Q&A

このページでは,本研究室(菅村ゼミ)に関して,実際に受けた質問への回答をまとめています。以前は,質問を受けた順に,多少の重複も含めて並べていましたが,まとまりが悪くなってきたので,並べ替えました。今後,質問を受ければ,また増やしていきます。メールでいただいた質問については,そのままこちらに転載することがあります。

学部編

Q1. 菅村ゼミでは,どのようなテーマを扱いますか? 過去の卒業論文の題目も教えてください。

A1. 下記のページを見てください。


Q2. 心理学専修のゼミは何名ですか?

A2. 2011年度までの数年は,1ゼミ1学年12±4名程度でしたが,2012年度以降は10名程度,2013年度以降は10名前後です。

2010年年度までは,本専修の定員が105名で,教員が9名であるため,105÷9=11.66...でした。しかし,年度によっては,在外研究などのため,開講するゼミの数が減ることがあります。定員の見直しもあります。2011年度は心理学専修の2年次生の定員は,学部の改編に伴って,90名になりましたが,定員割れしたため,80数名です。2012年度の3年次のゼミ(心理学専修ゼミ3・4)は,10名前後でした。2013年度以降の心理学専修2年次生の定員は70名です。

Q3. ゼミ分属はどのようにして決まるのですか?

A3. 希望ゼミを優先しますが,定員を超過ゼミは,各ゼミの方針に沿って選抜をします。

以前は,各ゼミの第1希望者について、2年次の科目「心理学専修研究1・2」の成績上位順に選抜していましたが,2019年度からは,各ゼミで読書レポートや指定の科目や課題の成績などを使うように変わりました。


Q4. 菅村ゼミでは,「知へのパスポート」や「心理学専修研究1・2」と同じような課題をやるのですか?

A4. やりません。

調査や実験,観察などの課題を出して,データを取って,レポートをまとめてもらう,というようなことは,基本的にやりません。「知へのパスポート」や「心理学専修研究1・2」は,卒論を書くための基本的な知識を身につけるための授業です。ゼミでは,そのような力がすでにある程度あるものとして,各自の卒論に直接結びつくようなことをやりたい,と思っています。

具体的にいえば,毎年,内容もやり方も変わるものの,だいたい,3年次の春学期は,3名程度のグループで,論文や本などを読んで,それを発表して,みなでディスカッションします。秋学期以降は,各自の卒論を進めていくことがメインになるので,自分の卒論に関する論文をかいつまんで紹介したり,研究計画について,他の学生や私の意見を聞いたり,といった形で進めていきます。

さらに詳しい情報は,ゼミの年間活動のページや他の質問への回答を参考にしてください。


Q5. 課題は大変ですか?

A5. 3年次の春学期には,各自の興味を拡げる意味で,複数回,グループでの課題を出します。その後は,各自のペースにまかせてきましたが,この方式では,卒業が危ぶまれる学生が年々,増えてきたため,2014年度から方針を変更して,3年次秋学期から4年次まで,足並みを揃えて,だいたい同じペースで卒論を書いていくプランにしています。

3年次の前半で,文献を読み,自分で卒論を立案するための基礎知識を身につけ,その上で,卒論に取り組んでいってもらおうと思っているので,3年次秋以降は,グループ課題などは基本的に行わずに,卒論のテーマを絞り,方法を吟味していくことになっています。

卒論を書くためには,論文に出てくる統計記号を理解し,先行研究から問題点を発見したり,それを解決する新しい研究計画を立てないといけないわけですが,本ゼミでない場合も,いずれそれを学ばなければいけないのはまったく同じです。多くの人は,卒論を書くときに,自分で身につけたり,先輩に聞いたりするのでしょうが,本ゼミでは,3年次の春に,グループ課題などを通して,早めに体系立てて勉強しておこうという趣旨なのです。なので,課題(卒論を書くために学ぶべきこと)の総量は,ゼミの2年間で考えると,どのゼミでもおそらくそれほど変わらないでしょう。


Q6. 卒論指導は具体的にどのように進めますか?

A6. 本ゼミでは「プロポーザル制度」を採ります。

「プロポーザル」(proposal)とは,「研究計画書」とも言いますが,ここではより広い意味で「研究の提案」を指します。たとえば,最初は各人が興味をもち,卒論として実験や調査をしてみたいテーマをいくつかに絞ります。そして,どのような方向性で進めたいかというプランを提案してもらいます(1回のゼミで数人が発表)。指導教員は,そのテーマの関連研究や考えられる方法などについて,できる限りの情報を提供します。それを受けて,学生はテーマをもっと絞ったり,具体的な研究方法を立案したりします。教員はまたそれに対してコメントをしていくという形で進めます。

これを数回繰り返すと,研究の形が見えてきますので,そうしたら「問題(研究の背景,目的,仮説など)」と「方法」(材料,手続きなど)をもっと詳しくまとめた「研究計画書」を提出してもらいます(本来は,これをプロポーザルと言います)。それに対して教員がまたフィードバックしながら,具体的な研究の実施へとつなげていきます。

4年次のゼミでは,これがメインになります。他の学生の提案を聞いて刺激を受けたり,またそれに対する他の学生や教員のフィードバックを自分の卒論に活かしたりしていくわけです。そういう意味では,学生と教員による双方向の「提案」の繰り返しが「プロポーザル制度」の本質といえます。

Q7. 卒論のテーマを3回生の夏の段階で決めるという噂は本当ですか? 卒論のテーマはいつまでに決めるのがよいですか?

A7. 以前は,3年次の夏までに決めることを求めていませんでしたが,他のゼミもなるべく早くから卒論を始めないと間に合わないということが増えてきたらしく,本ゼミでも,卒論のテーマは夏合宿までに,少なくとも,2,3には絞っておくように言っています。

卒論は,遅く始めると,自分の関心に合ったテーマが選びやすい反面,書く時間が少なくなるため,一般に,卒論のクオリティは下がります。方法に大きな問題が見つかったり,十分な結果分析ができなかったりすることは多々あります。一方で,テーマを早めに決めておくと,文献を集めたり,方法を練る時間もたっぷりあるので,卒論のクオリティは高くなりやすいです。

もちろん,興味の幅が狭いうちに,テーマを決めると,4年次になってから,「これをやればよかった」という後悔がやってくることもあります。しかし,時間をかければ,それだけ興味の幅が広がるわけでは必ずしもありませんし,やりたいテーマが見つかるとは限りません。むしろ,少しでも興味をもったテーマに対して,早めに準備を始めると,関連文献を調べるうちに,興味の幅が広がったり,やりたい方向を修正したりすることができるものです。

