霞ヶ浦導水事業と桜川・千波湖の浄化問題
霞ヶ浦導水事業による魚類・生態系影響評価委員会事務局

1.はじめに
  那珂川はアユをはじめ多くの魚や水生生物が生息する清流であり、水戸市をはじめ多くの自治体の水道水源としてかけがえのない財産である。この貴重な自然環境を守り後世に引き継ぐことが私たちの大きな責任であるが、国はこの自然環境に重大な悪影響をもたらす霞ヶ浦導水事業の那珂川取水口を建設しようとしている。那珂川と桜川を結ぶ導水トンネルと桜機場は完成し、残す工事は那珂川取水口だけという状況である。
国交省も茨城県も水戸市も、霞ヶ浦導水事業を推進する理由として、①利水=水を行き来させることで安定水源を確保する、②霞ヶ浦に那珂川の水を導水し浄化する、③那珂川の水を桜川・千波湖に導水し浄化することをあげている。そのうち、現在最も強調されているのが③の那珂川からの導水による桜川・千波湖の「浄化」である。そこで、これまでの渡里用水を利用した導水実績を検討するとともに、本来あるべき桜川・千波湖の浄化対策について検討する。

2.導水ルートの現状
  桜川・千波湖への那珂川の水の導水は、1988年より農業用の渡里用水を利用して実施されてきた。渡里用水を管理する渡里台土地改良区の取水口・機場は、霞ヶ浦導水の那珂川取水口計画地から300メートル上流に位置している。渡里土地改良区はポンプを2台保有しており、1台が毎秒1.4トン、2台で2.8トンが渡里土地改良区の水利権である。このうち桜川への導水は毎秒最大1.4トン(日量最大7万5600トン)が可能とされている。
ポンプでくみ上げた水は渡里用水路を経由し、桜川と交差する河和田町地内(市営河和田団地脇)で、機場で遠隔操作された水門から桜川に導水される。その後、桜川を下った水は、好文橋付近でラバーダムにせき止められ、公園内の暗渠を通って月池に流入、黄門像の付近で千波湖に流入している。

3.渡里用水を使った導水量は減少の一途。原因は予算の削減
  渡里用水を利用した導水量の年次推移をみると、開始2年目の1989年をピークに減り続けている。桜川への導水は、県と渡里土地改良区との委託契約により、導水のために必要なポンプ施設の電気料・人件費等を市と県が負担して実施している。年度当初に結ぶ契約書に年間予算の上限額が明記されており、予算が年々削減されたことに伴いポンプ稼動日数が減るため必然的に導水量が減っている。
先に示したように、桜川に毎秒1.4トン(日量7万5600トン)の導水が可能としているが、県・市の予算が減り実際はそこまで流したことはない。過去20年間の導水量の年間平均は850万トンで、導水日数は年平均182日である。日量平均は2万3391トンで、導水日平均で毎秒0.54㌧の実績にとどまっている。特に、平成18年度の実績は659万トンで最高時の平成元年1360万トンの48.7%しか導水しなかった。那珂川から導水しない場合は桜川の自流水のみが千波湖に導水されている。
水戸市の加藤市長は「桜川・千波湖を那珂川の水の導水によってきれいにする」と主張しながら、渡里用水を利用した導水の予算は一貫して減らし続けている。今ある施設を最大限活用した効果の検証もせずに、「霞ヶ浦導水を利用すればきれいになる」と言うだけでは説得力はない。加藤市長は市議会で、「渡里用水では4月から6月は一切桜川には水は落ちません」などと事実に反する答弁をしており、渡里用水の導水の実態をつかんでいない。特にアオコの発生する夏場=7月~8月にはどれくらい入れたのかをみると年度ごとにまちまちで、政策的目標にもとづいて導水しているとは言い難く、ただ予算の範囲で適当にやっているのが実態である。首尾一貫性のないとりくみと言わざるを得ない。
  アオコを除去したいのか、COD値を下げたいのかもハッキリしない。
行政当局は、渡里用水と霞ヶ浦導水の違いを強調する。渡里用水の主目的は農業用水であるから、かんがい期4月~8月までは水はあまり落とせない。霞ヶ浦導水なら田んぼの水を気にせず気兼ねなく、安定的に導水できるというものである。しかし、過去の月別導水量比較では、一番多いのは10月だが、夏場の8月にも10月の7割の量は導水している。

