おおざっぱな研究論文紹介

社交的でない性格にもかかわらず、これまで多くの研究者・技術者の方々にサポートをいただき、研究を続けてきました。彼らからのダメ出しに凹むことも多いですが、そのおかげで少しずつ成長してこれたと感じています。以下に、これまでの主な著作の紹介をします。

Tomioka, N. and Fujino, K. (1997) Natural (Mg,Fe)SiO3-ilmenite and -perovskite in the Tenham meteorite. Science, 277, 1084–1086.

デビュー作。大学院生だった当時、マントル遷移層(地下410–660km)の主要鉱物である輝石高圧相のメージャライトの超高圧合成と結晶対称性の研究を行っていたのですが、天然の試料も見てみたくなりました。遷移層は深すぎて地表にまで試料が上がってくることは極めて稀です。しかし、強い衝撃変成を受けた隕石中のメージャライトが報告されていたことから、指導教員の藤野教授に隕石を買ってもらい、研究をすることになりました。張り切って透過電子顕微鏡(TEM)で観察をはじめましたが、目的の化学組成をもつ粒子を見れども見れども、結晶構造データがガーネットと合わず、頭をかかかえました。落ち着いてよく解析してみると、メージャライト同様に輝石の高圧相であるイルメナイト構造とペロヴスカイト構造であることが分かり大興奮です。これらの高圧相は合成例があったものの、当時は天然では発見されていませんでした。カンラン石や輝石の高圧相の発見は、例外なくNatureやScienceに論文が掲載されていたので、自信満々で原稿をNatureに投稿したところ、あっさりリジェクトになりました。(不採用を知らせる手紙に記載されていた論文のタイトルはなぜか、”Gamma Ray bursts from discharges in plasmas"という天文の論文でした。。。)偶然にもドイツ・バイロイト大のグループが同様の発見をしたことを知り、大慌てでScienceに再投稿したのですが、彼らの論文から一月遅れで出版していただくことなりました。これが縁で、ライバル論文の著者であるSharpさんの研究室にポスドクとして1年弱お世話になりました。

Tomioka, N. and Fujino, K. (1999) Akimotoite, (Mg,Fe)SiO3, a new silicate mineral of the ilmenite group in the Tenham chondrite. American Mineralogist, 84, 267–271.

上の論文で発見したイルメナイト相が、新鉱物として国際鉱物学連合から承認されました。日本の超高圧地球科学のパイオニアである、秋本俊一先生の名前をいただいて秋本石(akimotoite)と命名しました。承認を受けると2年以内に論文を発表しなくてはいけません。データを追加して新しい論文としました。

Tomioka, N., Mori, H., and Fujino, K. (2000) Shock-induced transition of NaAlSi3O8 feldspar into a hollandite structure in a L6 chondrite. Geophysical Research Letters, 27, 3997–4000.

akimotoiteに続いて、長石高圧相のホランダイト構造を隕石中に見つけました。余裕をかまして論文公表前にAGUでポスター発表したところ、ドイツの研究者が来て「僕らも同じ発見をしてScienceに来週論文投稿するから。君も頑張りたまえ」というコメント。帰国後、大急ぎで書きかけの論文を完成させましたが、彼らの投稿から遅れること2週間、あえなくリジェクトとなりました。

Ando J., Shibata, Y., Okajima, Y., Kanagawa, K., Furusho, M., and Tomioka, N. (2001) Striped iron zoning of olivine induced by dislocation creep in deformed peridotites. Nature, 414, 893–895.

ポスドク時代から15年以上に渡り、「あーでもない、こーでもない」と楽しく議論しながら、共同研究を続けさせていただいている広島大の安東さんとの仕事。マントルカンラン石中の結晶亜粒界に沿った縞状のFeの濃集を発見しました。塑性変形にカンラン石中に形成された転位にFe原子が引き寄せられる「コットレル雰囲気」という現象で、マントルの流動特性に大きな影響を与えると考えられています。掲載された雑誌がNatureだからというわけではなく、こうしたいぶし銀の研究は大好きです。

Tomioka, N., Fujino, K., Ito, E., Katsura, T., Sharp, T., and Kato, T. (2002) Microstructures and structural phase transition in (Mg,Fe)SiO3 majorite. European Journal of Mineralogy, 14, 7–14.

