整体と医学のはざまで

40度で発見された女子高生のケース

この「整体と医学のはざまで」は国内での患者さんの個々のケースを振り返り、医療側(整形外科)と整体(民間業者)とのはざまでいったい何が発生し、なぜそのような事態が発生したかを検証しながら、過去の反省からこれからのあるべき姿を探っていきたい、という趣旨で作成するものです。

Little by littleに戻る

 

 上記は「受験生vs青春」というブログを書いておられる大学を目指している女の子の07年10月26日の一こまです。

http://pionhaine1228.blog74.fc2.com/blog-date-20071026.html

この子の経緯を読みますと、側弯症治療に対する患者さん側からの「不満と不安」が見えてきます。それはある意味では側弯症という病気(病態)に対する啓蒙不足ゆえの知識と情報不足があり、その間隙に入りこむ整体の存在が見えてきます。患者さんの側からしたら、整体が「救いの神」に見えるのもいたしかたない実態があり、これを改善しなければ同じことが繰り返されることになります。

 ------------------------------------------------------------------------------------

私は小学校6年生の学校検診で側湾症だということが分かりました。
そのときは病院にいってレントゲンを撮るように言われ、
角度は18度ぐらいだったと思います。このくらいなら大丈夫ですよ
と診断されたので、特に治療もしないまま4年が過ぎました。

2006年 春 高校1年生
また、中学生の時のようにモアレ検査がありました。私はまた側湾症だから なにか紙をもらうのかなぁと思っていましたが、結局何もいわれませんでした。それはきっと、私が通っていた学校が中高一貫だったからですね。中1のときに放置と診断されているのだから もう側湾症だという通知をださなくてもいいと 学校側としては思ったのでしょう(おそらくそしていつのまにか私の健康診断のカードには 放置というスタンプが押されていました。それに気がついたのは今年ですが)


ある日の体育の時間 準備体操で馬とびをするときって 背中を曲げますよね。そのペアが偶然仲のいい友達となり、 「なんか 背中がおかしいよと指摘されたのです。ここ数年病院に行ってないから、行ったほうがいいかな と思って母と祖母が通っている整形外科に行ってみたのです。5年前とは全く違う、背骨は思いっきりS字型に曲がっていました。角度は5年前18度→40度に・・・・。 この角度では装具着用となりますが、私は最近身長が伸びていないということで おそらく骨はもう曲がらないだろうと診断され、装具は着用しなくてもよいとのことでした。

08年4月6日 整形外科にてレントゲン検査結果。角度は進行しておらず 前回と同じでした。うむむ 骨が固くなっているのか 体操を真剣にしていないのか(ぇとりあえず進行してなくてよかった感じです)

--------------------------------------------------------------------------------------

 いま私august03がこの記載をしているのが2008年11月24日です。この女の子は2〜3ヶ月おきに大塚整体に通うことになっているとブログには書いてあったのですが、上記の4月6日の検査結果以降は、X線検査のことはもとより、大塚整体に通う様子もブログには見られません。私が初めてこの子のブログについて記載したのが08年4月のことでした。そのときは整体のやらせのブログかと思っていました。いまでもその疑いを完全に拭いさったわけではないのですが...... この子がどういう思いで「側弯」ということをタイトルにつけたブログを書こうとしたのか、そしていまでもそれを更新しているのかその心理が私にはわかりません。ただ書き出した限りは、自分の側弯の経過もアップして欲しいと思うのですが、あるいはそれは酷な期待、身勝手な期待なのかもしれません。この子の経過を振り返りますと、幾つかの不幸な出来事が積み重ねられているように思えます。

 小学校6年生 検診で側弯発見 18度.......経過観察

中学1年生  検診?   ..................................整形外科は受診していない 「放置」という検査結果が継続されたまま   

高校1年生冬 友人の指摘で整形外科受診 40度  

 *もしも、中学1年の学校検診がもっと精度が高かったら                 *もしも中学三年間の間に、一度でも整形外科でX線検査を受けたら   *もしも、家族が気づいていたら

