札幌第7回 2017.4

【札幌地裁 2017年4月14日】

植村裁判札幌訴訟(被告櫻井よしこ氏、新潮社、ダイヤモンド社、ワック)の第7回口頭弁論が4月14日、札幌地裁805号法廷で開かれた。

植村弁護団は第10、11準備書面を提出し、その要旨を川上有、上田絵里、大類街子の3弁護士が読み上げた。被告櫻井氏の言説がネット上で拡散し、激しいバッシングを引き起こしたことはこれまでの弁論でも明らかにされているが、この日の弁論では、ふたつの大学(神戸松蔭女子学院、北星学園)に寄せられたメールや電話、ファクスが、ネットで流れた櫻井氏の記事を引用するなど、密接に関係していることを時系列的に指摘し、櫻井氏の言動を次のように批判した。

▼SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用した情報発信は、連鎖的に感情が増幅されることがしばしばあります。情報の送り手が激怒すれば、受け手がこれに呼応して感情を増幅させていくのです。その結果、芸能人らのブログがしばしば炎上したりします。被告櫻井は、このようなSNSによる情報伝達の威力を十分に知っていました。だからこそ、被告櫻井は、自分の記事をブログに転載しているのです。
▼被告櫻井は、反韓嫌韓感情に触れる情報が、ネット社会でどのように拡散していくかについて十分に認識していました。被告櫻井は、ネット右翼の言動の問題点を十分に認識していました。
これは、被告桜井自身がSAPIOに「ネット右翼のみなさん、現状への怒りはそのままに歴史に学んで真の保守になってください」という記事を書いていることからもわかります。そこでは、ネット右翼がネット上で「朝鮮人は半島に帰れ」など書いていることが指摘されています。そして、これらが誹謗中傷であるとしているのです。被告櫻井は、ネット右翼の言動を十分に熟知しているのです。被告らは、このようなネット社会の現状やネット右翼の言動を十分に知っていました。ですから、自分たちが放出する情報が、どのように社会に拡散し、影響を与えるかということを分かっていたということになります。
▼被告櫻井は、本件各論文を含む植村さんを批判する論文執筆やブログへの転載を続けています。日付だけ述べます。
2014年6月26日、7月3日、8月1日、7日、 16日、 21日、23日、 28日、9月1日、8日、13日、18日、25日、10月11日、14日、16日、17日、20日、23日、25日、12月11日、18日などです。執拗かつ多数といわざるを得ません。その間、同年5月から北星学園大学に対する非難・抗議のメール・電話が多数寄せられています。脅迫状も届いています。非難・抗議メールは多くの月で100通を超え、8月には500通を超えています。非難・抗議電話も8月以降は月100本を超え、200本を超える月もあります。被告櫻井は、このような経過の中で、本件各論文を執筆しているのです。被告櫻井が、このような経過を知らないわけがありません。そうであれば、被告櫻井がこれら各論文を掲載した場合には、北星学園大学や植村さんに、どのような影響を生じるかもまた熟知していたはずなのです。
▼被告櫻井の論文においては、原告の執筆した記事内容そのものへの批判のみならず、ジャーナリストとしての資格、さらには、教育者としての資格もないなどと断言しています。互いに言論で議論を交わすのであれば、その表現内容に対し反論すべきでありますが、被告櫻井は原告の新聞記者としての経歴のみならず、記事を書いた23年後の原告の勤務先というプライベートな事実を暴露し、表現内容とは無関係の教育者としての資格を非難するものであり、その点でも表現内容は悪質であると言わざるを得ません。
▼原告には甚大な被害が生じているにもかかわらず、被告櫻井は、本訴訟第一回口頭弁論期日において、原告に向けて「捏造記事と評したことのどこが間違いでしょうか」などと意見陳述を行い、原告の名誉回復を図る意思が一切ありません。
原告は、被告らにより、「慰安婦記事を捏造した」といういわれなき中傷を流布され、これに触発・刺激された人々から多数の激しいバッシングと迫害を受け、自身が雇用を脅かされて生存の危険に晒されるだけでなく、家族も生命の危険に晒されています。
当該精神的損害を慰謝するには、最低でも請求の趣旨のとおりの慰謝料が支払われ、謝罪広告が掲載されなければ到底足りるものではありません。

開廷午後3時30分、閉廷午後4時5分。今回も傍聴券交付は抽選となった(定員71人に対し83人が行列)。次回期日は7月7日(金)に決まっているが、論点整理のための弁論をさらに行うことになり、次々回は9月8日(金)に設定された。


第11準備書面 要旨 
①②③ともに原文のまま。書式は原文と異なる

第11準備書面の要旨①

2017(平成29)年4月14日

札幌地方裁判所民事第5部合議イ係 御中

                   原告訴訟代理人 川  上    有

 

