TRIO-KENWOODが生み出した『Σドライブ』、「単体性能」から「接続性能」に注目した
Σドライブ(シグマドライブ)は、接続先の負荷側の入力端子まで、配線ケーブルも含めて、駆動側の出力機器が、NFループに取り込み制御する接続方法である。いわゆる「リモートセンシング技術」の一つである。
仕組みとしては上図のように、スピーカー(SP)という負荷をSPケーブルを含めSPの入力端子までをNFループ下にすることで、SPの制動力の指標でダンピングファクターを上昇させ、信号歪みを大幅に低下させる。従来、アンプの物理特性は、あくまでアンプ単体の出力端子までしか保証しなかった。しかし、Σドライブでは単体性能だけでなく、接続するケーブルや接触抵抗による劣化、接続先の入力端子までの性能を視野に入れ、ケーブルによる性能劣化を抑えることを目指した。
実際、アンプの物理特性は単体としては測定装置の限界値に迫るほどに優秀であったが、実際に負荷に接続した時の特性は大きく変わる。しかし、各メーカーはあくまで「単体性能」に特化しているだけで、実際に負荷がかかったときの性能に積極的に介入はしてこなった。そこをTRIOは、Σドライブという手法で切り込み、実際に負荷と「接続された状態での性能」(これまでは避けていたともいえる領域)に果敢に挑戦した、素晴らしい技術である。
SP(スピーカー)との接続だけが『Σドライブ』ではない
理論として、技術としては、リモートセンシング技術の一つとしては存在していたし(個人や少数ベンダーが商品化していたが)、TRIOのようなメーカーが実際に導入するとなるとハードルはかなり高いといえよう。しかも、さらにTRIOは接続負荷の相手を、SPだけにでなく、プリアンプ出力(L-08C)、CD出力(L-03DP)、チューナー出力(L-02T)など、SP出力端子とは別に、オーディオ機器間を繋げる接続方式として、専用のΣオーディオケーブルを使って接続するΣドライブ接続へと拡張した。
Σドライブは、接続ケーブルによって劣化する信号を、少しでも減らすための一つの接続方法である。これまで接続ケーブルの信号劣化を抑える手段としては、出力端を「ローインピーダンス化」させることで対応させるしかなかった。しかし、この方式では出力端子までしかNFループ内に置けない。しかし、TRIOのシグマドライブは、出力端子から先のケーブル先端までを、負荷端子の入力端子までを「NFループ内に取り込める」ようにした。性能は桁違いに上がるが、それには代償があった。それが「センサーケーブルの増設」である。
高い性能の代償「Σセンサーケーブルの接続」
ケーブル先端までもNFループ内に取り込むために、NFループの「帰還側ケーブルの接続(センサーケーブル)」が必要になった。このセンサーケーブルを上の赤線のように結線することで、ケーブル先端までをNFループ内に取り込んだ方式が「Σドライブ」である。Σドライブ方式によって、従来よりもはるかに低歪で信号伝送ができるようになったが、この機能を働かせるために、従来の2本の信号ケーブルの他に、センサーケーブル2本追加して接続させるという作業をする必要も生まれてしまった。
Σドライブの代表アンプ、L-08シリーズ
Σドライブのアンプで有名なのが「L-02A」という超弩級プリメインアンプ(定価55万円)があるが、一番クリティカルで先鋭的でかつ魅力的だったのは、シグマドライブの第一世代のセパレートアンプ、そしてTRIOの最後のセパレートアンプになってしまった、「L-08シリーズ」だ。
ここではΣドライブをL-08シリーズを中心にまとめていく。L-08を語るにあたって、その前身となるL-07シリーズに触れる必要があるので、これらを振り返りつつ、基本的な接続方法と使い方や、各シグマドライブの機器を紹介していきたい。
「Σドライブ」の味付け、DF値の設定
Σドライブはアンプの回路技術の中心にあったNFB技術の応用(内部回路にかけていたNFBを、伝送ケーブルにまで拡張)だ。そのNFBの使い方(どの周波数に、どの程度深くかけるか)に関しては、各社のそれぞれの音質決定の大きな要因として、さまざまな手法や提案がなされ、商品化されてきた。
