東京第3回 2015.10.

【東京地裁2015年10月26日】

植村隆さんが西岡力氏と文藝春秋を相手取って起こした名誉棄損訴訟の第3回口頭弁論が、2015年10月26日午後3時から東京地裁民事33部で開かれた。この日は植村さん側の弁護団が詳細な第2準備書面を陳述。被告西岡氏側の弁解を逐一論破していく形で原告側の主張を全面的に展開し、傍聴席を埋めた植村さん支援の市民たちには胸のすくような弁論となった。続いて午後4時から参議院議員会館講堂で開かれた報告集会では、上智大学教授の中野晃一さんが「右傾化する日本政治と植村さんへの攻撃」と題して講演。植村さんの韓国訪問の特別報告に続き、韓国に同行した学生たちもそれぞれに思いの込もった発言をして大きな拍手を浴びた。

 ■原告側主張(第2準備書面)のポイント部分を陳述

この日の東京地裁前は晴れ。抽選予定の開廷20分前までに並んだ人数(82人)が席数(89人)にわずかに満たず、初めて傍聴券の抽選なしで全員が入廷できた。しかし、弁論が始まる午後3時には、広い103号法廷はいつもの通り傍聴者でほぼ満席となった。

傍聴席から向かって左の原告側の席に、植村さんと中山武敏弁護士をはじめ代理人弁護士たち10数人が着席。対する右の被告側の席には、喜田村洋一弁護士のほかは若い弁護士が1人のみ。

裁判官3人が入廷し、まず原告側弁護団事務局長の神原元弁護士との間で、損害賠償請求額の内訳についてのやりとりがあった。植村さん側は、被告から受けた不法行為として、名誉棄損、プライバシー侵害だけでなく、生活権の侵害も主張したため、裁判所側は、それぞれに対する請求をいくらずつと主張するのかを質問。神原弁護士は「一つの行為によるので合算しての請求になる」と答えたが、裁判所は「一つひとつがいくらか特定できないか」と重ねて求めた。結局、原告側が次回に請求の内訳を述べることになり、第2準備書面のうち関連部分だけ陳述は保留となった。

今回の東京訴訟での損害賠償請求額は、計1650万円である。西岡氏に500万円、文春に500万円、両者共同で500万円という内容で、他に弁護士費用が150万円。裁判所がこの日求めたのは、500万円のうち、名誉棄損でいくら、といった内訳である。

法廷では、続いて原告側が文書送付嘱託、調査嘱託の申し立てをした。これは、脅しなどのファクスやメールを受けて植村さんの雇用を撤回してしまった神戸松蔭女子学院大学、および脅しに屈せずに植村さんを今春も非常勤講師として雇用継続した北星学園大学に対し、これまでに寄せられたファクスやメールを送ってもらうことなどを裁判所が求めるように、という申し立てだ。これらを夕方の報告集会で説明した角田由紀子弁護士は、「裁判官には、植村さんたち当事者が受けた被害がどれほど大変なことだったか、その被害の質を理解してもらうことが大事だ」と強調した。

これらの手続きが終わり、神原弁護士が立ち、全体で70ページ近い原告側第2準備書面のうち、ポイントとなる部分を述べた。西岡氏が用いた「ねつ造」という言葉は、被告側が弁解するような「意見、論評」ではなく、名誉棄損の成立要件である「事実の摘示」というべきだ、などとするもので、準備書面ではふんだんに判例を引用して裏付けている主張だ。以下、神原弁護士による要旨陳述の原稿を、ほぼそのまま借用して紹介する。

要旨陳述・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本件の争点は、①名誉毀損の成否(4頁)、②真実性抗弁の成否(34頁)、③その他の不法行為の成否(50頁)、④損害論(58頁)、の4点である。

  <1 名誉棄損の成否>

 第1の論点について述べます。書面では第2章、4頁以下になります。

 問題の各記載は、「原告が記事を捏造した」とするものであります。被告らは、「捏造」とは「意見ないし論評」であると主張しておりますので、反論します。

 辞書によれば、「捏造」とは「事実でない事を事実のようにこしらえること」、「本当はない事を、事実であるかのように作り上げること。でっちあげ。」を意味する言葉です。

 ジャーナリズムにおいて、「捏造」は、「意図的に」事実をでっち上げることであって、意図的でない「誤報」とは明確に区別されています。 捏造記事の例としては、①サンゴ損傷捏造記事事件(1989年)、②伊藤律会見報道捏造事件(同1950年)、③「あるある大事典」データ捏造事件(2007年)が挙げられる。①②の事件について、朝日新聞社がそれぞれ社告で「ねつ造でした 深くお詫びします」と発表している点が重要である。「捏造」は、サンゴ損傷捏造記事事件のようなケースを連想させる言葉なのである。

 裁判例においても、「捏造」は意図的に事実をねじ曲げるという意味に理解されている。遺跡から発見された石器が捏造と報道されたケースで、福岡高裁平成16年は、「『捏造』とは、『ないことをあるかのように偽って作りあげること、でっちあげること』を意味する言葉である」と定義した上で、原告の請求を容認している。また、研究論文にねつ造があるとされた事件で、仙台高裁平成27年は、以下のように認定しています。「本件各記事は,いずれも,『この論文には捏造ないし改竄があると断定せざるを得ません。』という記述があるものであるところ,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,その文言の通常の意味に従って理解した場合に,論文のねつ造ないし改ざんという証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張していることは明らかであるから,本件各記事は事実を摘示するものである」(9頁)