何よりも,4年次の春学期の最後の頃に研究計画が完成しても,この時期になると,調査に協力してもらえる機会も減り,実験参加者を集めることにも苦労します。やっとデータが集まっても,時間をかけての分析は難しく,きちんと考察する余裕もなくなってきます。要するに,卒論のテーマを決めるのが遅くなればなるほど,卒論を書くことに割ける時間が少なくなり,卒論の質の低下を招きやすいのです。

4年次になると,みな口をそろえて,早めにやっておけばよかった,と言います。卒論のデータも取らないまま,就職活動をするのも落ち着かないようです。いろいろな意味で,卒論は,早めに始めるほうがメリットが大きいのではないか,と考えるようになりました。

タイムラインとしては,3年次の夏休みまでで卒論のテーマを決め,秋学期に先行研究を調べながら,方法を練り,春休みには,すぐにでもデータを取れるレベルまで,方法を具体化し,4年次の初回のオリエンテーションなどで,データを取ったり,実験を依頼し,夏休みにデータを分析し,結果をまとめ,秋学期に考察を書いたり,追加分析をしたり,問題を整えたりしながら,卒論を完成させていく,と考えておいたらよいでしょう。春学期の方が,秋学期よりも被験者を集めやすいということにも留意しておく必要があります。


Q8. 卒論ではデータを取らなければならないのですか?

A8. 本ゼミでは必ずしもそうではありません。

散在している多くの類似研究について,その歴史的背景や発展の経緯をまとめ,そこから今後の課題を展望するような文献研究は,他の研究者にとっても重要なことです。ただし,そのテーマを網羅するほどのかなりの本数の論文や書籍を読むだけでなく,それらを巧みにまとめないと,あまり意義のある研究にはなりません。文献を読む力,語学力に加えて,それをまとめる力がなければ,難しいでしょう。

実験や調査の場合でも,もちろん文献を読むことは大切ですが,文献研究ほどに広く細かく読む必要はなく,むしろデータが重要な意味を持ちます。結果はどうあれ,何らかのデータが得られたとすれば,その意義が認められます。卒論生にとっても,ある程度の「型」が決まっている実験・調査論文が書きやすいのではないか,と思います。

Q9. ゼミに来てほしい学生はどのような学生ですか?

A9. こちらが教えたことを活かすだけでなく,知らないことを教えてくれたり,考えさせられるような質問をする学生です。

基本的にはモチベーションが高い学生が教えやすく,またいろいろ進んで勉強してくれる学生からは教えられることもたくさんあります。入試の面接などをしていると,「心理学専修に入りたいです。モチベーションもあります」というようなアピールをする人がいますが,「心理学についてどんな本を読みましたか?」と聞くと,「まだ読んではいません」という答えが返ってくることがあります。やる気があるというのは,行動を伴って初めて意味をなすのです。なので,単にモチベーションがあるというだけでなく,それが課題や卒論の取り組みに反映されないと意味がありません。

やる気のある学生は,他の先生の授業にどんどん潜ればいいと思います。関大には全国トップクラスの優秀な先生方がたくさんいらっしゃいます。単位のための勉強は本当の勉強ではありません。単位とは関係なく,授業に出させてほしいと頼んで断る先生はそうはいないでしょう。大学院の授業では学部生のオブザーバー参加を公認している授業もあります。私が大学生の頃は,『ニセ学生マニュアル』などの本が出版されていて,著名な先生の面白い講義を聞くには,いつどこに行けばよいなどの情報が手に入りました。いまならそういう情報もネットでかなり調べられるでしょう。授業でなくとも,講演会やシンポジウムなど,学ぶ機会はたくさんあります。やる気のある学生というのは,そういうところを自分で探して自発的に勉強する学生のことです。

ちなみに,学部生の頃から,自主的に「○○研究会」を作って,仲間同士でより専門的な勉強をしている学生もいます。なかには,多くの研究者が知らないような最先端の学問を勉強し,その成果を本にまとめて出版する人たちもいます。なかでも,『複雑系入門』は秀逸です。これを読んだとき,その完成度の高さにショックを受け,自分も「学部生のときに,なんでもっと勉強をしなかったのか」と大変後悔しました(今でもしています)。とくに,進学を考えている人は,学内外を問わず,そのような研究会に積極的に参加したり,あるいは自分たちで研究会を作ったりして勉強するとよいです。なんだかんだで,学部生の頃が一番時間があります。その後は,時間は減っていくのみです。


Q10. ゼミに来てほしくない学生はどのような学生ですか?

A10. 無断で遅刻・欠席したり,課題を出さない学生は困ります。

他のゼミもそうだと思いますが,本ゼミでは講義は行わず,発表やディスカッションなどがメインになります。たとえば,ある書籍を輪読する場合,各人に1章ずつ割り当て,それを他のゼミ生にわかるようにレジュメ1~2枚にまとめて,発表してもらいます。ある週に,第1章から第3章まで進みたいときに,第2章に割り当てられている人が欠席すると,そこで輪読が滞ることになります。出席しない学生,とくにドタキャンする学生は一番困るので,そういう学生には来てほしくありません。なお,輪読については,「その他編」のQ2で解説しています。

もちろん,体調不良で大学に来ることができない場合もあれば,就職活動や,人によっては,部活やサークル活動の行事を優先して休む場合もあります。いずれの場合も,本人の意志に任せていますが,あらかじめ連絡をするように言っています。欠席する日が,発表の順番に当たっているときでも,他の人に代理をお願いするなり,順番を入れ替えてもらうなり,自主的に判断してもらっています。


Q11. 菅村ゼミは人気で倍率が高く,希望しても入れないという噂は本当ですか?

A11. ウソです。年度にかかわらず,ほとんどの希望者は入れます。ここ数年は,選抜すら行っていません。

第1希望者が全員は入れないという年度も,これまで何回かありましたが,それでも,平均点をかなり下回っていなければ,本ゼミに入れています。人並み以上の成績を修めても入れないというケースは,他の先生方のゼミではこれまでにありますが,本ゼミではありません。


Q12. 進学をする人だけが行くゼミだと聞きましたが,本当ですか?

A12. ウソです。

たしかに毎年のように,大学院への進学希望者はいますが,ほとんどは一般企業,公務員などを希望しています。卒業後は,専門学校へ行ったり,留学したり,就職したり,できなかったり,公務員試験の準備をしたり,さまざまです。

ゼミの課題や卒論で求めるレベルは,進学希望者ではなく,残りのほとんどの人たちに合わせています。進学希望者は,各自で勉強するなり,大学院の授業にオブザーバー参加するなど,プラスαのことをやっています。

ただし,本ゼミでは,大学院に進学した際に,学会発表できるクオリティの卒業論文になるように指導しているつもりです。


Q13. 留学生は取らないと聞きましたが,本当ですか?

