冬への恋文

わたくしは切ない。
あなたが去ってしまうことが。

春が近づくのは誰にとってもうれしいことだとは分かっています。
あなたが優しい季節ではないことも。
たとえば、野外で生活している人や生き物たちにとって、雪の国のみなさまにとって、冬は長く厳しい季節なのでしょう。
そのことを思えばあなたが好きと軽々しく言えない。
でも、このような恋文をしたためることは、あくまで四季のある国の、その季節の穏やかな地域に住むちいさなわたくしの個人的なつぶやきとしてお許しいただきたい。

わたくしはあなたが好き。あなたはたくさんのよいことをもたらす。
冬はエネルギーがわいてくる。
わたくし自身の熱が必要だとわからせてくれる。
いつもやるきのないわたくしを
あなたはシャキッとさせてくれる。
冬は物が腐らない。怖い虫がわかない。

あなたがいると夜が長い。
星たちのおしゃべりがきこえる。
そして朝焼けの空は格別。

たくさん着込む。
ちょっとした温かいものにきづく。
ぬくぬくした部屋にいる幸運をかみしめる。
あたたかさが、生きていることを教えてくれる。
ぬくもりと喜びが、ぴったりと合わさる。

冬枯れの木の枝の形
小さく固めて守っている芽やつぼみ
ぴんと張りつめた空気
なにもないからっぽの空、
まつ毛をくぐって入ってくる光線
あなたがいると世界はとてもまぶしい

目で見える雪の形、息で融けてしまう
猫の毛が密になっていること

それはぜんぶ、しあわせ

ああ、そんなあなたが大好き。

さて、ところがです、
春というのはとてつもない。
溢れんばかりの生のエナジーでもって確実に近づいてくる。
そうしてわたくしはノックアウトされるか?というとそうではなくて、
そうではなくて、、、、徐々にほだされる。

春が一歩近づくごとに、
わたくしの凛とした形は融けはじめる
また冬が巻き返すと、わたくしはまた形を保つ
あなたと春の一進一退の攻防
再凍結したわたくしの中にすきとおる、、、これは気泡?

気泡のようなもの、それはひとつひとつが「?」の形をしている
そして融けては固まるたび、気泡の数がふえる

「?」が「??」に、「??」が「???」になり、
わたくしはじぶんのなかにたくさんの「?」をかかえる
わたくしは形あるものなのか
それともそのなかの「?」がわたくしなのか?


そうではなくて、春に起きること、
それは「わたくしが形を失う」ということ

わたくしは融けて、流れて、もっともっと粒粒になって、
すきまがたくさんになって、かるくなって、くうきになって
めぐってめぐってかぜになって、すわれて、はかれて、のぼって、くだって
そうして、つぼみの中から、新芽の間から、
花の薫から、ミツバチの羽ばたきから、あつまってきて

わたくしはまたあたらしいわたくしに生まれ変わる。
まわりのものはみんなそのようにあたらしくみえる。

わたくしのめがあたらしくなったからか、
それとも春はそういうものなのか。

そして私は生を祝いたくなる。
恐るべき春を。

それがこれから起こる事です。

2015/2/17
山下月子