大学院で本格的に研究を始めた時のテーマで、akimotoiteやペロヴスカイト相(こちらは2014年にアメリカのグループが再発見し、bridgmaniteと命名しました)のきっかけにもなった仕事です。メージャライト中の変調構造や双晶の観察をもとに、メージャライトは高温高圧の条件に限り、立方晶の対称性をもつことを明らかにしました。また、隕石中にみられるメージャライトの対称性との比較から、隕石の衝撃溶融脈は、1秒間に1000度を超える非常に高い冷却速度を持つことを示しました。自分は今ではすっかり隕石屋と認識されていますが、大学院の大半は岡山大学の地球内部研究センターというところに長期滞在して超高圧実験ばかりしていました。不器用なので、論文に用いたわずか6つの試料を合成するのに、足かけ5年かけて80回を超えるマルチアンビル高圧装置の実験をする羽目になりました。また、論文発表では、訳あって査読者が著者になるという珍しい経験もしました。苦労が多かった分、一番思い入れのある論文なのですが、あまり引用してもらえません。

Tomioka, N., Tomeoka, K., Nakamura-Messenger, K., and Sekine, T. (2007) Heating effects of the matrix of experimentally shocked Murchison CM chondrite: Comparison to micrometeorites. Meteoritics & Planetary Science, 42, 19–30.

最初に就職した神戸大で、留岡教授と一緒に行った研究です。含水の炭素質コンドライトの衝撃回収試料をTEMで観察し、含水層状鉱物の脱水と無水鉱物の形成過程を詳しく調べました。その結果、宇宙塵の鉱物学的多様性は、大気圏突入時の加熱だけでなく、母天体の小惑星上での衝撃加熱でも説明できることを明らかにしました。この研究に限らず、留岡さんや研究室の学生さんからは隕石学のイロハからプレゼン道まで(就職した頃はパワポもろくに使えない状態でした)、とても多くのことを教わりました。同じ試料の赤外分光による兄弟論文はこちら。Morlok, A., Koike, C., Tomioka, N., Mann, I., and Tomeoka, K. (2010) Mid-infrared spectra of the shocked Murchison CM chondrite: Comparison with astronomical observations of dust in debris disks. Icarus, 207, 45–53.

Tomeoka, K., Tomioka, N., and Ohnishi, I. (2008) Silicate minerals and Si-O glass in Comet Wild 2 samples: A transmission electron microscope study, Meteoritics & Planetary Science, 43, 273–284.

NASAが主導する「スターダスト計画」の末端メンバーに加えていただき、ヴィルト彗星から回収した塵の分析を行いました。ラボの留岡教授、ポスドクの大西さん(現、日本電子の技術者)という電顕屋トリオで、顔を寄せ合ってTEMの蛍光板をのぞいたのが良い思い出です。留岡さんは自分と名字が似ているだけでなく(外国人は発音の区別できない)、元アリゾナ州立大ポスドク、隕石屋、TEM屋と、共通点が多いために業績がよく混同されます。といっても、研究者としての格は留岡さんに遠く及びません。自分なりのペースで、少しずつ留岡さんに近づければと考えています。

Tomioka, N. (2007) A model for the shear mechanism in the enstatite-akimotoite phase transition. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 102, 226–232.

唯一の単著原著論文。以前、隕石中に発見したakimotoiteが母相の輝石と特定の結晶方位関係(トポタキシー)を持つことから、無拡散型の輝石ー秋本石転移相転移モデルを提案しました。実験データもなく、完全に一人で行った「机上の空論」研究。地球内部に沈み込み込んだスラブ中でも、同じ機構で輝石の高圧相転移が起きていると妄想しています。モデルの構築のために、プラスチックの球を接着剤で並べて模型をつくり、丸ひと月あれこれと悩みました。このような結晶構造のトポロジーに基づく高圧相転移モデルは自分のオリジナルではなく、1980年代にパリ大のPoirier教授がオリビンースピネル転移について先駆的な研究をしています。そこで、完成した論文原稿をPoirierさんに送ったところ、"I have read with great interest your paper, which seems very convincing (at least to me!)"という返事が届きました。裏返していえば「マニアック過ぎて大抵の人にはよくわからん」ということです。案の上、さっぱり引用してもらえないのですが、鉱物科学会から論文賞をいただいて、ちょっと報われました。

Tomioka, N., Kondo, H., Kunikata, A., and Nagai, T. (2010) Pressure-induced amorphization of albitic plagioclase in an externally heated diamond anvil cell. Geophysical Research Letters, 37, doi:10.1029/2010GL044221.