4.百歩譲った当面の対応として、渡里用水を使えば那珂川取水口はいらない
  国・県・市が一体となって作成した『桜川清流ルネサンスⅡ』という冊子では、千波湖の水質目標について「平成27年度の目標として平成元年度の実績導水量条件」で「千波湖のCODを8.0以下にする」としている(P56)。つまり、「平成元年当時に渡里用水を使って導水した量を入れれば、千波湖の水質目標は達成できる」と国・県・市が認めているのである。この立場にたてば、百歩譲って当面の対応として那珂川の水の導水を続けるとしても、渡里用水で十分目標達成は可能という結論になるのである。今ある渡里用水の導水を増やせば済むことであり、霞ヶ浦導水の那珂川取水口の建設は必要ない。
      日量     毎秒          年間                   
計画   7万5600トン    1.4トン    2759万4,000トン
平均実績      2万3391トン(31%) 0.54トン(導水日平均)850万トン(31%)

5.霞ヶ浦導水ができれば毎秒3トンはまやかし
  行政当局は、渡里用水では毎秒1.4トンが最大だが、霞ヶ浦導水を利用すれば毎秒3トンが可能だと強調する。導水量が増えれば「浄化」されるというわけである。しかし、第2回迷入防止検討委員会(08年4月10日)での工事事務所の説明は「那珂川からの取水は最大で毎秒15トンであり、桜川への3トンは、霞ヶ浦に15トン送らなくてもいいようなときに、場合によっては3トン送るという位置づけであり、18トンとるということはない」というものである。水戸市は、毎日365日、毎秒3トンが桜川・千波湖に導水されると認識しているようだが、事実は違う。国交省は、「霞ヶ浦導水で那珂川から年3.3億トンを霞ヶ浦に導水、利根川からの導水と合わせて年6億トンの導水により、霞ヶ浦の水は現在の年2回から3回入れ替わりができ、水質浄化が図れます。」としている。
国交省の計画を満たすためには、那珂川からの取水最大量=毎秒15トンを一秒も休むことなく254日間取水が必要であり、那珂川の流量から見てこれ自身が不可能である。霞ヶ浦への導水が主目的であり、桜川への導水はあくまで従、二の次、「霞ヶ浦に15トン送らなくてもいいような時に、場合によっては3トン送るというような位置づけ」であるなら桜川への導水はありえないことになるのである。
霞ヶ浦導水が完成すれば、桜川も千波湖も霞ヶ浦もすべて浄化されると宣伝すること自体、那珂川の取水可能な量からいってもまったくのまやかしである。

6.経費の問題も見過ごせない
  仮に霞ヶ浦導水を利用して、桜川に毎秒3トンが導水できるようになったとしても、毎秒3トンを千波湖に導水しようとしたら、千波湖への新たな導水管工事が必要になる。月池から千波湖への導水管は現在毎秒1.4トンが最大能力のため、もう一本導水管を作らなければ毎秒3トンは導水できない。現在の導水管工事費から試算すると5億円規模の新たな工事が必要になる。
また、毎年払う負担金は単純に現在の倍としても市と県がそれぞれ年間1億円規模の負担となる可能性がある。いずれもムダづかいであり、そんなお金があるなら、下水道普及にこそ金を使うべきである。

7.桜川・千波湖の浄化に必要なことは公共下水道の普及
  千波湖・桜川の浄化は汚れた桜川を那珂川の水で薄めるだけ、そもそもこれを浄化と呼べるのだろうか。汚れの元を絶つ公共下水道の普及こそ中心にすべきであり、普及がすすめば確実に浄化につながり、費用対効果もある対策である。薄める「浄化」は邪道である。
仮に那珂川の水で桜川を希釈して「きれい」にしても、より水質の悪い沢渡川、逆川の合流で台無しである。水戸市は目下、下水道普及率73%をめざして市内の工事を急速に拡大して実施しており、下水工事をやりながら、導水などに金を使うのは二重投資である。水戸市の流域ごとの下水道整備計画をみると、下記のとおりであり、普及が進めば水は確実にきれいになっていく。
計画面積  整備済み 整備率(17年度末)  平成20年度末        
桜川  2150   948.2   44.1%     → 52.4% 
逆川  1060   467.7   44.4%     → 65.2% 
沢渡川 1390   649.9   46.8%     → 57.7%       

