非被災地における被災者支援について

はじめに
  • 東北関東大震災で被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。
  • 今回の震災は、その被災の大きさから、非被災地への避難、および、それへの支援活動が予想されます。
  • 筆者は、阪神・淡路大震災で大阪府八尾市に開設された遠隔地仮設住宅への支援活動、および、三宅島噴火災害における未就学児と母親への支援活動に関わりました。
  • これらは、共に、非被災地における支援活動であり、これら活動を通じて、より長期的で効果的な支援を行うために、社会心理学的な視点からの研究成果を「出来るだけシンプルに、わかりやすく」を念頭にまとめました。
  • 非被災地での支援に関わる方の活動に、わずかなりとも役立てば幸いです。
  • 本サイトの内容を紀要にまとめました→  田中優 (2011). 非被災地における被災者支援の社会心理学的問題  大妻女子大学人間関係学部紀要 人間関係学研究, 13, 79-88.



支援活動のために理解しておきたい社会心理学的問題

災害の構造 ~災害は、多重的に被災者に影響を与える

  • 野田(1995)、災害の構造を、自然災害(地震、風水害、山火事など)や人為災害(大事故、火事、暴動、戦争など)が、直接の犠牲者をつくり(第一次衝撃)、生き残った者と遺族を生みだし(第二次衝撃)、地域社会を解体する(第三次衝撃)という連鎖的な3段階の構造をもつことを指摘している(図1)
図1 災害の構造(野田,1995)

求められる被災者役割 ~「被災者」に対するイメージを持つことの悪影響

  • 多くの被災者に対し、外部社会が、救援者とマスコミを送り込み、被災者に対して、例えば、弱々しく、かわいそうな、受け身で、依存的である等の「被災者役割」、つまり、被災者らしさを求めると指摘している(野田,1995) 。
  • 外部社会から被災者に期待する型どおりの振る舞いや、期待どおりの悲嘆の表出は、多くの場合、被災者の自然なそれらとは異なっている場合が多く、このことが被災者のストレスを増幅させる(B・ラファエル,1986)。
  • 外部社会が、ある期間を過ぎた被災者(遺族)に対して、「もう当然立ち直っている頃だ」という期待をあからさまに見せつけ、この期待と被災者の現実とのギャップが被災者を苦しめる(B・ラファエル,1986) 。

物質的援助偏重の落とし穴 ~真に求められる物質的援助を理解する

  • 現代の効率主義や物質的な対象へのこだわりが、過剰な物質的援助を生み、被災者への精神的援助が軽視されている。物質的援助は、被災者が精神的に癒され、生きる目的を見つけていくための補助になるべきである(野田,1995) 。
  • 物質的援助が、遺族側に自分の悲しむべき状況について不平を言うべきではないという気持ちを起こさせ、この悲嘆の抑制(悲しみを無理矢理押さえ込むこと)が、その後の精神的な障害や病態へとつながることを指摘している(B・ラファエル,1986) 。
  • 物質的援助が、被災者の自立の妨げになることがある。

心理的負債感  ~被災者の心理を理解する:助けられることのつらさ

  • 心理的負債感(Greenberg,1980)とは、他者から援助されることが一種の負債を負った状態を生みだし、それが不快感情の源泉となることで、他者に返礼するように義務づけられる心理状態を意味する
  • 被災者(被援助者)は、他者から援助されることにより、「申し訳ない」とか「お返しをすることができない」など、一種の負債の感覚を体験し、それが彼らにとって不快感情の源泉となる。また、この状態は、他者に返礼するように義務づけられる心理状態である
  • 災害時における長期的な支援活動によって被災者がいだく心理的負債感は、必要な援助要請を抑制し、結果的に支援活動を滞らせることとなる。

被災者の「ニーズ」と支援者の「支援欲求」とのズレ ~「助けたい」気持だけでは、助けられない

  • 被災者が抱える問題は、時間の経過とともに移り変わり、また、それぞれの被災の状況により多様な様相をみせる
  • 被災者を支援しようとする支援者の活動は、時として、被支援者が本来求めるものとは異なる場合もある
  • 長期的で、効果的な支援のためには、被災者が抱えた問題に基づく被支援欲求と支援者の支援欲求とのズレをうまく調整することが必要である。

