melancholy 1

 

 

melancholy ~病は気から?そんなバカ言ったの誰?~

 

 

「死ねる。死ねない。死ねる。死ねない。」

 

持っていた花の花弁は6枚。このまま行けば、こいつは死なない。

 

「フーング…ヌググ…フアッフアッフア…!!」

 

猿ぐつわをされ、見るからに苦しそう。言いたい事も言えずに、どんどんと呼吸ばかりが乱れている。

 

「あ、そうだ。この花占いは…あんたが楽に死ねるかどうかを占ってるだけだからね。あなたもこうするよ。」

 

私は花弁が残った花をゆっくりと男の眼前に近づけて、茎の部分で鼻をつついた。

 

「私とヤリたかった?そうじゃなきゃ声なんてかけないよね。」

 

私は無表情のまま花を捨てて一本の縫い針を取り出し、男の耳の穴を針先でなぞってから奥へと挿し込んだ。

 

「フググググ…ッ!?」

 

男は恐怖でか、首や顔の筋肉が固まってしまった様だ。額からは脂汗が次々と吹き出ており、男の精神状態をくみ取る事は容易。

 

「あのね?ボーっとしたい時ってあるでしょ?あの時、その状況だったの。他にも女なんていたじゃない。何でしつこく声かけてきたの?」

 

私は男の耳の奥の形を確かめる様に、持ち続けている針先を動かした。今の所刺さった様な感触は無い。

 

「……。」

 

男は猿ぐつわ越しのうめき声すら出さなくなった。体の力も完全に抜けた様で、目元を全て覆い隠している布は、下部が湿りだした。

 

「泣いてるの?怖いの?それとも後悔?」

 

私は耳から針を抜いた。しかしそれに対する反応は無かった。

 

「はぁ。つまんない。」

 

私は指の力を抜いて、針を足元に落とした。そしてその場にしゃがみ込み、男を座らせている椅子の足部分を両手で一本ずつ持った。手にずしりと重たい感触が伝わってくる。

 

「生温いよね。」

 

私はぽつっと呟いた後、両手を上にあげた。

 

ドスンっ!!

 

部屋の中に鈍い音が響き渡った。男はSM用のロープで上半身を五重に巻かれ、余ったロープはそのまま背もたれを経由して足元へ伸びている。そして両足首はそれぞれ三重巻きにされ、残りのロープは曲木椅子の後ろ足に固定された。なので動かせるのは足だけ(と言っても背面側に向けてのみ)で、他は遊びも無く、男の意思など届きようも無い状態だ。その為何の抵抗も出来ずに、重力のまま背中から床へと倒れて行った。

 

「ねぇ聞いてる?さっきからシカトしてるけど。時間返せって言ってんの。お金とかいいからさ。あんたのせいで考えてた事も忘れちゃったじゃん。どうしてくれんの?それに今の音で面倒くさい事になるだろうから、早く答えてくれない?」

 

私は同じ場所に立ち上がり、男を見下ろした。男はさっきと接地面を変えただけの状態で、引き続き固まっている。私は男の脈を確認した。

 

「動いてないね。人間てこれしきの事でショック死するものなの?そんなのに無駄にされちゃった…。やっぱり慎重を期して、人目がつかない様に。なんて思うもんじゃないわ。やっぱり生温いよね。」

 

私はため息も出ず、部屋を後にした。

 

 

▽▼▽▼▽

 

 

「ねぇねぇ彼女!暇なの?」

 

また声をかけられた。今度は若い男。あれからどれ位経ったんだろう。私は同じ場所に戻ってきていた。

 

「……。」

 

私は髪で顔を隠して、消え行くのを待った。

 

「ねぇって。聞こえてんだろ?!」

 

二言目と言うのに、声が荒くなった。

 

「……。」

 

私は口の端で笑ってしまった。無論、声には出てないし、男から見えても無いだろうけど。

 

「はぁ。今日は日照り続きだなぁ。俺の見る目も衰えたかな?」

 

仲間がいるのか、男は談笑しながら離れて行った。その様子からも、人のポイ捨てを難無く出来る奴だという事が見受けられた。

 

「まだ帰らねぇって!今何時だと思ってんだよ。22時ってのは今から遊んでくださいよって言う時間だって何べん言えばわかんだっっ!!!二度と掛けてくんじゃねぇぞ!」

 

「今から居酒屋いかがですか?!ちょうどね~ビール何かのサービスもやってんですよ~、さぁどうぞどうぞ!」

 

「明日のコミケの服装、まだ決めてないでござるよ。」

 

「それならミクたんでいったらどうナリ?注目間違いなしっっ!」

 

「う~ん…。うん、そうでござるなっ!」

 

街中で座っていると様々な声が聞こえてくる。共感出来たり、耳に飛び込んでくるような会話は無いに等しい。

 

〝えーっと…。また最初からだ。〟

 

私は一人でいる事が出来ない。こういった雑踏の中に居ないと、少しずつ種が育ち、やがては目に見える全てを壊しても満足できない狂人になる。その為四六時中人通りのある、この場所で日々を過ごしていて、病院を抜け出してから今で3回朝を迎えた。

 

私はお金を一銭も持っていない。なのでおなかが空いたりお風呂に入りたくなると、さっきみたいな行動をとる。声をかけてくる男の魂胆は一貫してるけど、私にはその欲が無い。だから連れ込まれた場所で思いついたままのおもちゃに仕立て上げ、支離滅裂なセリフを織り交ぜながら暇つぶしに使っていた。今回は一晩中遊ぼうと思っていたのに、すぐに壊れてしまった。これまでは様々な反応があってとても楽しかったのに、死んじゃうなんて。殺しちゃったのは、抜け出してからというもの初めてだ。

 

病院にも他に人はいたけど、とても物足りなかった。病院染みた色々な道具を使ってみたかったのに、手の届かない所に置かれる始末。そんなんじゃやる事限られて普通の人には飽きちゃったし、病んでる人にはやりがいがない。だって傷つけた所で泣きわめく位はあるけど、どちらかと言うと無反応な事の方が多いんだもの。このように私は発作が出なくても、イタズラが癖づいてしまっている。

 

♪ルイジアナのかなり南方、ニューオリンズのほど近く 深緑の森の奥深くに 粗末な木の小屋が立っている そこに住むのはジョニーと言う田舎者の青年 勉強・読み書きできないが、驚くようなギターを弾く♪」

 

私は唯一知っている洋楽の和詞を、適当なメロディーで小さく口ずさんだ。ある映画のおかげでこれに出会い、聞いた途端になぜかメロディーそっちのけで詞を訳したい衝動にかられた。恐らく作詞者本人の意向とは違う意味になってる事だろうが、とても気に入っている。ついでながら適当と言った部分に関しては、訳してしまうと本来のメロディーに乗っからない為、歌ってるうちにこうなっただけ。

 

「ふふふ。」

 

歌い終わり、私はご機嫌に笑った。

 

「りっちゃん。探したわよ。」

 

この声が耳に入った途端、頭痛が巻き起こって見る見るうちに私の中のスイッチが入った。病院では私をがんじがらめにする事しか頭に無い、婦長の声。

 

「ぎゃぎゃぎゃーぎゃー!!キィー…イ、キィー…イ、キィーイ。」

 

奇声が辺り一面に響く。その事はわかっていても、止める事なんて出来ない。

 

「静かにしなさい!帰るわよ!」

 

私の体は、大人数人に担ぎ上げられ、道路に止めていた車に押し込められた。

 

 

▽▼▽▼▽

 

 

melancholy 2

 

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