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IT翻訳入門【TRADOS編】03:MultiTerm訳語集とは?

発表機会:『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版)2000年(おそらく)8月号[翻訳支援ツール特集掲載(雑誌記事)

1999年から一年あまり『通訳翻訳ジャーナル』(イカロス出版)という業界誌に「IT翻訳入門」というタイトルで連載記事を書かせていただく機会がありました。現在同誌は年四回発行ですが当時は月刊誌でした。このホームページの内容は、雑誌向けの原稿に加筆修正し、連載と並行して当時のホームページに公開したものです。『通訳・翻訳ジャーナル』の概要は下記のリンクから参照できます。


利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。

MultiTerm訳語集の内容

翻訳メモリにおいて、訳語のデータベースは訳文のデータベースと同様か、ときには訳文以上に重要な役割を果たします。TRADOS ツールでは訳語のデータベースは MultiTerm のファイルとして管理されますので、ここでは MultiTerm 訳語集の内容を調べてみましょう。ここでも素材としては TWB と同時にインストールされるサンプル ファイルを活用させてもらうことにします。

まずは MultiTerm を起動します。MultiTerm のインストール時に TWB のインストール先フォルダと同じ位置に MultiTerm をインストールしていれば、スタートボタンから [プログラム] - [TRADOS DEMO Edition3] - [Demo Edition 3 Applications] - [MultiTerm '95+ English] を選択すれば、起動画面に続いて次の画面が表示されるはずです。


インストールのところでも触れたとおり MultiTerm の画面用語は日本語化されていませんが、このツールのユーザーはたいてい翻訳者なのでさほど支障はないでしょう。[File] メニューの [Open Database] コマンドで TWB とともにインストールされた mtw ファイル (MultiTerm 訳語集のファイル形式) を開きます。TWB をデフォルトのフォルダにインストールしてれば C:\Program Files\TRADOS\Demo-3\Samples\MTerm\Trados.mtw にあるはずです。


なお、ファイルを開くときに排他的アクセスの是非を確認するダイアログが表示されますが、複数メンバーから構成される翻訳チームで TRADOS を使っているのでない限り、[はい] を選んでおけばよいでしょう。


これで MultiTerm のサンプル訳語集が画面表示されます。初めて MultiTerm を使った人は、この画面にちょっととまどうのではないでしょうか?原文と訳文が並んで一覧表示されるという一般的な「訳語集」とは異なった印象を与える画面です。


この画面を理解するには、訳語データベースとしての MultiTerm の特徴である "コンセプト オリエンテッド" という考え方を知る必要があります。ひとつの言葉に複数の意味があるとき、MultiTerm ではその意味ごとに独立した項目として登録します。たとえば英語の plane (名詞) には "飛行機" と "かんな" というまったく異なる 2 つの意味がありますが、この場合は MultiTerm では意味の数にもとづいて 2 項目の plane を登録するわけです。

MultiTerm がこのような構造をとる背景には、TRADOS ツールが産み出されたヨーロッパにおける「複数言語が混在して使われることが当然」という言語事情があると考えられます。英語から日本語の辞書、というように言語の翻訳方向が一方通行でしかも 1 言語対 1 言語を取り扱う場合は、1 個の英語に対して複数の意味を併記するという辞書の標準的な構造が実用的なわけですが、複数言語を双方向で処理できる「辞書」を考えると、特定の言葉に着目するよりも「意味」に着目して多くの言葉を交通整理するほうが見通しのよい構造ができるだろうと考えるのは、聞いてしまうとごく自然な考え方のような気がします。これが、MultiTerm で採用されている "コンセプト オリエンテッド" の考え方です。ちなみに MultiTerm では 1 個の「概念」に対して最大で 20 言語までの言葉を登録できます。

ここまではいいのですが、話がややこしいのはそのようなコンセプト オリエンテッド辞書において「概念」をどう記述するかでしょう。結局概念を記述する手段は多くの場合に言葉になってしまうわけで、言葉で語るとなると特定の言語をえこひいきして(?)その言語で概念を説明し、その概念に対応する諸言語の「訳語」をあてはめていくことになるでしょう。このような理由により、MultiTerm のサンプル訳語集では Definition というフィールドに概念を定義する説明が英語で記述されています。結果的に、MultiTerm の訳語集をちゃんと作っていくと、それは訳語集というよりはまさに「辞書」の体裁に近づいていくと思われます。

そのあたりを見越してか、MultiTerm ではかなり柔軟にユーザーがフリー フォーマットのテキスト フィールドを定義できます (最大で 32,000 文字のテキスト フィールドを 500 フィールドまで定義可能)。また、文字情報だけでなく画像データを概念と対応付けて保存することも可能です。単に訳語集として利用するだけでなく、アイデア次第ではいろいろとおもしろい用途にも使えそうな可能性を感じさせます。

ちなみにサンプル ファイルで最初に表示される画面の右側の [application icon] となっているボタンをクリックすると、次の「概念」が表示されます。


「概念」を検索するときにはやはり言葉に頼らざるを得ないわけですが、ユーザーがどの言語で検索をかけたいかは MultiTerm 側ではあらかじめわからないという理由と、またどの言語での検索にも柔軟に対応できるようにするという理由により、MultiTerm では Index という項目を用意して、検索に使う言語を [Index] リストボックスから選択する方式を採用しています。


また、他言語対応辞書とはいっても現場のユーザーである翻訳者は通常 1 言語対 1 言語かつ一方通行の辞書として MultiTerm を利用するであろうことを考慮して、優先的に表示する翻訳先言語を [Target] リストボックスから選択するようになっています。実際にサンプル ファイルの [Target] リストボックスで Japanese と German を交互に選択してみると、検索結果を表示する画面で強調表示される言語が変化していることが確認できます。

(2000年5月30日執筆)

利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。