視覚が脳に与える影響は大きい。
聴覚は情感に強く作用する。
芸術療法(アートセラピー)の強力な技法のひとつとして、 視覚と聴覚を同時に使う
「映像療法」を提唱し、研究開発をすすめたい。
<定義と対象>
映像療法とは、
「映像の持つ働きを、心身の障害の回復・生活の質の向上を目的に、
意図的・計画的に制作し活用されるセラピー技法である」
と定義する。さらに、
「セラピーの主体は音声を含む映像コンテンツであり、
映像療法者とは,その制作および管理者である」
と位置付ける。
映像療法の対象者は年齢を問わず、発達障害・身体障害、
不登校・引きこもりなどに不安を抱える者のみならず、
小さな自覚によるセラピーを必要とする者まで含む。
<社会背景と変遷>
日本において、若年層はWEB映像ネイティブ世代、
急増する団塊の高年齢層はテレビ映像世代であり、
実生活の中で身近に多く映像に触れてきている。
映像が直接的に人に影響を及ぼす効能活用には、
古くは軍事目的(国策映画、啓蒙放送)として制作されたものから、
近年では宗教団体が洗脳目的で使用するといった
ネガティブな歴史もあった。
現在ではアメリカで、軍人の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療を目的とした心理療法として映像が利用されていたり、
恐怖症の治療法としてバーチャルリアリティ映像での疑似体験療法等の試みがスタートしている。
<映像療法者>
動く画像と流れる音が人に与える影響は、計り知れない部分もあり、無意識に働きかける要素もあるため、
その効果は完全に体系化されてはいない。
映像療法者は、経験ある高度な制作技術と知識、
および対象者の情報(診断)に基づき、
適切で効果のある映像コンテンツを作りあげ、
計画的に実施してゆかなければならない。
音声や音楽も同時に扱うため、
音楽療法士的な知識も一部重なることとなろう。
<映像療法の特徴>
芸術療法の種類には、
箱庭療法、コラージュ療法、写真療法、陶芸療法、音楽療法、
ダンス療法、詩歌療法、書道療法などが挙げられるが、
映像療法は、芸術的活動によって身体機能回復を目的とした
これまでの療法とは異なる特徴がある。
1,視聴者となる方は、基本的に受動的=動けず話せない人でも受けられる。
2,映像コンテンツで完結させるため、現場にセラピストは必要としない=テレビと再生装置さえあればよい。
3,ヒーリング目的な環境映像(BGV)として、施設環境の向上=癒しの空間作りができる。
4,動画と音を同時に扱うので、ダンスや音楽療法などとの融合も図れる=身体機能回復目的にも使える。(動ける人向け)
これらの特徴を色彩心理やサブリミナル効果を考慮して作り上げた映像は、対象者に大きな効果が期待できるものと思われる。
応用的ではあるが、セラピスト(もしくはリーダー)が
流れる映像と共に活動的セラピーを実施する方法も考えられる。
iPad等を使ったインタラクティブな利用や、
映像創作活動という世界まで広げられる可能性もある。
<映像療法診断>
映像療法として活用される映像は、
目的や人数・年齢・症状によって異なる内容であるべきである。
多人数で(お茶の間的に)視聴する映像
=環境映像、運動機能回復促進映像
個人で(プライベート的に)見入る映像
=見る人の個性や症状にそった映像
つまり、映像療法の対象者ひとりひとりへの
ヒアリング調査(診断)に基づいて映像は制作すべきである。
1,どんな色が好きか嫌いか?
2,どんな趣味嗜好を持っているか?
3,どんな場所が好きか嫌いか?
4,好きな音楽やエンタテーメントはないか?
5,今困っている、治したい症状は何か?
