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IT翻訳入門02:IT翻訳者の生活

発表機会:『通訳・翻訳ジャーナル』(イカロス出版)1999年12月号掲載(雑誌記事)

1999年から一年あまり『通訳翻訳ジャーナル』(イカロス出版)という業界誌に「IT翻訳入門」というタイトルで連載記事を書かせていただく機会がありました。現在同誌は年四回発行ですが当時は月刊誌でした。このホームページの内容は、雑誌向けの原稿に加筆修正し、連載と並行して当時のホームページに公開したものです。『通訳・翻訳ジャーナル』の概要は下記のリンクから参照できます。


利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。

典型的な実務翻訳者像

実務翻訳者の典型的な就業パターンには、「プロ翻訳者」、「家事兼業」、「二足わらじ」の 3 つがあります。各就業パターンのイメージを少しスケッチしてみましょう。


「プロ翻訳者」

扶養家族がいて、家計を翻訳で支えています。性別は男女いずれの場合もあり、収入は月額 40 ~ 100万円の範囲が多いようです。翻訳ワード数は月産で 3~6 万ワード (原稿用紙換算で 300~550枚程度) というところでしょう。実力的には A クラスか少なくとも B クラスの上位 で、翻訳経験は 3~5 年以上あります。複数のエージェントに登録しており、不況期にも単価が多少下がることはあっても仕事がとぎれることはありません。

男女とも腰痛が持病でその対策には一家言あります。男性の場合は 80% の確率で朝寝の夜型、20% の確率でチェーン スモーカーです(肺ガンで死ぬでしょう)。女性の場合、彼女をいたずらに刺激しないように気遣う家族の緊張は納期前夜にピークに達し、おびえた亭主は息もできません。仕事のスタイルも各自の好みの仕事、好みのスタイルが完成されているので、好みに合わない仕事や個人的に開発したツールに合わない仕事は受けたがりません。他人の翻訳のチェックやリライトはもちろん受けません。翻訳者仲間のネットワークでエージェント情報を交換し、不良エージェントの仕事を受けない工夫は怠りません。

翻訳の実力と勤勉な資質に加えてよい得意先に恵まれた人は、マンションはおろか一戸建てを購入している場合もあります。自宅の近くに仕事用のマンションを借りる人もいます。なぜか車好きが多く、これもなぜか外車を買う人が多いようです。出勤に使わないので乗る機会はほとんどありませんが...


「家事兼業」

家事をやりながら翻訳業を営む在宅自営業者で、子供がいる場合は保育園で預かってもらえる時間内に仕事します。資質によって個人差はありますが月産 1~3 万ワードを翻訳し、月収 10~40 万円を稼ぎます。下の子供が小学校に通い初めて手がかからなくなると、A クラスの人は「プロ翻訳者」のカテゴリに移行します。B の下~ C クラスの人は、翻訳会社側からみるとプロ翻訳者が足りないときの助っ人的な位 置づけになりがちで、単価が抑えられる傾向があります。

一般に納期を厳守できる人が多く、仕事へ取り組む姿勢は優秀ですが、大学の専門や独身時代にコンピュータ関係のスキルを積んでいない場合は、専門知識の不足で苦労します。コンピュータ関係の会社に務めた経験があっても専門知識が疑わしい人も、ときどきいます。ただ、専門知識よりも低価格を優先したいクライアントに対しては需要と供給がマッチするので、仕事のチャンスはあります。一部のプロ翻訳者からは、低価格受注で翻訳市場を攪乱する存在として警戒されています。

エージェントはたいてい 1 社かせいぜい 2 社と契約しています。エージェントの中には相手が家事兼業とみるとワード単価で 5~7 円を提示するいけずな会社もありますから初心者でしかも人がいいと女工哀史するケースもあります。機械翻訳のリライトだの、旧版の流用だの、単価を下げる理由がいろいろつく仕事には一応注意が必要です。


「二足のわらじ」

本業として翻訳以外の仕事にフルタイムで就業しつつ、副業で翻訳をやろうとする人です。資質的にはトライアルに合格する力をもった人も多いのですが、本業と副業の両立は予想以上に厳しいので、翻訳エージェントによっては挫折を予想して採用に二の足を踏むところもあります。

どういうわけか、翻訳の仕事が舞い込んだときに本業も忙しくなる、というマーフィーの法則があり、そうなったときにサラリーマンとしての本業を優先してアルバイトである翻訳をことわってしまう人では翻訳の仕事は来なくなります。ということは副業を優先して本業で休暇を取るか査定を犠牲にする覚悟が必要になるわけで、そこまでの覚悟あっての副業開始かどうか、いきなり心構えが試されることになります。

