15.“未契約裁判”の真相。最高裁判決でNHKは勝訴したのか?

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最高裁判決確定。「合憲」しかし、実質的にはNHK敗訴とも。

2017年12月6日 
NHKが未契約者」を相手に受信料の支払いを求めていた裁判で、最高裁判決が確定しました。
「憲法判断」と「受信契約は義務か任意か」については、予想通り「放送法64条が規定する受信契約の締結は、テレビ設置者に課された義務であり、それは合憲である」というものでしたが、高裁で判断が別れていた「契約開始の時期」については、「NHKが契約を申し込めば、本人の承諾がなくても申込みから2週間で契約が自動成立する」というNHK側の上告部分の主張は斥けられ「契約成立は裁判所の判決が確定した時点から」という判断が確定しました 最高裁判決 全文

世間では憲法判断の結果にばかり目が行きがちのようですが、これは非常に重要な判断です。

この判断に至る、最高裁による放送法64条解釈のポイントを箇条書きにすると次の様になります。

最高裁判決・NHKの上告棄却部分のポイント
・受信料支払い義務の発生は、受信契約の締結が前提となる。
・受信契約の締結には、双方の合意、設置者の承諾が必要となる。
・契約締結を承諾をしない設置者に承諾を強制できるのは、裁判所の(個別の)判決のみ。
・契約成立は、契約締結の承諾を命じる判決が出され確定した時点から。
・契約締結なしでも受信料を徴収できるに等しい状況を作り出すことは認められない。

(※但し、判決が確定して契約締結への承諾が命じられた場合の、支払いの基点は「テレビの設置時点から」となります。ページ後半参照)

これは、本ページ後半に時系列で並べた下級審における未契約裁判のうちの、東京高裁「難波判決」が否定され、その後にだされたやはり東京高裁の「下田判決」が採用され確定した形です。(「NHKが申し込めば2週間で契約自動成立」とした「難波判決」は、法曹関係者の間で「トンデモ判決」として物議を醸していました)

放送法64条の規定は、テレビ設置者に契約の義務を課すものであっても、「契約」と謳っているからには、料金を請求するには必ず「契約手続き」を経なければならず、その「契約」を成立させるには「双方の合意」が不可欠で、そのためにはNHKは「設置者本人の承諾」を求めなければならない。「承諾を拒否している人に承諾を強制できるのは、NHKではなく、裁判所の個別の判決のみ」であり、「NHKが契約締結に同意しない設置者に契約させたければ、その都度裁判所にそういう判決を出してもらいなさい」と、最高裁は言っているわけです。

NHKは、東京高裁「難波判決」が最高裁で採用されれば、それを足掛かりにして、「契約の自動成立」「署名捺印などの契約手続きも裁判所への訴訟提起も全部すっ飛ばしての、未契約者へのダイレクトな支払い督促の制度化」つまり事実上の「支払い義務化」にまで、法改正なしでなし崩し的に持っていくことを目論んでいたようですが、潰えました。

これで、NHKが未契約者に受信料を払わせるには、個別民事で一件一件訴訟を提起し、テレビの設置を証明し、勝訴を勝ち取り、裁判所に、設置者に対して契約の承諾を命ずる判決を出してもらうしか、方法はなくなったということです。

これは、約1000万世帯といわれる未契約者の数から考えれば気の遠くなるような作業で(NHKによると「迂遠な手続き」。判決文参照)、実質「お手上げ」という話です。今後NHKは、今回の最高裁判決に至る過程でやっていたように「BSテロップ消し申請などでテレビ設置の証拠をNHKに提出した人」を相手に、時折、見せしめ的な「未契約訴訟」を起こして、それをニュースで流し、まるで何もしてない一般家庭の未契約者がランダムに訴えられてるかのような印象操作をするという子供騙しを続けるだけでしょう。「その次の展開」は、最高裁判所に封じられたのです。

報道では「受信料制度は合憲」ということばかりに力点がおかれ、「NHKの完全勝訴」であるかのような話になっていますが、実質的にはNHK敗訴の割合がかなり大きい判決です。


NHK受信料未契約裁判 最高裁判決 判決文 「NHKの上告棄却部分」抜粋
受信契約締結承諾等請求事件
平成29年12月6日
大法廷判決
主文 本件各上告を棄却する。
各上告費用は各上告人の負担とする。