まずは現場スタッフと共に作る映像療法カルテの作成が必須であり、そこから始まるべきである。
映像を視聴することによって、感動したり、ホッとしたり、
ちょっとドキドキしたり、ワクワクしたりしてもらうこと。
映像療法の目的は、見ている人のココロを揺さぶり動かすことによる身体内面からの症状の改善・軽減である。
<映像療法のこれから>
心理学、色彩学、脳機能学、音声周波数が与える影響の研究および連携をさらに強めた内容にしてゆかねばならない。
使い方や効能が検証されたサブリミナル効果に関しても同様である。(サブリミナルは薬用と考える。)
テレビと再生装置さえあれば最低限のデモンストレーションは可能ではあるが、更新性、インタラクティブ性、簡便性を考えると、
WEB活用によるインフラの整備が望ましい。
ex.クラウド管理:現時点でもYouTubeのチャンネル構築、再生リスト等さまざまなツール・システムがある。(活用施設側の負担軽減。)
映像療法者は、高い映像制作技術と専門療法知識を同時に
持ち合わせなければならない。
音楽療法士と同様、資格教育制度の完備が必要であろう。
IT化がさらに進む情報空間としての社会の中、
情報でもあり表現でもある映像は暮らしとは切り離せないものとなっており、視聴環境はすでに整っているともいえる。
療法や効能事例においては、まだまだ未開な部分の残る映像療法であるが、
総合芸術とされる映像は、さまざまなジャンルの手法を取り入れ組み合わせながら、
芸術療法の強力なひとつの技法として、今後さらに開発され進化してゆかねばならない。
<制作上のポイント>
1,ゆっくりとしたテンポと反復を基調とする。
2,明るく、くっきりしたトーンにする。
3,文字は最低限にとどめる。(使用時は大きく読みやすくする。)
4,映像のみならず、音声や音楽を重視。(周波数効果のあるものは積極的に活用。)
5,色彩設計、検証されたサブリミナル効果を盛り込む。
6,視聴環境に気を使う。(無理やり見させない。)
7,実施前には、現場スタッフに試写をしたものでないと使わない。
8,短期・中期での効能・効果を観察し、レポートする。
9,現場スタッフと共に創り上げる楽しい企画構成であること。
10,即効性を求めず、じっくり取り組む。
<事例にむけて>
制作映像モデル1 「私の通った小学校の校歌」(高齢個人向け)
今の子供達に歌ってもらった校歌をベースに、現在の母校の風景を見てもらう。
記憶に深く残っているであろう小学校の校歌(音)をトリガーに、
現在の小学校の様子を対象者に見てもらう。
後半は、ピアノ伴奏と文字のみのタイムラインを作り、歌ってもらえるようにも工夫する。
制作映像モデル2 「お座りストレッチ体操」(高齢多人数向け)
ラジオ体操の簡易版(座っているモデルのみ)
ほとんど座ったままのストレッチ体操を、ゆったりとしたリズムで行う。
動けない対象者にも、眼球運動ができるように工夫する。
制作映像モデル3 「大好きな場所、思い出の場所」(少人数向け)
ヒアリングから調査した場所を、大好きな音楽に乗せて擬似旅行。
懐かしい場所に限らず、行きたい場所、幻想を抱く場所でも良い。
ナレーションはのせず、少人数で視聴しながら、
知っている場所ならば紹介してもらいながら(聞き出しながら)見てもらえる工夫をする。
制作映像モデル4 「HipHop体幹ダンスカレンダー」(若年向け)
短尺(一日5分ぐらい)のシリーズで、簡単なHipHopのステップをしてもらう。
あまり激しいものではないものが良い。続けてもらえる工夫をする。
レベルが上がる(成長する)課程をカレンダーとして見直せるようにする。
制作映像モデル5 「ど笑いしましょ」(年代不問)
少し強制的に笑顔を作るコンテンツ。少しコミカルなインストラクターが出演。
笑いの効用を活かす。音声では頻繁に明るい笑い声を途切れないように。
制作映像モデル6 「ひとやすみふたやすみ」(年代不問)
時報スポット的に、睡眠ヒーリング音楽を流す。
動く時計代わり。行動を促すため。
制作映像モデル7 「音のある絵本」(高齢者個人向け)
ゆっくりとした朗読コンテンツ。映像は絵本の止まった画像をめくるのみ。
目を閉じても、開けても、誰かが朗読してくれてる安心感の与える工夫をする。
制作映像モデル8 「ZOOっと」(年代不問)
可愛さと生命感を紹介する動物コンテンツ。
一日一匹紹介。冒頭では昨日の動物を再登場させ、記憶反復してもらう。
制作映像モデル9 「お知恵て」(高齢者多数)
初期症状の対象者から、ヒアリング取材し、生活の知恵を教えてもらい、まとめてゆく対象者参加型コンテンツ。
自ら被写体となるドキドキとワクワク感の創出。出来上がりの喜びを共有してもらえるように工夫。
このコンテンツは完成度よりも、対象者と共に作る課程を重視する。
<付記>
教育や健康関連素材の利用、ボランティア活動支援ツールとしても活用する。
※アーカイブや市販映像素材等をライブラリー素材とし、映像療法用に再編集。
※優秀なインストラクター陣を映像コンテンツ化して、多数の施設と共有。
Text / KAZUSHI SUYA
映像療法研究 Video Therapy Labo 20110401
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