副業での翻訳となるとどうしても平均月産ワード数 1~2 万ワードの人がほとんどですが、翻訳会社から見ると発注の手間は参加翻訳者の人数に比例するので、たとえば 8 万ワードの仕事を 1ヶ月で翻訳するときにプロなら 2 名で済むところが二足わらじ者だと 4~8 名必要なことになり、それだけ手配に手間がかかりますから、仕事を出しにくくなる傾向があります。その逆風をうち破るほど翻訳が上手だ、とか本業を休んでもやる覚悟がある、とかいう点を翻訳会社にアピールする必要があります。


自己管理の必要性

よく言われることですが、自由を求めてフリーランスの翻訳者になったはずが、フリーランスは全然自由でなかったりしますToT。

基本的にフリーランスは、うっかりすると「仕事がない or 時間がない」の両極端のガーター ゾーンにはまってしまいがちで、「好きなときに仕事して好きなときに遊ぶ」という中庸の境地に達するには、それなりの自己管理が必要になります。(仕事がないフリーランスは単なる失業者で、自己管理以前の問題ですが...)

サラリーマンはさいわい?に会社が本人に代わって人間を管理してくれますから自己管理能力は低くても仕事できます。朝おおぜい人がいるオフィスに出社して、床に寝転がって一日中惰眠をむさぼるというのは人間の性質上ふつうは恥ずかしくてできません。ところがフリーランスの場合は自宅の居間が仕事場だったりするので、神聖なる仕事場にねそべって一日中惰眠をむさぼったりすることが (私の場合...) よくあります。このことから、フリーランサーのほうがサラリーマンよりもずっと強い自己管理能力 (=意志力) が必要な仕事であることがすぐ分かります。

だらだらやると、本当に翻訳は全然進みません。それに、自己管理能力の弱い人は生活が不規則になりがち、夜型に退行しがちです。生活が不規則 and 夜型になると健康を損ないますし、精神的に落ち込みがちです。「究極の翻訳とは?」「結婚とは?」「離婚とは?」「人生とは?」などという非生産的な形而上学的難問を考え始めるとどこまでも時間を浪費してしかも疲れていくので、最終的には燃え尽きてフリーをやめて、会社勤めに戻ったり下北半島に旅に出たりします。

こういう状況から翻訳者を救ってくれるものは、家族の場合もありますが、家族の 10 倍くらい、「納期」のほうが有効です。どんなに怠惰な翻訳者も「納期」にはかないません。中には「納期が過ぎた頃から着手するのが本物のプロ翻訳者」などとうそぶく外道な翻訳者もいますが、そういう外道でも、納期を 3 日過ぎた頃から電話のベルが怖くなりだし、納期を 1 週間すぎると、ついに電話のモジュラージャックを抜いてしまいます (経験者は語る...)。

こうなるともうこの業界にだんだん居づらくなってきて、外出しても人の顔をまともに見られなくなってきて、ついには廃人となってしまうのです...ということが言いたいんじゃなくて、納期というのはいやなものである反面 、これがないと仕事ができない面があるので、効果的な納期設定をしてくれる得意先というのは自己管理の支援の点で助かったりします。

もちろん翻訳者にも個性があって自己管理が比較的できる人もおおぜいいます。翻訳会社側の担当者も、慣れてくると翻訳者の自己管理能力まで読んだ上で、マージンの設定日数を調節したり、1 週間単位のこまめな納期設定をしたりして翻訳者の廃人化率を少しでも減らそうとしてきますので、自己管理の手伝いをしてくれる存在になるときもあるわけです。


フリー翻訳者の収入

翻訳者が受け取る翻訳料には、印税と買い取りの 2 通りがあります。印税は単行本翻訳で使われる方式で、本の売上に対して 5~7% 程度を受け取ります。買い取りはマニュアル翻訳で使われる方式で、翻訳した原稿量 に比例した報酬が支払われます。印税だとベストセラーが出れば翻訳者も儲かるわけですが、通 常の単行本では印税のほうが買い取りより報酬金額は少なくなります(それだけ売れない本が多い)。単行本で買い取り方式を採用するケースもあります。

買い取りの場合、翻訳量を計算する単位として翻訳前の英文のワード数を使う方式と翻訳後の和文の原稿用紙枚数を使う方式の 2 通りがあり、従来の翻訳業界では後者の原稿用紙ベースが主流でしたが、最近の IT 翻訳業界では前者の英文ワードベースが主流です。後者の原稿用紙方式では、今どきワープロを使わない翻訳者はまずいないため、ワープロ出力ファイルをどう原稿用紙の枚数に換算するかがよく問題になります。翻訳会社によって換算方式は異なりますが、私の会社では英文 110 ワード = 訳文 330 文字 = 訳文原稿用紙 1 枚という式を使っています (ただし目安にしかなりませんのでご注意ください)。

