1.従来のアマチュア局の免許手続きの流れ
日本の無線局の免許手続きは以下の図で説明されています。
この流れで総務省が行う「予備免許」「検査」をできるだけ省略する流れとして「簡易な免許手続き」注1が制定されています。一般的には無線機はメーカー製ですから「技術基準適合証明」(以下技適と省略)が適用されますが、アマチュア無線局では歴史的に自作機から始まりましたから技適制度以前から保障認定があります。
1.技適証明を受ける (電波法第三十八条の六)
2.保証認定を受ける (無線局免許手続規則第十五条の五第一項第二号の規定による簡易な免許手続を行うことのできる無線局)
この簡易な免許手続きを行う機関の業務内容は第3者である「総務大臣の登録を受けた者(登録証明機関)等」であるTELECとかJARDが電波法に定める技術基準に適合しているか否かについての判定を行う制度です。技適を受けることができる無線機は「特定無線設備」限定されておりアマチュア機では200W以下となっています。
一方、アマチュア無線機は技適と同じ電波法第15条で下で総務省令で保証認定制度が追加されており200W以下の無線機は同じく第3者である「総務大臣の登録を受けた者(登録証明機関)等である」TSS等が申請書の事項書が電波法に定める技術基準に適合していることを保証することでもって簡易な免許手続きとしています。これはアマチュア無線独特の制度です。
通常メーカー機はあらかじめ技適を取得しておくことから1.の方法で、技適を取得していないメーカー機と自作機は免許申請時の保証ですから2.の流れになっています。
技適の取得の手続き費用はメーカーが負担しますが、自作機の場合は保証認定を得るにはその手続きと費用は製作者が負担することになります。保証認定料は「開局時は4、800円、変更時は3、000円となります。(送信機、附加装置及び附属装置の台数に関係なく一律料金です。)」となっており、数千円の自作QRP機にとっては無視できる費用ではありません。しかし保障認定を受けなければ数万円の検査が待っていますので保障認定制度はアマチュア局には必須として技適とは別にこの制度を残した経緯があります。
注1.
(簡易な免許手続)
第十五条 第十三条第一項ただし書の再免許及び適合表示無線設備のみを使用する無線局その他総務省令で定める無線局の免許については、第六条及び第八条から第十二条までの規定にかかわらず、総務省令で定める簡易な手続によることができる。
2.自己確認制度の新設
上記のように証明機関が限定されていることへの批判・不満にないして技適制度の下で「混信その他の妨害を与えるおそれの少ないもの」を条件に第3者の機関ではなく、製造 業者や輸入業者自身が一定の検証を行い、電波法に定める技術基準への適合性を自ら確認する制度が平成16年に制定されました。製造業者や輸入業者を2人称ではなく自己と1人称でよんでいます。この無線機を「特別特定無線設備」とよびコードレス電話、携帯電話端末、PHS端末、業務用ポータブルのように数W以下の無線機が従来の「特別無線設備」から」「特別特定無線設備」に移されています。 自己確認は、工事設計が技術基準に適合するも のであることに加え、その工事設計に基づく特別特定無線設備のいずれもが、工事設計に合致することを確保することができると認めるときに限り行うことができますとなっています。
3.自己確認制度の適用検討
アマチュア無線設備に適用すると従来の200Wの無線機を基準にすると1-20W程度の小電力無線機が「混信その他の妨害を与えるおそれの少ないもの」として対象となってきます。アマチュア無線では小電力をQRPと称しておりJARLでは5W以下と定義していますのでここでは小電力を5Wとします。次に、この制度の「自己」とは「製造業者や輸入業者」となっていますので小電力機を製造するメーカーおよび輸入業者はこの制度に乗ることはできます。例えばVHF・UHFのポータブルトランシーバーとかFT-817のようなHFQRP機ですとメーカー自ら技適を取ることができます。海外のポータブルトランシーバーは日本への輸入業者が同じように自ら技適を取得することができ海外メーカーに取っては便利な認証制度です。
技適に自己確認制度を適用することと同じように、保障認定制度に自己確認制度を適用することも可能です。これで自作機を含む技適を取得していない過去に販売された中古の小電力無線機も自己確認の保証が可能です。この場合は第3者であるTSS等の認定を免許人みずから行うことになります。
保証認定事業者の規定は「アマチュア局の保証実施要領」で規定されています。
この中で資格は
1.五年以上開局の一アマ
2.測定機の校正は1年毎
となっています。
1.項は200W機の保証のためにある資格であり「混信その他の妨害を与えるおそれの少ないもの」である5W程度の小電力無線機であれば運用経験のない4アマ(最大20Wの無線機の運用が可能)でも認めてもらうことがポイントです。
2.項は測定機が必要な場合の規定であり測定機が必要ない場合は適用されませんし以下の検討結果で不要です。
具体的な審査項目は別表第1号に書かれており
たとえば
