第59回プリマーテス研究会にて8名の方が発表賞を受賞されました。
おめでとうございました。

以下に発表要旨をご紹介させて頂きます。



最優秀口頭発表賞
ニシローランドゴリラにおける群れとヒトリオスの出会い」
○坪川桂子(京都大学大学院理学研究科、日本学術振興会)

ニシローランドゴリラのオスは、性成熟に達する頃に出自群から移出する。群れから移出したブラックバック(若いオス)は、ヒトリオスとして単独生活を送るか、一時的に非繁殖群/オス・グループを形成する、あるいは稀に別の繁殖群に移入することが知られている。これまで、ニシローランドゴリラは人付けが困難であったために、こうしたブラックバックと群れの出会いについて、その様相はほとんど明らかにされてこなかった。本研究では、ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園において、人付けされた単雄複雌群(GG)を追跡中に観察されたGGとブラックバック1頭(MN)の出会いについて事例報告をする。MN20137月にGGと一緒にいるところを確認され、その後、約4ヶ月間に渡って断続的にGGのメンバーと遊動をともにしていた。直接観察の結果、MNGGの個体との間に敵対的交渉や交尾は見られなかったが、伴食行動や連れ立って移動する行動がみられた。MNが他個体と連れ立って移動する際には、観察された全てのケースで、ブラックバックやサブアダルトなどの若いオスと一緒に移動していた。なお、GGを追跡中にシルバーバック(成熟オス)のヒトリオスとの出会いも2事例観察したが、GGMNの出会いとは全く異なる様相を示していた。本発表では映像も交えながら、群れとヒトリオスの出会いの観察を通して浮かび上がる、ニシローランドゴリラのオス間の社会関係について考察する。



最優秀ポスター発表賞
サルはしっぽを振らないの? How do rhesus macaque and northern pig-tailed macaque move their tail?」
○若森参、濱田穣(京都大学霊長類研究所)

イヌはよく尾を左右に振るが、サル(マカク)は社会的地位で尾を上げ下げする。マカクは長尾種から短尾種まで変異性があるが、尾の運動性は知られていない。発表者はこれまで、マカク属カニクイザル種群とミナミブタオザル、アッサムモンキーの尾椎を計測し形態の種間比較を行ってきた。その中で、アカゲザルとブタオザル、アッサムモンキーは同程度の尾長(頭胴長の35~45%)を持っているが、尾椎数と各長さに種の特異性が見られた。この尾椎の違いは動かし方とどう関係するのか、アカゲザルとキタブタオザルの野生餌付け群で行動観察を行った。フォーカルアニマルサンプリング法で、尾の姿勢(脊椎に対して水平、垂直、背方向屈曲、脱力)を位置的行動(座る、立つ、歩く、走る、寝そべる、跳躍、登る)と社会的行動のカテゴリーの組み合わせで記録した。アカゲザルでは、社会的上位者が尾を脊椎に対して垂直の位置に揚げ優位性を示すほか、位置的行動に際しては、走るときに尾をまっすぐに伸ばし、木の上で座るときは枝に尾をまきつけ体を安定させる。キタブタオザルのコザルは、樹上での飛び移りや枝の上で体を安定させるために尾を動かしバランスをとる様子が観察された。一方で、キタブタオザルの成体では動作の補助として尾を動かすことよりも、頭を少し下げ尾を背屈させる姿勢を見せることや、αオスが常に尾を背屈させ保持していることから、社会的機能が強いと考えられる。



優秀口頭発表賞
野生チンパンジーにおける苦味受容体の遺伝的多様性と進化」
○早川卓志1,2、井上英治3、松尾ほだか1、Kathelijne Koops4、村山美穂5、橋本千絵1、松沢哲郎1今井啓雄1
1京都大学霊長類研究所、2日本学術振興会、3京都大学大学院理学研究科、4ケンブリッジ大学、5京都大学野生動物研究センター)

