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IT翻訳入門【クライアント編】02:外注内容を確認する

発表機会:『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版)2001年2月号掲載(雑誌記事)

1999年から一年あまり『通訳翻訳ジャーナル』(イカロス出版)という業界誌に「IT翻訳入門」というタイトルで連載記事を書かせていただく機会がありました。現在同誌は年四回発行ですが当時は月刊誌でした。このホームページの内容は、雑誌向けの原稿に加筆修正し、連載と並行して当時のホームページに公開したものです。『通訳・翻訳ジャーナル』の概要は下記のリンクから参照できます。


利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。

外注内容を確認する

クライアントとして初めて翻訳を外注することになった場合、まずベンダー(翻訳会社や翻訳者) へのコンタクトから始めてしまいそうですが、本当はその前に、外注する作業の内容を確認するのがよいでしょう。これは、外注したい作業の内容に応じてベンダーを選ぶ基準も変わるし、ベンダーから見積もり条件を質問されたときに回答に詰まると困るからです。では、どのような点に着目して発注内容を確認すればよいのか、いくつか書いてみます。

外注する分量はどのくらいか?

IT分野で翻訳を外注する場合、あるプロダクトのマニュアル (オンラインまたはペーパー) の翻訳、ホームページの一部 (たとえばユーザーサポートのページ) の翻訳、製品カタログの翻訳、のいずれかのケースが多いでしょう。ホームページの一部や製品カタログの場合、翻訳対象のワード数は数千ワードからせいぜい2~3万ワードで、この分量だと翻訳者は1名いれば十分です。一方、マニュアルの場合は、2~3万ワードのマニュアルが 1 冊であれば翻訳者1名でいけますが、一度に数冊翻訳する場合は数名の翻訳者に同時に翻訳してもらう必要があります。

翻訳の外注先は、その規模に応じて最小は個人翻訳者から最大は世界展開している多言語ベンダー(MLV)までいろいろな規模があり、それぞれに特徴があるため、外注する翻訳の分量によって外注先のベンダーの規模が変わってきます。当然のことですが、1名で足りる場合は、翻訳会社を通さなくても個人翻訳者に直接発注することが可能であり、大きな案件になるほど、外注先は大きなベンダーに限定されます。 大きなベンダーは会社数が少ないため、外注先の自由度が限定されていきます。

どの工程を外注するのか?

翻訳だけして終わりという文書はまず無く、紙マニュアルであれば版下作成と DTP、印刷が後に続きますし、オンライン ヘルプであればコンパイルとテストが後に続きます。ホームページの場合も、リンクチェックやデザインの調整が必要になるでしょう。画面を日本語版と差し替えるのであれば、画面キャプチャが必要になったりします。これらの作業をまるごと外注するのか、それとも一部の工程は社内に残すのか、その程度に応じて、選択できる外注先が変わってきます。

個人レベルに近い翻訳 SOHO でも、夫婦でそれぞれ DTP と翻訳を分担して、翻訳から反した作成まで一括して受注できる方も実際におられますし、そうかと思うと月産 50 万ワード程度の翻訳処理能力がありながら、DTP やテスティングはほとんど受注できないという翻訳会社もあります。全部の工程を丸投げすると、進行管理の手間からは解放されるかもしれませんが、外注コストがどんぶり勘定になったり、社内に発注側としての評価スキルが育ちにくかったり、おまかせ先のベンダーが仕事を受けてくれなかったときに依頼する代替のベンダーとの関係が築けていなくて苦労するというリスクもありますから、場合によっては丸投げでなく、一部工程を社内に残したり、翻訳と DTP を別会社に外注するのが妥当であるケースもあると思います。

新規翻訳か改訂翻訳か?

