市原研究室では,確率論に関する研究を行なっています。確率論で扱う偶然現象の素朴な例はコイン投げやサイコロ投げですが,これら以外にも不確実性を伴う現象は自然界や人間社会に数多く存在します。例えば,生物種の個体数,雑音に汚染された通信,株価の変動,商品の在庫数など,様々な事象を考えることができます。確率論では,これらの偶然現象の本質を抽出して数学モデル(確率モデル)を構成し,元の偶然現象の背後に潜む数学的な構造を解明することを目指します。また,確率モデルから得られた知見を具体的な偶然現象に応用することも,確率論の目的の一つと言えます。
4年生のセミナーでは,確率過程に関するテキスト輪講を行ないます。確率過程とは,時間とともに変化する偶然現象を数学的に記述したもので,確率論の中心的な研究テーマの一つです。確率過程の典型例としては,ランダムウォークやブラウン運動などが挙げられます。ランダムウォークとは,グラフの頂点上を隣接点に等確率で移動する点の推移を記述した確率過程です。また,ブラウン運動とは,水面に浮かぶ微粒子の不規則な細動のことですが,20世紀前半にウィーナーにより数学的に厳密な定式化が与えられ,現在では株価を記述するモデルに用いられるなど多くの応用を持つ重要な研究対象の一つとなっています。
これまでに当研究室で行った卒業研究のタイトルおよびセミナーで用いた主な輪講テキストは以下の通りです。
2024年度
輪講テキスト
D.A. Levin and Y. Peres, Markov Chains and Mixing Times, 2nd edition, AMS
卒業研究
トップ to ランダムシャッフルにおける混合時間
d 次元単純ランダムウォークにおける再帰性
n 次元ハイパーキューブ上のランダムウォークにおける混合時間
グランドカップリングを用いたハードコアモデルの混合時間の評価
マルコフ連鎖モンテカルロ法のアルゴリズム
2023年度
輪講テキスト
O. Haggstrom(野間口謙太郎 訳)「やさしいMCMC入門」共立出版
卒業研究
プロップ・ウィルソンアルゴリズム
グラフ上のランダムウォークにおける再帰時間の分散
ギッブスサンプラーによる無作為 q-彩色の生成アルゴリズムと収束速度
2022年度
輪講テキスト
樋口 保成「新版 パーコレーション ちょっと変わった確率論入門」遊星社
卒業研究
正則サイコロとジッヒャーマンダイス
パーコレーションにおける臨界確率について
サンクト・ペテルブルグ問題
2021年度
輪講テキスト
竹居 正登「入門 確率過程」森北出版
卒業研究
第2位を考慮した最良選択問題
ペアごとに独立な確率変数列に対する大数の強法則と中心極限定理
2020年度
輪講テキスト
藤田 岳彦「ランダムウォークと確率解析」日本評論社
岡田 章「ゲーム理論(新版)」有斐閣
卒業研究
ギャンブラーの破産問題と確率母関数
ランダムウォークに対するピットマンの定理
マルコフ連鎖に対するDoeblin条件
ゲーム理論とオークション
繰り返し囚人のジレンマにおける協力行動の実現
2019年度
輪講テキスト
P. Bremaud, Markov Chains, Springer
O. Haggstrom, Finite Markov Chanis and Algorithmic Applications, Cambridge
卒業研究
メッセージ送信システムとマルコフ連鎖
r人で行うギャンブラーの破産問題
CRR公式とジャンプ過程に対するOption Pricing 公式
グラフ上のランダムウォークとGoogleのページランク
ランダムq-彩色に対するギッブスサンプラーの収束速度
2018年度
輪講テキスト
室田一雄,杉原正顯「基礎系 数学 線形代数II (東京大学工学教程)」丸善出版
O. Haggstrom, 野間口謙太郎「やさしいMCMC入門」共立出版
卒業研究
最大エントロピーランダムウォークについて
有限マルコフ連鎖に対する準定常分布
エーレンフェスト連鎖の収束速度の評価について
可逆なマルコフ連鎖の漸近分散
2タイプ分枝過程について
2017年度
輪講テキスト
尾畑伸明「確率モデル要論」牧野書店
R.B.シナジ「マルコフ連鎖から格子確率モデルへ」シュプリンガージャパン
松本裕行「応用のための確率論・確率過程」サイエンス社
卒業研究
SIS感染モデルとマルコフ連鎖
電気回路とランダムウォーク
確率的動的計画法とそれを用いた在庫管理問題
機械修理問題に対する定常分布の存在について
出生死亡連鎖に関するカーリン・マクレガーの公式
2016年度
輪講テキスト
D.A. Levin, Y. Peres, E.L. Wilmer, Markov Chains and Mixing Times, AMS
P.G. Doyle, J.L. Snell, Random Walks and Electric Networks, arXiv:math/0001057
S.E. Shreve, Stchastic Calculus for Finance I: The Binomial Asset Pricing Model, Springer
卒業研究
電気回路上の非可逆マルコフ連鎖
多期間二項モデルによる派生証券価格の評価
マルコフ連鎖の収束の速さについて
2015年度
輪講テキスト
R. Norris, Markov Chains, Cambridge
卒業研究
有限マルコフ連鎖における指数型汎関数の特性
ルーレットの勝ち逃げ確率
マルコフ連鎖の最適停止問題
マルコフ連鎖における不変分布の存在条件とその収束速度
ルーレットでみる非推移のパラドックス
2014年度
輪講テキスト
志賀徳造「ルベーグ積分から確率論」共立出版
熊谷隆「確率論」共立出版
S. Ross, Introduction to Stochastic Dynamic Programming, Academic Press
卒業研究
2種類のゲームからなるギャンブルモデルの最適戦略
働く選択肢のあるギャンブルモデル
一般化されたギャンブルの最適戦略
勝つ確率を変更できるギャンブルの最適戦略