まず、原告代理人川上から、原告である植村さんが被った損害を考えるにあたり特に留意すべきことについて述べます。

(1)ネット社会における名誉棄損行為

被告櫻井は、現代のネット社会の状況を十分に認識していました。

つまり

現代社会は、フェイスブック、マイクロブログ、ツイッター、インスタグラムなど、多岐にわたるSNSが発達しています。

それによって、大衆は、自宅に居ながら大量の情報を入手できるようになりました。しかも、雑誌を買うお金もかかりません。

それだけではありません。従来、情報の発信はマスメディアに独占されていました。しかし、SNSによって、大衆は情報の送り手となることができるようになったのです。大衆の間でその情報は連鎖して、何万人、何十万人という膨大な数に伝播できるようになったのです。

これまではごく親しい人間に対する口コミ程度だったことと大きく異なります。

これは劇的な変化です。

さらに、SNSを利用した情報発信は、連鎖的に感情が増幅されることがしばしばあります。情報の送り手が激怒すれば、受け手がこれに呼応して感情を増幅させていくのです。

その結果、芸能人らのブログがしばしば炎上したりします。

被告櫻井は、このようなSNSによる情報伝達の威力を十分に知っていました。

だからこそ、被告櫻井は、自分の記事をブログに転載しているのです。

被告櫻井以外の被告らも、マスメディアである以上、これらのことを当然知っていました。

 

(2)反韓・嫌韓感情に触れる情報による名誉棄損行為

また、被告櫻井は、反韓嫌韓感情に触れる情報が、ネット社会でどのように拡散していくかについて十分に認識していました。

被告櫻井は、ネット右翼の言動の問題点を十分に認識していました。

これは、被告桜井自身がSAPIOに「ネット右翼のみなさん、現状への怒りはそのままに歴史に学んで真の保守になってください」という記事を書いていることからもわかります。そこでは、ネット右翼がネット上で「朝鮮人は半島に帰れ」など書いていることが指摘されています。そして、これらが誹謗中傷であるとしているのです。

被告櫻井は、ネット右翼の言動を十分に熟知しているのです。

当然のことながら、マスメディアである他の被告らも熟知しています。

被告らは、このようなネット社会の現状やネット右翼の言動を十分に知っていました。ですから、自分たちが放出する情報が、どのように社会に拡散し、影響を与えるかということを分かっていたということになります。

 

(3)本件各名誉棄損行為と植村さんを取り巻く社会状況

しかもそれらの論文が掲載された時期が問題です。

原告である植村さんを取り巻く社会状況との関係です。

いくつかについて具体的に指摘します。

ア 被告櫻井が、最初に本件名誉毀損論文を出したのは、WiLL4月号です。これは、週刊文春に神戸松蔭女子学院大学の記事が掲載され、神戸松蔭に多数の非難・抗議メール・電話が寄せられた時期です。

その記事で、被告櫻井は、原告の植村さんが「真実を隠して捏造記事を報じた」などと書いているのです。

このような時期に、植村さんが「ねつ造記事を報じた」などという記事を出せば、ネット右翼らがどのように反応するかは、被告櫻井は十分に理解できていたのです。

結局、植村さんは、その直後に、神戸松蔭への就職を辞退せざるを得なくなりました。

イ そして、被告櫻井は、この直後に週刊文春で「意図的な捏造報道」という見出しの論文を執筆しています。ご丁寧にもこの記事を自分のブログに転載しています。

まさにネット右翼らが、原告の神戸松蔭への就職を断念させたという成功体験を得た直後なのです。

このような時期にこのような記事を掲載したならば、こうした非難・抗議行為をさらに助長し、ひいては扇動する。被告櫻井は、そのことを知りながら、同記事を執筆していると言わざるを得ません。

ウ さらに、被告櫻井は、その後も、本件各論文を含む植村さんを批判する論文執筆やブログへの転載を続けています。

日付だけ述べます。

6月26日、7月3日、8月1日、7日、 16日、 21日、23日、 28日、9月1日、8日、13日、18日、25日、10月11日、14日、16日、17日、20日、23日、25日、12月11日、18日などです。

執拗かつ多数といわざるを得ません。

その間、同年5月から北星学園大学に対する非難・抗議のメール・電話が多数寄せられています。脅迫状も届いています。

非難・抗議メールは多くの月で100通を超え、8月には500通を超えています。

非難・抗議電話も8月以降は月100本を超え、200本を超える月もあります。

被告櫻井は、このような経過の中で、本件各論文を執筆しているのです。

被告櫻井が、このような経過を知らないわけがありません。そうであれば、被告櫻井がこれら各論文を掲載した場合には、北星学園大学や植村さんに、どのような影響を生じるかもまた熟知していたはずなのです。