ソフトウェア製品のマニュアルの場合、改訂があるのが普通です。そして、改訂がある文書については、翻訳メモリの活用を検討するのが常識になりつつあります。念のため繰り返しておきますと、翻訳メモリとは以前翻訳した原文と訳文の組み合わせをデータベースに登録したもので、改訂版を翻訳する場合にこの翻訳メモリから同一または近似の原文を探し、もしそれがあればその訳文を提示して流用の便宜を図るツールが「翻訳支援ツール」として普及しつつあります。そして、翻訳支援ツールとして現状で市場シェア第1位の製品がドイツ・トラドス社の TRADOS Translation Solution です。

今回外注する翻訳が改訂翻訳の場合、旧版の翻訳ファイルを翻訳メモリとしてリサイクルすることによって、今回の外注コストを削減できる可能性があります。また、今回外注する翻訳が新規翻訳であっても、将来的にその改訂版を翻訳する可能性がある場合は、新規翻訳の段階から TRADOS を利用した翻訳を行うことによって、改訂時の翻訳コストを削減することが可能です。カタログなどの短い文書では、リサイクル率が低い割にはファイル変換に手間がかかるなどの理由により、あまり TRADOS 導入の意味がない場合もありますが、マニュアルの場合、たいていは導入を検討するだけの価値があるでしょう。

というわけで、改訂翻訳で TRADOS を使いたいとなると、TRADOS が使える翻訳者/ベンダーに外注先が限定されます。現在日本の翻訳業界では TRADOS はまだ普及の初期にあり、導入先も IT 分野が得意な会社に限定されるなど、まだまだこれからという感じがします。TRADOS は有効なツールではあるけれど、現場では細かい問題点を克服する経験的スキルが必要となるため、大量の文書を TRADOS で外注する場合は、TRADOS での実績が豊富なベンダーを選ぶ方が安心でしょう。

翻訳メモリを作るか否か?

旧版の翻訳が存在するけれどもそれが TRADOS の翻訳メモリになっていない場合、今回の翻訳でリサイクルしたければ、翻訳に先立って WinAlign による旧版翻訳の翻訳メモリ化が必要になります。WinAlign は、原文と訳文の 2 つのファイルを開いて、対応するセンテンス同士を結びつけて(この作業は「整合=Alignment」を取る、と呼ばれます)、そこから翻訳メモリを生成するツールです。

この整合作業を行うかどうかは、ケースバイケースです。というのもこの整合作業、原文と訳文の対応がきちんととれていればさほど苦労がないはずですが、実際には、訳文が日本語版の独自仕様に合わせて修正されていたり、索引フィールドが原文と訳文で違っていたり、それやこれやでけっこうハマる工程になりがちです。外注費を支払って翻訳メモリに加工したものの、ほとんど改訂版には流用されてなかったということになると無駄金になってしまいます。ですから、とりあえず旧版があればなんでも翻訳メモリに加工する、というスタンスはロスが多くなります。

さいわいなことに、旧版がどの程度流用できるかの調査は、整合作業を行わなくても可能です。旧版の原文をもとに仮想翻訳メモリを生成し、その仮想メモリをベースに改訂版を解析すると、どの程度リサイクル効果が得られるか、定量的に把握できますから、その「リサイクルによるコスト削減効果」と「整合のコスト」をはかりにかけて比べて判断すればよいわけです。

その他ベンダーから質問されること

ベンダーに見積もりを依頼するときに質問されがちな項目をあげてみます。ベンダーに電話する前にこれらの項目をセルフ チェックしておくと、スムーズな見積もりの依頼が可能でしょう。

  • 内容は何か(ヘルプ、紙マニュアルか、ホームページ...)
  • どういう分野の製品か(ベンダーが翻訳者を選ぶときの参考情報になります)
  • 全体の分量はどの程度か
  • ファイル形式は何か(FrameMaker, HTML, Word...)
  • 納期はいつか、分納を希望するか
  • スタイルガイド、グロサリの指定はあるか
  • TRADOSを使うか否か、翻訳メモリは納品するか否か
  • 支払いは毎月何日締めの何日払いか、月別検収は可能か

これよりも細かいことは、打ち合わせや、実際に翻訳が開始されてから必要に応じて詰めていけば十分でしょう。なお、無愛想な職人肌の翻訳SOHO/個人翻訳者は別として、中堅以上の翻訳会社であれば、あまり事前に準備をしなくてもむこうの営業担当者が自主的に取材をして必要情報を引き出してくれるので、いわゆる「おまかせコース」も可能です。おまかせコースが楽ちんなのは確かですが、ベンダーからみて「カモ=(悪く言えば)だましやすい客」だとナメられることにもつながりますので、発注前に少しはこれらの項目を検討しておくほうがよいと思います。

(2000年12月5日執筆)

利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。