RE:ぞんびぃず 後編 1


RE:ぞんびぃず 後編 ~新たなる、霊長類~

 

 

 

不意に起こった抗争の後、それぞれまったりとした時間を過ごしていた。倒した敵はその安否がしっかり確認された後、火の中に投げ入れられた。立ち上る煙と臭いに全員がもんどりうったが、今となってはそれぞれの普段が取り戻されていた。

そしてコレットの口から追いかけられるまでの経緯も、その間に話された。

 

「なぁ。あんなことがあっちゃ、気軽に探索なんて出来ないよな。」

 

少しの沈黙の後、コレットが口を開いた。

 

「そうだな。最初に何もなかったからか、甘く見てたのは否定できない。」

 

賛同したアンティは、大きなため息をついた。

 

「かといってこのまんまダラダラし続けるのも、おかしな話だよな。」

 

イバンはどこかうずうずしているようで、落ち着きが見えない。

 

「確かに。何の意味も無い。」

 

アンティは重力に任せ、背中から地面に倒れ込んだ。

 

「お前らさ…。バカなんじゃねーの?」

 

その後無意味な沈黙が続いたが、近くの木に背中から持たれているハロルがしびれを切らした様に声を上げた。

 

「んだと?」

 

反応したのはイバン。それをコレットが制した。

 

「何この辛気臭い雰囲気。敵が出たぐらいで脳みそ腐りだしたんじゃねーのか?もしそうだとしたら逆戻りだな。」

 

ハロルは立ち上がって一人一人を見下始めた。

 

「そうじゃない。慎重に…。」

 

「どこがよ。考えてどうにかなる問題か?さっきのではっきりしたじゃん。ゲルト以外、しょうもないトラウマが邪魔してただのごく潰しになってただけじゃねーか。」

 

ハロルは、アンティの発言を遮る様に続けた。

 

「しょうがないだろ!皆が皆お前と一緒と思うんじゃねーよ!」

 

イバンがコレットを差し置き、ハロルに噛みついた。

 

「だれがんな事言ったよ。別に生まれ持った本質まで、足並み揃えろなんて言ってねーだろ。問題が起きたらどうすんだ。対策して、攻略しなきゃいつまでたっても進歩しねぇ。特にさっきの事なんて、お前らが抱えている事が再び繰り返される所だったんだぞ?事が終わった今の姿見てたって、ボケッとしてる様にしか見えない。だからバカかっつったんだよ。」

 

ハロルは感情を押し殺すように、静かに言い放った。

 

「それぐらいわかってるよ!だけど怖い物は仕方ないだろ!」

 

今度はファーディーが噛みついた。

 

「そうかぃ。それじゃあ次にお前が単独で襲われた時は、抵抗もせずまた喰い散らかされるんだな?」

 

ハロルはファーディーの目の前に近寄り、じっと睨みをきかせた。

 

「……。」

 

ファーディーは威圧されたのか、口をつぐんで下を向いた。

 

「あんな事があって、今度またいつ襲われるかってなんで考えられねぇんだ。少しでも頭にあんなら、こんなのんびり出来ないはずだ。」

 

ハロルはファーディーの前から動かない。

 

「じゃあ、ハロルはさっきの事想定してたって事?」

 

ファーディーは顔を上げ、力ない声で聞いた。

 

「あぁある程度な。遅かれ早かれ、あんじゃねーかなとは思ってたよ。」

 

ハロルは膝を曲げた体勢から、勢いよく立ち上がった。

 

「だったら教えてくれたら良かったじゃん。僕たち元々ゾンビだったんだから、同じゾンビに襲われるなんて夢にも思って…」

 

「知らねぇよ。まだそんな事言ってんのか。仮にまた殺られた時に、それを思って納得できんのか?今や何の因果か、生き返ったようなもんなんだ。こうなりゃ細かい事は打ち捨てて、同じ轍は踏まない様に考え巡らせるのが自然だろ。はぁ……実の所あぁは言ったが、俺にだって恐怖心はあんだよ。それがお前らよりうっすらとしてるだけだ。」

 

またも人の発言を遮ったハロルは、尚も冷たい目でファーディーや他の面々を見た。

 

「ハロル。すまなかった。」

 

イバンはハロルに向かって頭を下げた。

 

「…んな事してる暇あったら、てめぇに足りない物考えろ。バカタレ。」

 

ハロルは背中を向けた。幾分照れ臭そうだ。

 

「なぁハロル。あんだけ興味なさそうだったのに、どうしてそんな急に…。」

 

コレットは立ち上がり、ハロルに一歩歩み寄った。

 

「あ?別に何もねーよ。つーかあったとしても知ってどうすんだ?」

 

ハロルは振り返り、コレットに詰め寄った。

 

「あ、いやぁ、参考にと言うか…。やっぱり向かっていく姿勢みたいなんを見習いたいと思ってさ。」

 

気圧された感は見て取れないが、コレットは白旗を振っている。

 

「ふん。お前が俺に感じた事を、俺はゲルトの立ち振る舞いを見て感じたんだよ。もしまた不意を突かれて囲まれたって、ゲルトが背中にいりゃなんとかなるとも思えたしな。」

 

そう言ってハロルは一歩下がった。

 

「そっか。」

 

コレットはそう言って笑みを作った。

 

「なんだよ。気色悪ぃな。」

 

そう言ってハロルはもう一歩下がった。

 

「なぁアンティ。そろそろ次にすべき事思いついてんだろ?言ってやれ。」

 

コレットはハロルの動向を気にせず、アンティに視線を向けた。

 