ここまでの説明でお分かりの通り、在宅 IT 翻訳者の収入は毎月の翻訳ワード数と翻訳単価をかけた金額になるのが普通 です。そして翻訳単価は、私の見聞した範囲では英文原稿 1 ワードあたり最低で 5 円、最高で 35 円という仕事を聞いたことがあり、一般的には 7~25 円の範囲内かと思います。例えば単価がワード 10 円の翻訳者の場合、"My name is Bill." を翻訳すると 40 円もらえて、仮に時速 250 ワード (1 時間に 250 ワード翻訳する速度) の翻訳者なら時給 2,500 円で働けることになります。

と書きましたが、実際の仕事では翻訳している時間の他に営業、調査、休憩などの時間がありますから、翻訳そのものはもっと早い速度で仕上げないと時給は 2,500 円になりません。平均的にどの程度の分量を翻訳できるかというと、フルタイムで翻訳するプロ翻訳者の場合、月に最低 3 万ワード、通常は 4 万ワード前後でしょうが、リファレンス系などで速度があがる場合は 7 万ワードを超える人もいるようです。ざっくりとした目安として週に 1 万ワードできればプロ翻訳者の速度でしょう。

週に 1 万ワード翻訳するには 1 日 2,000 ワード翻訳できないと休日がとれないわけで、翻訳の速度が遅いと休みなしで働いて体を壊すか翻訳がはかどらずに収入が減るかどちらかになります。受注に切れ目があったりして 2 週間程度のブランクが生じることはたまにありますから、一定の年収を確保するには、1 日 3,000-4,000 ワードで翻訳する力がないと、なかなか安定した収入は得られません。プロ翻訳者にとって翻訳速度がいかに重要な要素か、よく分かると思います。

平均的なワード単価がどのくらいになるのか私には分かりませんが、私の印象ではワード 15 円の仕事を請ける翻訳者はかなりいるように思います。仮にその翻訳者が平均して月 4 万ワード訳したとしても月収は 60 万円、年俸は 700 万円超える程度です。これは、OL やサラリーマンなどの会社務めと比較して安いでしょうか、高いでしょうか?( フリー翻訳者では出費を経費計上して節税をはかれたり、適用される社会保険がサラリーマンと違ったりするので年収だけの単純比較はあまり意味がありませんが...)

男性の場合、年俸 700 万円ならおおざっぱに言って 20 代の場合はサラリーマンに勝ち、30 代後半以降の場合はフリーの負けになるのが普通、というのがこれまでの印象でした。しかし、ご存じの通 りここ数年の不況は日本経済が確実にグローバル経済に組み込まれつつあることを示しています。従来のサラリーマン天国の賃金体系や雇用保証の神話は確実に崩れてきています。私の予想では 35 才以上のサラリーマンの年収は一般的には今後下がっていくと思われ、雇用の安定性でもフリーとサラリーマンの格差は縮まるのではないかと見ています。

女性の場合、会社勤めでは多くの企業で現実に男女格差が存在するのに比べてフリーの場合は私の知る範囲では男女格差はまったくありませんから、待遇的にも気分的にも、会社勤務と比較してフリーランスになるメリットが男性よりも大きいのではないかと思います。

フリーの雇用は一見不安定に見えますが、自分に次の仕事がどの程度もらえそうかを、自分の実力や市場の動向に基づいてかなりよく把握できます。一方でサラリーマンは、会社の規模がいくら大きくて本人がいくら有能でも、トップが無能だとある日突然会社が倒産することは山一証券や長銀の例を見れば明らかです。会社が破綻してみないと自分が置かれた状況が分からないという点では、タイタニック号の乗客が船室からは外の状況が分からないのにたとえられるでしょう。フリーは小舟の船長のようなもので、沈没する危険は常に高くても周囲の海の状況は豪華客船の乗客よりはよほどよく見えるものです。自己責任で人生をわたりたいと思う人には向いていると言えるでしょう。とはいえ、病気やケガの場合もフリーはかなり不利ですから保険などの備えが必要です。


フリー翻訳者と休暇

今週は休暇の話をしましょう。前にも書きましたが、会社勤務からフリーランス翻訳者に転職してまず思い知ることのひとつに「フリーランスにはフリーになれる時間がない」という逆説的現実があります。