例えばテクニクスは「LFB(リニアフィードバック)」という技術は、とにかく帰還量を大きくさせる回路であり、パイオニアの「スーパーリニアサーキット回路」は逆に無帰還(小さなNFループを持っている見ていた他者の技術者もいたが)にしたなど、NFBのかけ方は多様である。
TRIOのシグマドライブで扱うNFループは、アンプ外部のケーブルにまで拡張している。当然、周波数に対する帰還量によって、音質は大きく変わることになる。その目安となる指標が、対応周波数ごとのDF(ダンピングファクター)値となる。
「Σドライブ」では、〜100Hzの周波数からなだらかにNFループをかけ、海外のリモートコントロールアンプよりも低めの周波数に設定していた。
SPの中でも逆起電力の大きい(物理的に質量のある)ウーハーの低音域を主軸にDF値をかけ、なだらかに高域にDF値を下げていくののが、音質的に良いと判断したようだ。この辺は、各社のNFBに対する解答が異なるように、同じリモートセンシング技術でも、TRIOと海外製との解答が異なるのは当然といえよう。試聴を繰り返して決定した、NFループの「味付け」が、TRIOの「Σドライブ」の対周波数特性のDF値である。
それでも、同じΣドライブアンプと中でも、最高額のL-08から、最安価のKA-900までの間に、DF値の設定にはかなり違いがあるし、世代によっても、Σドライブの味付け(設定値)は多様である。
純正Σドライブである「4本接続型Σドライブ」と、劣化型の「2本接続型・ΣドライブtypeB」
第一世代のΣドライブのアンプは以下のようになる。
L-08C , L-08M , L-06M ,KA-1000 , KA-900 (KA-800はΣドライブがないアンプ)
このサイトではデザインも機能も特性も、最も先鋭的だった第一世代を中心にまとめる。残念ながらΣドライブの歴史の後半は、4本結線を捨てた「ΣドライブTypeB」であり、ケーブル間の伝送劣化を低減させる目的で進化してきた「Σドライブ理論」の要件を満たしていない(本サイトではTypeBのアンプを、Σドライブ・アンプとはしない)。
1980年に発表された「Σドライブ(ΣDRIVE)」だが、第一世代(L-08、KA-1000の1980年)から次の第二世代(L-02A、L-03A、KA-1100の1983年)までが、純正のΣドライブ・アンプとなる。以下に並べたTRIOのアンプの中でも、4本接続型のΣドライブ・アンプはとても少ないことが分かる。1984年からの「ΣドライブTypeB(以下のTypeB)」の接続方法は通常結線(2本)であり、厳密には「Σドライブ」とは言えないだろう(このサイトは対象外としている)。よって、正式な「4本接続型Σドライブ・アンプ」に該当するのは、以下の青文字のアンプだけとなる。
(↓型名、発売年、DFダビングファクタ値、値段、シグマドライブ有無)
L-08C+L-08M(1980年)DF:20000(55Hz) +DF:15000以上 (3mSP端子終端)¥180,000 + ¥300,000 (150,000 ×2台) ΣDRIVE
L-06M(1980年) DF:20000(55Hz) +DF:15000以上 (3mSP端子終端)¥130,000(65,000 ×2台)ΣDRIVE
KA-1000 (1980年) DF:600(100Hz)+DF:600 (3mSP端子終端) ¥145,000 ΣDRIVE
KA-900 (1980年)DF:500(100Hz)+DF:500 (3mSP端子終端)¥79,800 ΣDRIVE
KA-990 (1982年)DF:1000 ¥79,800 ΣDRIVE
KA-2200(1982年) DF:1000(100Hz) ¥158,000 ΣDRIVE
KA-1100 (1983年) DF:1000(100Hz) ¥118,000 ΣDRIVE
L-02A (1983年)DF:10000(55Hz) ¥550,000 ΣDRIVE
L-03A (1983年)DF:2000(55Hz) ¥180,000 ΣDRIVE