効果的で長期的な支援活動のための工夫

コミュニティー・ゲートキーパー ~効果的な支援:「ニーズ」と「支援」のマッチング 

  • 藤森と藤森(1995)は、災害後のメンタルヘルスに関して、“福祉担当職員、保健婦、学校教員等、地域内にいて、地域の人々の様子を理解しており、その人たちの悩みやストレスの問題に対して関心のある人”が、問題を抱える人の手助け、あるいは、自ら対処できない場合は専門家への橋渡し役となる、そのような人を、コミュニティ・ゲートキーパーと定義している。
  • コミュニティー・ゲートキーパーは、被災者の支援ニーズと支援者の支援欲求とのズレのマッチングを行う(図2)。
図2 被災者支援におけるコミュニティー・ゲートキーパー

  • 田中(1998)は、阪神・淡路大震災の応急仮設住宅に常駐するボランティアが、仮設住宅内部と仮設住宅外部との情報の橋渡しをするコミュニティ・ゲートキーパーの役割を果たしていることを参与観察によりみいだしている(図3)。
  • 田中(2004)では、三宅島噴火災害での全島避難による未就学児とその母親への支援におけるコミュニティー・ゲートキーパーの役割とその効果について解説している(図4)。
図3 阪神・淡路大震災の応急仮設住宅に常駐するボランティアのコミュニティー・ゲートキーパーとしての役割 (左)
図4 三宅島噴火災害での未就学児とその母親への支援におけるコミュニティー・ゲートキーパーの役割     (右)


災害支援活動における互恵的相互依存関係 長期的な支援:援助効果と援助成果

  • 援助行動には、援助されることにより被援助者の問題が解決する「援助効果」と、他者を援助することにより援助者自身も恩恵を受ける「援助成果」がある(高木,1998)(図5)。


図5 援助効果と援助成果(高木,1998)

  • 支援者が得た援助成果を被災者が認識することは、「自分は、助けられるだけの存在ではない」という気持ちを意識させ、被災者役割に起因するストレスや被援助にともなう心理的負債感をいくらかでも低減させることとなる。
  • 被災者が得た援助効果を支援者が認識することは、次の援助に対する動機づけを高めることとなる。
  • 支援活動において、被支援者と支援者が、それぞれ得たものに対して、お互いにそれらを認識、評価することは、効果的で、長期的な支援活動を可能にする。

非被災地の被災者が求めた情報 阪神・淡路大震災と三宅島噴火災害での非被災地の被災者支援から

  • 時間的展望いつ故郷に帰れるのか?
  • 被災地の情報故郷は、今どうなってるのか?
  • 他の避難者の情報他の被災者の様子は?
  • 避難先での情報医療、生活、仕事、教育等の情報
  • 行政の情報:国の方針・被災地の自治体の動き・避難先の自治体の動き

文献

  • 藤森和美・藤森立男 (1995). 北海道南西沖地震の被災者のメンタルヘルス 保健の科学, 37(10), 689-695. 
  • Greenberg,M.S., (1980). A theory of indebtedness. In K. Gergen, M.S. Greenberg, & R. Willis (Eds.), Social exchange. John Wiley & Sons. 
  • 野田正彰 (1995). 災害救援 岩波新書 
  • Raphael,B. (1986). 石丸正(訳)(1989). 災害の襲うとき-カタストロフィの精神医学 みすず書房 
  • 高木修 (1998). セレクション社会心理学-7 人を助ける心-援助行動の社会心理学- サイエンス社 
  • 田中優 (1998). 仮設住宅の運営 松井豊・水田恵三・西川正之(編) あのとき避難所は-阪神・淡路大震災のリーダーたち ブレーン出版 Pp.115-135. 
  • 田中優 (2004). 三宅島噴火災害における未就学児とその母親が抱えた問題について 大妻女子大学人間関係学部紀要 人間関係学研究,5,15-24. 
  • 田中優 (2011). 非被災地における被災者支援の社会心理学的問題  大妻女子大学人間関係学部紀要 人間関係学研究, 13, 79-88.

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2011年3月22日 作成

大妻女子大学 人間関係学部
田中 優