A13. ウソです。

どこからそういう情報が流れたのか,さっぱりわかりません。私自身も留学経験があるので,留学生の苦労はよくわかります。


Q14. 英語ができないと困りますか?

A14. 全然話せなくてもよいですが,まったく読めないと困ることもあるでしょう。が,これは,本ゼミに限ったことではなく,心理学専修のほとんどのゼミに当てはまります。とはいえ,毎年,学生は口を揃えて「英語は苦手」と言っています。

研究テーマによっては英語を読む必要があまりないジャンルも稀にありますが,心理学は英語の資料が多いので,いずれにしても英語もできるに越したことありません。ゼミがどこであれ,卒論の準備をしたり,執筆するにあたっても,英語の論文を読む必要は,多かれ少なかれ出てくるでしょう。心理学全体からすると,邦語文献はごく一部にすぎません。なので,英語はできるほうが明らかに有利です。苦手な人でも,辞書を使って読めばよいわけですが,単語の意味はわかっても文法が取れないと文章の意味がわからないので,英語の不得意な人は高校のときの文法書などで復習しておくことをお薦めします。

実は私も英語嫌いで,大学に入学したら英語はもう勉強しなくていいと思って,使っていた辞書などすべて捨ててしまいました。大学で英語の授業が必修だとは知らなかったんです・・・。大学1,2年の頃は英語が嫌で,受験勉強で身につけた英語も忘れてしまいましたが,3年生になって英語論文を否応なく読まされてくるうちに,嫌でも読むようになってきました。内容に興味があれば,形式(言葉の違い)はあまり問題になりません。ただ,英語は今でも嫌いなことに違いはないので,興味のあるもの以外は一切読みませんし,必要に迫られてもまず英語をしゃべることはありません。

英語に慣れるためには,自分の興味があるテーマを読むのがよいです。ただし,新聞や小説,コミックは,独特な言い回しや口語や俗語がたくさんが使われているので,お薦めしません。ブログもだめです。科学的な内容の本や心理学の概説書などがいいでしょう。関大の図書館の蔵書数は西日本の私立で一番多いので,読みやすそうな本を探してみたらいいでしょう。amazon.co.jpなどでも,洋書の取り扱いをしていて,心理学の入門書もたくさんあります。amazonでは,洋書は中身を何ページが読むことができるものが多いので,パラパラみてみると,ほしいものが見つかるかもしれません。英語が苦手な場合は,「大学院編」のQ&Aも参考にしてください。

Q15. ゼミに入る前に読んでおくべき心理学の本はありますか?

A15. 読んでおいてほしいと思う本を,いま1冊あげるとすれば,春木豊(2011)動きが心を作る(講談社現代新書)です。もし,心理学についての基本的な知識に不安がある人は,まずは心理学全般の概論書などを読んでください。ある程度の知識がある人は,ゼミに関連した本で読みやすいものを,テーマ別に紹介しますが,すべて読んでおくべきだとは思っていません。興味があるものがあれば,読んでみてください。

心理学書ではないものの,関連が非常に深い著作も含めています。心理学の基本書もあわせて紹介しておきます。関心に応じて,どれかを読んでみることをお薦めします。なお,赤字の文献は,今後ゼミで使おうかと考えているものです。 併せて,こちらも,ご参照ください。

心理学全般

    • 無藤 隆・遠藤由美・玉瀬耕治・森 敏昭(編)(2004)心理学 (Science of Mind and Heart) 有斐閣.

    • 鹿取廣人・杉本敏夫・鳥居修晃(編)(2008)心理学[第3版] 東京大学出版会.

    • 中島義明・箱田裕司・繁桝算男(編)(2005)新・心理学の基礎知識 有斐閣.

    • 内田一成(監訳)(2005)第14版ヒルガードの心理学 ブレーン出版.

    • Hergenhahm, B. R. (2001). An introduction to the history of psychology (4th ed.). California: Wadsworth/Thomson Learning.

    • 梶川達也(監訳)(2007)心理学を変えた40の研究 ピアソン・エデュケーション.

臨床

    • Corsini, R.J., & Wedding, D. (2008). Current psychotherapies (8th ed.). Belmont, CA: Thomson.

身体

    • 春木 豊(編)(2002)身体心理学:姿勢・表情などからの心へのアプローチ 川島書店.

    • 山口 創(2002)からだとこころのコリをほぐそう:身体心理学入門 川島書店.

    • 多田道太郎(1978)しぐさの日本文化 角川書店.

    • 鷲田清一(1998)悲鳴をあげる身体 PHP研究所.

  • コーネリアス,R.(1999)感情の科学 誠信書房.

    • Laird, J. D. (2007). Feelings: The perception of self. New York: Oxford University Press.

  • ジョンソン,M.(1991)心のなかの身体:想像力へのパラダイム転換 紀伊国屋書店.

  • 佐々木 正人(1994)アフォーダンス:新しい認知の理論 岩波書店.

  • 柴田裕之(訳)(2010)共感の時代へ:動物行動学が教えてくれること

文化

  • ニスベット,R. (2004)木を見る西洋人 森を見る東洋人 ダイヤモンド社.

    • ベネディクト,R. (1963)菊と刀菊と刀:日本文化の型 講談社学術文庫.

    • 和辻哲郎(1979)風土:人間学的考察 岩波文庫.

  • 高野陽太郎(2008)「集団主義」という錯覚:日本人論の思い違いとその由来 新曜社.

  • マツモト,D.・工藤力(1996)日本人の感情世界:ミステリアスな文化の謎を解く 誠信書房.

その他の役立つ本

    • 浅井邦二(監訳)(1999)心理学実験計画入門(改訂版) 学芸社.

    • 心理学マニュアル(いくつかシリーズがあります) 北大路書房.

    • フィンドレイ,B. (1996)心理学 実験・研究レポートの書き方:学生のための初歩から卒論まで 北大路書房.

    • 心理尺度ファイル(垣内出版)

    • 心理測定尺度集 第1~4巻(サイエンス社)

    • 対人社会心理学 重要研究集(誠信書房)

    • 心理学辞典(有斐閣)

    • 心理学総合事典(朝倉書店)

    • 心理臨床大辞典 改訂版(培風館)

他にも思いついたら,随時,アップしていきます。


Q16. ゼミ見学はできますか?