哺乳類は、舌に存在する苦味受容体を用いて食物中の毒物を苦味として認識し、毒物の摂取から身を守っている。苦味受容体はTAS2R遺伝子によってコードされており、チンパンジーは28個のTAS2R遺伝子を持っている。以前我々は、日本で飼育されているチンパンジーを対象に遺伝解析を行い、チンパンジーのTAS2Rの遺伝的多様性が非常に高く、亜種間で自然選択を伴って分化していることを報告した(Hayakawa et al. 2012 PLOS ONE)。本研究では、こうしたTAS2Rの多様化と亜種間分化の背景にある生態要因を探るため、西アフリカのギニア・ボッソウ及びニンバと、東アフリカのタンザニア・マハレ及びウガンダ・カリンズにおいて、野生チンパンジーの調査を行い、糞や尿などの非侵襲試料からDNAを抽出して、TAS2Rの遺伝解析を実施した。その結果、飼育個体で見られたような亜種間分化が、野生下でも同様に存在していた。例えば、アブラナ科の苦味を受容するTAS2R38は、西アフリカでのみ味盲多型が発見された。更に、同じ亜種内でも、地域間で有する遺伝子多型に偏りが生じており、地域特異に遺伝的浮動もしくは自然選択が生じていると考えられた。今後、こうした地域特異性がそれぞれの食物環境とどのような関係があるか、機能解析などによって明らかにしていく。


「遺伝子分析を利用したワオキツネザルの父系判定の研究」
○廣川百恵1、中尾汐莉1、田中ちぐさ1、加藤真理子1、川本芳2、市野進一郎31公益財団法人日本モンキーセンター、2京都大学霊長類研究所、3京都大学アフリカ地域研究資料センター)

 マダガスカルに生息するワオキツネザル(Lemur catta)は、近年の生息地破壊等により個体数減少が危惧されており、国際自然保護連合により絶滅危惧(IB類)に指定されている。種保存の観点から、野生状態での保護とともに、飼育個体の繁殖が重要な課題である。
 しかし、日本国内で飼育されているワオキツネザルは血統管理が十分でなく、父親の特定もできていないために、世界的な繁殖計画に寄与できていない。そのため、飼育個体数が世界的に見ても多い日本モンキーセンター(以下JMC)で飼育する82頭のワオキツネザルの血統(父系)を把握したうえで、家系図を作成し、遺伝的多様性の維持が可能となるような繁殖計画への反映を目的として、本研究はスタートした。
 初年度は、マダガスカル島のベレンティ保護区に生息するワオキツネザルを対象におこなわれているマイクロサテライトDNA多型分析で用いられた6種のプライマーを利用し、JMCで飼育する性成熟雄14個体の遺伝的型分析を行った。2年目は、初年度の結果をもとに、一部のコロニーのメンバーの血縁判定を行い、そのコロニーの父系が特定できた。3年目となる今年度は、解析の完了してないコロニーの母子の遺伝子型を解析し、家系図の作成を進めている。
 父系の特定が進む中、JMCで飼育するワオキツネザルの今後の繁殖管理と、他の施設での利用も視野に入れた検査方法の簡略化と、手技の改良・基準化を行うことが今後の課題となる。


「An experimental study on interactional synchrony in chimpanzees (Pan troglodytes)」
○ Lira Yu1,2, Masaki Tomonaga11Primate Research Institute, Kyoto University, 2Japan Society for the Promotion of Science)

Interactional synchrony, which is defined as timing match of the movement with those of others, has been known to occur under automatic modulation in humans. To understand evolutionary origins of this behavior, the current study investigated whether chimpanzees produce spontaneous interactional synchrony during auditory and visual interaction with other conspecifics. Three different pairs of chimpanzees participated. The chimpanzees were facing from each other while producing repetitive and rhythmic tapping movement using buttons. Results revealed that all the chimpanzees produced the tapping after certain timing from their partner’s tapping, which was close to perfect match. Moreover, three chimpanzees (one from each pair) showed a change in their tapping tempo toward their partners. Based on the current findings, I would like to discuss quantitative/ qualitative differences of the behavior between humans, chimpanzees and macaques.


