「登山道」とは?

2010年5月連休、富山、石川、岐阜3県境の日本二百名山のひとつ笈ヶ岳(1841m)に登った。

この山は、上部は笹薮がひどく無雪期には登れない、また冬は石川県側の登山口までの道路が豪雪で入れない。登山口までの除雪が終わり、上部に残雪がたっぷりある5月連休前後しか登れないという厄介な山である。その情報が流布され、5月連休にはどっと登山者が押し寄せる。

 私は4月30日金沢から登山口の白山自然保護センターまで入り、そこの駐車場で車中泊、翌早暁出発して笈ヶ岳をピストンした。

 前日白山自然保護センター内を見学しながら、受付にいた女性に笈ヶ岳への道を尋ねた。

なんと「教えられません」とぬかす。思わず気色ばんで「何!!!・・」。一息おいて「なんでですか」と問うと「上司から教えては駄目だといわれています。正式な登山道ではないので」「ふうん」「そこの駐車場に登山者の車がたくさんとまっているでしょう、その人たちに聞いてください。それだけ教えます」と。驚いた。50年以上山登りをしていてこんなやりとりは初めての経験だ。

 道はブナオ山から冬瓜(カモウリ)山にかけての稜線(約1400m)に乗り上げるまでジライ谷左岸の尾根筋に急峻ではあるがしっかりとついており、随所にトラロープも設置されている。踏み跡という以上の道であった。そして冬瓜山から笈ヶ岳山頂まではアイゼンが小気味良くきく残雪ルートであった。

 正式の登山道ではないというこのルートのこの日の登山者は50人を下回らなかっただろう。

 また2010年6月初め、那須連山の北端に位置する福島県会津境の山 旭岳(赤崩山:1835m)に登った。那須湯元温泉から尾根を縦走し、旭岳の旧火口坊主沼の縁に建つ避難小屋に一泊し、甲子岳の少し手前から左に分岐して旭岳山頂に直登する。

 その分岐点にまだ新しい鉄板製の標識が立っていた。「注意:旭岳への登山ルートはありません 西郷村」とある。しかしその標識の下から立派とは言えないが明瞭な登山道が山頂まで通じていた。その登山道は急峻である。赤土のザラ場はトラロープに頼らねば登れないし、草付きの急坂あり、短いが鋭い岩場のナイフリッジありで気を緩めると危険な個所が多いのは事実だ。しかし道はある。平日なのに10人ほどの登山者にも出会った。下山時その標識にマジックインクで「公式には」という文字を書き添えておいた。

 「登山道」とはいったい何なんだと考えてしまう。責任問題があるのは理解するが、もう少し言い方、書き方に工夫はできないものだろうか。