KA-990SD(1984年)DF:1000(50Hz) ¥79,800 TypeB
KA-990V(1985年) DF:1000(50Hz) ¥79,800 TypeB
KA-990D(1986年) DF:1000(50Hz) ¥79,800 TypeB
KA-990EX(1987年) DF:1000(50Hz) ¥79,800 TypeB
KA-1100D(1986年) DF:1000(50Hz) ¥129,000 TypeB
KA-1100SD(1984年) DF:1000(50Hz) ¥129,000 TypeB
TypeBはアンプのSP出力端子での測定値で、SPケーブルの先端(SP入力端子)での測定値である「(4本の)シグマドライブ」は異なることに留意。
こうしてみると正式なΣドライブアンプは意外と少ないことがわかる。プリメインアンプで7種(1000,1100,900,990,2200,02A,03A)、セパレートアンプで2機種(08,06)しかない。
性能は高いΣドライブ接続は難しかったか
そう感じたユーザーが少なくはなかったのだろう(実際、メーカーもサービスも対応が大変だったのだろう…)。
「Σドライブ」はアンプの負帰還回路が、SPケーブル先端まで繋がっていることになるため、性能が高い分、取り扱いは難しくなっているのは間違いない。また、SPケーブルも、アンプの一回路である以上、結線のリスクは通常結線よりも高くなってしまう(センサー回路が故障するなど)。結線ミスはユーザーに責任があるとはいえ、従来の接続方法とは異なる特殊な接続を強いているのだから、TRIOとしては丁寧な説明と対応をするしかなかった。
この2本のケーブルの追加と接続、これが様々な課題を生み出し、方式としては極めて優れていても、普及させることはできなかった。TRIOの描いた「Σドライブ理論」は理想的で優れた方式であったが、残念ながら「商品」としては終焉を迎えてしまうことになる。
信号経路における伝送劣化を解決する。「Σドライブ理論」に挑戦したTRIO
Σドライブ側は+とーにセンサー端子各1本ずつ追加接続し、SP側につなぐ信号線とセンサ線をよって1本にハンダ付け(ハンダは不要でも可)にする。これをだれもが確実にできるか? というと「商品としては難しい設定」だった。他社メーカーも同様の接続方法は検討し、採用した例(Aurexのクリーンドライブなど)もあったが、すぐに撤退したのは、技術としては優れていても商品としたは「見合わなかった」と判断したのだろう。
「Σドライブ」の性能は高く、アンプとしての一つの究極形ではあった。既にL-07シリーズからケーブルにおける信号劣化を低減させることをテーマしていたTRIOとしては、「Σドライブ」は一つのファイナルアンサーであったことは間違いない。だからこそ、L-08シリーズのカタログに「ビッグ・ピリオド」と謳ったのだろう。その優位性は他のページで触れていくが、従来の接続方法を超えたシステムであったことが見えてくる。
TRIOが野心的だったのは、Σドライブという接続方法を単に「スピーカーの接続方式」だけの方式に留めなかっただろう。L-08CやL-02Tのように(SPとの接続ではなく)、プリアンプとパワーアンプの接続、チューナーとアンプとの接続にもΣドライブ接続を拡張し、Σ端子とケーブルを用意した。
TRIO技術陣が目指した形は、オーディオ機器のすべてを「Σドライブ理論」で繋ぐことだった。全てのケーブル接続における伝送劣化問題を解決させる、それがL-08シリーズから始まった「Σドライブ理論」の到達点だったのだろう。
しかし、残念ながらその理想系に近づくことは叶わず、Σドライブ接続は短命だった。それでも、L-08シリーズを筆頭に僅かであったが、L-02A、L-02TといったTRIO-KENWOODの銘機が生まれた。どれもが「Σドライブ」の末裔であり、その理論と思想は形を変えて、TRIO-KENWOODの中で受け継がれた。
「Σドライブ」という大きな一歩を踏み出し、Σドライブ理論に沿った優れた機器を送り出したTRIOに、最大の賞賛を贈りたい。