「一粒の麦」NO.238号 反骨爺のつぶやき 高村よしあつ

2015/12/23 15:46 に 山根岩男 が投稿
 憲法25条の生存権の保障と、27条の勤労の権利とは、一体の関係にある。つまり、労働力を売るしかないものは、労働によって生存権を確保すべきものとされているのである。この両規定の関係を別の角度から論じているのが、都留民子氏であり、人間らしい労働と社会保障とは切っても切れない関係にあるという。

 話は20世紀初頭にさかのぼる。当時世界中の富を独占していたイギリスにあって、産業資本家のひとり、チャールス・ブースはマルクスの貧困化理論に反対し、ロンドンに貧困などあるはずがないし、あってもほんの例外的現象に過ギないと考えた。ところが、自ら実施した「ロンドン住民の生活と労働」(1902-1904)により、住民の3割が貧困層であり、その原因は飲酒や浪費にではなく、失業と就労をくりかえす不安定就業にあることが判明し、自説を撤回した。この研究を受けて、ウイリアム・ベヴァリッジは、「ベヴァリッジ報告書」(1942)で、イギリス福祉国家のプランをつくり、社会保障とは何かを解き明かし、失業中の所得保障をすることで労働力の安売りを防止し、貧困を解決しようと唱えた。

 都留氏は言う。労働力の安売り競争を防ぐには、失業者の生活水準を労働者のそれより高くしなければならない。現に江口英一氏の調査(1979)によると、「イギリスの失業者の生活水準と働いている労働者所帯の生活水準」を比較すると、「失業者の方が少し高い生活を送っていた」のであり、それによって労働者は企業の賃下げや解雇の押し付けに対し、「失業の権利」を主張することで対抗することが可能となったのである。つまり、社会保障があってはじめて労働者は一つの階級として結束し、人間らしい労働を要求して資本に対抗しうるのであり、イギリスでもフランスでも労働者は最賃制と社会保障を一体のものとしてたたかうことで、今日の到達点を築いたのである(都留他「日本の社会保障、やはりこの道でしょう」)。

 現代の貧困の特徴は、ホームレス、障害者、高齢者、母子所帯、生保受給者などの「多様な貧困」にあるのではなく、まさに「労働者・勤労者の貧困」にある。資本主義的搾取の強化のもとで生じた「労働者・勤労者の貧困」を解決し、ディ-セントワークを実現するには、社会的富の再分配をする社会保障制度を全体として充実する以外にはないという都留氏の提案には、社会保障の歴史を踏まえた重みがある。

 

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