本件各名誉棄損行為は、このような社会環境や植村さんを取り巻く社会状況の中で執拗に、そして継続的になされているのです。

このことは、植村さんの損害を考えるにあたって決して軽視してはならない事情なのです。


平成27年(ワ)第2233号 謝罪広告等請求事件

原 告  植 村    隆

被 告  櫻 井  良 子 外3

 第11準備書面の要旨②

 2017(平成29)年4月14日

札幌地方裁判所民事第5部合議イ係 御中

                   原告訴訟代理人 上 田 絵 理

 

1 今回提出した第11準備書面の後半においては、被告櫻井論文がインターネット上に公開されたこと、また被告各出版社の発行する雑誌に掲載されたことによって、原告が被った不利益の程度がどれほど甚大なものであったのか、について具体的に論じています。

2 名誉毀損に関する裁判例においては、損害の程度を考慮するにあたって、いくつかの要素をあげて検討されています。

特に本件で注目すべき点は、被告櫻井の論文において原告の記事を「捏造」と断定したその表現方法が悪質であること、その論文の中では原告の新聞記者としての、また大学教員としての資質までも否定し、新聞記者としての、また教育者としての地位を社会から抹殺させるに等しい内容であること、それらをインターネットや発行部数の多い雑誌等に掲載し全国に知らしめたこと、そして、それらに触発された不特定多数の人々が、原告や原告の家族、原告の勤務先に脅迫等を行うという方法で原告に対し社会生活上極めて甚大な不利益を及ぼしているという点です。

3 1991年8月当時、原告が執筆した金学順さんに関する記事と同種の他社の新聞記事はいくつも発表されていました。ところが、被告櫻井の各論文ではとりわけ原告の記事のみを取り上げ、「捏造」「意図的な虚偽報道」と断定しており、これはまさに個人攻撃をしているというよりほかありません。

「捏造」とは、でっちあげ、意図的に事実を作り上げること、を意味します。新聞記者が記事を「捏造」したと断定されることは、事実を報道する新聞記者が職務を放棄したと非難されるに等しいものですので、安易に使用してはいけないことは当然です。そのため「捏造」と断定するからには、十分な取材調査行為が行われなければなりませんが、被告櫻井が取材等を行ったとの事実は認められず、この点も損害の程度を考慮する上で重視されるべきです。

また、被告櫻井の論文においては、原告の執筆した記事内容そのものへの批判のみならず、ジャーナリストとしての資格、さらには、教育者としての資格もないなどと断言しています。互いに言論で議論を交わすのであれば、その表現内容に対し反論すべきでありますが、被告櫻井は原告の新聞記者としての経歴のみならず、記事を書いた23年後の原告の勤務先というプライベートな事実を暴露し、表現内容とは無関係の教育者としての資格を非難するものであり、その点でも表現内容は悪質であると言わざるを得ません。

4 さらに、被告櫻井の各論文発表当時、原告は、2012年4月からは、北星学園大学にて非常勤講師として勤務し、また、2013年12月には、神戸松蔭に公募で採用され、教員としての第一歩を踏み出したところでありました。そのような中で、原告の勤務先及び内定予定の大学先が暴露され、「捏造」記事とのレッテルを貼られた結果、神戸松蔭及び北星学園大学に対し、不特定多数の者から、メール、FAX、電話などによる原告への非難が殺到しました。

そのような抗議を受け、原告は、神戸松蔭から「記事を見た人たちから『なぜ捏造記者を雇用するのか』などという抗議が多数来ている。記事の内容の真偽とは関係なく、このままでは学生募集などにも影響が出る。松蔭のイメージが悪化する」などとして、やむなく神戸松蔭との契約を解約せざるをえない事態に追い込まれました。

さらには、北星学園大学への抗議・脅迫が集中することとなり、雇用継続をするか否かにつき、北星学園大学は苦渋の判断を迫られました。

このような被害実態から、原告を雇用すれば同様のバッシングを受け、学生ないし受験生への危害が予告されるなどの脅迫を受けることが予想され、原告を雇用するという大学が現れることが期待しがたい状況になり、原告が志した教育者としての道を進むことが困難な状況に追い込まれていきました。

これらの社会的評価の低下による原告への不利益の低下の程度が甚大であることも損害額算定にあたって十分考慮されるべきです。      以上

 


 平成27年(ワ)第2233号 謝罪広告等請求事件

原 告  植 村    隆

被 告  櫻 井  良 子 外3

 

第11準備書面の要旨③

2017(平成29)年4月14日

札幌地方裁判所民事第5部合議イ係 御中

                   原告訴訟代理人 大 類  街 子

 

