2章 公衆衛生関連事項

2.1 背景と合州国における環境のプルトニウム曝露

プルトニウムは人工の放射性元素でアクチノイド系列に属し、質量測定可能なだけの量を人工的に合成できた初の元素である。プルトニウムの最初の合成はウラニウムに重水素を照射することによるもので、Seaborg らによる1940年の業績である。20種類の同位体(原子量228~247)が同定されているが、238Puと239Puが一般に遭遇される同位体であり、また健康障害の可能性のため広く研究されている。239Puの最初の利用は1945年からの核分裂兵器で、原子炉内でウラニウム(235U)に中性子を照射することにより生産された。典型的な商用原子力発電所では生産されるエネルギーの約3分の1が235Uから生じた239Puの分裂によって生じる。238Puは核電池の熱源として使用され、核電池は無人宇宙船や惑星間探査装置に利用されてきた。プルトニウムは政府と国際原子力機構(IAEA)によって厳重に管理されており、例外的に研究施設で使われる以外に商業利用は無い。2003年末の時点で全世界におよそ1855トンのプルトニウムが存在すると見積もられている;その大部分は原子力発電所の使用済み燃料の中にある。プルトニウムの生産率は、2003年には全世界の原子炉から一年間に70~75トンの割合と見積もられている。

環境中のプルトニウムの起源は、研究機関、核兵器実験、核兵器工場からの廃棄物、そして事故による放出である。大気中核兵器実験は1980年に終了したが、全世界の環境中プルトニウムの最大の起源であり、約10000kgが放出されている。計測にかかる量のプルトニウムが全世界で見つかるが、その大部分は大気中核実験から降ってきたものである。ウラン鉱の中に自然発生した239Puが計測されることがあるが微量でありそれの拡散は実際的ではない。ガボンに20億年前に存在したオクロ天然原子炉にもわずかな244Puが存在する。環境中に放出されたプルトニウムは湿り気を含んで地表に降りてきて乾燥した堆積物として土壌や水面に達する。それから、溶解する形態のプルトニウムは土壌や堆積粒子に吸着され、あるいは食物連鎖で生体濃縮される。
ヒトがプルトニウムを含んだ空気を呼吸したり水を飲んだり食物を食べることでプルトニウムに暴露されるかもしれない。しかし、空気、水、土壌、食物の中のプルトニウム濃度は通常は非常に低く、健康に対する影響はほとんどない。放射性降下物の降った領域の地表のプルトニウム濃度の平均は、土1gあたり0.01~0.1ピコキュリー(pCi)である。一般に空気中のプルトニウム濃度は更に低い。ベースラインで空気中の239Pu濃度は空気1立法メートルあたり1.6x10-6~3.8x10-6 pCiと報告されている。


2.2 健康への影響の要約

プルトニウム曝露による健康への有害作用リスクは、当該組織および器官が受けた放射線量に強く依存する。プルトニウムの大部分を引き受ける身体部位は、骨格と肝臓、そして吸入暴露の場合肺と肺に関連したリンパ節である。その結果として、プルトニウム暴露後に上述の組織が比較的高い放射線量を受けることになる。放射線によるこれら組織に対する毒性は、ヒトに関する疫学的研究と動物実験に記載されている。骨、肝臓、肺が比較的高い放射線量を受ける事が、これらの組織に他部位よりも多く見出される疫学的知見と合致する。一般人よりはるかに高い曝露と放射線量を経験した個体群(例えばプルトニウム生産・処理施設の労働者)を研究した全ての疫学研究が上述の組織における有害事象を報告している。逆に云えば、一般人におけるこれらの有害事象リスクは、高度に暴露された労働者の個体群と比較して実質的に低い。

死亡

プルトニウムへの曝露と死亡率との相関については合州国のプルトニウム生産・処理施設(ハンフォード、ロス・アラモス、ロッキー・フラッツ)の労働者に関する研究、またロシアの施設(マヤックなど)、連合王国(シェフィールドなど)で研究されている。マヤックの研究は癌(骨、肝、肺)による死亡率とプルトニウム曝露の相関について比較的強力な証拠を提供した。マヤックの労働者においてプルトニウム曝露量に応じて増加する肺癌による死亡率が認められたが、これらの労働者は比較対照群と比べて非常に高度のプルトニウム取り込みをしていた(対照群では平均身体負荷が0.09-9.2 kBqなのに対してこれらの労働者大多数では最高で470 kBq に達する、はるかに高い個人被爆をしていた)。過剰相対危険度(ERR) [註:Excess Relative Risk 危険物質に曝露することによって罹患や死亡のリスクがどれほど増加するかを統計学的に計算したもの。ERRが0.6とは、非曝露者と比べて死亡率が1.6倍になるということ]を、喫煙の影響を調整して求めた3つの研究で、1Gyあたり3.9(95%信頼区間:2.6-5.8)[註:1Gy(グレイ)の被爆について390%死亡率増加、噛み砕くと死亡率が4.9倍になる。95%信頼区間(以下95%CI)とは、この3.9という数値を中心に2.6~5.8の範囲について、そこからはみ出すような例外的個体の人口は5%にとどまる]で60歳以下の女性において1Gyあたり19(95%CI:9.5-39)、男性において1Gyあたり4.50(95%CI:3.15-6.10)で1Svあたり0.11(95%CI:0.08-0.17)、あるいは1Svあたり0.21(95%CI:0.15-0.35)という結果がでている。マヤックの労働者におけるGyあたりのERRは加齢に伴って著しく減少した。マヤックの労働者の死亡率を追跡した最近のコホート研究では、プルトニウム暴露と肺癌ないし肝癌による死亡との間に暴露量依存性の有意な相関 (p<0.001) が見出された。骨の癌もこれらの死亡において考慮すべき関与があった。60歳に達した時点で、肺癌に関するERR(過剰相対危険度)は男性において1Gy曝露あたり7.1(95%CI:4.9-10)、女性において1Gy曝露あたり15(95%CI:7.6-29)。平均観察期間の肝癌のERRは男性で1Gy曝露あたり2.6(95%CI:0.7-6.9)、女性で29(95%CI:9.8-95)、骨癌のERRは男性0.76(95%CI:<0-5.2)、女性で3.4(95%CI:0.4-20)であった。骨癌のリスク上昇はプルトニウム暴露量が10Gyを超えた労働者にのみ認められた。肺癌と骨癌に関しては、ERRは最終観察年齢が高いほど減少経口を示し、肺癌に関しては最初にプルトニウムに暴露した年齢が高いほどERRは減少した。[註:逆に云えば若い人ほどERRが高まるということ!]

ビーグル犬をプルトニウムのエアロゾル(238PuO2, 239PuO2, 239Pu(NO3)4)に暴露させた実験では、最初の肺への負荷が体重1kgあたり1kBqを超えるレベルで、生存率低下が認められた。早期の死亡は放射線性肺炎によるものであったが、生存率低下は典型的には腫瘍の発生に関連したものだった。

呼吸器への影響

血液学的影響

肝臓への影響

筋骨格系への影響

免疫学的影響

心血管系への影響

消化器系への影響

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