札幌判決 抗議声明

弁護団声明

1 本日,札幌地方裁判所民事第5部(岡山忠広裁判長)は,元朝日新聞記者植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏及び週刊新潮,週刊ダイヤモンド,WiLL発行の出版3社に対して,名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で,原告の請求を棄却する不当判決を言い渡した。

2 札幌地裁の判決は,「捏造」を事実の摘示であることを認め,櫻井氏はその表現により植村氏の名誉を毀損したことを認めた。しかしながら,櫻井氏は金学順氏が日本政府を訴えた訴状等の記載から,継父によって人身売買された女性であることを信じ,原告の妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘であることから植村氏の本件記事の公正さに疑問を持って,原告が事実と異なる記事を敢えて執筆したこと,つまり「捏造」したと信じたことには理由があると判断した。

しかし,仮に櫻井氏が金学順氏が継父によって人身売買された女性であることなどを信じたとしても,そこから植村氏が敢えて事実と異なる事実を執筆したと信じたとの判断には論理の飛躍がある。

また,櫻井氏への本人尋問では,櫻井氏は取材の過程で植村氏に取材を行わず,訴状や論文の誤読など,取材の杜撰さが明らかになった。

本日の判決は櫻井氏がジャーナリストであることを無視して,櫻井氏の取材方法とそれによる誤解を免責するものである。

これを敷衍すれば,言論に責任を負うべきジャーナリストと一般読者とが同じ判断基準で判断することは,取材が杜撰であっても名誉毀損が免責されることになり,到底許されるものではない。

3 私たち弁護団は,本日の不当判決を受け入れることはできない。原告及び弁護団はこの不当判決に控訴をし,植村氏の名誉回復のために全力で闘う決意である。                    

2018年11月9日             植村訴訟札幌弁護団

 


■植村裁判を支える市民の会声明 

市民の良識と正義感を打ち砕く「まったく不当な判決だ!!」

植村隆氏が名誉回復を求めた今回の訴訟に対する、札幌地裁の判決は、櫻井氏がジャーナリストとして果たすべき取材活動の杜撰さを考慮しておらず、まったく不当である。

植村氏ばかりか私たち市民を深く深く失望させた。執拗な攻撃にひるまず声をあげた植村氏の勇気と、全力で応えた弁護団の周到かつ緻密な弁論、それらを見守り続けた市民の支援を理解しなかった裁判官諸氏は真実を誤ったばかりか、良識ある市民を裏切った。

植村氏に対するいわれのないバッシングが始まって5年、提訴から3年余が過ぎた。結審まで12回を数えた口頭弁論は傍聴の希望者が多く、わずか1回をのぞいて抽選となり、時には4倍近い倍率になった。市民の関心の大きさと深まりを、裁判官たちはどのように理解していたのだろうか。

植村氏支援を通じて市民が示したことは、二つに集約される。一つは市民の健全な良識だ。日本軍は戦時中、朝鮮などの女性たちを慰安婦にして繰り返し凌辱する、非人道的な行為を行った。この歴史的事実を直視し、日本がまずなすべきことは被害者に届く謝罪ではないか、という人間としての良識に立つ正義感である。歴史的事実をゆがめようとする櫻井よしこ氏らの歴史修正主義が、実際は誤った事実認識にもとづくものであることを市民は明確に認識し、「ノー」をつきつけていたのだ。歴史教科書から慰安婦記述を除外し、「あるものをなかったこと」にしようとする昨今の流れに対する憤りが渦巻いていた。

いま一つは、民主主義への希求である。正確な事実の報道と、それに基づいた人々の健全な判断があってこそ民主主義はよりよく機能する。事実を伝えてきた報道を、櫻井氏のように確たる裏付けもなく「捏造」呼ばわりし、記者を社会から葬ろうとする動きを、市民は“論評”に名を借りた無法と捉えた。それは森友・加計問題を「嘘とごまかし」で乗り切ろうとする安倍政権に対する市民の危機感とも通じるものがある。

こうした植村訴訟支援に込めた市民の正当な願いを、札幌地裁の裁判官は認識できなかったというわけだ。今回の判決は、植村氏が求めた名誉回復の希望を打ち砕いたばかりでない。家族の生命の安全をも脅かすネット世界の無法者たちを認めたことになる。日本軍の慰安婦にされた被害者をあらためて冒涜してしまった。民主主義における正当な報道のあり方をも著しくゆがめかねないと危惧する。

あらためて今回の不当判決を満腔の怒りを込めて糾弾する。そして、来る控訴審では、市民の良識に立つ正義の旗のもとに、植村氏、弁護団とともにこれまで以上の力を結集して闘うことを誓う。

2018119日 植村裁判を支える市民の会

共同代表    

上田文雄(前札幌市長、弁護士)

小野有五(北海道大学名誉教授)

神沼公三郎(北海道大学名誉教授)

香山リカ(精神科医、立教大学教授)

北岡和義(ジャーナリスト)

崔善愛(ピアニスト)

結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)


■日本ジャーナリスト会議声明 

櫻井の「言いがかり」許す判決に抗議

元朝日新聞記者の植村隆氏が櫻井よしこ氏(国家基本問題研究所理事長)と「週刊新潮」「週刊ダイヤモンド」「WiLL」を発行する出版3社に対し、名誉毀損を理由に慰謝料の支払いなどを求めた訴訟で、札幌地裁は11月9日、植村氏の請求を棄却する判決を下した。

植村氏が執筆した韓国人元慰安婦の証言記事(1991年)について、櫻井氏はずさんな「取材」で「捏造」と決めつけ、植村氏を攻撃した。確証もなく、事実の裏付けもない植村氏攻撃に対し判決は、記事を捏造と櫻井氏が「信じた」ことには相当の理由があると被告に甘い判断をし、櫻井氏を免責したのである。法廷の本人尋問で明らかとなった櫻井氏の事実確認を怠った、ずさんな「取材」には無批判だった。

日本ジャーナリスト会議(JCJ)は「言いがかり」や「難クセ」のような櫻井氏の攻撃を許し、記者の真面目な取材を冒涜する不当な判決に対し、断固として抗議する。

判決で見逃せない重大な問題は、韓国人の元慰安婦・金学順さんお証言について、あたかも義父によって日本軍に身売りされ、慰安婦になったかのような言説を示唆している点である。様々な証拠により①金さんは最終的に中国で、日本軍に力づくで慰安所に連れて行かれた②拒否したにもかかわらず将校にレイプされ、その後、日本兵相手に性行為を強要された――ことは明らかだ。この金さんの証言の核心部分を無視し、目をふさぐ判決になっている。

金さんが会見などで新聞記者に必死で訴えたのはこの部分である。判決はこの点に目を向けようとせず、櫻井氏が信じた「身売りされ慰安婦になった」言説を無批判に擁護している。証言への冒涜ともいえるだろう。

JCJは櫻井氏の一連の「捏造」攻撃がきっかけとなり、植村氏への脅迫が広がり、それも「娘を殺す」などの殺人予告につながっていった経緯を許すことはできない。判決はこうした脅迫行為のエスカレートに関しても、深刻に受け止める姿勢を見せていない。民主主義を守るべき裁判所、裁判官が自らの矜持を捨て去った判決であり、改めて抗議する。

2018年11月15日

日本ジャーナリスト会議(JCJ)