『構造構成主義研究』刊行にあたって

本シリーズを編纂するに至った問題意識

 洋の東西を問わず,学問は日々進歩している。本来,学問は知的好奇心の産物であったため,おもしろそうな話題があれば興味を共有する人の間で適宜交流していけばよかった。しかし,学問の進歩によって専門分化が進み,学問が細分化されるにしたがって,専門分野を少し異にするだけで,他分野の人が何をやっているのか,よくわからないという状況になった。つまり,学問の蛸壺化である。学問の蛸壺化はさらなる細分化を促し,さまざまな分野の知見を関連させて新たなアイディアを生み出していく総合的なアプローチを困難にしてしまった。

 我々の問題意識はまさにそこにある。細分化した専門分野を今一度シャッフルし,狭視化した学問をおもしろくするにはどうしたらよいか。結論からいえば,学問間を縦横無尽に行きかう必要があり,本シリーズはそれを実現するために企画された。しかし,蛸が蛸壺から脱出するのが並たいていではないように,学者が専門分化した分野間の壁を乗り越えるのもまた至難の業である。それゆえ,我々はさしあたり,さまざまな領域をつなぐために体系化された構造構成主義をツールにしようと思う。

 構造構成主義とは,特定の前提に依拠することなく構築された原理論であり,さまざまな分野に適用可能なメタ理論である。現在,この考えはさまざまな学問領域に導入されつつあり,諸分野をつなぐ横断理論として機能しはじめている。

 我々は,構造構成主義を使った個別理論・メタ理論を体系化する論考や,定性的・定量的研究などを歓迎したいと考えているが,必ずしも構造構成主義に固執するつもりはない。そもそも構造構成主義とは,現象をより上手に説明可能とし,難問を解明する構造(理論など)を構成していこうという考えに他ならず,そうしたモチーフに照らしてみれば,優れた領域横断力をもつ理論は何であれ歓迎されるのは当然だからである。

 新たな理論に基づき新しい領域を開拓するという営みは,既存の常識を多少なりとも逸脱することを意味する。つまり,ナイーブな常識的見地からすれば,どこか非常識な主張が含まれるように見えるものだ。我が国の学界ではそうしたラディカルな議論を展開する論文は掲載されにくいという事情がある。特に,それが理論論文であれば,内容を適切に評価し,掲載してくれる学術誌はほとんどない。学問界(特に人文・社会科学系)は常識的な暗黙の規範を保守しようとする傾向を不可避に孕むため,仕方がないといえばそれまでだが,そうした態度からは新たな学問領域が育つことはないだろう。

本シリーズの編集方針

 こうした現状を踏まえると,構造構成主義を,ひいては学問を総合的に発展させるためには,独自のステーションとなる媒体を作る必要がある。それゆえ本シリーズでは,次のような研究を歓迎する。たとえば,質的アプローチと量的アプローチのトライアンギュレーションに基づく実証的研究,学際的なメタ理論を用いた領域横断的な論文,異なる理論をつなぎ新たなメタ理論を構築する論文,当該領域の難問を解決する先駆性を有している論文など,他誌に掲載されにくい斬新な試みを積極的に評価する。逆にいえば,従来の学会誌に掲載されている単一アプローチによる実証的研究などは本誌では受けつけていないと考えていただきたい。もちろん,後述するように本シリーズは査読システムを導入するため,論文の質に関してはそれなりのレベルが維持されるはずだ。学問的冒険を志すさまざまな分野の人々が,我々の考えに賛同し本企画に参加して下さるようにお願いしたい。

 本シリーズは,学術「書」であり,学術「誌」であるという極めてユニークなスタンスで編集される。従来,書籍は学術書であっても,「査読」という論文の質をあらかじめチェックする学界システムを採用しないのが常であった。

 それに対し,本企画は,書籍という媒体を使っているものの,投稿された論文を査読するという学会誌のシステムを取り入れる。その点では,学術誌と同等の学問的身分を有する。それと同時に学術書でもあるため,学会員以外の人がアクセスするのが難しい学会誌と比べ,一般読者も簡単に購読することができる。さらに,学会誌では論文の掲載料を支払わなければならないケースも珍しくないが,本シリーズでは掲載された論文の著者に印税(謝礼)を支払う。

 つまり,本シリーズは,学術書と学術誌双方のメリットを兼ね備えた新たな「学術媒体」なのである。そもそも学術書と学術誌をあらかじめ分離することは,学問の細分化を促すことはあれ,分野間の交流促進の益にはならない。新しい思想には新しい媒体が必要だ。