A16. 本ゼミの場合は,日にもよりますが,できます。

事前に許可を取るという条件で,本ゼミ(菅村担当の心理学専修ゼミ3・4・5・6)の見学は,随時,認めます。他のゼミについては,その担当教員に問い合わせてください。


Q17. 卒論のテーマ選びや指導方法について教えてください。

A17. 卒論レベルであれば,自由に決めてもらって構いませんが,研究室のテーマに沿っているほうが質の高い指導ができると思います。

担当者の専門に近ければ近いほど,より質の高い指導が可能ですが,各自が卒論で取り上げるテーマを無理に本ゼミ担当者の専門に無理に合わせる必要はありません。各自が主体的にテーマを決めて研究に取り組むことを最も尊重します。3年次ゼミで取り扱うテーマは,あくまで学生の関心の幅を広げるために提供するものであり,むしろそこで学んだ研究の方法や物事の見方を使って,各自が興味のあるトピックを深め,卒論につなげられればよい,と考えています。

就職・進学にかかわらず,学会で発表しても恥ずかしくないレベルの卒論を目指してください(就職する人はもちろん学会で発表する必要はないですが,してもよいし,実際にしている人も少なくありません)。ちなみに,私が学生だったときは,指導教員から「就職・進学にかかわらず,最低でも学会誌に載せられるレベルでないと単位はやらん」と言われました。本ゼミでは,これに比べるとハードルを下げていますが,進学したい人はぜひ学会誌レベルを目指してください。




大学院編


Q1. 大学院のゼミは,どういうテーマですか?

A1. 2019年度は,身体心理学(embodied psychology)や構成主義(constructivism)をテーマにしています。

身体心理学については,上記の推薦書を参考にしてください。構成主義心理学とは,一言でいえば,構成主義の心理学のことです。「の」の部分をもう少し具体的にいうと,構成主義「に基づく」心理学や,構成主義「から展開する」心理学という意味です。「心理学」の定義は,学部の授業で聞いてください。他方,構成主義については,こちらをご参照ください。なお,ヴントやティチェナーの立場が,構成主義心理学と呼ばれることがありますが,あれは"structural psychology"で,ここでいう構成主義心理学とは異なります。

2011年度は,構成主義の理論的な背景や個別の研究よりも,方法論的な展開(Kelly, G. A.など)について,春学期に文献講読し,秋学期はembodied cognitionやからだ言葉について,ディスカッションをしました。

2012年度も,身体化認知について取り上げましたが,主に実験計画の立案や論文執筆の指導に時間を取りました。

また,構成主義の実践として,身体教育,マインドフルネス瞑想,コンテプラティブ・プラクティスについても,随時,取り上げています。


Q2. 大学院に進む人とは,どういう人ですか?

A2. もっと勉強したい人です。

大学院の敷居がどんどん低くなってきている感はありますが,基本的には,大学を卒業しても,もっと勉強したい,研究したいと思う人が進学している,と思います。私の学部自体の恩師の一人である上里一郎先生は,「院生とは,寝る時間も食べる時間も惜しんで,一日中研究に没頭しているような人種だ」とか,「数学者の○○先生が院生だったときは,数式を見たらよだれが出ると言っていた」とか,おっしゃっていました。またその後の恩師の春木豊先生には,私が修士課程に進学したい,そして博士課程にも進みたいと思っていることを相談したとき,こういうことを言われました。「博士課程に行っても,研究職に就くのは本当に難しい。何年も就職はできないかもしれないし,あるいは一生,研究職には就けないかもしれない。ホームレスになって,路面の段ボールのなかで生活するようになってもいいか? そして,段ボールの中でさえ,本を手に取るか?それでも研究したいと思うか? そういうふうに思えるのであれば,進学しなさい」と。

その後,私は大学院に進み,紆余曲折を経て,今に至りますが,上里先生や春木先生が言われたほどの覚悟の決まった院生は,自分も含めて,いたかどうかはわかりません。しかし,寝るのも食べるのも忘れて研究するくらいは,たいていの院生なら,何度も経験あることでしょう。卒論をやっていても,一度くらいはそういう「事態」になるでしょうが,院生の場合,必ずしも時間に追われて,そういう事態に「陥る」わけではない,というところがポイントです。大学院に進学する人とは,研究を通してわくわくするような興奮を感じたり,幸福感・恍惚感を感じるような,気持ち悪い人のことだと思います。

というのは,半分本当で半分真実ですが,多くの人のイメージと違って,大学院に進学する人は,学部のときに,優秀な成績を修めているわけではありません。研究というのは,自分が興味を持った一点に深く突き進むようなところがありますので,すべての科目で良い成績を取っていた人は,実は少ないように思います(もちろん,学部で総代になり,修士課程に進学する成績優秀な人もたまにいます。が,そういう人でも,博士課程に進んで研究者になったりはすることは稀です)。むしろ,講義が面白くなければ,それが必修でも,授業に出ずに,図書館で本を読んだりしていた人が,自分の周りにも多かったです。優秀な研究者なのに,留年した人さえいます。

ちなみに,私も,必修科目でも出席しなかったり,別の本を読んだりもしていました。好きな授業でも,ノートを取らずに,聞くだけ聞いて,別の本を読んでいることもありました。ノートを取らなかったのは,書くと安心して,それだけで覚えた気になってしまうので,いっそのことノートを取らずに不安になり,その場で覚えてしまおうと考えたからです。大学生の頃は,講義を聞きながら本を読んで,しかも講義の内容も覚えられた気がしていましたが,学生時代に講義で聴いたことをいま自分の講義で話そうとすると,知識がどうもあやふやになっているところあり,やはりちゃんとノートを取っておけばよかった,と思っています。今では,年のせいか,講義をしながら読書をすることもできなくなったばかりか,先週,何の講義をしたのかさえ,さっぱり覚えていません。


Q3. 大学院生や研究者はいつもよだれを垂らしているのですか?

