3月17日(木) Howard Stone教授のMAE Distinguished Lecture

Post date: 2016/03/23 5:35:25

昨日のセミナーと比べて,今回のセミナーの方は,もっと機械寄りの話であった.

タイトルは"New Observations of Particle Motions in Simple Geometries:Examples From Both Low and High Reynolds Numbers"である.日本後だとすると,「単純な形状の流路における粒子運動の新しい観察結果:低いレイノルズ数と高いレイノルズ数における例」といったところかなと.

内容にバイオはほぼないに等しかったので.発表では,面白い流体現象を多く紹介するというスタイルであった.

MAEセミナーにしてはとても珍しく,満席であった.皆の関心の高さが伺えた.

T字流路の分岐地点における対流の観察

T字流路は,流路としては基本的な構成要素である.Stone Groupでは,このT字流路にて,2方向に分岐させた後,渦流れにより流れが滞留する部分が生じるという発見をした.

流れに泡を混ぜ込むことで,流れを可視化している.T字流路の角度を変えたり,Reynoldsを変えたりして,どのように現象が変化するかを計測していた.

一つの実用的な例として,T字管をインクで染めて,その後,洗浄を行った結果を示した.たしかに滞留のせいで,十分に洗浄できない領域が存在していた.

T字流路の現象ではあるが,この基礎を抑えることで,他の部門への波及効果が大きいという説明はさすがであった.T字流路の流れなんて関係ないと思わせず,研究の意義付けには成功している.

Diffusionphoresis(拡散泳動)

Diffusionphoresisという新しい現象も聞いた.溶質に濃度勾配を生じさせた状態で,コロイドが溶質の方に移動する現象ということであった.

最初に他グループの研究であるが,マイクロ流路中で3層流を形成し,コロイド粒子の輸送を計測した結果も提示していた.この結果はNature Materialsに出版された論文であった.マイクロ流路を利用して,動きが可視化されるので,分かりやすい.

最近の結果としては,Diffusionphoresisを利用して,行き止まりのマイクロチャネル中に輸送する方法を開発していた.PNASに2016年に出版された.最初に行き止まりのチャネルを溶質濃度Aで封入し,その外側に溶質濃度Bの溶液で満たす.このときの溶質の濃度差で起きる輸送現象(Diffusionphoresis)を用いて,輸送を促進するか阻害する.ブラウン運動に加えて新しい輸送力として拡散泳動を導入した.

これも行き止まりのチャネルへの輸送であるが,幅広く見られる現象だという説明である.つまりはこれも波及効果が大きいという記述である.各論に落とし込まずに,できるだけ一般論にしようという試みはとても参考になるものである.

研究テーマの決定方法

以下は自分の帰納的な推論である.2回のセミナーで聞いた研究テーマを総合すると,Stone Groupの研究テーマは次のような特徴を含んでいる.

  1. できるだけ一般化できる現象を選びとる.ある現象の代表例となるようなものが望ましい.一般化できにくい現象は,最初から選ばないようにする.
  2. 1.で決めた一般化できそうな実験系を実際に構築し,それを注意深く追究して,新しい現象を発見する.
  3. 見つけた新しい現象を物理的にもうまく説明をする.
  4. 研究室の強みである流体の物理,流体の実験をできるだけ活用して差別化する.

研究テーマの選び方でも参考になるセミナーであった.こういうものは買えるものではないノウハウなので,普通には真似しにくいところである.