2008年のこの時点で「もし」という言葉をだしても、この子の曲がってしまった背中はもとには戻りません。学校検診が内科医によって行われることで脊柱側弯検診にまでは実質的にあまり役立っていない、という現実も指摘されています。学校の保健室の先生も自分らが検診するという責務もありませんし、そのような訓練もなされてはいません。ご家族にとっても、ご本人にとっても「放置」という医師の診断はまさに「放置」でよいという意識のままであったと思います。仮に、毎年X線検査を受けなさいと指示されていたら、事態は別の方向に、つまりもっと早く進行を発見できたことでしょう。この整形外科医が側弯症に対する知識が深ければそのような指示もしていたかもしれませんし、もしかしたらそのように指示したことをご家族が忘れていたのかもしれません。遥かに月日のたってしまったことですからいまさらどうなるものでもありませんが......... すべてに対して言えることは、側弯症という病気に対する情報が少なすぎて、本人も含めて誰もこの子が小学6年生のときに側弯と指摘されていたことを強く意識する機会もないままに、4年間という月日が流れたことになります。 

 放置とは、経過観察が必要という意味であるべきと思います。それを意識すると、「放置」という日本語を用いることにも問題があるでしょう。Observation (経過観察)であって、Neglect(放置)ではないはずですから。もしいまでも「放置」という言葉が使用されているとしたら、それは「経過観察」に変えられるべきと考えます。こういう言葉を使っているがゆえに整体に整形外科は何もしない、できない、という非難を受けることになるのだと思います。

この子は、40度という診断を受け、すでに骨成熟に達していることから装具療法も奏功しないだろう、という判断のもと、やはり「経過観察」という指示を受けることになりました。この子とお母さんにしてみればそれは経過観察ではなく、再び「放置」された。何も治療の手だてをとってくれなかった、という受け止め方しかできません。

そして、ネットで探しあてたのが大塚整体であり、そこに出向いた母娘が見たのは、40度のカーブも20数度に減少した実例でした。装具療法も検討したようですが、それはこの子のほうでノーといい、体操療法に取り組むことになったようです。 体操療法に取り組んだ結果、37度程には減少した.....らしいのですが、その後の経過はブログからはわかりません。

ここでもう一度もしも、ということを述べるならば、もしも40度であったとしても、装具療法を始めていたら..... これもあくまでも「もしも」のことになってしまうのですが。

さて、この子は整体の体操療法に賭けることにしました。というよりもそれしかこの子には選択肢が残されていなかったわけですから、それに賭けるしかなかったわけです。.......そのように考えますと、私がこの子のブログを整体のやらせと感じたのは過剰反応だったようです。ただあのような意味不明なレントゲン写真が提示されていなければ、過剰反応もしなかったと思うのですが。いまだになぜあのような紙に印刷されたレントゲン写真をブログにアップしたのかが理解できないのですが。

 40度でもがんばって体操療法をすれば25度程に減少する! その可能性に賭けたいと思う気持ちはわかります。上に提示した木型を月9000円でレンタルすることにも選択の余地はなかったと思います。東京まで新幹線で往復約2万円、施術料がおそらく1回1万数千〜2万円。仮にそれが高いと感じたとしても、この子とそのお母さんには選択の余地はありません。少しでもカーブが減少するならば、それに賭けるしかないのですから。病院にいっても何も治療方法はないわけですから、この母娘に残された道はこの整体のいいなりに、体操に汗を流し、揺れるベットで寝て木型で背中を曲げることに励む。それしかないわけですから。

 ここまで読まれてどのように感じられたでしょうか? やはり整形外科は役に立たない、と思われたでしょうか? そうか、整体に頼るしかないんだ、と思われたでしょうか? 

この子がいまでも木型を使っているのか、いまでも大塚整体に通って体操しているのか、揺れるベットで横になっているのか、コブ角が進行しているのか減少したのか、何もわかりません。そして何よりも、この子の1年後、5年後、10年後のことはさらにわかりません。願わくば、整体の体操であれなんであれ、この子のカーブが減少していることを願いたいと思います。この子が整体を救いの神として取り上げたブログを書くことがなければ、私もこの子に噛み付くこともなかったでしょう。でもいまこうして振り返ってみますと、この子も思春期特発性側弯症という原因不明の病気の、そしてその原因不明ゆえに治療現場が混沌としていることによる犠牲者のひとりなのですね。もっとこの病気に対する情報が啓蒙されていれば、ご家族も小学6年生以降も毎年のようにレントゲン検査を受けに病院に連れていったことでしょう。整形外科の先生も「放置」などという用語を使わずに、進行の可能性もあるので経過観察しなければなりません/毎年検査を受けなさい、という指示をしていたことでしょう。学校の保健の先生も注意をはらってくれていたと思います。全ては、あまりにこの病気について一般の方々が知らなすぎることから生まれた悲劇です。だからこそ、正しい知識と情報の普及が必要だと考えます。