会社勤務の場合、残業が多い人でも土日のどちらかは普通は休めますし、休みの日に仕事の電話やメールに自宅で悩まされることは原則としてありません。一方、フリーランス翻訳者はいつ仕事がとびこんでくるか分からないところがあり、週末に急ぎの仕事を受けることもあれば、納期のきつい仕事で土日もぶっとおしの翻訳を強いられることもあります (そもそも「週末」という概念がフリーランスの場合あまり意味を持たなくなるわけですが、少なくとも得意先の翻訳会社が休みになるおかげで納品の督促電話がかかってくるストレスがない日が週末、という意味はあるような気もします...)。

適当に仕事を断って受注量のバランスをコントロールできればいいのですが、フリーランスの悲しさでなかなかお客さんに対して NO を言えず、誘われた仕事はついつい受けてしまうことになりがちです。この結果、優秀な翻訳者ほど忙しくなってしまい、土日がないという事態にはまりがちです。

仕事がないと困るとはいえ、常時忙しいのも精神的に燃え尽きてしまいますから、長持ちするフリーランスになるためにはどうしても上手な休暇の取り方を身につける必要があります。そこで、翻訳会社側からみた上手な休み方のコツをいくつか紹介します。

(1) 年に2回は海外旅行に行く

別に海外旅行でなくてもいいんですけど、年に1~2回は1~2週間の長期休暇をとってリフレッシュしたほうがいいと思います。さいわいフリーランスの場合、OL やサラリーマンが動けないシーズンオフやウィークデーに休暇を取れますから、その有利さをフルに活用しないとせっかくフリーになった甲斐がないというもの。あくせく満員電車で出社する会社勤めの人たちをしり目に海外旅行先でくつろぐ、といういい思いもしないと、フリーのつらい部分ばかりに押しつぶされてフリーがいやになってしまうと思うんですよね。

長期休暇を取ると得意先の翻訳会社から切られたり嫉妬?されたりするのではないかという心配もあるかと思いますが、翻訳者も B クラス以上になるとそう簡単に切られないと思います (保証はしませんけど)。頼りになる翻訳者はいつの時代もどこの会社も不足しているので、休暇を取ることをできるだけ早めに宣言しておいてくれれば、コーディネーターはそれにあわせて仕事をスケジュールするでしょう。

狙い目はプロジェクトの切れ目で、1~2 ヶ月続いたプロジェクトが終わったら海外に行きますと翻訳会社に対してあらかじめ宣言しておくのもよいでしょう。まあたいていの場合プロジェクトのお尻はずるずるのびるので出発日の設定に多少注意が必要ですが。

(2) 平日に休む

これも、子供の学校の都合があったり配偶者や恋人が会社勤めだと困難だったりするので口で言うほど簡単ではありませんが、平日にレジャー施設を利用すると、フリーになってよかったと実感できることでしょう。スポーツクラブのように、サラリーマンが特定の時間帯に集中するような施設については、すべて平日利用の法則は適用できます。

(3) 適当に逃避する

いろいろ書きましたが、最後はやっぱりこれでしょう。これは私の個人的な経験で他の人は違うのかもしれませんが、納期や品質の要求がきつい仕事ほど逃避願望も強くなるようで、自己管理に苦労します。まあ私の場合、自己管理はあきらめて現役生活にピリオドを打ってしまったので、逃避願望をどう制御するか語る資格がないんですけど...

また、どういうわけかプレッシャーがかかった仕事を納品した直後ほど、自分の創造性が大きく解放されるような経験則もあります。私の場合、新しいソフトウェアを試したりスキルアップのために勉強したりするのに一番効率がよいのは、きつい仕事を納品した直後の開放感にひたっている日なんですよね。

逃避願望といい、納品直後の創造性解放といい、自分の性格の波を把握して事前に展開を読んだうえでレジャー計画をたたておくとうまく生活設計できるのではないかという気がしますが、これも今の私には語る資格がないのでやめておきます^^;。


フリー翻訳者と税金

今週を含めて過去 5 回にわたって「ミクロの視点から見た実務翻訳者の生活」について述べました。今週はこのシリーズの最後として、税金の話題に触れたいと思います。

フリー翻訳者はたいていの場合、個人事業主として確定申告を行うことになります。個人でも節税や営業のために有限会社にしている人もいますが、経理はかなり面 倒になります。

サラリーマンをやめてフリー翻訳者になった人は、最初の年は無我夢中なので税金の支払い方がわからないまま確定申告の季節を迎える場合も少なくありません。フリー翻訳者への支払いは原稿料扱いになり、翻訳会社側で 10% (100 万円を超える部分については 20%) の源泉税が天引きされた残りが翻訳者の口座に振り込まれます。

