プロジェクト父

―潰瘍者たち―

#1

ロバが何頭も

荷車に山ほど荷物を積んで、

ヨタヨタと凸凹道を歩いている

数人の男に代わる代わる鞭打たれ、

後ろでは、こぼれた荷物を拾って

荷車に放り上げてくれる者・・・

これが私の会社のイメージと

父は心の中で言った。


#2

「理想のリーダー」や「企業改善」などの、

セミナーや合宿にどんなに参加したって、

商品を安くしなければ売れないんじゃ、

どうにもならんでしょう、社長!

と、父は心の中で言った。


#3

「無能な社員には辞めてもらいます」って社長、

社員もみんな辞めたがってます!

あんたが一番無能!!

と、父は心の中で言った。


#4

給料泥棒でもいいから何もしないで欲しい。

暇で何かし出すんじゃないかと、

役員を前にびくびくしている社員たち!

と、父は心の中で思った


#5

ある日の現場にて、

課長(45)「工長、どうなってるんだ!

『ミュウミュウイチゴのお手伝いするでちゅー』の原料がまだだって?」

工長(52)「だから、『ミュウミュウイチゴのお手伝いするでちゅうー』は、

原料の在庫が3日分はいると言っといたでしょう・・・」

課長「今さらしかたがない・・・。『クルクルクリーミー』をばらせ・・・」

工長「『クルクルクルーミー』のどっちを?

『ままごとニャンニャンするでちゅー』の方ですかね、それとも・・・」

事務員(28)「課長!『ミュウミュウイチゴのお手伝いするでちゅー』の原料、

3時までに入るそうです!!」

ネーミングは大事だと、

父は心の中でつぶやいた。


#6

うちの部下は、

指示待ちどころか、

二度指示だと、

父は心の中でさとった。

二度指示とは、

一度の指示だけでは、絶対動いてくれず、

必ず二度、指示しなければいけないことを指す。

へたすれば、三度四度ということもある・・・。


#7

そういう自分も、

上司の指示は必ず二度指示でと、

父は心の中でつぶやいた。

一度の指示だけでは、単なる上司の思いつきで、

あとですっかり忘れられているときがある。

二度目の指示があれば、ほんとに必要・・・。


#8

おめーよー、銭儲けに、すじもへったくれもあるか~!

これは焚き火を囲みながら、コップ酒片手に、親方が言ったのではない、

わが社の技術会議で、開発部長が言った言葉・・・。

トホホと、父は心の中でつぶやいた。


#9

君達が辞めたいと言い出す気持ちはわかる。

たしかにこの会社はダメ会社だ。

しかし君達、会社が倒産していくなんてことは、

なかなか経験できないぞ。

どうだね、話の種に残ってみないか・・・。

(なんちゅう止め方だ!)

父はわれながら心の中でつっこんだ・・・。


#10

底なし沼に落ちて、

助けを求める部下の手を

振りほどくだけじゃなく、

その頭を棒で叩いているのが、

うちの上司だと、

父は心の中でつぶやいた・・・。


#11

辞めさせるな、

是非とも止めるんだ。

すでに従業員の退職金にも手をつけている・・・。

どうしてもだめなら、

何でもいいから難癖つけて、

懲戒免職にするんだ、

辞められる前にな・・・。

「ゆ、夢か・・・」

父は汗びっしょりになって目を覚ました・・・。


#12

社員A「これも、トリテイか・・・」

社員B「こっちは二つですよ、トリテイ・・・」

課長「あっちもこっちも、トリテイだらけだな・・・」

今日もあいかわらず事務所内を飛び交う、

トリテイという言葉・・・と、

父は心の中でつぶやいた。

ちなみにトリテイとは、鳥のカラアゲ定食のことではなく、

取引停止のこと。


#13

「船が傾いたら、

俺はまっ先に逃げ出すぞ、

ネズミより先にな!」

わが工場の、いわゆる船長の言葉に

父は唖然とした。


#14

だだっこ管理:怒ったり泣いたりわめいたり、

足をバタバタさせて、無理難題を通す管理

小姑管理:思いつきでところどころをチェックして回り、

抜け落ちがあると、ネチネチ小言を言う管理

この二つの大きな管理システムで当社は動いていると、

父はポツリとつぶやいた。


#15

名刺を出すとき、

思わず肩書きを隠してしまう、

父だった・・・。


#16

名刺を出すとき、

思わずISO取得企業と言う一文を

隠してしまう父だった・・・。


#17

工場長がいなくなれば、

工場は良くなる・・・、

ポツリとつぶやいてしまう父だった・・・。


#18

テレビが取材に来るというのに、

全然、掃除も整理もしない工場・・・。

しかし「メーカーも困っています」というナレーションとともに

一瞬映っただけだったので、

正しかったのかも・・・、

と思う父であった。


#19

居眠りしている新入社員の前で

汗を流して講習している上司・・・。

毎年くり返される光景だ、

と思う父であった。


#20

わかりきった道では

はりきった声でリードしてくれるが、

わかりにくくなると、

とたんにリードを放棄してしまうナビ・・・。

「まるでわが社の上司だな・・・」と、

思う父であった。


#21

ふつうは、ほうれんそう(報告・連絡・相談)だが、

うちの会社は、ちんげんさい(沈黙・巧言・小細工)だなと、

思う父であった。


#22

机に積まれた束の

新しい名刺の名前が違っている。

どうして、ああ・・・。

いっそ、名前を変えるかと、

父は思った。


#23

「あなた、何かにとり憑れてるんじゃないの?」

 「じょ、上司にとり憑かれてるんだ・・・」

と、父は言った。


#24

毎日毎日クレームで

対応、対応と騒ぐ顧客。

いっそ取引停止にしてくれと、

願う父であった・・・。


#25

船底で浸水が始まっているのに、

客室の水道管の水漏れを直しているのが自分

・・・と父は思った。


#26

われながら名文だなと、

父は自分の書いた

クレーム報告書を見て思った・・・。


#27

この上司が、

自分のやっていることの、

反対を全部やったら、

理想的で完璧な上司だな

と、父はふと思った・・・。