半生りびじょん 1

 
 
 半生りびじょん ~夢か現か幻か~
 
 
 
「あ、当たってる。」

 

ある日、私は旧知の仲間と居酒屋でささやかな楽しみを満喫していた。

 

「いくら?」

 

友人は自分の持つ宝くじから目を離さず口を開いた。

 

2億。見て。」

 

私は宝くじを買う際必ず『バラ』で購入する。

 

「おぉ。億万長者やん。…ええから邪魔せんといてって。」

 

友人は信じていないようだ。相も変わらず自身の当たり確認に余念がない。

 

「1等当たったて。」

 

他の高額当選者が歴代どのようなリアクションを取ってきたのかは知らない。だが恐らく地味さでは私がぶっちぎりだろう。

 

「…ふっ。」

 

友人は手を止めた。そして軽々しい私の当選くじの持ち方を見て、人を食った様に鼻で軽くため息を吐いた。

 

「……!!?」

 

友人は私からくじを受け取ると、黙々とそれぞれが持っている当選番号が書かれた新聞と照らし合わせた。そして瞬く間に戦慄と言っていい程の空気を、のどかな1テーブル席に張り巡らせる。

 

「な?」

 

完全なる温度差は辺りの時を止めたようだ。と言っても友人のだけだが。

 

「お前去年、同じ手使ったやん。ほんで去年は箸にも棒にもひっかかってんかったやん。…てよりその感じ何なん??」

 

友人は先ほどとは違い、肩で息をし出した。

 

「いやーだってさ。金あったらその分生きなあかんやん。」

 

私はビールを口にし、その後背もたれによりかかった。

 

「おまえそれよー言うけど、もう現実逃避せんでええやんけ!2億やぞ!!!」

 

友人は少し取り乱しながら、金額の所のみ忍び声でしゃべった。確かに周りに聞こえれば、どうかなるかもしれない。ついでに言うと、私が発した時は何一つ波風は経たなかった。

 

「ビートたけしみたいにばらまこかなぁ。あぁでもあの人にとっての浅草みたいな町…俺にはないわ。おまえいる?」

 

私はテーブルの上が寂しく感じ、新たな注文をしようかとメニューを見た。

 

「……俺…も、有意義に使える自信ないわ…。お前がその気なら、金が無いってだけで不遇を強いられてる人にあげるのがベストやんな。」

 

友人は当たりくじを出来るだけ壁側に大事に置き、一点を見つめ始めた。なぜ絶望感を滲みださせる必要がある。

 

「そらそうやけど…。俺らに見極められる目ある?」

 

打って変わって友人の雰囲気に伝染もせず、私はニヤついた。これだけの大金を目の前にしても、結果的には豹変しない友人に笑わせられている。

 

「ない…わぁ~…。」

 

友人は頭を抱えた。

 

「あ…。被災者…。今も仮設住宅に住んでる人ってかなりいてはるやんな?」

 

私は自分自身をわかってるつもりでいるので、悩むことなく案を出した。数年前に、未曾有の災害が遠く離れた地を襲っていた。

 

「あ…。ほんまや。何世帯なんやろ…。上手い事平等に配分できんかな。」

 

友人も私同様。なんなく切り替え、方法を模索し始めた。

 

「俺らでやらへん?義援金として寄付したらきちんと使われへん可能性の方がでかいやろ。既にそうなんやし。」

 

ここの所の国内ニュースを賑わせるまではいってないのかもしれないが、つい先日その報道がなされたばかりだった。

 

「せやな。じゃあ休みの日使って早速やろか。」

 

私達に決まった休日の過ごし方は無い。家に居たって中身は無いし、外に出たって中身は無い。まぁ外に関しては多少生きる為に必要な物を買うぐらいはするので、全く無い事も無い。どちらにしろ朝、目が覚めるのは、予想のつく1日が始まったよって言う合図である。

 

「おし。ほんならまず…これの換金は情報集めていよいよになってからにしよう。換金してもたら守れる自信が無いっつーか銀行の言いなりになりそうや。」

 

これは単なる風の噂だが、高額当選金を換金する場合は銀行で行う必要がある。しかしその際に必ずと言っていい程、預金なり投資なりの話を持ちかけられるそうだ。この年にもなって断りきれる力は持ち合わせていない。

 

「あぁダサ…。でも言い返されへん。」

 

友人は訪問販売にて支払った総額が、ついに高級車一台分を越えた。元々使うあてもない持ち金ではあるが、完璧なる無駄遣いに至った事は重々承知している。友人共々己に対して感じたみすぼらしさはそこそこに、私は二つ折りの財布に当たりくじを大事にしまった。そしてすっかり酔いも食欲も冷め、友人と次回の約束を取り付けた。それまでに必要な事項を調べる事になった。
 
 
 
 
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