A3. そういう人は見たことがありません。

上の回答を読んでのご質問でしょうが,ちゃんと読めばわかると思いますが,そういう意味ではありません(一部の共感覚者です)。が,この質問には大事なポイントが含まれるので,A2への補足の意味を込めて,回答しておきます。それは,研究活動がつねに楽しいという訳ではないという点です。

もちろん,先行研究を読んでわくわくしたり,自分の研究の分析結果に歓喜したり,論文を書いていて,次々と考えがまとまり,筆が止まらなくなったりすることはあるでしょうが,その一方で,論文をたくさん読むのに骨を折ったり,自分の研究でも,分析結果の解釈に苦心したり,それを論文にまとめるときに産みの苦しみを味わったりすることも多々あると思います。

おそらく,どのような職種であっても,そのような苦労は付きものなのではないでしょうか。どれほど好きであっても,苦労がなければ,それを乗り越えた喜びは味わえません。職種や才能によっては,苦労が一切なく,すべてが喜びだという人もいるかもしれませんが,それはおそらく相当な稀なケースでしょう(研究職ではまずあり得ないように思います。後から振り返ってみて,あの苦労も楽しかった,と思うことはあるでしょうが)。

研究職と同じ執筆業である,マンガ家を例にとってみましょう。たとえば,藤子・F・不二雄氏と藤子不二雄Ⓐ氏は,日本を代表するマンガ家ですが,Ⓐ氏の著書『まんが道』には,マンガを描くことの喜びと同時に,アイデアが思いつかないときの苦しみや,毎日描き続けることの苦労や,締切に追われるつらさなどが,ありありと描かれています。どんなに好きなことであっても,また天才のなかでも天才と言われるような人であっても,苦しみはつきものなのです。院生や研究者が,苦労するのは当たり前のことです。

私は小学生の頃に何となしに『まんが道』を途中まで読み,大学教員になってすべて読破しましたが,大学生のときに読めばよかった,とつくづく思いました。いろいろな意味でそう思いました。本書を特に大学生と院生に強くお薦めします(多くの中高生には早い気がします)。


Q4. 自分は将来、院に進もうと考えております。心理学の勉強と、もっとも苦手な英語の勉強を兼ねてヒルガードの心理学の原本の和訳を行っているところです。しかし、本当に英語が苦手なのです。実際に和訳してみると基本的な英単語も分からない始末。 英語の勉強は独立してやったほうがよいのでしょうか? ヒルガードの心理学に頻出する英単語(専門用語も含む)が、院試や論文を読む際に十分なのかどうか、その辺りもお聞かせ願えないでしょうか?

A4. 英語のどの部分が苦手かによります。

英語力は,読解力(文法,単語),英作文,リスニング,スピーキングなどのスキルに分かれます。英語が苦手という場合,どの部分が苦手なのか,また英語を勉強したいという場合,どの部分を伸ばしたいのかを明確にする必要があります。

全般的に苦手ならば,英語の勉強は独立してやったほうがよいでしょう。心理学書を読む手もありますが,ある程度,英語力を身につけてからがよいです。なぜなら,心理学書の場合,知識がある部分については,文法的な理解に基づかず,知識から類推して理解してしまうからです。また,自分に足りない英語のスキルがどこかがわからないため,英語を効率よく学べません。大学院を考えているならば,当面は文法(構文)をマスターし,単語力をあげることが課題になるでしょう。

これについては,高校生向けの参考書を使う手もありますが,モチベーションの維持も難しいので,何らかの英語の検定試験を使うのがよいです。TOEICでもよいですが,アカデミックではないので,TOEFLなどを使って,特に苦手な箇所を明確にするのがよいでしょう。参考書は,TOEFLのもの,それが難しければ,大学受験用のものを使うのがよいです。TOEFLなどを定期的に受験するようにすれば,自分の英語力のアセスメントと,改善のモニタリングができ,強化子にもなります。

得点の目安としては,TOEFLならば,PBTの場合,少なくとも550点,iBTの場合,80点を当面の目標にしてください。英検やTOEICは受けたことがないので,いまいちわかりませんが,あるサイトによると,このTOEFLの点数から換算すると,英検ならば準1級,TOEICならば740点に相当するようです(問題が異なるのであくまで目安です)。このレベルの英語力だと,面接官には「英語はちょっと苦手な人かな?」という印象を与えるでしょうが,日本の大学院には東大も含めて合格できるレベルです(英語力が問題で不合格になることはまずない,という意味です。この得点の英語力があり,不合格になったとすれば,専門科目の知識が足りないか,研究計画が拙いか無理があるか,面接の印象が悪いか,などによるでしょう)。

上で,「少なくとも」とか「当面の」という表現をなぜしているかというと,TOEFL PBTの550点(iBT 80点)というのは,学部留学で求められる最低点だからです。大学院レベルだと,600点(iBT 100点)を基準にしているところがほとんどです。この得点は,TOEICならば850または900点以上,英検では1級が目安になります。研究者のなかには,TOEFL650点以上の人や,TOEIC950点以上の人もいますが,とりあえず,TOEFL550点をクリアしたら,英語力をさらに上げるよりも,それは維持したまま,心理学の基礎力をつける勉強をしたほうがよいと思います。

ヒルガードの心理学』は,アメリカでは学部生用の入門書です。ということは,TOEFL550点あれば読めるはずなので,その得点をクリアしたら,こういう類の教科書を読みながら,心理学の基礎力をつけるとともに,英語力もつけていけるでしょう。

なお,心理学に頻出する英単語については,下記のQ5をご覧ください。


Q5. 心理学の専門用語の英語を勉強するためのお薦めの本はありますか?

A5. GRE PsychologyやAP Psychologyの問題集や参考書をお薦めします。

たしかに,英語で書かれた心理学の教科書(たとえば,Atkinson & Hilgard's Introduction to Psychology)を読むという手も有効だと思います。しかし,現代の心理学は幅広く,心理学の概論書・入門書で扱われる内容は,著者なりの心理学観や好みによるところが少なくなく,基本的な心理学用語を英語で学ぶには,あまり効率がよいようには思えません。もちろん,時間があるならば,こういった本を読めば,英語力が鍛えられ,知識も身につくので,一挙両得だと思いますが。

一方で,『学術用語集:心理学編』などの単語集で,邦語と英語の対応を覚えていくという手もあります。これは一見効率的のようですが,心理学の知識がなければ,単なる暗記になってしまい,また単語の使用法もわからないので,あまり勉強にはならないように思います。さらに,アルファベット順に並んでいるため,重要な用語とマイナーな用語の区別ができないので,心理学の頻出用語を効率的に学ぶには適していません。この本は,むしろ,心理学を学ぶ際や英語で論文を執筆する際に,原語を知りたくなったときに参照するためのものでしょう。

その点,GREやAPの心理学の問題集は,基本的な分野がほぼ押さえられており,単語も文章のなかで出てくることが多いため,効率よく勉強できます。何より,問題形式になっているため,心理学の復習にもなり,知らない分野を明確にして,そこを重点的に勉強するという使い方もでき,何かと利用価値が高いようにと思います)。