優秀ポスター発表賞
「ワオキツネザルオスの前腕臭腺から分泌される物質の季節変化」
○伊藤聡美1、白須未香2、宗近功3、東原和成2、今井啓雄11京都大学霊長類研究所、2東京大学大学院農学生命科学研究科/ERATO 東原化学感覚シグナルプロジェクト、3財団法人進化生物学研究所)

 ワオキツネザルは匂い物質を分泌する特殊な「臭腺」をもち、普段の生活の中でも頻繁にマーキング(匂いづけ行動)を行います。繁殖期中にはオスのマーキング行動が増加することが知られています。
 本研究では特にオスが頻繁に使用する前腕臭腺に焦点をあて、1年を通じて前腕臭腺からの分泌物を採取し、行動と分泌物の化学組成との関係性を調べました。
 まず、各季節の分泌物における化学組成や匂いの質に違いがあるのか、また違いがある場合に、繁殖期に特徴的な物質や匂いの質は何であるかをGCMS/O(Gas Chromatography Mass Spectrometry/ Olfactometry)やヒトでの官能評価を用いて調べました。その結果、繁殖期に特徴的に増加する物質の候補がいくつかあることがわかりました。また、各季節(繁殖期又は非繁殖期)の分泌物をメスに提示し、メスの反応行動に差が見られるのかどうかを調べました。その結果、メスは繁殖期に採取したオスからの分泌物に対して非繁殖期に採取したものよりも、より長く、匂い嗅ぎを行う傾向がみられました。
 今後は、繁殖期に特異的に増加が見られる物質の同定と、これらの物質がワオキツネザルの行動にもたらす影響を明らかにしていきたいと考えています。


「飼育下チンパンジーにおける母親の「拍手」行動の出現について」
○平栗明実、川上文人、Claire Watson、Chloe Gonseth、市野悦子、有賀菜津美、 林美里、友永雅己(京都大学霊長類研究所)

チンパンジーにおいても他個体、またはヒトに向けられたジェスチャーをすることは知られており、言語に先立つ行動としてさまざまな研究がおこなわれてきた。しかし、それらの定義は研究者間で異なる部分があり統一されていない。チンパンジーのジェスチャーを発達的な視点から解明すべく、私たちは日本モンキーセンター(JMC)で産まれた乳児とその母、父からなる一群を対象に観察おこなっている。本研究では、母子間の身体的距離が出現しはじめた時期から見られるようになった、母親の拍手行動に着目し分析をおこなった。対象は2014725日に産まれたチンパンジーの乳児(マモル)とその母(マルコ)とした。観察の手続きは2014726日から201513日までの毎週土曜日1時間、計24時間とし、分析は、はじめに母マルコの拍手行動を切り出し、その前後にみられた行動を全てチェックし、母子の距離、視線の向きに基づいて、可能な限り客観的に分類した。これによって、母マルコは乳児マモルとの身体的距離が出現しはじめた頃から、頻繁に拍手行動をおこなうようになったことがわかった。その際、母マルコの視線は乳児マモルのことを注視していることが多かった。拍手行動の生起する前後の母子の行動を時系列的に調べることで、ジェスチャーのおこる文脈や、子どもの発達にともなう変化を詳細に明らかにできると考えられる。


「日本モンキーセンターにおける飼育動物の診療と死亡原因について ~動物病院10 年のふりかえりと今後の展望~」
○木村直人(公益財団法人日本モンキーセンター)

 日本モンキーセンター(JMC)は、昨年4月より公益財団法人として新たなスタートを切った。京都大学との連携が強化され、霊長類に関する総合的な調査研究、保全、資料の収集、動物福祉に配慮した動物園の設置・運営をその設立理念に掲げた。特に動物福祉には身体的、心理的幸福度を高めることが必須であり、動物病院における獣医療は不可欠である。霊長類の生理や疾病について未だ不明な点が多く、保全活動は途上、生物資源の収集に対しても動物病院の果たす役割は今後益々大きくなっていく。
 この機会に動物病院の10年をふりかえり、飼育動物の診療と死亡原因をまとめた。飼育頭数と診療件数においては、10年前(平成17年度)が657頭、1,509件であったのが、平成25年度は985頭、4,536件と飼育頭数、診療件数ともに増加している(平成26年度は期間集計途中)。一方、死亡頭数では、平成17年度79頭、平成25年度55頭と大きな変化はみられない。診療内容や死因については個体数管理や疾病予防等獣医療向上の取り組みを反映した結果となった。
 動物病院の診療施設は、10年前と変わらず陳旧化している。昨年12月、京大野生動物研究センター熊本サンクチュアリより獣医師1名がJMCに赴任した。市民の理解を求め、病院のハードを充実させることが今後の役割を果たすための課題となっている。



Comments