スプリアス発射の強度が明らかでない場合は、許容値以下に抑制できる高低調波除去のフィルタが挿入されていることとあり送信系統図で確認でき実測は求めていません。
定格出力は。。。は送信系統図に明記された出力端子における値として適切なものであって。。。。とあり計算書を提出すればこれも実測は求められていません。
占有周波数幅は「許容値内であること」とあり実測は求められていません。計算式等で許容値内である等を記載すればよいことになっています。
よって保障認定に関して申請人自らが用意する電波法に合致する確認書でもって保障認定とみなすことができます。
既に保障認定は個人でも行える規定になっていますから「アマチュア局の保証実施要領」に該当の「特別特定無線設備」に関する自己確認制度を追加することで可能になります。
4.包括免許に最も近い登録局の適用
現在最も包括免許に近い簡易な免許制度はは「登録局」であり、審査を
無線設備の設置場所(移動する無線局にあっては移動範囲)が総務省令に定める区域内であること。
包括登録にあっては、無線設備を設置しようとする区域(移動する無線局にあっては移動範囲)が総務省令に定める区域内であること。
重要な事項について虚偽の記載がないこと。また、重要な事実の記載が欠けていないこと。
に限定し、電波法の技術基準に合致しているかの審査を免許付与の後回しにしています。
現在、高出力無線LANとか5Wの業務用ポータブルがこの免許に含まれています。
一般の無線局の免許手続き
登録局の免許手続き
登録局とみなされる無線機の要件は総務省令で
1 他の無線局に混信を与えないように運用することのできる機能を有するもの
2 適合表示無線設備のみを使用するものであること
3 定められた区域内に開設するものであること
と規定されています。
3.項では既に全国陸上移動を認められている無線局もありますから問題ありません。
1.項の機能をどのようにレガシーモード(CW,AM,SSB)の手動運用を認めてもらうことがポイントです。これはアマチュア無線局の運用は無線局運用規則に従って有資格者の手動操作で運用されることが前提です。たとえば他の無線局に混信を与える場合は第258条で「すみやかに当該周波数による電波の発射を中止しなければならない」と規定されています。よって1.項の規定に「ただしアマチュア無線局を除く。」の但し書きを追加する解決法が考えられます。
2項は適合表示無線設備(アマチュア無線局は保証認定無線設備を含む)のみを使用するものであることの文言に修正することになります。
なお、ハイパワーな従来の無線機と混在する場合は当然登録局の申請はできません。小電力局のみの特典制度です。
5.まとめ
小電力アマチュア無線機に対して自己確認制度と登録局制度が認められますと以下の利点が得られます。
1.国内の無線機メーカーは自社で認証する選択肢が増えてコストの削減の可能性が増えます。
2.海外の無線機の輸入業者は自社で認証する選択肢が増えてコストの削減の可能性が増えます。
3.自作を含む技適を受けていない無線機に関しても申請者が認証する選択肢が増えて認定料が削減できます。
4.従来の1か月ほどかかる申請期間を0.5か月に短縮できかつ電子申請料を2,900円から1,700円に削減できます。
アマチュア無線機の大半は5W以下のVHF・UHFトランシーバーです。また、HF帯においても従来のSSB中心のハイパワー運用からデジタルモードの普及で5W以下で運用される局が普及してきました。本堤案は制度的にはたとえばデジタル簡易無線として実現されていますから新たな制度を必要とするため実現困難と言われることはありません。実現のポイントはアマチュア無線局にも自己確認制度を認めることと混信を与えないようにする手動運用を認めることの2点です。
6.その他のコメント
1)以下は「つぶやき」に属する感想ですが、アマチュア無線局は米国、カナダ、欧州、オーストラリア、香港などの例のようにアマチュア無線従事者のみでアマチュアバンド内で運用されることから無線局の免許手続きそのものが不要であり、これを包括免許と 称して実現することを長らく目指してきたものと理解しています。その証左にあるサイトでは包括免許の実現には「無線機の技適番号は必要ありません」と書か れています。これとは別に日本の携帯電話とかMCAとかは無線局の免許手続き制度は踏襲して、技適機であれば増設等の変更申請(届け)が不要な制度を「包 括」と称して昔に較べれば格段に簡易な申請制度を実現してしまっています。どうも日本のアマチュア無線界は日本の免許手続き制度を真っ向から否定する制度 を実現すべきと信じたが故に袋小路に入った感があります。今回の提案はこの袋小路から抜け出る現実的な一歩となるのではないかと思っています。本堤案が成功すると次は中電力まで認めてもらって最終的には大電力も認めてもらうことは想像に難くありません。この時はより厳しい自己確認が求められると考えられますので安価で精度の良い測定器の製作に関心を寄せるのは良いことだと思います。
