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故河野義明教授追悼記念シンポジウム

#12 故河野義明教授追悼記念シンポジウム(2010年1月6日)

河野さんは、筑波大学教授を定年退職して間もない2009年1月8日に急逝され、間もなく1年が経とうとしている。河野さんが東京大学の大学院生だった頃、筆者は名古屋大学で同じ学年の大学院生であった。大学紛争が全国で野火のように燃え広がり始めた時代であったが、当時の筆者は科学者として人類に貢献したいという思いだけは強く、科学の方法論にも興味を抱き、武谷三男の「弁証法の諸問題」「自然科学概論」などを耽読したりしていた。そんな中で当時の研究室の仲間と一緒に名古屋大学と東京大学の間で害虫学講座と養蚕学講座の若手研究者の会というのを提起し、年に一回交互に訪問して研究発表をする交流を始めた。河野さんとはその時からの友人であり、研究者仲間であった。若手研究者の会はその後発展し、東京教育大学(現筑波大学)や東京農工大学も加わったが、筆者は1969年にノースカロライナ州立大学(USA)に留学したのをきっかけに離れてしまった。振り返ってみると、あの頃若手研究者としての交流を通してお互いに感じていた刺激(学問への情熱)が、当時の仲間のその後の研究者としての成長に寄与したような気がする。

河野さんは博士課程修了後、武田薬品工業株式会社の研究所に就職して新規殺虫剤の開発研究に従事したが、その後国立感染症研究所の昆虫医科学部に転職して感染症媒介昆虫の殺虫剤抵抗性の研究を行い、その後さらに転職して筑波大学教授として農業害虫の殺虫剤抵抗性の分子機構について世界的な業績を次々と発表した。筆者自身は、その後殺虫剤の毒性作用の機構解明から農薬の環境毒性学に研究テーマをシフトしてしまったが、日本応用動物昆虫学会第54回大会千葉大学(西千葉キャンパス)で開催される機会に、殺虫剤作用機構談話会が故河野義明教授追悼記念シンポジウムとして以下のような内容で開催されることになり、筆者も世話人の一人として関与することになった。



殺虫剤作用機構談話会(故河野義明教授追悼記念シンポジウム)

テーマ:殺虫剤抵抗性研究の最前線


講演者と演題:
1.坂井道彦(元武田薬品農薬研究所)「農薬会社時代の河野義明君と当時の研究課題」
2.宮田 正(名古屋大学)「コナガの殺虫剤抵抗性研究の過去・現在・未来」
3.冨田隆史(国立感染症研究所)「殺虫剤抵抗性蚊におけるシトクロムP450遺伝子の過剰発現」
4.古崎利紀(農業生物資源研究所)「変異型アセチルコリンエステラーゼの種による変異」
5.塩月孝博(農業生物資源研究所)「ゲノム研究から見えてきた昆虫カルボキシルエステラーゼの特徴」


筆者らが殺虫剤抵抗性研究に取り組んでいた1960年代~1970年代は、抵抗性現象の確認・再現と実態(メカニズム)の解明が中心であったが、その後の分子生物学の進歩により、現在では抵抗性をもたらす解毒能力の増大にしても作用点の変異にしても、関与する遺伝子の解析や多様性の存在の証明だけでなく、ポイントミューテーション(点突然変異)を人為的に作りだすことが可能になり、さらに、生物が環境の変化に適応する進化の過程における抵抗性遺伝子の起源に迫る本質論的段階の研究がおこなわれるようになった。食料生産に甚大な被害をもたらす農業害虫にしても、感染症の流行に関わる衛生害虫にしても、殺虫剤抵抗性の発達は防除を困難にする深刻な問題である。今回のシンポジウムでの講演者は、いずれもこの分野における最先端の研究者である。筆者自身、この分野の学問が現在どこまで進んでいるのか勉強できるのは楽しみである。今回討論される基礎的研究は、抵抗性問題を克服する方法の開発のヒントも与えてくれる筈であり、興味をお持ちの若手研究者には是非聴講することを勧めたい。

(なお、奥様のご厚意で、河野さんの長年に亘る研究の論文別刷りでまだ残っている分をいただけることになったので、シンポジウム当日に会場で希望する方には差し上げられる予定である。)