「は?!お前が言えばいいじゃん。このまま俺が言ったらお前、ハロルの言った通りただの気色悪いだけの奴になるぞ?」

 

アンティは虚を突かれたのか、少々しどろもどろに対応した。

 

「俺は気にしない。何せ、お前が言う方が締まるし。」

 

コレットはそう言って、ドカッとその場に座った。どこか満足気だ。

 

「それでは不肖ながら私が…。」

 

コレットが変な持って行き方をした為か、場には厳粛な空気が流れ、アンティはそれに沿って粛々と喋りだした。

 

「やっぱ厳しいかな。」

 

ぽつっと呟いたハロルだったが、その声は他の面々に届かなかったようだ。

 

 

▽▼▽▼▽

 

 

やっかいな空気の中、ゲルトとハロルを除く4人で大激論が展開されていた。その間ゲルトは辺りの木を切り倒し薪にしたり、アンティの片手間な説明を受け、魚取りに興じていた。ハロルは新たな太木を手にし、素振りを行っていた。

 

「とにかく向かっていくには強みが無いと…。」

 

「そういやさ、最初に泥沼ゾンビと出くわしたとき、ファーディーすごかったんだよ!なんつーか、足でボカンと一体やっつけてくれてさ。」

 

「ごめん。覚えてないや。」

 

「とにかく今噛みつかれたらどうなるかなんてわからない以上、接触は避けた方が良いだろ?てことは近づけない為に、もしくは近づかれた時の為に何かしなきゃなんだけど…。そのファーディーの足でボカンて奴は武器として考えない方が良いと思う。万が一掴まれちゃったらアウトだろ?」

 

「あいつら火を怖がってたけど結局向かってきたし、それで退けられるとしても常に点いてる奴持ち歩くわけにいかないし。かと言って話し合いなんか無意味だろうしな。」

 

「俺寝てみようかな…。何か出るかも…。」

 

各々からいろんな意見が飛び交う中、一向に打開策に引っかかりそうな具体案は出なかった。

 

「なぁゲルト。こいつら放ってあっち行ってみない?」

 

ハロルは素振りに飽きたのか、持っていた木を投げ捨ててゲルトに寄って行った。

 

「それはダメだ。何かあったらどうする。今彼らは一生懸命解決策を考えてる最中だ。邪魔をするべきではない。」

 

ゲルトはハロルに目もくれず、斧で木を割りながら答えた。

 

「そうは見えねぇけど…。ん?あれなんだ?」

 

ハロルの視線の先には、木から伸びる枝や背の高い草が生い茂っているが、所々不自然に動いている様に見える。

 

「……。止まった。気のせいか。」

 

しばらく見続けたハロルだったが、一息ついて視線を戻した。

 

「どうした?」

 

同じく一息をついたゲルトは、ハロルへと顔を向けた。

 

「ん、いや…。なんでもない。」

 

ハロルはそう言って4人の元へ向かった。ゲルトもひと段落ついたのか、同行した。

 

「おい。井戸端会議は済んだのか?」

 

ハロルは場所に着くなり、4人を見下ろしつつ皮肉を振りまいた。

 

「あ?雑談なんて1mmもしてないね。」

 

それに反応したのはイバンだった。キッと睨み上げている。どうやらさっき謝ったとて、まだまだハロルの発言に従順する気は無い様だ。

 

「まぁ人の価値観はそれぞれだからな。」

 

ハロルは嫌な態度を止めようとしない。しかしだいぶ歩み寄って来ているのは見て取れる。

 

「ゲルト。木の登り方教えてくれない?」

 

イバンはハロルを無視し、ゲルトに視線を送った。

 

「それは構わないが、なぜだ?」

 

ゲルトは場の空気を跳ね返した。

 

「色々武器に出来そうな物は周りにあるんだけど、やっぱり一朝一夕には行かないだろうし、特訓中に敵襲があった場合に木の上に逃げられれば二人の邪魔にならないと思うんだ。やっぱ守りながらだと、やりにくいだろ?」

 

イバンはゲルトの方へと向き直った。目は爛々とし、意欲に燃えているのが窺える。

 

「それにいっぱしに扱えるようになったとしても、またいざって時に怖気づいちゃうかもしれないし…。」

 

ファーディーが続けたが、イバンとは逆に力なく発言した。

 

「俺が見つけた蔓を駆使して、逃げるなりとび蹴りかますなりとも思ったんだけど、どんくさい事にもなりかねない。もっと熟練するまでの間は、二人がピンチにならない限り、お荷物にならないようにって答えが出たんだ。」

 

アンティは言いながらゲルトから受け取っていた蔓の端を持ち、誰もいない方へムチの様にしならせた。

 

「それにいつまでもベイスの事を引きずっててもな。」

 

どちらかと言えば言い聞かせている様に感じるコレットの発言に、アンティは反応し頷いた。

 

「よくわかった。それじゃあ早速やるか。」

 

ゲルトの声に4人は立ち上がり、手近な木へと向かっていった。そしてゲルトの手本に習いながら、それぞれ3m位の所にある枝程度なら登れるようになった。

 

「太い枝だからってすぐには乗るなよ。追われてる時にそんな余裕ないかもしれないが、ゾンビの手が届かない所まで登ったら見かけ倒しじゃないかどうか確認するんだ。」

 

最後のゲルトの忠告を、4人は深く心に刻んだ様だ。一方暇を持て余していたハロルは、少し離れた所にてちゃっかりゲルトに習い、木登り練習に興じていた。

 

 

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