2)自作の無線機の手続の簡素化は平成24年12月25日の「電波有効利用の促進に関する検討会の最終案のパブコメの中で複数の方から提案されており多数意見ですから主な意見として扱われています。しかし検討会の回答は「自作した無線機等、技術基準適合証明を受けていないものは、工事設計の審査とともに、無線設備等が法令の規定に合致しているか否かが必要であるため、手続の簡素化の対象として検討しておりません。」とそっけなく却下されています。
却下された理由を分析すると意見提出側が保障認定を受けた無線機は電波法15条で技適と同等に扱われるべきと言わなかったことです。小生の提案のように、適合表示無線設備(アマチュア無線局は保証認定無線設備を含む)のみを使用するものと()の文章を追加してくださいと提案しなかったからだと思います。
4番目に挙げられている意見を例を取ると「このことが、無線機器の自作を行うアマチュアの健全な自己訓練と技術的研究を促進し、無線技術に関心と経験を持つ技術者の層を厚くし、いずれは産業イノベーションの後押しになると考えます。」と小生の考えを代弁して頂いて「かつ一律に含めることに問題があれば、無線従事者資格の範囲よりもさらに周波数と空中線電力の範囲を限定して、簡素化」をとQRP機に限定されていますが結果は最終報告書のパブコメですから回答に反論する場も与えてもらえず門前払いになっています。
推測するに検討会は電波政策課が事務局であり保障認定制度が存在することを失念していたためではないかと思います。この提案をアマチュア無線の所掌する移動通信課にもっていけば門前払いとせず検討してくれるものと思っています。
3)保障認定制度に自己確認制度を追加する提案で、技適の自己確認制度の申請者からアマチュア無線を排除している現状でもって「門前払い」をくらうことを回避できます。総務省の以下のサイトを参照して下さい。
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Q73 技術基準適合自己確認の届出は製造業者以外でも届出できますか?
⇒ 技術基準適合自己確認の届出は、製造業者又は輸入業者に限られています。
Q74 個人でも技術基準適合自己確認の届出ができますか?
⇒ 技術基準適合自己確認の届出ができるのは製造業者又は輸入業者に限られていますので、個人又は法人は 問いませんが、特別特定無線設備の製造又は輸入を業として反復継続的に行っている者であることが必要です。例えば、アマチュア無線愛好家が購入部品を組み 立てて製作した自分用の無線設備について、技術基準適合自己確認の届出を行うことはできません。
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4)よく考えてみれば、自作機の工事設計書を書き、送信系統図を書き、これに従って実機が製作されていることを確認し、制定された技術基準に合致していること を、例えば送信出力は終段のデータシートとか実測で自己確認し、スプリアスであればLPFのシミュレーションとか実測で自己確認し、申請書に添付すること はしかるべきものと考えています。
有資格者であるアマチュア無線資格のそもそも論としては「簡易な免許手続を行うことのできる無線局を定める告示の一部改正案等に対する意見募集」の5に雄弁に書かれています。
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現在の保証認定制度は、送信機の系統図を提出させ書類審査のみでお墨付きを与える制度です。一般的に
発せられる電波の測定値等は、提出されていませんが、それでも規定された電波の質は、満たされている事
になっていますし特に何か大きな問題があったとの話は聞きません。例えば総務省でアマチュア無線局とし
て免許出来る送信機の詳細基準を分かりやすく公表しそれに沿って自己申告で申請を行った場合と
で何か違いが有るのでしょうか。そもそもアマチュア無線技士とは、特殊無線技士と違い電波の質に影響を与える可
能性がある無線機器の製作改造実験を行うことの出来る資格であり、諸外国の包括免許のように各級で免許
される範囲内の無線機器を特段手続きなしで自由に使えるようにしても問題など起こりえないはずなので
す。もし何か問題が起こったのならそれは、本来必要とされる能力のない者に従事者免許を与えてしまった
結果であり試験内容の問題です。局免許の申請の段階で制約を課すべきではありません。ある出力以下は、
自作の無線機であっても申請なしで自由に実験可として構わないのでは、ないでしょうか。
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総務省の回答は例によって「本意見募集とは直接関係のないもの本意見募集とは直接関係のないものとして取り扱いましたと」門前払いですが。
5)本テーマから外れるが技適は電波法で規定されているが保障認定は国会の承認を得ていない総務省令で規定されていることに対して興味深い考察が「簡易な免許手続を行うことのできる無線局を定める告示の一部改正案等に対する意見募集」の3に記載されています。これは免許は国の専制事項であり民間は排除されているという主張に対する反論と思います。残念ながら今回の改正は規制緩和で民間だけとしたががうまくできなかったので官も民も個人も入れてしまいました。