東京第6回報告集会

娘さんの「ネット中傷訴訟」勝訴に沸く  ⇒記事
シンポジウムでは「メディアの萎縮」を論議

口頭弁論が終わって、100人近い傍聴者のほとんどが、そのまま東京地裁に隣接する弁護士会館へ移動し、午後4時10分から、報告集会が同会館5階会議室で開かれた。

正面の壁には、おなじみの「植村隆裁判報告集会 『私は捏造記者ではありません』」の横断幕。しかし、この日はそれに並んで、「ネット中傷訴訟判決 勝訴」という新しい垂れ幕が掲げられた。この日に判決があったばかりの勝訴の速報である。

実は、植村さんが起こした東京、札幌の名誉棄損訴訟のほかに、植村さんの娘さんが、ツイッターに自身の顔写真や誹謗中傷の投稿をされたとして、投稿主の中年男性に損害賠償を求めた「ネット中傷訴訟」が水面下で進められていた。植村さん側からのいわば「第三の訴訟」と言えるが、匿名の投稿者をIPアドレス、プロバイダーから割り出し追及する上で仮処分などを繰り返す難しい過程を辿り、プライバシーにも配慮して、これまでは公にされてこなかった。

奇しくも、植村さんの名誉棄損裁判の弁論で、娘さんが受けた人身攻撃が法廷に引き出された8月3日に、その娘さんが原告の「第三の訴訟」の判決が、東京地裁の別の部で言い渡されたのだ。


判決は、「投稿は、プライバシー、肖像権を侵害する違法なもの。未成年の高校生に対する人格攻撃であり、悪質だ」として、投稿した男性に原告の請求通りの170万円を支払うように命じた。植村さんの娘さんの全面勝訴である。この日、判決後の記者会見で娘さんの次のようなコメントが読み上げられた。「匿名の不特定多数からのいわれのない誹謗中傷は、まるではかり知れない『闇』のようなものでした」「こうしたことは他の人にも起こりうる出来事。こうした攻撃にさらされることのない社会になってほしい。今回の判決が、そのきっかけになってほしいと思います」

思いがけない娘さんの「第三の訴訟」の勝訴の報告に、弁護士会館で始まったばかりの報告集会の会場は沸いた。

植村弁護団事務局長の神原弁護士が立ち、「この種事案で認められた慰謝料としては、きわめて高い」と、娘さんが勝ち取った判決の意義の大きさを補足説明した。

続いて、永田亮弁護士が、この日の植村裁判第6回口頭弁論についての報告をした。「植村さんは名誉のみならず、生活の平穏も破壊された。植村さんの損害の中核にバッシングがある。裁判官に損害に向き合ってもらうよう、きょうの書面を出した」と語った。



一連の報告が終わると、報告集会のもう一つの目玉であるシンポジウムに移った。

テーマは「メディアの委縮を打ち破れ」。新聞労連前委員長でマスコミ文化情報労組会議議長の新崎盛吾さん、放送レポート編集長の岩崎貞明さん、放送倫理・番組向上機構(BPO)前委員で精神科医の香山リカさんがパネリストだった。3人は、みな植村裁判支援に中心的に加わってきた人でもある。司会は、やはり東京の支援の中心を務めている朝日OBの佐藤和雄さん。

放送界の現状について、岩崎さんは「現場の委縮は深刻だという声がある。ただ、それを言う記者はまだ自覚的であり、考える時間さえないという人たちもいる」と話した。また、「放送界への政府の圧迫は、振り返れば93年の椿発言問題のころからすでに始まっていたことがわかる」と指摘した。

新崎さんは、新聞界の現状を「委縮している」と断じたうえで、その要因について、会社の管理強化で行儀がよくなってしまったネットで記事が攻撃されやすくなった現在の政権の問題。特に取材先が委縮して情報を得にくくなっている状況がある、と説明した。

香山さんはまず、「植村裁判を支援する市民の会」の共同代表の一人になった理由に触れ、北海道出身であること、発言すると自身も誹謗に遭ったため他人事ではないと思ったと話した。さらに現在のメディアの委縮をつくっているものとして、3つのレイヤー(層)がある、と指摘。権力の介入スポンサー(広告代理店)ネットの無数の匿名者を挙げた。

こうした委縮状況を打破するためにはどうしたらよいのか。

新崎さんは、例として、朝日新聞社が福島原発の吉田調書記事を取り消したのは行きすぎだとし、調書を取ってきたこと自体は十分評価されるべきだと述べて、新聞労連があえてこのチームに労連特別賞を贈ったことを報告。「応援」の大切さを強調した。

岩崎さんは、「首相との会食などから、メディアは権力の一角のように思われている。これを自ら打破しないと、市民からの信頼回復はおぼつかない。とくに幹部が委縮している」。

香山さんは「1000通も誹謗メールが来ると、『こんなに来てしまって』と委縮しがちだが、実際には10人くらいが何度もメールしているだけなのかもしれない。実態をよく知って、そういう攻撃に対しては、もっとタフになるべきだ」と話した。また、「ヘイトスピーチなどを支持する人はいわば集団催眠にかかっている。『事実を見ろ』と言ってもなかなか通じないかもしれない。そういう人には別の夢を見せることも大事だ」と、精神科医らしい見方を語った。

集会の最後に植村隆さんがあいさつに立ち、「娘の圧勝でますます元気になった。産経が嘘を書いたのでいま訂正要求も突き付けている。この闘いをがんばり、産経も我々の側に立つようになるといい。ジャーナリズムの再生を目指す」と、決意を語った。

text by K.F.