上を見てごらん。」と彼が言う。

仰ぎ見るとそこには、名古屋城の金の鯱のように、悪魔の銅像が二つくっ付いていた。

 

映画「Eastern Promise」のようなロシアのヤクザが経営するレストランか何かかと夫に聞くと、「お化け屋敷」だと言う。こんな場所にあるお化け屋敷は、さぞ怖いだろうと思った。夫が「記念撮影」を要求し、落書きされた壁を背景に、バイクに乗った夫を写真に収めた。

 再びバイクに跨り、19世紀から21世紀の現在に戻る。坂を登ると、「Quality District」という看板があった。この辺りは、高級マンション街のようで、高い門が付いた建物がたくさんあった。夫の叔母の一人は、女性では珍しい測量技師で、夫もその仕事を手伝ったことがある。彼が叔母と一緒に測量した家がこの近くにあると言うので、見に行くことにした。丘を登りきり、小さな角を曲がると、その建物はあった。まるで建築家の事務所のような、ガラス箱のような家が3軒、丘の中腹から町を見下ろすように並んでいた。

「こんな家に住みたいと思う?」

どうだろうか。私は、こんな現代アート的でない、ペンキを塗ったり、窓を入れ替えたりと、常に修理が必要な私たちの家の方が、居心地がよさそうな気がした。それに、ここには私たちの家にあるような広い裏庭はない。

 この家の近くにFBIの建物があった。ひっそりと隠れるように存在する2階建てのビルが、拍子抜けするほど穏やかで、なんだか近所の公民館といった雰囲気だ。小さな橋を渡り、坂を下りると、サンフランシスコの町のように、小さくて奥行きの深い家が並んでいた。同じ市内でも、私たちが住んでいるご近所からは、こんなに風情が違うものかと感心した。

 ダウンタウンの中心地に近づくと、私はだんだん疲れてきた。重いヘルメットを被り続け、肩や首が凝っていたのだ。

「どっかで休憩をしよう。」

と彼に言うと、バイクをガソリンスタンドに駐車してくれた。

「しばらく、この辺を歩いてみようよ。」

と夫が言う。大きな道を横切り、人気のない場所をしばらく歩く。私一人では、こんなことは絶対にしない。夫といることで、自分一人ではできないことができる生活が、いつの間にか存在するようになった。彼にとっても私の存在が、同じようであれば良いなと思う。

 地元の新聞社「STAR」の大きなガラス張りの建物を横に見ながら、最近オープンしたばかりの「Sprint Center」というコンサートホールの前に出た。このホールは大スターがコンサートを開く会場で、つい最近ティナ・ターナーのチケットが売り出され、発売からたった2分で完売するという記録を作ったばかりだ。Sprint Center のテレビ画面から道を挟んだ一角は、これまた最近オープンしたばかりの「Power & Light District」で、ドレスアップした若者達が列を成し、中に入る順番を待っていた。女の子達は皆、肩を出したドレスを着ていて、バイク用の小汚い格好をしていた私たちは、「今度は、もっとドレスアップしようね」と言って、外から見るだけにした。中には、小さなコンサート会場と、たくさんのバーがあるようだった。その近くに、ハンバーガーショップがあり、ここなら入れるということで、休憩を取ることにした。オープンテラスを通り、高い天井から丸い大きなランプが風船のように垂れ下がった店内に入った。さすが、Power & Light District にあるだけあって、ハンバーガーショップと言っても少し値段は高めであった。夫が注文したハンバーガーと香ばしいフライドポテトを、外のテラスで風に吹かれながら食べた。テーブルの横を歩く着飾った若者達が、ウキウキしながら、一際華やかな光と音の渦の中に吸い込まれていく。何かが起こる予感。誰かに出会う期待感。そんな若者の華やいだ陽気さが、ほとばしる場所だった。

  ハンバーガーショップ出、再び通りを歩き始める。途中、レンガ造りのアパートメントの最上階でパーティーをしているのが見えた。ダウンタウンの高級アパートでシャンペンを片手に談笑するというのは、優雅な生活に思えた。また夫が、「あんな生活がしたい?」と聞く。

「そうね、確かにおしゃれで楽しそうに見えるけど、私たちには犬がいるから、裏庭のある家のほうがいいわ。」

やっぱり生活するには、少し郊外でも緑があり庭のある家の方が、私はいい。

 画廊やアンティークショップなどのウインドーを見ながら、バイクを駐車したガソリンスタンドに戻った。ヘルメットを被り、またバイクに乗り、家路に向かうことにした。