 ここから先は再び整体に対する非難となります。

この子のような例はいままでも大勢いらしたと想像されます。40度を超えて、あるいはそれ以上の角度となって発見される。病院では手術という選択肢を示すことになるでしょう。もしも患者さんが装具でがんばってみたいと希望すればその道もとられるかもしれません。ただし、つねに進行リスクを考慮し、観察を怠らずに、もしも進行が抑制できないときは手術も....という選択肢を踏まえたうえでの治療になるとおもいます。仮に、40度が35度に減少することができたとしたら、それはとても喜ばしいことだと思います。

 しかし、すでに皆さんは私のブログをご覧になってご存知だと思いますが、側弯症は一時的に抑制できたとしても、ふたたび進行を開始しうる可能性を秘めており、毎年じわじわと進行する場合もあれば、5年後10年後に再発するかのように進行を開始する場合もあります。さらには、20年後30年後40年後には、老化とともに側弯変性が発症することもあります。全ての側弯症患者さんが進行するわけでもありませんし、再発するわけでもありません。しかし、患者さんの......あるいは元患者さんと呼ぶべきかもしれませんが、何%かの患者さんでは、20代後半〜30代にかけて、あるいは、40代50代になってから手術をせざるえなくなる方々がいるのも事実です。整体の体操によって一時的にカーブが減少することをもって「治った」ということは言えません。それとも、1時間数千円の施中なるものを受けるために、一週間に二度三度と通うことも厭わないと思われるのでしょうか? 私がなぜ、整体がまやかしだと非難するかといえば、整体の効果.......仮に効果があるとしてですが......は一時的なものであって、永続するものではないからです。永続するはずもないことに対して、「治る」という宣伝を繰り広げる。一週間後、一ヶ月後のことではありません。皆さんが求めているものは、「永続的に治りたい」ということのはずです。しかし、整体が提供しているのは目の前の一時的なものにすぎません。それをもって、患者さんに「治る」ともちかける行為を偽装、欺瞞、あるいは詐欺といっても過言ではないでしょう。

もちろん、それを承知のうえで、それでも何かに賭けてみたい。という人もいると思います。なにごともやってみなければわかりません。努力することが無駄になるとは思いません。ですから、なにくそ、という気持ちで側弯をはねかえすバワーで取り組まれることもいいと思います。ただし、医学的な事実は何か、ということを認識したうえでやってみられてはいかがでしょう。整体が提供する体操に何の特別さもありはしません。まして揺れるベットに寝ているだけで治るわけもありません。そのような事実をふまえ、どれだけの費用がかかるのか、どれだけの費用をだしても惜しくないと考えるのか、ご自分のこれからの人生設計というものも検討してみながら、どういう選択をすべきなのかを考えられてはいかがでしょうか。

 最初の女の子のケースに戻ります。

この子がなぜ犠牲にならなければならなかったのか? この子はいったい何の犠牲になったのか?

私が言える事は、そして何度も同じ言葉の繰り返しになりますが、これまでの何年にもわたり、そしていまでも最も欠けているのが、この側弯症という病気に対する正しい啓蒙です。正しい知識と正しい情報が広く社会に普及していません。思春期を迎えるこどもたちを持つお母さんがたに届けられていません。いえ、届けられているのは間違った情報、誤解と意図的にねじ曲げられた情報です。整体という名の下に氾濫する宣伝がこの側弯症という病気を治療する現場に混乱を与えています。この環境をまず第一に整えること。正しい知識と正しい情報を普及させること、そこから始めることが、この子のような悲劇を二度と起こさない為の道だと信じています。      (august03, 2008/11/25)