GREとは,北米の大学院に進学する際に使われる共通試験である,Graduate Record Examinationの略称です。GREは,一般科目(国語・数学・小論文)と8つの専門科目からなります。専門科目の1つに心理学があり,心理系の大学院に進学する場合には,一般科目に加えて,専門科目が課されます(大学によっては課されない場合もあります)。GRE Psychologyの例題はこちらから見ることができますが,参考書も毎年いくつか出ています。

AP Psychologyとは,Advanced Placement Psychologyのことで,大学レベルの心理学の修得を証明する試験内容になっています。参考書も評価の高いものが出ています。評価や中身は,こちらに書いてあります。

そもそも,同僚の串崎先生が,社会人・留学生の院生向けの授業に関して,心理学全般の復習に使える教科書として,AP Psychologyはどうだろう,と話されていて,APだけでなく,GREのPsychologyも,学部生や院生向けによいのではないか,と思い,ここに紹介しました。

本ではないですが,心理学の分野やトピックくらいは,最低でも,英語から日本語,日本語から英語にできるようにしておいてください。


2019.11.14.追記

英語の勉強も兼ねられる心理学関係のサイト


Q6. 関大の心理学研究科の心理臨床学専攻と心理学専攻とで迷っているのですが・・・?

A6. 前者は臨床の実践に重きがあり,後者は研究を進めるところです(私は後者の所属です)。前者は,公認心理師の取得を目指す人向けです。後者は,修了しても,公認心理師や臨床心理士の受験できません。他にも,学費や必要単位数,就職先など違いますが,それは大学院のパンフレットなどを参考にしてください。

この質問に関連して,よく適性の違いを聞かれることがあります。まず,心理臨床学専攻に進む人の適性についてお答えします。近年の研究では,セラピストのパーソナリティも,治療効果を説明する重要な要因の1つだと言われていますが,セラピストに向いているかどうかは,私の方からは言えませんし,わかりません。セラピストになる適性に関して,自己理解ができていることなどはよく指摘されますが,ここでは,あまり言われない点のみ記しておきます。

1つは,IQが一定以上(たとえば,少なくとも105以上)であることです。これは岡村達也先生もおっしゃられていました。治療関係では,情緒的なつながりがよく強調されますが,それはセラピストに要求される,相手の話を理解するという知的な側面が,指摘するまでもないくらい当たり前すぎるからです。クライエント以上のボキャブラリーがなければ,意味を追うこともできませんし,クライエントの知的レベルが,セラピストのそれを圧倒する場合,話を理解することすらできないかもしれません。知的レベルの要件は,ほとんど強調されることはありませんが,臨床の前提と言ってよいほど,当然,求められるべきものなのです。

もう1つは,いわゆる勉強好きであることです。正確にいえば,勉強を好きでなくてもよいですが,臨床に関する知見を,好む好まざるにかかわらず,どんどん学び,知識を更新していく人です。何らかの問題を抱えるクライエントを相手にして仕事をする以上,責任が生じます。セラピストのある言葉に傷ついたクライエントが,目の前で,窓から飛び降りたという話があります。日本臨床心理士資格認定協会も言っているように,心理臨床の仕事は,相手の「生命・身体・人生・生活の根幹に関わる」なので,高い専門性と厳しい倫理観が求められます。ある問題に対して,ベターなアプローチが出てくることもあれば,かつては良しとされたアプローチが,今では危険とされることもあります。以前はほとんどなかった症例が,時代の趨勢によって,急増することもあれば,同じカテゴリーの診断であっても,その臨床像が異なってくることもあります。世の中の動きに応じて,知識を更新したり,また深めたりする努力をせずに,臨床実践を行うのは,無責任であり,危険だと思います。

その点,臨床職を目指さない大学院進学者は,気楽なものです。好きな研究テーマに没頭していればよいだけです。本ゼミの場合,教職や図書館司書などの資格をもって進学する人や,心理職の公務員を目指して勉強する人などいますが,博士前期課程を修了後,どういうふうな未来が待っているかは,本人の努力と社会情勢と運次第でしょう。研究職を志望して,博士後期課程に進学する場合は,後に,荊の道が待ち受けていることを覚悟しなければなりません。自分の専門に合った数少ない公募に応募して,採用される確率は,0.5〜3パーセント程度です(本ページの一番下の「博士後期課程進学希望者について」欄に追記しました)。


Q7. 臨床心理士の資格の意味がなくなるという噂は本当ですか?

A7. どれほど先かはわかりませんが,将来的に,「本当」になる可能性もあれば,「嘘」になる可能性もあります。

下記の回答は,2011年7月に書いたものです。資格の問題については,最新情報を調べてください。

現在,心理臨床の資格として,臨床心理士が最もポピュラーですが,これは,財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する資格であり,国家資格ではありません。これに対して,反発も含め,これまでにいろいろな動きがありました。2011年7月現在,臨床心理職国家資格推進連絡協議会,医療心理師国家資格制度推進協議会,日本心理学諸学会連合の三団体で,仮称「心理師」を国家資格にするという要望がまとまっています。

その内容は,医療・保健,福祉,教育・発達,司法・矯正,産業などの実践領域において,心理学の成果にもとづき,アセスメント,心理的支援,心理相談,心理療法,問題解決,地域支援等を行ない,また国民の心理的健康の保持及び増進を目的とした予防並びに教育に関する業務を行なうものとなっています。これは,従来の臨床心理士の業務内容とほぼ重複します。異なるのは,「医療提供施設においては医師の指示を受ける」と明記されている点です。これには異論も多いですが,ここではそれに触れません。

受験資格ですが,(1)学部で心理学を修めて卒業し,大学院修士課程ないし大学院専門職学位課程で業務内容に関わる心理学関連科目等を修め修了した者,(2)学部で心理学を修めて卒業し,業務内容に関わる施設において数年間の実務経験をした者,とされています。したがって,現在の臨床心理士のように,指定大学院や臨床専門職大学院を修了することが,受験の要件ではなくなります。

心理師が国家資格になれば,当然,心理臨床には必須の資格になっていくことでしょう。そうしたときに,臨床心理士の資格がどうなるかといえば,心理師の上位の資格になるという話もありますが,はたして,どうでしょうか。試験や資格維持のための研修の内容にもよるでしょうが,これほど業務内容が重複すると,資格の共存は難しいかもしれません。

なお,心理師という名称ですが,英語のpsychologistから来ているのでしょう。アメリカでは,psychologistというと,法的には,心理学者ではなく,心理療法家,セラピストを指すようになっているからです。ちなみに,臨床心理士の「士」は男性を意味することから,そういうニュアンスを含まない「師」という字を使っているようです。医師,看護師,薬剤師などもそうですね。ほかにも,手品師や詐欺師もそうです。

