お客様各位

 

たべごと屋のらぼう

からのメッセージ

 

 去る3月11日に起きた東日本大震災により、東京電力福島第一原発にて、自然界に甚大な影響を及ぼす事故が起きました。

 この事故に依り、大量に放出された放射性物質が原発近隣のみならず、広範囲に及び各地で検出されています。

 この事は私ども飲食業を生業とするものはさることながら、「食べる」事無しには生きてゆけない我々にとって、他人事では済まされない不可避な現実となり日々の生活に重くのしかかっています。

 このような事態の中で食べものを提供し続けていく上で、提供する側の責任として、今現在の私どものスタンスを示す必要があるのではないかと考え、この場をお借りしました。

 原発事故に関連し、政府や東京電力が国民に知らせるべき情報やデータを隠蔽する事は憤りを感ぜずにはいられません。これは決してあってはならない事です。また、様々な情報が錯綜し、時に人々を不用意に不安にさせる意見、報道が多々見受けられます。本来「想定しておくべき事」が「想定外の出来事」として起こってしまった今、様々な面において私たち人間の脆弱さを露呈しているように思います。

 今、私たちに出来る事は正しい情報を可能な限り仕入れ、それを踏まえた上で冷静に対応する事だと思います。未来の事は誰にも分かりませんので、残念ながら何が正しい、と言う事は出来ませんが、だからこそ「常識的」な考えのもとに行動するべきではないでしょうか。

 「常識的」に考えて、東京で生産される農産物にも何らかの影響が起きている可能性は否めないでしょう。先日、東京各地の農産物のモニタリング結果が出ました。(高く設定された暫定基準値は、「平時でない」という前提のもとで算出されたものだと解釈しています。)結果はご承知の通り、いずれも「検出されず」というものでした。検出出来る下限を越えなかった、という事です。この事実はひとつのサンプルとして参考になるものと思っております。ただ、このモニタリングも、放出されているであろう放射性物質のごく一部に対してのものと思われる事から、鵜呑みにできるという性格のものではないでしょう。各自治体や、危機感を募らせた市民たちが独自に放射線量のモニタリングを始めています。出来る限り、知る努力を惜しまず、推移を見守ってゆくことが大切だと思います。

 当店『たべごと屋のらぼう』のこれまで9年間の営業の基本スタンス(理念)は「地産地消」、つまり、地元生産者と顔の見える関係を築き、信頼出来る生産者から仕入れた新鮮な野菜をご提供する、という考えです。

 万が一今後、大気中、また地元産農作物の放射線量がはね上がるなどという事態になれば、当店での仕入れ、更に言えば店のあり方もやむを得ず変えてゆかなければいけない時が来るかもしれません。東京から脱出する勇気を持たなくてはいけない時が来るかもしれません。しつこいようですが、未来は誰にも分からないのです。その上で、あくまでも今はその段階では無い、という当店の現在の判断です。

 自然と向き合う以上、美しいものばかりでなく、その汚らわしさとも向き合わなくてはいけないという事は、自然からその恵みを甘受しているものとして避けては通れないものだと考えており、今現在はその許容を越えないもの、というのがその根拠です。

 当店では、現在のところ、これまで通り地元の信頼出来る生産者と繋がり、その農産物をお客様に提供してゆく考えでおります。安全なもの、出所の分かるものを提供して行くのは店の責務だと思っておりますし、その努力を惜しむ事はありません。しかしそれらは当店においては今までと何ら変わりのない事なのです。

 今、まさにその「安全」が脅かされる事態が起こっている訳ですが、しかし同時に他方で私たちは「食べなくてはいけない」という現実を天秤にかけなくてはいけないのです。これは本当に辛く、悲しい事です。自ら食べものを選べない子供達にとってはなおさらです。この「尋常でない」時期は可能な限り短い期間であって欲しいと切に願います。

 当店としては将来のエネルギーの在り方として、「脱原発」を目指す、というスタンスをこれからもとってゆきたいと考えております。なんの落ち度もない子供達に負の財産を残す事は、大人の責任として許されない事だと考えます。

 (批判されるべき)東京電力を闇雲に批判する事は簡単ですが、今はその時ではない、とも思っております。この事故は私たち消費者が便利さ、経済の発展を第一に優先してきた歴史の負の結果ではないでしょうか。私たちひとりひとりが主体的にこの事故そのもの、また今後のエネルギーの在り方、更に言えば「どう生きるか」という問いに向き合うべき時を迎えていると感じています。

 この事は一見、食べものと全く関係のない事のようにも見えますが、実は本質的には同義ではないでしょうか。多くの場合、消費者が求めるもの(需要)に応じて供給は動くのです。ある人は安さだけを求めるでしょう。またある人は安全を追い求めるでしょう。私たち生活者がどのように、何を選ぶのかという事は、同時に未来をも選ぶ事になるのだと思います。では、この先、何をどのように選んでいったら良いのか、それを皆さまと一緒に悩み、考えてゆきたいと思っております。

  放射性物質の影響を微量でも受けたものを提供する様な店であればそこへは行かない、という選択もあるでしょう。また、今だからこそ、生産者とどのように繋がるかを消費者として見つめ直す、という選択肢もあるでしょう。そこであえて、(店の保身を優先している状況ではないという事を『のらぼう』の総意とした上で)現在の考えをお話しさせて頂きました。そのことで「何を選んでゆくべきか」という大きな問いに対する小さなヒントとなれば幸いです。

 私個人としてはまさに今、料理人として、また経営者としての胆力が試されている時だと感じております。

 様々な方面からのお叱り、ご批判を受ける覚悟です。しかし、のらぼうを日々、ご愛顧くださる皆様にどうしてもお話ししておきたかったという私どもの思いをご理解くださいませ。

 最後に、この度の震災に依り亡くなられた尊い命にご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。

 また、子供達や生まれ来る新しい命に素晴らしい未来が訪れる事を心から祈ります。

 乱文をお許しくださいませ。

 

20116月11

たべごと屋のらぼう

店主 明峯牧夫

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