8.桜川の水質の改善傾向は明らか 問題は備前堀でのせきとめ
  桜川の水質目標はBODで5.0㎎/?以下であるが、水戸市が基準点にしている那珂川合流点前は年度平均値で3.1㎎/?(H18)ですでに水質目標を達成している。国の基準点はなぜか、那珂川合流点より2.2㌔上流の搦手橋である。搦手橋の場所は、備前堀へ導水されたあとに水量が減る「濃縮」された地点のため、BOD値は5.7㎎/?で基準未達成だが、改善傾向にあり(ルネサンスⅡ:P14)、大騒ぎするほど「汚い」水ではなくなっている。
 桜川の水が汚いと実感されるのは、7月~8月にかけてのアオコの発生であるが、その主たる原因は備前堀への導水のためのラバーダムによる堰き止めである。桜川の水は常澄地域の農業用水として、千波湖土地改良区が水利権を有しており、備前堀を経由して送水するため、桜川を柳堤橋下流のラバーダムでせき止めて備前堀方面に送水している。これが、駅南地区の桜川の水の滞留原因となり、7~8月は桜川のアオコ発生の原因となる。これは、今後も解決しない問題である。市は、毎秒3トンのうち千波湖に流入できない1.5トン分は桜川をそのまま流下するから、水量が増えて希釈され、備前堀へ導水するためのラバーダムからオーバーフローしてあふれることにより、今よりは水質もよくなり、アオコの発生も抑えられるのではないか、といった程度の極めていい加減な将来予測しかしていない。毎秒3トン送水されたとしても、きれいになる保証はない。夏場に滞留してもアオコが発生しない桜川の水質にする以外に方法はなく、そのためには桜川はもちろん、より水質の悪い沢渡川・逆川の水質改善のための施策が不可欠である。

9.千波湖への導水は桜川だけの水を基本に、地下水・湧き水の流入の検討も
  導水と水質の相関関係をみると、昭和63年の導水開始によって確かにCOD、BODは削減されたが、その後は横ばいである。那珂川からの導水量が減り、桜川の自流水のみの導水量が増えたにも関わらず、水質は横ばいということは、桜川自体の水質が改善してきた証である。これを今後も推進すべきであり、千波湖の浄化は、桜川の自流水で問題解決がなされるような対策をとるべきである。
市は、「仮に、公共下水道が普及して、桜川がキレイな川になった場合でも、千波湖は閉鎖的で水深が浅いから、導水によって水流を起こし、かきまぜ、流しだす=wash outしなければならない湖である。したがって、那珂川の導水は未来永劫やらなければならない。5日以内にwash outすれば、アオコは発生しなくなる。」などとしている。
千波湖に一定の水流を生み出すことは水質向上にも効果はあるだろう。しかしその場合でも、那珂川の水に頼らず、桜川の水だけで改善が図られるようにすべきである。もし桜川の自流水だけでは水量が足りないとすれば、桜川沿いの湧き水や地下水の井戸を掘るなどして桜川の流量を増やす検討も有効と考える。

10.川や湖の浄化能力を生かし高める対策を 水生植物の活用など
  千波湖にはかつてハスや葦などの植物があったが、過去に撤去してしまった。湖岸は木の杭ですべて仕切られており、水辺の植物はまったく見られない。葦などの植物があれば浄化にも役立ち、昆虫が住み、野鳥が食べて浄化に役立つ。桜川をみても、見川クリーンセンターの下流はコンクリートで仕切られた大きなU字溝を流れ千波湖への流入口につながっている。好文橋の上下流の地点では立派な護岸工事がされた中をストレートに川が流れている。川だまりや水生植物などを経由させ、川自体のもつ浄化能力を高める対策は皆無である。むしろ自然が浄化できる環境を奪っている状況にある。自然環境を配慮せず土木工事としての発想だけでつくられた川であり湖になっているのである。
 今こそ発想を転換し、桜川や千波湖の環境に合わせた浄化能力を高める対策を実施すべきである。

11.結論
・桜川・千波湖の浄化は公共下水道の普及で汚れの元を断つことを中心にすえるべきである。
・桜川と千波湖のもつ自然浄化能力を高めるための植物等の活用をすすめるべきである。
・那珂川からの導水は当面は渡里用水の活用で十分であり、霞が浦導水の那珂川取水口の建設はやめるべきである。
・千波湖への導水は、将来は桜川の自流水や湧き水・地下水などの導水によって実施するようにすべきである。