隕石記載ばかりでなく再び超高圧実験がしたいと、神戸大の学生さんたちと外熱式ダイヤモンドアンビルの実験を立ち上げました。当時実験設備は何もなく、お金もなかったので、ルビー蛍光の測圧装置はパーツを揃えて自作しました。立ち上げたシステムで、衝撃を受けた隕石中にみられる高密度斜長石ガラスの生成圧力を、静的圧縮実験からのアプローチで調べました。その結果から、動的高圧実験(衝撃回収実験)に基づく従来の隕石の衝撃圧力の見積はoverestimateである、という問題提起を行いました。「相転移のカイネティクスを考慮せよ」というのがメッセージです。相変わらずの不器用さのため、高温発生は当初の狙いほど進みませんでした。同じ時期に九大の久保さんが、放射光X線その場回折実験で長石非晶質化のカイネティクスの研究を行い、ずっと緻密な議論の論文を発表されています。

Okuchi, T., Purevjav, P., Tomioka, N., Lin, J.F., Kuribayashi, T., Schoneveld, L., Hwang, H., Sakamoto, N., Kawasaki, N., and Yurimoto H. (2015) Synthesis of large and homogeneous single crystals of water-bearing minerals by slow cooling at deep-mantle pressures. American Mineralogist, 100, 1483–1492.  

同僚の奥地さん、モンゴルからの大学院生のPurevjavさんの3人を中心メンバーとして、高品質の含水高圧ケイ酸塩単結晶の合成法を確立しました。この合成法は、その後の地球科学世界初の中性子単結晶結晶構造解析につながります。 北大のゆり本さんのラボで結晶中の含水量の測定をさせていただきましたが、SIMS分析の奥深さを体験をできたのは大きな経験でした。また、この経験が遠因となって今の職につくことができました。

Tomioka, N., Okuchi, T., Purevjav N., Abe, J., and Harjo, S. (2016) Hydrogen sites in the dense hydrous magnesian silicate phase E: A pulsed-neutron powder diffraction study, Physics and Chemistry of Minerals, 43, 267–275. 

神戸大の次に赴任した岡山大では、訳あってTEMや隕石の仕事を3年ほど中断し、同僚の奥地さんと水素地球科学の仕事を行いました。東海村にあるJ-PARCで粉末中性子回折実験を行い、沈み込みスラブ中に存在すると考えられている高密度含水マグネシウムケイ酸塩(PhaseE)の結晶構造中の水素位置を精密に決めました。初めて行う中性子回折実験、また結晶構造解析ということで難儀しましたが、現在の職場に異動したのちに論文化することができました。中性子回折用の試料の前評価のためにレーザーラマン分光装置を自作したことは、実験屋として大きな自信となりました。

Tomioka, N., Miyahara, M., and Ito, M. (2016) Discovery of natural MgSiO3 tetragonal garnet in a shocked chondritic meteorite, Science Advances, 2, e1501725.

現在の職場の高知コア研究所に異動し、同僚の伊藤さんの強力なサポートの下、電顕屋として再出発をする機会をいただきました。真新しいTEMでリハビリ用に観察したのが、大学院で研究対象だったメージャライト・ガーネットです。ガーネットは一般に立方晶系の対称性をもち、隕石中のメージャライトも立方晶ばかりなのですが、同じものを超高圧合成すると、対称性が低下した正方晶となります。博士論文の経験から、隕石中にも正方晶メージャライトは存在するはずだと、この20年間考え続けていたのですが、高感度のCCDカメラで電子線回折パターンをネチネチと観察したところ、正方晶の決定的証拠をみつけました。メジャーな鉱物の高圧相、天然で初めての発見ということで、張り切って超一流誌に論文投稿しましたが、あっさり撃沈し、流行りのオープンアクセス誌での発表となりました。正方晶ガーネットは、1980年代半ばに名古屋大(当時)の加藤工さんが初めて超高圧合成と同定を行い、Nature誌上で発表しています。大変悲しいことに、加藤さんは最近ご病気で亡くなられてしまいましたが、ご存命のうちに天然での発見を直接報告出来たのは幸いでした。