1 社会生活上の不利益

名誉毀損によって原告に与えられた損害の程度を勘案するにあたって、社会生活上の不利益の程度も見過ごすことはできません。

() まず、原告の勤務先への脅迫行為についてです。

(ア)原告の内定が決まっていた神戸松蔭に対し、2014年1月30日に発売された週刊文春の被告櫻井らの記事をきっかけに、原告の採用取り消しを求める多数のメールが送られました。その中には「街宣活動する」との脅しまでありました。

そのような中、被告櫻井は、2014年2月28日発売のWiLL4月号において、自ら、原告が内定していた大学に対して原告の雇用予定の有無を問い合わせたと記し、「こんな人物に、はたして学生に教える資格があるのか、と。だれがこんな人物の授業を受けたいだろうか。」と記載して、神戸松蔭への攻撃を煽りました。

神戸松蔭への攻撃が増し、その結果、原告は神戸松蔭から就任辞退を求められ、雇用契約を解除せざるを得なくなりました。

(イ)勤務先への攻撃はさらに、原告が当時勤務していた北星学園大学への脅迫行為にまで発展していきました。

㋐ 抗議メールについて

まず、2014年5月から同年12月までの8カ月の間に、北星学園大学に対し、原告の解雇等を求める抗議メールが1600通以上届くようになりました。

 

その抗議メールの中には、被告櫻井の論文にて原告を非難するにあたって使われた「捏造」という言葉が毎月何十回、多い月では数百回と用いられています。

その他にも、原告に対し、「国賊」「詐欺師」「売国奴」と誹謗中傷する言葉が記載されています。

また、メールの中で、「桜井よし子さん(原文まま)も松蔭女子に抗議したので追い出されたのです」と記載するものもあり、まさに被告櫻井の論文が影響を直接与えたメールもあります。

 

そして、被告櫻井は、このような状況にあることを十分に認識している中で、さらに「植村氏は北星学園大の人格教育にどのように貢献すると考えるのか」「23年間、捏造の訂正も説明もせず頬被りを続ける元記者を教壇に立たせ学生に教えさせることが、いったい、大学教育のあるべき姿なのか」などの記事をさらに掲載し、大学への攻撃をさらに煽っていったのです。

 

㋑ 脅迫状について

次に、北星学園大学には複数の脅迫状も届きました。

その脅迫状は、「捏造朝日記者の植村隆を講師として雇っているそうだな。売国奴、国賊の。」「植村の居場所を突き止めて、(中略)なぶり殺しにしてやる。」「すぐに辞めさせろ。やらないのであれば、天誅として学生を痛めつけてやる。」といった極めて悪質な内容のものでした。

㋒ 抗議電話について

さらに、原告の解雇等を求める抗議電話が北星学園大学には、月に10本以上、多いときには100本以上かかってきていました。

罵声を浴びせる内容のものや、1日に複数回かけてくる者、1時間以上にわたって抗議を述べ続ける者などもおり、大学の日常業務に多大な支障を来すものでありました。

 

(2)そして、原告の被害は勤務先にとどまらず、家族にも及んでいます。

まず、インターネットでの(誹謗中傷)攻撃は、原告のみならず、原告の記事と無関係な原告の娘も対象にされました。

原告の娘は、インターネットに実名と顔写真を晒されたうえ、「自殺するまで追い込むしかない」などの誹謗中傷が多数書き込まれたのです。

そして、2015年2月ころには、北星学園大学充ての脅迫文の中で、娘の実名が記載されたうえ、「何年かかっても殺す。どこへ逃げても殺す。絶対に殺す。」との脅迫状が届いています。

さらに、娘の通う高校に対しても、誹謗中傷のFAXが送信されました。

原告は、娘を不安にさせないため、脅迫状の件などを伝えてはいなかったのですが、警察が娘を警護する状況が続く中で、ついには娘にも被害状況について伝えざるを得なくなりました。

原告及び原告の家族は、毎日脅迫行為におびえる生活を余儀なくされ、また、インターネット上に実名や顔写真を晒され続けるという多大な生活上の不利益を被ったのです。

 

2 配布後の態度(事後的事情による名誉回復の度合い等)

以上のように、原告には甚大な被害が生じているにもかかわらず、被告櫻井は、本訴訟第一回口頭弁論期日において、原告に向けて「捏造記事と評したことのどこが間違いでしょうか」などと意見陳述を行い、原告の名誉回復を図る意思が一切ありません。

このような事情も、慰謝料算定にあたり、十分考慮されなければなりません。

 

3 まとめ

以上のとおり、原告は、被告らにより、「慰安婦記事を捏造した」といういわれなき中傷を流布され、これに触発・刺激された人々から多数の激しいバッシングと迫害を受け、自身が雇用を脅かされて生存の危険に晒されるだけでなく、家族も生命の危険に晒されています。

当該精神的損害を慰謝するには、最低でも請求の趣旨のとおりの慰謝料が支払われ、謝罪広告が掲載されなければ到底足りるものではありません。

以上