個人的には,「士」や「師」ではなく,「人」にしてほしかったところです。「必殺仕事人」みたいに,「必殺心理人」とか(殺してどうする)。でも,あえて,「人」を「びと」と読ませるのもいいですね。「しんりびと」・・・。なんだか「おくりびと」みたいですね(送ってどうする,と突っ込まれるかもしれませんが,ホスピスなんかでの仕事は,ある意味,おくりびとですね,映画観ていませんが)。いや,「海人」のように,「んちゅ」(?)と読ませるほうがいいかもしれません。「心人」で「こころんちゅ」とか。その響きだけで,癒やされるかもしれません。

というのは,冗談半分(本気半分)ですが,国家資格の一覧を見てみたら,「士」や「師」だけでなく,「者」「手」「-ist」「官」など,いろいろありますね。あ,「人」もありました。「水先人」・・・。

というわけで,この質問は,わりと微妙な問題も含みますので,明確な回答はしないままにしておきます。どうぞ悪しからず。


Q8. 心理臨床系の大学院に進みたいのですが,おすすめの本はありますか?

A8. 手当たり次第読んで,自分なりにベストの本を見つけてほしいところですが,院試や資格試験に役立ちそうなものを中心に,いくつか挙げておきます。ただし,院試や資格取得のための勉強になってはいけません。むしろ,そうでない本をたくさん読むべきですが(下記の『臨床心理の問題群』は,勉強のためにというよりも,問題意識をもつために特におすすめします)・・・。

    • 伊藤義美(編)(2008)現代臨床心理学 ナカニシヤ出版.

    • 氏原 寛 ほか(編)(2004)心理臨床大事典 改訂版 培風館.

    • 加藤 敏ほか(編)(2011)現代精神医学事典 弘文堂.

    • 日本心理臨床学会(編)(2011)心理臨床学事典 丸善出版.

    • 上里一郎(監修)(2001) 心理アセスメントハンドブック第2版 西村書店.

    • 岡村達也(編)(2002)臨床心理の問題群 批評社.(2012年度の「臨床心理学a」の教科書に指定)

    • 丹野義彦ほか(編)(2015)臨床心理学 有斐閣.


Q9. 内部や外部の大学院に進学するときに,注意しなければならないことはありますか?

A9. いっぱいあります。

大学院に進学する場合,願書を出す前に(できるだけ早く),担当の指導教員に相談してください。卒論指導と同じ教員であれば,相談もしやすいですが,そうでない場合(他大学でも同大学でも)は,前もってメールなどでアポイントメントを取ってから,挨拶に伺い,自分が研究したいテーマや具体的な研究計画を話し,その先生が指導できる内容かどうか,また何よりも受け入れてもらえそうか,確認してください(指導教員制度ではない大学院もなかにはあるので,それはその大学院によく確認してください)。

つまり,学生の側からすると,

    • その先生のもとで自分が行いたい研究ができそうか?

    • 適切な指導をしてもらえそうか?

    • その先生とはうまくやっていけそうか? 尊敬できるか? 人間としてどうか?

    • 他の院生ともうまくやっていけそうか?

などを確認した方がよいでしょう。逆に,教員の側からすると,

    • その学生の研究テーマは自分の専門とマッチしているか?

    • モチベーションは十分か?

    • 基礎学力は十分か?

    • 研究計画は実行できる内容か?

などを知る必要があります。もちろん,評価の対象にはなりませんが,言葉遣いやマナー(メールも含めて)などでも,印象が変わってくるものです。院試の面接という限られた時間のなかのみでは,上記のことが判断できかねるため,前もって時間をとって話を聞いておくことが望ましいというわけです。

なお,関西大学の心理学研究科の学内進学者の試験は,面接のみとなっていますが,面接の中で,心理学の基礎知識があるかどうか,英語力があるかどうか,学部の成績(とくに心理学関連科目)などを確認します。専門知識については,研究計画に関連するところを聞くことはもちろんですが,関連しない心理学用語や方法論についても聞いたりします。

英語力については,面接中に英文を訳させたり,英語で質問をする,などといったやり方もあります(リスニングやスピーキングを重視することはまずありませんが,文法力や単語力を見るためです)。英文を訳させる場合は,辞書を使用できませんので,単語力をつけておくに越したことはありません。最低でも大学入試レベルの単語は,少なくとも英語から日本語にはできるようにしておいてください。

また,心理学関連講義の取得単位数が少ないと,心理学への興味や勉強のモチベーションを疑われることになるので,大学院で心理学のより専門的な勉強をしたいと考えるのであれば,多くの心理学関連科目を取っておくほうが賢明です。

大学院以降では,勉強(=input)も大事ですが,自分で研究を進めるなり,温めるなりして,公表(=output)もしていかなければなりません。とくに,学会発表と学術雑誌への論文掲載が非常に重要になってきます。


関連サイト(書かれている内容についての正否は保証しかねます):


博士後期課程進学希望者について

私も博士後期課程(以下:博士課程)の学生を受け入れています。博士課程では,日本学術振興会(以下:学振)の特別研究員(DC1)という制度を利用するに越したことがありません(学振は文部科学省所管の独立行政法人で,学術研究の助成などを行っている団体です)。とはいっても,誰でも利用できるものではなく,競争を勝ち抜く必要があります。近年の採用状況を見ると,採用率は20〜30%程度と比較的高めという印象ですが,申請しても採用されないと考えて,そもそも出さない人が圧倒的多数だということを考慮すると,潜在的な競争率は,数十倍になるでしょう。

なぜそのような倍率になるほどの人気かというと,DC1に採用されると,月に約20万円の支給と年に最大で150万円の研究費が,3年間もらえます。貸与ではありません。よって,DC1には,1000万円以上の価値があることになります。もちろん,経済的な価値だけでなく,研究者を目指すならば,職歴として認められることもあり,一種のステータスにもなっています。

DC1として採用されるためには,書類審査と面接に合格する必要があります(書類の内容がよければ,面接はなしで,採用が決まることもあります)。そこでは,主に「これまでの研究業績」と「これからの研究計画」の2つが評価されます。博士課程で行う研究に対して,国がお金を払うわけなので,研究計画が評価の対象になるのは当然ですが,将来性を知るための指標として役立つのが研究業績です。つまり,DC1をとるためには,研究業績(学会発表,論文・書籍の公刊など)を増やし,今後の研究を綿密に計画する必要があります。