Hagino, K., Tomioka, N., Young, J.R., Takano, Y., Onuma, R., and Horiguchi, T. (2016) Extracellular calcification of Braarudosphaera bigelowii deduced from electron microscopic observations of cell surface structure and elemental composition of pentaliths, Marine Micropaleontology, 125, 85–96.

現在の職場が「海」の研究をする機関ということもあり、海洋プランクトンの生体鉱物の研究を初めて行いました。石灰質ナノプランクトンである円石藻の多くは細胞内でカルサイト殻をつくるのですが、B. bigelowii という正12面体状の形態をした円石藻は細胞の表面でカルサイト殻を作ることを電顕観察から明らかにしました。また、このカルサイト殻は海水由来のマグネシウムを含みます。有孔虫で知られているように、殻のMg/Ca比が古海水温のプロキシになる可能性があります。夫婦で初めておこなった研究です。

Tomioka, N. and Miyahara, M. (2017) High-pressure minerals in shocked meteorites, Meteoritics & Planetary Science, 52, 2017–2039. 

今や隕石中の高圧鉱物研究の第一人者である広大の宮原さんと共に、高圧鉱物発見50年史をレビュー論文にまとめました。この研究を始めたころは、世界でも片手で数えられるほどしか研究者がいないほど超ニッチな分野だったのですが、その後少しずつライバルが増えてコミュニティーらしくなってきました。研究人生の折り返しを過ぎた時期で節目の論文となりました。

Shiraishi, F., Hanzawa, Y., Okumura, T., Tomioka, N., Kodama, Y., Suga, H., Takahashi, T., and Kano, A. (2017)  Cyanobacterial exopolymer properties differentiate microbial carbonate fabrics. Scientific Reports, 7, 11805.  

細胞による石灰化の共同研究第2弾。もとより生物学には苦手意識が強かったのですが、今の職場で生物研究者の話を聞いたり、微生物細胞の観察をするなかで、ふつふつと生き物に興味が湧いてきました。広島大のインターンシップの引率で、ラボを訪れた石灰岩の専門家の白石さんにTEMの技術を披露したところ、そのポテンシャルに興味をもってもらいました。早速、微生物がつくる炭酸塩の形成プロセスの鉱物学的観察の実験を開始しました。軟らかい細胞と硬い鉱物からなる試料の薄膜化は容易ではないのですが、技術支援でFIB装置を担当してくれている兒玉さんの腕前で、見事なTEM試料ができました。そのおかげで、ストロマトライトやスロンボライトの組織の違いが、シアノバクテリアとそれを取り巻く高分子有機膜の種類によってコントロールされている現場を観察することができました。生物の奥深さを知り、ますます興味が強くなっています。

Tomioka, N. and Okuchi, T. (2017) A new high-pressure form of Mg2SiO4 highlighting diffusionless phase transitions of olivine, Scientific Reports, 7, 17351.

前の職場の盟友が進めている実験結果にヒントを得て、大学院生時代につくった隕石の電顕試料を引っ張り出してきて再観察したところ、カンラン石の新しい高圧相を見つけるにいたりました。安定領域を持たないイプシロン相という準スピネル構造の鉱物です。もともと1980年代にフランスの研究者が理論予測した構造なのですが、今時の高分解能・高感度TEMを用いることで、ナノスケールしかない産状を発見することがきました。合成物も見つかっていないので、新物質です。地球深部に沈み込むプレート中のオリビンの相転移にも重要な役割を担っている、と妄想中。

Hagino-Tomioka, K., Tomioka, N., and Tomioka, N. (2019) Seasonal succession of living coccolithophores in coastal waters in the Tomari Port, Tottori, Japan. Journal of Nannoplankton Research, 4, 1–15.

