堀 里子 准教授

医薬品情報は日々増加し、変化していきます。私たちの研究室では、市販後の医薬品を正しく使い(医薬品適正使用)、上手に育てていく(育薬)ための研究を行っています。

 薬物療法の個別化

現在、薬物療法の個別化のためのエビデンスは急速に蓄積しつつあります。しかし、薬物療法の個別化を実現するためには、基礎研究で得られた情報を医療現場において最適な形で適用する必要があります。私たちの研究室では、主に薬物動態学(Pharmacokinetics, PK)の理論を応用した実験やモデル解析に基づき、薬物投与設計支援システムの開発を進めています。例えば、薬物の胎児毒性に関する研究では、ヒト胎盤組織や動物、細胞を用いて非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)や抗うつ薬の胎盤透過性機構を明らかにし、PK/PD解析に基づき妊娠時の胎児移行動態の定量的予測と投与設計支援を可能にしてきました(Fig)。時間依存性相互作用が知られるフッ化ピリミジン系抗癌剤と他剤との相互作用研究では、in vitro 実験による相互作用機構解析とPK解析、医療現場の症例収集により、相互作用の定量的予測を可能にし、投与設計支援アプリケーションを開発しました。

 

Fig 1. Development of a method to predict fetal risk of NSAIDs administrated to the mother

医療現場で起こっている医薬品の諸問題をリアルタイムに捉える

医療の現場では、最先端の薬物治療が台無しになってしまうような薬物治療の失敗、投薬ミス、ヒヤリハットといった問題が毎日のように生じているのも事実です。私たちは、臨床現場で起きたインシデント・アクシデント事例を収集し、医学・薬学的観点から解析を加え、医療現場にフィードバックすることで、臨床事例を研修の観点から共有するインターネット基盤の全国薬剤師間情報交換・研修システム(登録者:16,000名)、医師向け医薬品情報提供システム(登録者:6,000名)、登録販売者間情報交換・研修システム(登録者:1,500名)を構築してきました。本システムは、市販後の医薬品の諸問題やニーズを医療現場から掘り起こすシステムとしても効果を発揮しており、新たなエビデンスをいち早くとらえ、育薬・創薬研究への橋渡しをする役割も果たしています。


Fig 2. Internet-based drug information sharing system for pharmacists, medical doctors and registration sellers 

ミス・ヒヤリハット事例に学ぶ、薬物治療インシデント・アクシデント事例ライブラリーの構築

現在、私たちは蓄積された臨床事例を分類、整理して収載した薬物治療インシデント・アクシデント事例ライブラリーの構築を進めています。このライブラリーを活用することにより、医療現場・消費現場における薬物治療のリスクマネジメント(新たなトラブルの予測・回避も含む)を推進させるとともに、医薬品を医療従事者・患者の双方にとって使いやすくミスを招き難い製品へと進化させるための提案を行っていきたいと考えています。

 進学を考えている方へ

薬物治療上問題が生じた事例を解析していくと薬学的知識のみでは解決できない問題が山積していることが分かってきます。例えば、医療従事者による薬の不適正使用、投薬ミス、または患者による薬の誤用、薬に対する誤解・不信など…です。投薬ミスや薬の飲み間違い、飲み合わせの問題は、医薬品に電子タグをつけて管理することで解決に向け大きく前進するでしょう。薬学は、広範な基礎科学領域の統合を基盤としていますが、「医薬品の創製からその適正使用、育薬」を取り扱うためには、基礎科学にとどまらず、多くの関連学問領域とのインタラクションが求められます。新たな着想とアプローチで薬の安心安全を推進する研究を一緒に進めてみませんか?

※研究室には、学際情報学府と薬学系研究科(澤田康文教授が主宰)の大学院生が在籍しています。

 ホームページアドレス

http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~druginfo/