しかし,ここで非常に重要になってくるのが,学振に申請する時期です。DC1への申請は,通常であれば,M2の5月くらいです(大学によって学内の締切日が違います)。ということは,M2の5月の時点で,一定以上の研究業績があり,博士課程での具体的な研究計画を立てておく必要があります。これがなかなか難しいので,そもそも申請する(できる)人が少なくなります。とはいえ,これは雲をつかむような話では決してなく,研究業績と研究計画の中身について,ある程度の基準があり,その基準を満たすことは,準備さえ怠らず,研究に時間をかければ,技術上はそれほど難しいことではありません。応相談。

一般企業などの場合,学部卒よりも修士卒のほうが不利になり,博士課程まで進むとさらに不利になります。企業側は,若いうちにトレーニングをして,即戦力にしようと考えますし,年齢に応じて基本給が決まる場合も多く,新卒が有利になるのは無理もありません。大学院を出て学部卒よりも有利になるのは,より専門が活かせる研究職(専門によっては臨床職)です。それでも,大学院を出さえすれば有利になるというわけではなく,そもそも募集枠がかなり少ないため,他のライバルと比べて,優れた業績をあげる必要があります。

とくに,常勤の大学教員は非常に狭き門です。研究業績はもちろん,教育のスキルや人柄も関係します。何よりも,自分の研究領域に合致した公募がなければ,応募すらできません。専門領域によっては,1年を通して,自分が応募できる公募が1つもないということもあり得ます。わりとニーズのある領域でも,年に数本あればよいくらいです。

しかし,人気の領域は志望者も多いこともあり,首都圏では,有名ではない大学でも,公募内容によっては,1名の枠に200名を超える応募があることも珍しくないそうです。地方の大学でも少なくとも10倍から数十倍になることがほとんどでしょう。

学部の就活とは大きく異なり,大学教員志望の場合,ライバルがほとんど同学年の相手というわけにはいきません。助教や講師の募集であったとしても,同領域と近接領域の27〜35歳くらいまでの人が殺到します。学年が10くらい上までの先輩がすべてライバルになります。しかも,当然,出身大学だけではなく,全国の大学の「先輩」が相手です(これは学部生の就活も同じ)。なかには,学振を取ったり,学会賞を取ったりしている人も何人もいるでしょう。そういう人たちと競い合って,まずは書類審査に合格し,そして面接に臨み,最後の一人に選ばれなければならないのです。2位ではダメなのです。

結論:博士課程への進学希望者は,学振くらいは取るという勢いと覚悟で臨んでください。


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その他編


Q1. なぜ心理学者になろうと思ったのですか?

A1. なんとなくなった,と最近まで思っていましたが,よくよく過去を振り返ったところ,幼稚園のころに,「なんでぼくは○○君ではなくて,この家に生まれたんだろう?」という疑問から,自己意識に関心をもったことが最初のきっかけかもしれません。

これはよく聞かれますが,そのたびに答えに窮します。明確な理由があったわけではないからです。が,その一部は,『エマージェンス人間科学:理論・方法・実践とその間から』で,清水氏へのリプライとして書いていますので,興味のある方は読んでみてください。ただ,個人史であっても,記述された歴史はつねにストーリーメイキングの要素が入ると思いますが(構成主義の主張の1つ)。


Q2. 「輪読」って何ですか?

A2. 同一の文献を,複数人で,順番に読んでいくことです。担当箇所のレジュメを作成して,発表するというスタイルが一般的です。

輪読には,大きく2つあります。1つは,メンバー全員が当該の文献をすでに読んでいることを前提にして,発表では,その文献には書かれていない細かいことや疑問点なども調べて,ディスカッションを行うタイプです。もう1つは,他のメンバーが読んでいないことを前提に,当該の文献の内容のエッセンスを解説するタイプです。本ゼミでは,前者でやることが多いです。

なお,本ゼミでは,輪読の際,発表グループ(3,4名)別に,レジュメを作成してもらっています。研究会などでも輪読をやることがありますが,次のようなレジュメは良いレジュメといえます。

    • 書籍の題目・担当章・担当者が明記されている(前提です)。

    • 節や項ごとに原文のページ数が併記されている(本を参照しやすくて便利です)。

    • 内容のエッセンスがわかるように,簡潔にまとめられている(簡潔すぎれば,その内容がわかりません。逆に,冗長すぎると,本を読むほうが手早いということになります)。

    • 原書にはない表や図があれば,理解の手助けになることもある(原書にある図表は改めてレジュメで作成する必要はありません。xxページ参照という表記で十分です)。

    • 関連用語リストがまとめられている(勉強になります)。

    • 引用されている重要な文献について,+αの解説がある(さらに勉強になります)。

    • 引用されていない,関連文献についても解説がある(さらにさらに勉強になります)。

逆に,悪いレジュメは,以下のようなものです。

    • あまりに言葉足らずで,発表者がレジュメを見ずに,教科書を読まないと,説明できない。

    • 説明なく,割愛されている段落やセクション(見出し)がある。

    • 教科書の内容を部分的にそのまま抜き出しているだけのもの(内容をまとめてこそ,レジュメです。適宜,要約したり,自分の言葉や表現に書き換える「パラフレーズ」も行ってください)。


Q3. 大学の先生は授業のない日は何をしているのですが?

A3. 人さまざまです。by テオプラストス

が,授業だけが仕事ではありません。というよりも,授業が一番の息抜きになってい人も多いのではないかと思います。授業をするには,授業の準備が必要です。1コマ90分としてその10倍の900分(15時間)が最低必要だと言われますが,スライド1枚作るのに,本や論文をたくさん読むので,1ページで数時間かかることもよくあります。

授業以外にも,教授会や学内の委員会などの校務があります。入試があると,入試問題作成や採点があります。いまは大学と大学院で,さまざまな入試形態があり,1年中入試をやっています。

学内の仕事は,入試やオープンキャンパスなどのイベントだけでなく,カリキュラムを見直したり,人事を行ったり,学内の研究費を審査したり,紀要を編集したり,学内の学会を運営したり,自己評価・点検などいろいろあります。大学院生の研究指導は,時間割と関係なく,いつでも入ります。

大学の校務よりも,国内学会や国際学会などの仕事のほうが多いこともよくあります。論文の審査や編集,学会の運営,大会の運営など,無給の仕事が非常に多くあります。

ほかにも,自分の研究のために研究費の申請書を書いたり,報告書を書いたり,実験したり,調査したり,さらに時間を作って,学会発表をしたり,講演をしたり,論文を書いたり,翻訳したり,本を書いたりなども時間が余ればできます。

興味のある方は,『大学教授という仕事』が参考になるでしょう。


Q4. 笑っているところを見たことがないのですが,笑ったりすることはあるんですか?

A4. めっちゃ笑てますやん。