見てのとおり、著者の名字は3名とも同じです。前職時代に生活していた鳥取県にある泊港に6年間通って、妻・長女と三人でプランクトン(円石藻)のサンプリングを行いました。「生きた化石」であり、初夏の短期間にしか出現しないと考えられている2種類の円石藻の出現パターンを明らかにしました。地味で地道な研究ですが、生物の進化を理解する上でキーとなる種であり、また培養ができないことから、世界の生物研究者がこのサンプルを入手する際に、重要な情報になるはずです。

Tomioka, N., Bindi, L., Okuchi, T., Miyahara, M., Iitaka, T., Li, Z., Kawatsu, T., Xie, X., Purevjav, N, Tani, R., Kodama, Y. (2021) Poirierite, a dense metastable polymorph of magnesium iron silicate in shocked meteorites. Communications Earth & Environment, 2, https://doi.org/10.1038/s43247-020-00090-7

Tomioka and Okuchi (2017) で報告したカンラン石高圧相の「イプシロン相」を、新たに2つの隕石中に見つけました。天然に初めて発見された結晶は、新しい鉱物種となる資格があります。そこで国際鉱物学連合(IMA)に申請をしましたが、当初は電子顕微鏡のデータだけでは不十分、と却下になってしまいました。一旦はあきらめた申請ですが、イタリアのBindiさんによるX線構造解析に加え、理研の飯高さん、Liさん、河津さんが、第一原理計算で結晶構造と安定性の検証を行ってくれました。これらの結果も加え、申請に再挑戦することになりました。最初の申請から足かけ2年になりましたが、奮闘のかいあって、2020年春にめでたく新鉱物として承認をえた次第です。イプシロン相はもともと、フランスのJean-Paul Poirier教授が1983年に予言したものです。僕自身、大学院生時代からPoirierさんの仕事に強く影響を受けてきた経緯もあり、同相は彼の名前をとってポワリエライト(poirierite)と名付けることにしました。論文発表の日は、日本(日本酒)とフランス(ワイン)でそれぞれ乾杯をしました。

Tomioka, N., Yamaguchi, A., Ito, M., Uesugi, M., Imae, N., Shirai, N., Ohigashi, T., Kimura, M., Liu, M.-C., Greenwood, R. C.,  Uesugi, K., Nakato, A., Yogata, K., Yuzawa, H., Kodama, Y., Hirahara, K., Sakurai, I., Okada, I., Karouji, Y., Okazaki, K., Kurosawa, K., Noguchi, T., Miyake, A., Miyahara, M., Seto, Y., Matsumoto, T., Igami, Y., Nakazawa, S., Okada, T., Saiki, T., Tanaka, S., Terui, F., Yoshikawa, M., Miyazaki, A., Nishimura, M., Yada, T., Abe, M., Usui, T., Watanabe, S., and Tsuda Y. (2023) A history of mild shocks experienced by the regolith particles on hydrated asteroid Ryugu. Nature Astronomy, https://doi.org/10.1038/s41550-023-01947-5.

2014年に現職に赴任して以来、リーダーの伊藤さんを始めPhase2高知のメンバーたちと、探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウ粒子の分析手法の開発を続けてきましたが、ようやく筆頭の成果を出すことができました。さかのぼること15年以上前の神戸大時代、教授の留岡さんと「強い衝撃を受けた含水小惑星物質は、爆発的に破砕して大量の宇宙塵を形成する」というモデルを裏付ける実験を行いました。その試料と似た産状がリュウグウからも得られると期待してたのですが、残念ながら、観察した粒子は非常に弱い衝撃しか受けておらず、上記モデルを裏付ける証拠は得られませんでした。それでも、高圧発生の指標となる硫化物の高圧相(自分)や、衝撃でできた微小断層を見つけたり(第一発見は極地研の山口さん)と、面白い結果が得られたと思っています。特に微小断層の解析では、同僚(現広大)で岩石物性のプロの岡崎さんから沢山のアドバイスをいただき、(簡単な)断層力学をはじめて惑星物質に応用することができました。千葉工大の黒澤さんには、はやぶさ2による人工クレーターオペレーションではほとんど衝撃変成が生じないこと、を衝撃物理計算から証明いただき、厳しい査読(これまでの研究人生で一番苦しい改訂だった)を乗り切ることができました。共同研究者のみなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。