はじめに





平成23年10月から一般労働者派遣事業と職業紹介事業の新規許可・更新の手続が見直されました。
職業紹介事業の更新の際には、これにより公認会計士による監査証明などが必要になるケースがでてきました。


こちらのサイトでは、職業紹介事業の監査証明についてわかりやすく解説していきます。





<目次>




1. 制度の概要


有料職業紹介事業は、職業安定法の規定により厚生労働大臣の許可を受けて
労働者保護のルールを踏まえた適正な職業紹介の実施に必要な
紹介所の能力等についての審査を伴う許可制の下で認められているものであり
厚生労働大臣の許可を受けなければならないものとされています(職業安定法30条)。

この際、許可の申請が一定の基準に適合していると認められる場合に
厚生労働大臣がその許可をする旨が規定されています(同法31条)。
一定の基準に適合しているかどうかの要件については、「職業紹介事業の業務運営要領」の中で定められており、
具体的には、一般労働者派遣事業の新規許可及び許可の有効期間の更新を行うにあたって、下記の要件を満たす必要があります。

  • 資産(繰延資産及び営業権を除く)の総額から負債の総額を控除した額(以下「基準資産額」という)が500万円に当該事業主が一般労働者派遣事業を行う(ことを予定する)事業所の数を乗じた額以上であること(ただし、更新時には350万円)。
  • 事業資金として自己名義の現金・預貯金の額が、150万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えて得た額以上となること。

しかし、上記2つの要件のうち、1つでも満たされない場合には救済的な措置が設けられており、従前において認められていた手続では

   ⅰ)市場性のある資産の再販売価格の評価額の証明
   ⅱ)増資の証明
   ⅲ)預金等の残高証明書の提出

のいずれかを行うことで
当該事業の新規許可及び許可の有効期間の更新が認められることになりました。

しかし、平成23年10月1日以後においては
上記のⅰ)~ⅲ)の手続が廃止されることになり
今後、新規許可または有効期間の更新を予定する場合
これに代替する手続として
許可要件を満たした中間または月次の貸借対照表及び損益計算書に
公認会計士による監査証明を添付して審査を受けるという手続
が行われることになりました。

ただし、有効期間の更新に限り、当面の間、監査証明のほか、公認会計士による「合意された手続実施結果報告書」による取扱いも可能とされています。


2.監査証明業務とAUP業務の違い


平成24年1月20日に、日本公認会計士協会から「一般労働者派遣事業等の許可審査に係る中間又は月次計算書に対して公認会計士等が行う監査及び合意された手続業務に関する研究報告(監査・保証実務委員会研究報告24号)」が公表されました。

これに伴い、職業紹介事業を行う会社について、公認会計士が監査手続や合意された手続業務を実施するにあたっての留意事項などが明確になりました。
ここでは、新規許可の際に実施される監査証明業務と
主に更新の際に実施される合意された手続業務(以下、AUP業務)の概要について解説していきたいと思います



監査証明業務とAUP業務は性質の異なるものです。
まず、監査証明とは会社が作成した財務諸表が適切なものであることについて公認会計士が保証することをいいます。
これに対しAUP業務は、財務諸表そのものの適正性について公認会計士が保証するものではありません。

具体的には、基準資産要件や現金預金要件及び負債比率要件に関連する勘定科目の金額が、
帳簿記録などの裏付けとなる証拠に基づいて計上されたものであるかどうかについてのみ検証することになります。
簡潔に言うならば、監査証明は貸借対照表ならびに損益計算書に計上されているすべての勘定科目について
公認会計士が検証することになりますが、AUP業務の場合は監査証明業務よりも公認会計士の手続実施負担が少ないことになります。

したがって、一般的にはAUP業務のほうが監査業務よりも報酬が少なくなるものと考えられます。


3.職業紹介事業にかかるAUP業務の特徴


職業紹介事業にかかるAUP業務の一番の特徴は、企業の月次決算書に対して手続が実施される点にあります。
私の記憶する限り、月次決算書の数字に対して何らかの意見を表明する業務は、この職業紹介事業等の許可申請に係る手続以外にありません。
研究報告にも記載されていますが、年度決算書について監査証明などが求められていない理由は
法人税の税務申告書に添付される財務諸表には一定の信頼性があるものと解釈されています。
通常、月次決算を実施する場合においては、貸倒引当金の計上や、減価償却費の計上といった決算手続等が行わない会社も多くあると思われますが
税務申告書に添付される年度決算書に監査証明が必要とされない趣旨を考えると
AUP業務を公認会計士に依頼するにあたって、このような決算手続も月次決算において実施する必要性が生じてくるでしょう。


4.AUP手続の実施概要について


一般労働者派遣事業にかかるAUP業務については、その手続について業務依頼者である事業主との合意が必要になります。

しかし、公認会計士が実施する手続については、一般的に研究報告に基づいて、以下の手続が実施されるものと判断されます。

①期首残高の検証
研究報告では、手続実施の出発点として、最近の年度決算書の貸借対照表及び損益計算書に計上された勘定科目の金額について
帳簿記録や税務申告資料と照合する手続を実施します。

②期中取引の検証
年度決算書日後、検証対象となる月次決算書までの期間について、資産科目については増加、負債科目については減少に着眼して、
基準資産に重要な影響を及ぼす勘定科目について、証憑との突合せを行います。

③会計方針の検証
年度決算書において適用された会計方針を聴取し、当該会計方針が継続して適用されているかどうかについて留意し、質問などを行います。


5.AUP手続における検証対象科目の決定


一般的には、資産及び負債の中から基準資産または負債比率の算定に重要な影響を及ぼす科目を選択し、公認会計士が手続を実施することになります。

なお、研究報告では、一般的な労働者派遣事業を営む会社において、
下記の勘定科目が重要になると考えられるものと具体的に記載されています。

(資産科目)
現金預金、売掛金、未収入金、商品、土地、建物、ソフトウェア、貸付金

(負債科目)
未払費用、前受金、借入金

また、現金預金については、手続実施結果報告書の記載例に、
銀行が発行する残高証明書と帳簿記録との突合を実施する手続が掲載されており、重要な勘定科目として位置づけられています。
場合によっては、公認会計士が金融機関に対して直接残高確認書を送付する手続が行われる可能性もあります。

月次決算書の現金預金の金額と、銀行の残高証明書の金額が一致していない場合は、
AUP業務の工数も増加し、コストの増える可能性があるので、事前にきちんと決算手続を行う必要があるでしょう。

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