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IT翻訳入門【TRADOS編】05:TRADOSの翻訳対象ファイル

発表機会:『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版)2000年9月号掲載(雑誌記事)

1999年から一年あまり『通訳翻訳ジャーナル』(イカロス出版)という業界誌に「IT翻訳入門」というタイトルで連載記事を書かせていただく機会がありました。現在同誌は年四回発行ですが当時は月刊誌でした。このホームページの内容は、雑誌向けの原稿に加筆修正し、連載と並行して当時のホームページに公開したものです。『通訳・翻訳ジャーナル』の概要は下記のリンクから参照できます。


利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。

TRADOS を使う翻訳業務で翻訳者に支給されるファイル

ここでは TRADOS を使った翻訳において、実際に翻訳者に支給されるファイルを一覧してみましょう。自分が翻訳している対象ファイルが、もともとは RTF Help のソース ファイルなのか、HTML なのか、FrameMaker なのか、そのようなことがファイルの内容からわかるようになることを、このセクションの目標とします。

なお、以下の説明では各ファイル形式を指す呼び名として WordRTF、HelpRTF、StagRTF、HtmlRTF、HtmlBIF、SgmlBIF などと書いていますが、これは私が便宜上作った呼び名であって TRADOS 社がこのように命名しているわけではないのでご注意ください。

また、下記の区分けで RTF が付くファイル形式 (WordRTF、HelpRTF、StagRTF、HtmlRTF) のファイルは、Word の RTF ファイルで支給されることが多いかもしれませんが、翻訳中は拡張子 .doc の Word 標準フォーマットで保存したほうが多分よいでしょう。保存したりファイルを開いたりする処理が高速化されますし、Word の旧バージョンの一部には RTF ファイルの周辺処理にバグを含むものもあるようですから。

WordRTF の場合

最初から Microsoft Word で作成されたファイルで、多くの場合、紙のマニュアルになります。ソフトウェア マニュアルの仕事で Word 形式のファイルというのはそれほど多くありません。FrameMaker や、ときには PageMaker の仕事のほうが多いような気がします(少なくとも私の周囲では)。

翻訳者にとっての取り扱い上の注意事項は、特にありません。そのまま翻訳していくだけです。


HelpRTF の場合

RTF Help (拡張子 .hlp のヘルプ) のコンパイル前のヘルプ ソース ファイルです。RTF Help は Windows の旧タイプのオンライン ヘルプのフォーマットで、主として Window 95/NT40 まで使われていました。ヘルプの 1 画面で表示される単位を「ヘルプ トピック」と呼び、各トピックごとに改ページした、独特の形式の RTF ファイル (ヘルプ ソース ファイル) にヘルプの内容を記述した後、コンパイルを実行してヘルプ ファイルへと加工します。ヘルプ ソース ファイルの特徴は、脚注にあります。各トピックの先頭にたとえば $#+K のような記号が入っていて、それに対応する脚注に、ヘルプの構造を決定する重要な情報が埋め込まれています。

$ 脚注はトピックのタイトルなので翻訳対象、# 脚注はトピック ID と言ってソフトウェアが参照する箇所なので翻訳対象外、K 脚注はキーワードなので翻訳対象、という具合です。Windows 98 で HTML Help (拡張子 .chm のヘルプ) が登場してからは新規作成するヘルプで RTF Help フォーマットを使うことはまず無いと思いますが、改版翻訳では現在でもときどきお目にかかります。

翻訳者にとっての取り扱い上の注意事項は、リンクのジャンプ先が特殊な書式で挿入されているのでそれを破損しないこと、脚注内のトピック タイトルやキーワードを翻訳し忘れることが多いので注意すること、下線を駆使した特殊な文字書式を誤って訳文の入力において引きずらないこと、ジャンプ先が隠し文字で挿入されているので誤って削除しないこと、そのためには [編集記号の表示/非表示] ボタンを原則として常に押し下げた状態で翻訳すること、などでしょうか。


StagRTF の場合

S-Tagger を使って FrameMaker のファイルからコンバートされたファイルです。S-Tagger によって FrameMaker の MIF ファイルがコンバートされて生成された RTF ファイルを STF (S-Tagged Format) ファイルと呼びます。STF ファイルを上の WordRTF や HelpRTF と比較して明らかにすぐ気がつく違いは、薄い色で表示された <tr・7> などのタグの存在です。これらのタグは、翻訳完了後の STF ファイルを元の FrameMaker 文書に戻す際に必要となる情報が埋め込まれていますので、翻訳者は誤って編集をしないように注意が必要です。

STF のタグには「外部タグ」と「内部タグ」の2種類があります。おおざっぱに説明すると、TRADOS における一般的な翻訳メモリの単位であるセンテンス (文) 全体に対して修飾するタグ(そのセンテンスが見出しであるとか索引であるとかセンテンス全体のフォントを指定するとか) が外部タグ、センテンス内で局所的に文字や用語を修飾する、センテンスに含まれてしまうようなローカルなタグが内部タグです。

