スポーツ現場での頭の怪我 10のヒント

体協 スポーツ外傷・障害の予防への取り組み 2014

東京慈恵会医科大学 脳神経外科 谷 諭

1. 頭をぶつけなくても、脳の怪我はある

固い地面に転落したり、なにか固いものにぶつかったあとは、頭をぶつけたことによる中にある脳の怪我が心配ですね。でも、背中から転倒するなど、頭を直接固いものにぶつけていなくても(スノボで新雪のなかにドサッと転んだりしたときなど)、頭が急に揺すられることで、脳の怪我は起きることがあるのです。

頭部が揺すられると、お豆腐のような脳はひずみを起こして(豆腐を揺すると同じことが起きます)、脳の機能障害(脳震盪)を起こすことがあります。また、脳とケースの間にずれが起きて、脳の表面の血管が切れてしまい、急性硬膜下血腫という命に関わる出血(頭蓋内出血)を起こすことがあるのです。

2. 疑わしければ、すぐにサイドラインへ

練習、試合などで、選手が倒れてしまった場合は、ともかく現場にすぐに駆けつけましょう。そして、本人の意識などは確認しますが、その後の処置や判断などは、サイドラインで行う方がいいです。ですので、選手が倒れたときは、選手を歩かせることなく(転ぶとまた怪我をしますので)、すみやかに、担架やストレッチャーなどでサイドラインへ運びましょう。この際には、頚部を保持するようにした方が安全です(首の骨が怪我していることがあります)。

ただ、ストレッチャーなどを待つのに長時間を要するような状況なら、待ち時間を無駄にしないためにも、6人くらいで直接抱えるか、簡単なバックボードにのせて、早めに運び出しましょう。なぜなら、脳の怪我がある場合、時間が勝負ですから、早くサイドラインへ出すことが肝要です。頭の怪我で「絶対安静」はありません。

3. 頭の皮膚の怪我は血が出るが

頭の皮膚は血管がたくさんあります。だから、頭をぶつけて皮膚が切れたときには出血は結構ひどくなりがちです。

しかし、出血の多さと頭蓋骨の骨折や頭の中の出血(重大事事故)とは関係ありません。慌てずに、水道水などで患部をよく洗って、切れている場所を確認しましょう。傷が大きければ病院で縫合などの処置はしてもらうものの、その場では、タオル、ハンカチなどで傷口を圧迫すると、5分くらいで出血が止まることが多いです。おちついて、同じような強さで、傷よりやや広い範囲で圧迫を続けましょう。ビュービュー血が出ている場合は、小さな動脈からの出血ですから、その断端がある皮膚の上をしっかりと5−10分押さえましょう。

4. 変な症状があったら脳震盪かも

頭を打ったり揺すられる事で意識を失う事が脳震盪と認識しているかもしれませんが、脳震盪はそればかりではありません。打った前の事や後の事を覚えていない(健忘)、なんとなくボケているようだ、ふらふらして片足立ちや継ぎ足立ちなどが危なっかしい、あるいは、頭痛やめまいや星が飛んで見えるなどの不思議な症状があったら、脳震盪を起こしているかもしれないと思った方が良いです。

5. 意識消失・健忘があったら病院へ

脳震盪は時間とともによくなる事が殆どですが、脳震盪で一番怖いのはその衝撃で頭の中に出血を起こしてしまう事です(急性硬膜下血腫と呼ばれています)。この出血があるかないかは病院で頭部の検査をしないとわかりません。では、どのようなときに病院の受診を考えるかと言うと、一般には、脳震盪を被ったときに、選手が意識を失っていたり、あるいは、打った前の事や後の事を忘れている(正常に行動をしていたとしても)ような「健忘」がある場合です。ですので、このような症状がある場合には、早急に病院を受診するように薦めましょう。

6. 打撲後は頻回のチェックを!頭痛、吐き気が出たら病院へ

頭を打ったけど、意識を失ったり、健忘がない場合などは、即座に病院へ赴く必要はないかと思います。しばらくの間、周囲のスタッフがよく観察するようにしましょう。ゆっくり休ませて、5分おきくらいに「頭痛が強くなっていないか?吐き気が出てきていないか?」などを聞くようにしましょう。もしも、これらが出てきたりするようで、そして、ひどくなってくるようなら(打ったときには頭は痛いに決まっていますが)、やはり、もしかすると頭の中に出血を来している可能性があるので、病院への受診を準備しましょう。

7. 帰宅後24時間は一人にしない

頭を打った選手を1時間くらい観察しても大丈夫そうなときには、帰宅をして休むように指示しましょう。しかし、受傷後24時間以内は頭の中の出血が起き得るので、その時間内は一人でいないようにして、誰かと一緒に過ごすようにした方が良いです。そして、頭痛や吐き気が出てくるようなら、夜中でも病院を受診するように指導しましょう。

8. 脳震盪・24時間はお休み、そして症状がなくなってから段階的復帰を

脳震盪を被った可能性がある場合、ともかくその日のうちのプレーや練習の再開は禁止です。頭と体を24時間は休ませるようにしましょう。これは、脳震盪の対応の中で一番基本的な事柄です。

休息をとっていれば、頭痛やめまいなどの不思議な症状もだいたい10日くらいでよくなってくれる事が多いです。では、競技や練習への復帰はすぐにしてよいかと言うと、それは好ましくなく、原則的には段階的に徐々に復帰するのがよいとされています。以下の1から6までのステップとなります。

① 運動中止と休息、症状がなければ次のステップへ

② 歩行やサイクリングなどの軽度の有酸素的運動(抵抗性トレーニングは避ける)

③ スポーツに特化した運動。徐々に、抵抗性トレーニングの開始

④ 非・コンタクトトレーニング

⑤ メディカルチェック後のフル・コンタクトトレーニング

⑥ 試合参加

各ステップに1日かけるような感じで、最後の6ステップ目に競技への本格参加というスケジュールを組むのがよいです。段階的復帰のステップを上げた際に、再び頭痛やめまいなどが起きてくるなら、24時間以上休んで大丈夫になってから、前のステップから再スタートするようにします。

9. いつまでも頭痛が続くなら、もう一度頭の検査を

頭痛やめまいなどの脳震盪を被った後の症状は普通10日前後で良くなる場合が多いです。しかし、これらが、決して悪化している訳ではないけど、いつまでも続くようなら、専門の病院への受診を考えましょう。わずかな頭の中の出血や脳震盪後症候群と言って慢性的に症状を引きずってしまう場合があるからです。当初にCTスキャンを撮影していたとしても、より詳細にチェックが出来るMRIという検査をするのも良いことだと思います。

もちろん、この間は競技への復帰は控えましょう。この時期に再び打撃を被ると大変なことになりかねません。

10. 頭蓋内に怪我を負ってしまったら、競技復帰は原則禁止

頭が揺すられる事で、致死的でもある急性硬膜下血腫などの頭蓋内出血をおこした選手では、それ以前にも頭を打っている場合があります。つまり、以前に頭の中にわずかに出血などがあった場合、それが癒えたとしても、もう一度打撃を被る事はとても危ないと言う事です。カサブタを剥がすともう一回出血するのと同じようなイメージです。

ですので、頭の事故によって「頭の中に出血がおきた」あるいは「脳に傷がついた(脳挫傷)」などと診断された場合は、原則的には再び頭部へ打撃を被るととんでもない事になりかねませんので、そのような状況は避けるのが原則であると理解してください。これは必ず起きるという事柄ではないのですが、起きてしまった場合には致命的となるわけですから、不幸な事故を起こさないための一番の注意事項(予防対策)であると思ってください。

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