( 以下抜粋)
◯原告(NHK)は、受信設備を設置しながら受信契約の締結に応じない者に対して、「原告が承諾の意思表示を命ずる判決を得なければ受信料を徴収することができない」とすることは、迂遠な手続きを強いるものであるとして、原告から受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で、あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で、受信契約が成立する旨を主張する(主位的請求に係る主張)。
しかし(略)、基本的には、原告が受信設備設置者に対し、同法に定められた原告の目的、業務内容等を説明するなどして、受信契約の締結に理解が得られるように努め、これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい。

◯放送法は、任意に受信契約を締結しない者について契約を成立させる方法につき特別な規定を設けていないのであるから、任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。

◯放送法は、 受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、原告から受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、 受信契約の締結、すなわち原告と受信設備設置者との間の合意によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。
 

 ◯放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、原告からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、 原告がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。

◯放送法が受信契約の締結によって受信料の支払義務を発生させることとした以上、原告が受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めることは相当でない


さらに、NHKは、未契約者に対する損害賠償として、設置後に発生した受信料と同じ額の延滞遅延金、割増金の請求も主張していたようですが、これについても退けられたようです。

(2017 12月8日 12:00 更新)


“未契約訴訟”の真相は“テロップ消し裁判”


2013年6月27日・横浜地裁
「未契約者」に受信料の支払いを命じる初の判決

2013年6月27日、横浜地裁相模原支部にて未契約者を対象とした裁判の初めての「判決」が出され、NHKの訴えが認められたとするニュースが、NHKを始めとする複数のメディアで報じられました。

報道直後、ネット上では「契約してなくてもNHKに訴えられるのか!?」と不安を訴える非契約者の声が飛び交いましたが、実はこの裁判で受信料支払いを命じられた神奈川の男性とは、「BS放送の画面に表示される契約を促すテロップの消去を申し込むために、自分からNHKに電話をかけて、個人情報を通知してしまった人であるということです

これでは集金人が持参した契約手続き書類にサインなどしなくても自ら積極的にテレビの設置を認め、受信料支払いの意思を示したものと判断されても致し方ありません。こういう人を厳密な意味での「未契約者」と呼んでいいのかどうかについても、疑問が残ります。

そして、現在NHKに未契約で訴えられている個人の世帯は、全員これと同じケースだそうです(⇒この件について解説している元NHK職員のYoutubeチャンネル)。

また、相模原の男性は、裁判所から出廷を求められても一切応じず、完全無視し続けたらしく、裁判官は和解の勧告もできず、NHK側の言い分のみを聞いて判決を出さざるを得なかったようです。(一部報道では、男性は弁護士を立てずに訴訟に臨み「東日本大震災でテレビが壊れた」と主張していたとされていますが、どのような状況で主張していたのか、詳細は不明です)

なお、NHKは、相模原の男性のこのような背景情報について、報道もプレスリリースも一切していません。


2013年10月30日・東京高裁
「本人の承諾なしでもNHKが契約を申しこめば受信契約が成立する」との判決(難波判決)

10月30日(水)、上述の「BSテロップ消し」をしたことで受信契約を申し込んだと判断された相模原の男性の控訴審の判決が東京高裁で出されました(控訴したのは被告の男性ではなく、NHKです)。

各社が配信した記事はどれも、非常に分かりにくい、NHKがリリースしたペーパーだけをソースとした、読む人を確実に錯誤に導く書き方をされています。これを読んだ人の多くが「テレビを持っているとNHKが勝手に認定した人の家に、NHKの集金人がやってきて、一方的に契約を申し込めば、相手が拒否しても、その二週間後には契約が成立したことにされてしまう」という判決であると勘違いしているようですが、そういうことではありません。

判決を噛み砕いて言うと、「BSのテロップ消去を、自分からわざわざNHKに電話をかけて申し込み、その時点から今日までテレビが設置がされていたと、すでに一審判決において認定されている神奈川の男性については、ここからさらに『契約締結』という手続きを踏まなくても、テレビ設置を認定された日時まで遡って支払い責任が生じ得る。ただ「契約日」については、『設置(=テロップ消しの申請)即、契約成立』ということにはせず、少し猶予を置いて、NHKからの契約申し込み通知(内容証明郵便等)が届いてから二週間後に締結されたということにしましょう」という話のようです。

一審二審とも、契約成立日と料金発生日との間にズレがある、論拠が曖昧な混乱した判決です。これは、規約などの効力も発生し得る「正式な契約成立日」と、支払い料金の計算目的に限定した「擬制的、便宜的な契約発生日」とを、社会的公平性担保のために併存させたものとも考えられます。極めて異例かつ苦肉の判決と言えるでしょう。