翻訳者にとっての取り扱い上の注意事項として、まず外部タグは一切触れてはなりません。外部タグを追加、削除、移動、変更すると、後で FrameMaker のファイルに戻そうとする S-Tagger の逆変換においてエラーの原因となり、その工程を担当する得意先の担当者@深夜残業モードから「だれだ、タグを壊した翻訳者は!」とひどく恨まれます。

内部タグについては、意味を理解したうえで、必要に応じて追加/削除できます。一部には、スペースやハイフンを示す内部タグのように、訳文に反映する必要がない (というか反映してはいけない) タグもあり、その場合は削除するのが正解だったりします。英文と和文のスタイルガイドの違いから、英文の内部タグ(ボールドやイタリックの指定など) を訳文で削除するということもあります。ただし、内部タグを編集する場合は、事前にタグの意味くらいは把握しておいてください。

代表的なタグをいくつか紹介すると、<ie> や <il> のある段落は索引エントリです。<:imk ?> は索引の挿入位置を示すマーカーです。<:xr "xxx" ?> は参照先のトピックを表します。<:b> <:/b>、<:i> <:/i> はそれぞれボールドとイタリックの開始と終了です。<:hs> はそこで改行されないようにするための非分離のスペースです。STF の翻訳を依頼してくる翻訳会社の場合、おそらくタグの一覧とその処理方法を説明する文書指示くらいはくれるでしょうから、後はそれを参照してください。そんな指示がなくて、しかもちゃんとした仕事をしたい場合は S-Tagger のマニュアルを TRADOS のサイトからダウンロードして参照することをおすすめします。


HtmlRTF の場合

HtmlRTF は、ITP Filter Pack (Version 1.0) を使って HTML ファイルからコンバートされたファイル形式で、TRADOS Edition2 の時代、すなわち TagEditor 登場以前および登場直後の不安定期によく使われた形式で、もともとは HTML ファイルです。TRADOS Edition 2 では、HTML (に代表されるタグ付きフォーマット) を Word 上で編集する方法論として、コンバーター (ここでは ITP Filter Pack Version 1.0) によるフォーマット変換、というアプローチをとっていました。ファイル先頭のタグが <HTML> となっていて、外部タグが STF ファイルのように薄い色で表示され、内部タグは赤く表示されています。

Edition2 の初期時代に HTML の翻訳がくると、翻訳会社ではまずそれを FilterPack にかけて HtmlRTF に変換し、さらにそれを TWB でプレ翻訳にかけてから翻訳者に支給する、という手間のかかるファイル処理を行っていました。途中から TagEditor が登場し、このような二段階の手間をかけなくてもタグ付きフォーマットを編集できるようになりましたが、TagEditor の初期バージョンでは編集中に不具合に悩まされることも少なくなかったため、安全策として FilterPack を利用し続けるユーザーも多かったのです。

このような状況も、TRADOS の最新版である Edition 3 では変わりました。Edition 3 では、タグ付きフォーマットは TagEditor で翻訳するのが原則となり、Filter Pack の最新版 (Edition 3 Build 2) では HTML ファイルを HtmlRTF に変換する機能が削除されています。つまり、HTML/XML/SGML は (RTF に変換して Word で編集するのはもうやめて) TagEditor で編集してください、ということなんでしょう。ただ、翻訳会社によってはそのことを知らなかったり、あるいは知っていても諸般の理由からあえて、今後も HtmlRTF で HTML ファイルの翻訳を発注してくる場合もあるかもしれません。


HtmlBIF の場合

そういうわけで TRADOS が Edition 3 で HTML/XML/SGML 等のタグ付きフォーマットの標準的な編集プラットフォームとして提唱しているのは、(Word ではなくて) 次の画面に示す TagEditor です。TagEditor 上でも、これまでに説明してきた「外部タグ」「内部タグ」の区分けは生きています。画面上でくさび?のような図形で表示されているのがタグですが、黒い縁取りのタグが外部タグ、赤い縁取りのタグが内部タグです。

TagEditor で編集するのは、HTML/XML/SGML から「バイリンガル形式」(拡張子 .bif) へと変換された BIF ファイルです。HTML/XML/SGML ファイルを TagEditor で開くかまたは TWB でバッチ翻訳すると、自動的に BIF 形式に変換されます。


SgmlBIF の場合

次の図は、SGML ファイルを TagEditor で開いたところです。一見したところ、HTML ファイルを開いた画面と区別がつきませんが、ウィンドウの一番下に表示される DTD (文書型定義) が SGML の場合「DemoDTD」となっていることから、標準の HTML 設定とは違うことがわかります。

(2000年7月4日執筆)

利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。