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■ アジアのカブトガニ類と種の判別

「生きた化石」として知られるカブトガニ.日本にも生息するカブトガニ(Tachypleus tridentatus)の他に3種類が知られています.この現生4種のうち、なんと3種類:カブトガニ(T. tridentatus), ミナミカブトガニ(T. gigas) そしてマルオカブトガニ(Carcinoscorpius rotundicauda)がアジアに生息しています(Sekiguchi 1988).カブトガニ類は基本的に干潟に隣接する砂浜(*マルオカブトガニはマングローブ林内の河川域も利用するようです)に卵を産みます.そして幼生期は泥干潟で生育し,脱皮を繰り返し大きくなるにつれてより深い(~20m以上)場所へ移動していくと考えられています.

現在,世界中のカブトガニ類の個体数とその生息地は急激に減少していると考えられています.それは人間活動による沿岸の開発や利用(薬剤として、食べ物として)によるものが主な原因です.沿岸の埋め立てや沿岸道路の建設はカブトガニの産卵場所と幼生の生活の場をうばいます.またコンクリートの材料として利用される海砂の採取は,成体の生息域を荒らしている可能性があります.もちろん水質の悪いところでは生活できません.カブトガニ類の保全に向けた取り組みが急がれています.


アジアにおけるカブトガニ類3種の分布 (関口 1999より改変).

アジアに生息する3種、オス・メスの見分け方

Tachypleus tridentatus
(カブトガニ:tri-spines horseshoe crab)

(福岡・博多湾産)
カブトガニのオスは特徴的な"頭"をしています.前甲(前体)の形がメスではヘルメット型なのに対して,オスは"山"型です.3つの山の形となります.また他の3種に比べて甲羅の高さが高い傾向にあり,よりドーム型になります.後甲(後体)をみると,甲羅の両脇に縁棘と呼ばれる長いトゲがあります.オスでは6対あるのに対して,メスでは前側3対しかありません.繁殖期にはオスがメスの後体にのっかるようにして連れだって産卵場へやってくるのですが,おそらくオスが乗りやすいように後ろのトゲがなくなったのだと思われます.このオスとメスのトゲの数の違いはミナミカブトガニでも同様です.幼生・亜成体はメスとよく似た形をしていますが,
6対の縁棘を持つので容易に判別可能です.これもミナミカブトガニでも同様です.

前からみたカブトガニのオス(左)とメス(右):
オスの前体は鞍型になっているのが分かります.

(大分・守江湾産)


"tridentatus (tri-spines)"ってどういう意味?
(インドネシア・東カリマンタン産)
カブトガニの学名の
tridentatusは3つのトゲという意味です.この3つのトゲは後体の尾剣(尾)の付け根にあります.カブトガニのみ3つ(赤と黄の矢印)の小さなトゲがあり,他の3種では黄色矢印のトゲのみです.またカブトガニの後体は小さなトゲがたくさんありますが,他の3種はもっとつるつるしています.
尾剣(尾)の断面は各頂点が鋭くとがった三角形をしています.ミナミカブトガニも同様です.一方でマルオカブトガニはその名の通り,丸い(頂点がとがっていない)のが特徴です.マルオカブトガニは尾を触るだけで簡単に区別できます.


カブトガニのオス(下)とメス(上):脚の形の違い

メスはすべての脚がハサミ型なのに対して,オスの第一歩脚と第二歩脚はフック(鈎)型になっています.繁殖期にオスはこのフック状の脚を使ってメスを捕まえるわけです.ミナミカブトガニも同様の特徴を示します.一方でマルオカブトガニはオスもハサミ型ですが,メスよりも太くなります(後述).

Tachypleus gigas (ミナミカブトガニ:southern horseshoe crab)

ミナミカブトガニのオス (左) とメス (右)
(インドネシア・東ジャワ・パスルワン産)
どちらもヘルメット型の前体です.

ミナミカブトガニのオス(左)とメス(右):脚の形の違い
(インドネシア・東ジャワ・パスルワン産)
カブトガニと同様にメスはすべてがハサミ型, オスは第一・第二歩脚がフック型になっています.

ミナミカブトガニの第5歩脚に見られる長いトゲ(長棘):このトゲはミナミカブトガニとカブトガニが持ちます.


Carcinoscorpius rotundicauda
(マルオ/ヘラオカブトガニ:round-tailed/mangrove horseshoe crab)
マルオカブトガニのオス(左)とメス(右)
(インドネシア・東ジャワ・パスルワン産)
 マルオカブトガニは丸い(角がない)尾剣(尾)を持ちます.

マルオカブトガニのオス(左)とメス(右):脚の形の違い

両方ともハサミ型ですが,オスの第一・第二歩脚は明らかに太くなります.
(
インドネシア・東ジャワ・パスルワン産)

生殖孔による雌雄判別:

マルオカブトガニの幼生・亜成体とメスの形はほとんど一緒です.大きさもオスになる亜成体とメスおよびメスになる亜成体はほぼ同じですのでなかなか難しいです.この場合,生殖孔の状態・形がヒントになります.図のように卵が確認されればメスですし,メスの生殖孔はオスよりも明らかに大きいと思われます(もう少し確認が必要ですが).
この特徴はおそらくすべてのカブトガニ類に当てはまると考えています.
(亜成体と思われる個体でも生殖孔が大きいものがあり,もしかすると亜成体の段階でも性判別が可能かもしれません.)


ミナミカブトガニ,マルオカブトガニの大きさと色の比較

成体メスの最大長ではカブトガニ>=ミナミカブトガニ>マルオカブトガニとなります.
(
インドネシア・東ジャワ・パスルワン産) 
同じ地域で採取した2種のオス・メス・亜成体を比較しています.地域性・個体の状態による変異も大きいため,あくまで「印象」について述べます.マルオカブトガニはより黒い・濃い体色であることが多いです.ミナミカブトガニの左端のメス個体は明るい色をしています.これはおそらく比較的若い成体(成体1年目?)であると思われます.これから徐々に濃い色へ変化します.実際にこの個体は処女メスである可能性が高かったです(後体にオスがマウントした際にできるキズがない).最大長の亜成体とオスの形は同じですが,前述の通り脚の形が異なります.またメスは後体縁棘が3対です.


【メモ:アメリカカブトガニとの区別は?】
私自身がアメリカカブトガニを詳細に観察したことがなく,写真も皆無なためここでは取り扱っていませんが,いくつかの日本の水族館で展示されている「カブトガニ」はアメリカカブトガニのようです.
簡単には(個人的印象を含みます):
・カブトガニに比べて扁平・面長な甲羅
・オス・メスともにヘルメット型の前体
・後体・尾剣根元の不動棘が正中の一個のみ(上述・黄矢印)
・後体縁棘がカブトガニ・ミナミカブトガニに比べて短い(特に尾剣側)
・複眼が他種より大きい
・オスの第二歩脚はハサミ型のまま(第一歩脚はフック型となる)
・幼体・亜成体の体色が薄い
・カブトガニに比べて尾剣が(やや)短い
・後体表面に小さなトゲは少なくつるつる


(C) Shin Nishida 2012
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