§【 図表・相模原未契約裁判の流れ】

各報道では、「NHKからの契約申し込み通知」 「本人の承諾なくても二週間後に契約成立」の2点に、ことさら意味があるような書き方がされていますが、NHKが(内容証明等で)契約申し込みの通知をするためには、視聴者の側から、テレビを設置した事実をNHKに通知していることが大前提となります。それなくして「NHKからの契約申し込み通知」など何の意味も持ちません。

結論として、今回の判決は、BSテロップ消し申請を通じた「事実上のテレビ設置報告=契約申し込み」をしたと裁判所に認定された人(または、認定されるのが確実な人)以外には、基本、関係のない話だと言えます

テロップ消しなどしていない大多数の非契約者にも関係がある点を挙げるとすれば、それは、受信料の「契約」手続きとは名ばかりのもので、テレビを設置すれば、書類に署名捺印するなどしなくても契約が成立し得る、ということを裁判所が認めたことくらいでしょうか。(ただ、これでは放送法における契約の概念と、民法における契約の概念は別のものだと言っているようなもので、法学的には、確かに尋常ならざる判決であるとは思います) →※

ただ、クドいようですが設置しているかどうかを判定できるのはNHKではありません。裁判所です。

※ 2017年12月6日 追記。
最高裁判決で難波判決が否定された今、難波判決がでた直後に書いた上記の記事を見直してみると、なるべく平静を保つような書き方をしていますが、正直なところではかなり困惑していたことを思い出します。難波判決ははっきり言って「トンデモ判決」の部類であり、もしこの「本人の承諾がなくてもNHKが一方的に契約を申し込めば2週間で契約成立」という解釈が最高裁で確定していれば、NHKは「署名捺印などの契約手続きをすっ飛ばした支払い督促の制度化」に舵を切っていたでしょうし、事は受信料にとどまらず、民法の契約の概念そのものを揺るがし、日本の法体系が持つ整合性のようなものを根本から毀損しかねない事態になっていたでしょう。これを棄却した最高裁の良識にとりあえず敬意を表すとともに、東京高裁の難波孝一裁判長(当時)と、その解釈に追随して同様の判決をだしていた各地裁の裁判長に、猛省を促したいと思います。


▼2013年12月18日・東京高裁
受信契約の成立には受信者とNHKの双方の合意が必要との判決(下田判決)

NHKが個人を相手に受信契約締結と受信料支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、東京地裁(下田文男裁判長)は、「受信者から契約申し込みの意思表示がなければ、契約は成立しない」との判断を示した。今年10月には東京高裁の別の裁判長が「NHKが契約を申しこめば、受信者が意思表示をしない場合でも、二週間が経過すれば契約は成立する」との判決を言い渡しており、判断が別れた。下田裁判長は「受信者とNHKの双方の意思表示が合致して契約を成立させる以外には、法律的な契約の効果が発生するとの規定は存在しない」と述べ、NHKの主張を退けた。

という判決がでたようです。NHKに訴えられていた渋谷区在住の受信者とは、10月に判決がでた相模原のケースと同じく、NHKに対して「BS放送の画面に表示される、契約を促すテロップ」を消す申請をした人であるようです。

10月の相模原のケースと同様に、(テロップを消す申請をしてしまったことによって)テレビを設置したと認定された時点から、判決が出た日までの分の受信料は支払う義務があるとされたようです。

しかし、相模原の案件の控訴審は「すでに契約も成立している」としたのに対して、今回は「まだ契約は成立していない」とした点で、大きな判断の違いが生じました。ただ、「判決の確定時に契約を締結せよ」ともしているようなので、相模原の裁判の「一審判決」と同じ判断に戻っただけだと思われます。図表「相模原未契約裁判の流れ」を参照)

契約成立の時期を巡る二つの司法判断の違いは、民法上の契約の概念について法学的な論争をする人、並びに「本人が承諾しなくてもNHKから申し込むだけで受信契約は成立する」というイメージを世間に広めたいNHKにとっては大きな問題でしょうが、被告本人にとっては、いずれにせよテレビを設置した時点(テロップ消し申請をした日)からの受信料を払わなくてはならないことに違いはないわけで、どの時点で契約が成立すると判断されようと別に大した違いはないと思われます。(2013 12/18 23:55 更新)

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片山タイガー之介,
2013/12/18 5:18