本件各記事の文脈に照らしても、「捏造」は「でっち上げ」の意味で用いられています。西岡論文Aは、「捏造」を「誤報」と区別し、故意による捏造事件の典型である「サンゴ損傷捏造事件」を引き合いに出し、「都合が悪いので意図的に書かなかった」「義理のお母さんの起こした裁判を有利にするために、紙面を使って意図的なウソをついた」「意図的捏造」等と強調しています。

 西岡論文Bも、「朝日記者の裏の顔」「単独インタビューがとれたというカラクリ」等と悪しきイメージを強調し、「あるある大辞典」の事件をひきあいにして「意図的に身売りの事実を報じなかった」と強調しています。

 論文CとDは、朝日検証記事に対する反論です。朝日検証記事とは「植村氏の記事には、意図的な事実のねじ曲げなどはありません」というものです。そして、論文Cは「この朝日の検証は間違っている。植村記者は意図的な事実の捏造を行い」とし、論文Dは「誤報というよりも、あきらかに捏造である」と断じています。

 また、文春記事Aは、「捏造と言っても過言ではありません」とした上で、原告の親族に慰安婦支援団体の幹部がいることを明らかにしています。この記載は、原告が記事を捏造した動機を示すものと読むほかありません。

  このように、「捏造」は、辞書的意味においても、実際社会においても、裁判例においても、そして、本件の文脈上も「故意に事実をねじ曲げること、でっち上げ」を意味しております。原告が利己的動機で事実をでっち上げたというのは、証拠により認定可能な事実ですから、事実を摘示したものというべきです。

 そして、それは、真実を報道すべき新聞記者としての原告の社会的評価を低下させるものですから、名誉毀損が成立します。

<2 真実性抗弁の成否> 

 第2の論点について述べます。34頁以下です。

 「捏造」が故意に事実をでっちあげることだとすれば、真実性の抗弁が成立しないことは明白です。金学順氏は自ら「私は挺身隊だった」と述べていたし(甲21の2本文2行目、甲50)、慰安婦を挺身隊と呼ぶ記事は原告の記事の以前にも以後にもありました。さらに、同じ時期の新聞各紙は金学順氏が妓生学校にいた事実に触れていないし、そもそも原告は会社の上司の指示や示唆に基づいて記事を執筆したに過ぎない。

 そうすると、原告が悪意で事実をでっち上げた等とは到底いえないことは明白なのであります。

<3 その他の不法行為の成否> 

 その他の不法行為についても述べます。これは、「第4」50頁以下のとおりです。

  文春記事Aは、「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」というタイトルからして、慰安婦問題を誠実に議論しようというものではない。原告の記事ではなく、原告が「お嬢様女子大教授に」なったことを攻撃の対象とし、その実現を阻止したいとの意欲を読者に抱かせようとするのがこの記事の目的である。

文春記事Bは、さらに悪質である。この記事が掲載された当時、被告文春は、文春記事Aを読んだ人々が松蔭に抗議を集中させ内定が取り消されたことを知っていた。そして、自社の記事がそのような効果を生じることを承知の上で、むしろ同じ効果が生じることを強く意欲して、北星学園の名称を明らかにして記事Bを発表したのである。

 その結果、原告は、職場や自宅に対し、家族特に娘に対するものも含め、様々な脅迫や嫌がらせを受けた。これらの嫌がらせが原告の平穏な生活を侵害したことは明白である。

  論述は以上ですが、裁判所には、本件で原告が受けた被害の深刻さに、是非、向き合って頂きたいと考えます。原告は、自身が名誉権や名誉感情を毀損されただけでなく、激しいバッシングと迫害により雇用を脅かされて生存の危険に晒されました。くわえて、家族、とりわけ、本件記事当時は生まれてもいなかった娘さんまでもが、父親の20年以上の前の新聞記事を理由に、「ころす、どこまで行っても殺す」などと脅迫状を送られているのです。原告が本件で請求している金額は実に控えめなものです。

 以上の次第ですから、原告の請求を速やかに認容して頂きたく、陳述と致します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・要旨陳述(以上)

この日の法廷では、最後に今後の進行について簡単なやりとりがあった。被告側の喜田村弁護士は、この日は座ったままでなく一回一回立ち上がって意見を述べたが、いかんせん声が小さく聞き取りにくかったのは、控えめな人柄のためなのか、この件で法律家として自信がないためか。

いずれにしても、決まったのは以下のとおりだ。

1.    原告側が11月末までに、補充的な陳述書を提出する

2.    それらを前提に、被告側が2月5日までに反論を提出する

3.    第4回の次回口頭弁論を、2016年2月17日午後3時から、東京地裁103号法廷で開く

この日は、3時18分にあっさりと閉廷した。                 (F記)

 

  終了後の報告集会は、こちら