 査読は,論文の意義を最大限評価しつつ,その理路の一貫性や妥当性を建設的に吟味するという方針で行う。しかし,論文の体裁や表現は,必ずしも従来の学術論文のように専門用語で護られた硬いものにすることを求めない。従来の学術論文は,一般人には読みにくく,学問の普及や学知の社会的還元といったことを念頭におけば,従来の形式のみが適切な方法とは必ずしもいえないからだ。たとえば,学問の普及や啓蒙といった目的の元で書かれたならば,学的な厳密さ以上に,わかりやすさ,理解しやすさといったことが重要となるため,そのような観点も加味して評価するのが妥当であろう。

 こうした考えから,本シリーズでは,従来の論文の形式からはずれる書き方も論文の目的に応じて歓迎するつもりである。査読の際には,著者の意図(目的)を尊重したうえで,論文の質を高めるとともに,著者の多様な表現法を活かすようにしたい。もちろん,新たな理論を提示する研究や実証系の研究の場合は,従来の学術論文の形式の方が相応しいことも多いだろうから,そうした形式を排除するということではない。

 構造構成主義は,ア・プリオリに正しい方法はあり得ず,その妥当性は関心や目的と相関的に(応じて)規定されるという考え方をとる。方法が手段である以上,原理的にはそのように考えざるを得ないからだ。本シリーズの査読方針は,この考えを体現したものである。

 また,日本の人文系学術誌では,投稿してから最初の審査結果が返信されるまで半年以上かかることは珍しくなく,時には1年以上かかることもある。それはほとんどの時間放置されているということに他ならない。迅速に査読結果が返却されれば,たとえ掲載拒否(リジェクト)されたとしても他のジャーナルに掲載することも可能だが,返却されない限りはどうしようもない。これは投稿者からすれば迷惑以外の何ものでもないだろう。特に近年は,国立大学の法人化などの影響によって研究者間の競争は激しさを増しており,査読の遅延によって論文を宙釣りにされることは就職や転職,昇進といったポスト争いや,研究費の獲得競争にも関わる深刻な問題である。

 したがって本シリーズでは,論文を受理してから遅くとも1か月以内に投稿論文の審査結果(コメント)をお返しすることをお約束する。ただし,いずれも一定の学的基準を満たしているかを審査させていただくため,必要に応じて大幅な修正を求めることもあれば,掲載に至らない可能性もある点はあらかじめご了承いただきたい。

 通常の学会誌では,投稿者と査読者はお互いに名前がわからないようになっている。少なくとも査読者の名は完全にブラインドされ守られている。つまり自分の名において責任をもたずにすむ査読システムになっているのである。しかし,それでは責任ある建設的な査読は保証されない。したがって本シリーズでは,投稿者に査読者の名前を明かして,お互い名をもつ学者同士真摯にやり取りしていきたいと思う。

 また本シリーズは,従来の学会組織を母体とした学術誌ではないため,投稿論文に対して学会賞などを授与することはない。代わりに,学際性に富んでおり,学知の発展に大きく貢献すると判断した論文の著者に対しては,一冊の本を執筆して頂く機会を提供していきたいと考えている。

本シリーズの構成

 本シリーズはさしあたり3部構成とした。第Ⅰ部は特集であり,これは毎巻独自の特集を組む予定である。
 第Ⅱ部では,特定の問題を解決するなど学知の発展を目指した「研究論文」はもとより,特定の論文に対する意見を提示する「コメント論文」や,理論や方法論の普及や,議論の活性化を目的として専門外の人にも理解しやすいように書かれた「啓蒙論文」,さらには,過去に他の媒体に掲載されたことのある論考を再録する「再録論文」なども歓迎する。
 なお,本シリーズは副題で「構造構成主義研究」を謳っているが,構造構成主義に批判的な論文も掲載する。学知の発展のためには,批判に開かれていることは必須の条件であると考えるためである。
 第Ⅲ部では,構造構成主義に関連する書評を掲載する。これは構造構成主義を題名に含むものや,その著書の一部に引用されている本ばかりではなく,広い意味で構造構成主義と関連すると考えられるものを掲載対象とする。自薦他薦は問わないので,ぜひご投稿いただければ幸いである。