翻訳会社が天引きした翻訳者の源泉税は、翻訳会社から税務署に定期的に集金(上納?)されています。翻訳会社は、毎年1月、前年1年間に翻訳会社から翻訳者に支払ったすべての翻訳料と徴収した源泉税の全データを「支払調書」という書式で税務署に報告する義務があります。税務署は、報告された支払調書によってフリー翻訳者の年収を捕捉できるしくみなので、いくらバックレても税務署からは逃げられません。この支払調書の控えは、毎年1月くらいに翻訳会社から各翻訳者に郵送されてきますので、翻訳者はそれを使って確定申告を行います。

ごちゃごちゃした説明でよくわからないという方のために要点だけ繰り返すと、国家はフリー翻訳者の収入を、その入り口のところで待ちかまえていて多少余裕をみて多目に (=10%) ピンハネしていますので、フリー翻訳者がどこに逃げようが、怠けて確定申告を怠ろうが、それほどあわてません。一方、フリー翻訳者の方はデフォルトでは 10% を国家にピンハネされていますが、税法上の所定の納税額は 10% に到達しない場合が多く、何もしないでほっておくと、本来は払わなくていいお金まで余計に支払うはめになります。

それがくやしい人は、確定申告をして余分にピンハネされた分を「還付」という名称で取り返す必要があります。取り返し方ですが、毎年確定申告の季節 (2/16-3/15) 前になると書店に必ず「上手な確定申告」みたいな本が並びますから、何冊か立ち読みして自分にあう本を買ってその手順にしたがってやれば思ったよりも簡単です。ちなみに私の好きな本は今年の確定申告期では「'98年版 ビンボーなあなたの確定申告楽勝マニュアル」(造事務所編著、情報センター出版局発行)でした。確定申告では税務署に出かけて窓口の担当者に手引きしてもらいながら申告書を出すのですが、意外に親切で思ったより優しいように思います。

ただ、問題は事前の準備で、(1) 青色申告の申し込み、(2) 領収証の保管、などは確定申告のときにあわてても間に合わない場合がありますから、サラリーマン退職時に考えておく必要があります。直前になって領収証をかき集めるよりもふだんからこまめに集めておくほうがたくさん集まります。青色申告をする場合は新規開業から 2 ヶ月以内に税務署に青色申告をする旨申し込む必要があります。フリーの個人は青色申告と白色申告の 2 種類を選べますが、青色申告は多少帳簿の付け方などが面倒な一方で控除が受けられるなどの節税メリットがあります。

また、フリー翻訳者でも税理士さんと顧問契約を結んで、節税のアドバイスを受けるのは有効です。たとえば自宅を仕事場にしているフリーランスの場合、自宅の賃借料、電話代、電気代のうちどの程度の金額を必要経費に計上できるのか、というような疑問を解決してくれたり、自分では経費になることに気付いていなかった科目を教えてくれたりというプロならではのアドバイスを受けられます。税務署の納税窓口で相談すると相手は税務署の職員ですから、いくら親切でも節税という観点がありませんが、税理士さんなら納税者側に立ったアドバイスをくれます。

税理士なんてどうすりゃみつかるの?という話ですが、確定申告の時期にはどの税務署でも「無料確定申告相談」というのをやります。そこで相談に乗ってくれる相手は、税務署の職員ではなく持ち回りの税理士さんなので、そこで自分と相性のあう人をみつけて、翌年から顧問になってもらうというのがいいだろうと思います(私自身はそうしました)。

住民税

地方税とも呼びます。確定申告を乗り切って安心していると、前年分の所得に対する地方税の納付通 知書がカウンターパンチのごとく 6 月頃送られてくるので心構えしておきましょう。ついでに社会保険ですが、フリー翻訳者の場合、年金は「国民年金」、保険は「国民健康保険」に加入します。

(1999年10月4日執筆)

おまけ:ある翻訳者の一生

  1. 優秀な翻訳者はどんどん仕事がくる
  2. 仕事がどんどんくると勉強する時間がなくなる
  3. 勉強する時間がなくなるとバカになる
  4. バカになると優秀な翻訳者でなくなる
  5. 優秀な翻訳者でなくなるとヒマになる
  6. ヒマになると勉強する時間ができる
  7. 勉強する時間があるとかしこくなる
  8. かしこくなると優秀な翻訳者になる
  9. 最初に戻る。以下、死ぬまで繰り返す
利用上の注意:このホームページは執筆当時(1999-2000年)の状況について述べており、すでにかなりの記述が「時代遅れ」となっていますが、原則として当時のままの内容を修正せずに公開しています。ご注意ください。