論文投稿について

 読者からの投稿論文は随時受けつけている。投稿規定は巻末に記載したため,投稿する方は参照していただきたい。なお,投稿規定は随時改定するため,投稿される際にはその最新版を以下の構造構成主義公式ホームページにて確認していただけたらと思う。

http://structuralconstructivism.googlepages.com/

 このように本シリーズでは,次世代の学術媒体のモデルとなるべくそのあり方を模索していく。これが新たな試みであるゆえご批判も少なくないと思われる。気がついた点や意見,新たなアイディアなどがあれば,ぜひご一報いただきたい。今後よりよい学術媒体にするための参考にさせていただく所存である。また,本シリーズの試み中で,部分的にでも意義があると思われる箇所があったならば,遠慮なく“いいとこどり”していただければたいへん嬉しい。本書の目的はさしあたって構造構成主義や関連思想の精緻化,発展,普及といったことにあるが,我々の志は学問の発展それ自体にある。したがって本シリーズの試みがそうした資源として活用されたならば本望である。

『構造構成主義研究』編集委員会

西條剛央・京極 真・池田清彦

編集後記

 2007年3月11日に,「わかりあうための思想をわかちあうためのシンポジウム:第1回構造構成主義シンポジウム」が開催された。このシンポジウムの内容を踏まえて,本誌第2号は「信念対立の克服をどう考えるか」という題名にした。それに関連し本誌特集の第1部は,シンポジウムにあわせて公刊された図書新聞における特集記事と,養老孟司氏の特別講演,竹田青嗣・池田清彦・西條剛央の三氏による鼎談,そしてシンポジウムの一般参加者による参加体験記からなる。

 第2部には,8本の論文が掲載されている。冒頭の「刊行にあたって」に明記してあるように,今回「論文の査読結果を投稿から1ヶ月以内にお返しする」という公約は守ることができたが,修正期間が限られていたこともあり2号に修正が間に合わなかったものも少なくなかった。査読は各論考の目的を踏まえた上で,できる限り建設的なコメントを心がけたが,場合によっては100カ所を超えるコメントを付けさせていただくこともあり,厳しいものだったかもしれない。しかし,コメントを踏まえて編集委員の期待を上回る改稿をしていただけたおかげで,珠玉の論文を掲載することができたと考えている。投稿者の皆様に心より感謝申し上げたい。

 第3部には,本誌の方向性に沿った書籍を中心に紹介させていただいた。各著書の「はじめに(まえがき)」にあたる箇所にはその著書のモチーフやエッセンスが詰まっていると考えたため,転載の許可を得て一部修正した上で掲載させていただくことにした。今後も,本誌の方針に沿うものは掲載を検討させていただきたいと考えているので,自薦他薦を問わずご連絡いただければと思う。

 また特集にシンポジウムの参加体験記を掲載したように,3号以降も構造構成主義に関連するシンポジウムや講演などに参加した人の感想などを掲載させていただくことがある。こちらも自薦他薦ともに歓迎したい(今回は特集に含めたが今後は第¥外字(cb43)部に掲載させていただきたいと考えている)。ただし,これは一般読者が読んで有益な読み物になっているかどうか検討させていただくため,論文と同様,必ずしも掲載を約束できるものではないことはご了承いただきたい。

 以下に,論文を査読させていただいて気がついた点をいくつかまとめておくので,投稿を考えている方は参考としていただければと思う。まず本誌は専門分野の垣根を越えた学際的な論文を歓迎しているが,それだけに専門外の人でも当該領域の動向や論文の意義を把握できるよう十分配慮して書く必要がある。本誌に掲載されている論文をみていただければわかるように,質の高い論文は,先行研究群にしっかり位置づけられ,論文の意義と限界が明示されている。したがって,「研究論文」としては関連する先行研究を渉猟し,精査してあるかどうかというのは採否の大きなポイントといえると思う。

 特に構造構成主義に関連する論文は多数公刊されているので,関連する論考は書籍,論文の区別なく踏まえていただきたい。その際に,原典についてはできるだけ正確な引用(理解)を心がけることも当然のことながら重要となる。また,形式に不備のある論文が多かったので,投稿規定を参照の上,論文の形式を慎重にチェックしていただけるとありがたい。

 3号は締め切りを2008年6月末としたが,投稿を考えている方は早めに投稿していただければと思う。なお,3号は「医療」をテーマに特集を組む予定である。多数の投稿をお待ちしている。

西條剛央・京極 真・池田清彦