難聴者の留学準備

2004~2006年頃のアメリカ大学院留学情報です



大学院留学準備:難聴者の留意点(私の経験)

奨学金財団への応募にあたって

難聴である場合の関門はTOEFLのスコア提出と英語面接の2つ。

TOEFLは、普通に受け、奨学金財団には「リスニング部分を省いて審査してほしい」旨を書類添付すると(公式な書類は要求されない)、財団が考慮してくれた。TOEFLは後述するように、「障害を持つ受験生に配慮されたTOEFL」というものがあるが、手続きに数週間かかるので奨学金財団応募の段階 (初夏)では間に合わず、この方法をとった。

英語面接は、書類選考後の面接通知をもらった段階で、事務に「難聴であるため面接には字幕(タイピング)をつけてほしい」と伝えた。来るか来ないか分からない面接通知の前にお願いするのは気がひける、と思ったけれども、面接通知自体が面接直前(1週間前とか)にくるので、向こうの準備が間に合わない可能性も高く、最初から伝えておいた方がいいのかもしれない。

私の経験では:

  • フルブライトは、直前にお願いしたにもかかわらず、米国人タイピストが全ての会話をタイプしてスクリーンに字幕表示をするという方法での面接だった。スクリーンは面接官も見ることができる大きさなので、タイプのタイムラグも考慮される。が、私の英語の話す方がしどろもどろで惨敗した。 フルブライトは面接結果に面接官のコメントを添付してくれるが、「英語をもうちょっと」、とはっきり書いてあった。

  • 村田奨学会は、TOEFLスコアを要求せず独自の英語試験をもうけていた。英語試験のさいの配慮を要請したのが、面接のお知らせがきてからだったので、手配が間に合わず、要望した字幕表示はかなわなかった。その代わり、面接は、面接官の質問項目を印字した紙を手渡され(面接官は読むだけ)、それに答えるという方法であった。が、印字された質問項目が存在すると、面接官も印字以外の質問をしにくかったのだろう、会話が全く発展せず、ちぐはぐな印象の面接であった。英語試験は、リスニング部分を文法問題に差し替えとなった。なんにしろ、最終選考に残らなかった。村田も、面接官のコメントをくれたが、会話が乏しい、と。

  • CWAJは、TOEFLの足きり点数を無視して提出した(listening部分をのぞいて換算しても実は届いていなかった)ので、当然ながら書類選考で落ち、面接に至っていない。

  • その他の奨学金財団として、日本財団の聴覚障害者向けのもの、ダスキン障害者リーダー、があるが、これらは当然ながら、こちらが特に留意するべきことはない(前者は「日本の手話」が必要)。

留学先の教授との面会はデメリットの可能性もある

留学先の教授に準備なく会ってしまうと、「しどろもどろの英語そしてほとんど聞き取れない」という気まずい状況が、かなりのマイナス印象を与えてしまう可能性が高い。留学先の障害サービスセンターに字幕支援者や手話通訳を派遣してもらった上で会うぶんには、熱意や準備を評価されてメリットになると思う。

現実問題として、いくらADAという法律が整備されていようとも、教授たちにとって障害を持つ学生でしかも留学生を受け入れることは「面倒なこと」であるのかもしれない。もちろん、並外れた人ならば、どんな障害をもっていようとも、受け入れてくれるに違いない。私がアメリカの大学で面会したアメリカ人教授の場合、「この学部は留学生もたくさんいます。過去には難聴の学生もいました。でも留学生で難聴という学生は、ねぇ(ちょっとタメ息)、二重だもんねぇ。」と正直に感想を吐露してくれた(この会話は日本語)。

TOEFLのスコアの処理の仕方は大学によって様々

「正しくは」、TOEFLを主催するETSに、リスニング部分の免除を申請する。申請は、診断書とオージオグラムをETSに直接郵便で送り、返事をまち、その返事をもって日本の試験会場に申し込み、と数週間かかる。テストでは、リスニング部分がないので時間もそのぶん短縮されるが、料金は皆と同じ。スコアの出方は、リスニングを除いた各セクションの点が表示され、TOTALの部分は「***」となる。

「適当にすませる場合」は、ふつうにTOEFLを受験してしまう。リスニングは適当にクリックし(たいてい30点満点のうち5点になる)、得たスコアは当然ながら各大学の定める基準点(2005年までのCBTで、フルブライト213点、大学院は250点)に足りない。願書を出すさいに、難聴であること、そのためにリスニング部分を省いて考慮してほしいことを書いたものをTOEFLスコアのコピーに添付する (必要あるか分からないけれども私はオージオグラムと医師の診断書も添付した)。

たいていの大学は「適当にすませる場合」でも審査してくれるが、受け付けてくれない大学もある。私の経験では、メリーランド大学は、アドミッションオフィスが一括してスコアを管理しているらしく、点数が足りないと自動的に「あなたの点は足りないので出願できません」というレターを、出願してようとしてまいと時期に関係なく送ってくださる。ジョージ・ワシントン大学も、同様に「点が足りないので却下」というレターをよこし、難聴であるためにリスニング部分を省いて審査してほしい旨を伝えても、「正しく配慮されたTOEFL」を受けるようにとのお返事で出願料を徴収しながら願書を審査もせずに却下された。

**TOEFLは試験方法自体が頻繁に変化しているので注意。

GREのVerbalについて

GREに関しては、聴覚障害であることとは一切関係なく受験できる。リスニングが不得手なぶん、Verbalでスコアをあげなくては!と思ったものの、そう簡単に付け焼刃がきくようなテストではなく、こういった考えはあきらめた方が早いかもしれない。

大学の障害者サービスとコンタクトをとるのは後でもよい

留学先を厳選して、どうしてもここに行きたい、という場合ならば、あらかじめ障害サービスサンターとコンタクトをとってそのサービス内容に触れておくのもいいかもしれない。しかし、願書を10も出す場合は、全ての大学のDSとコンタクトをとる労力は、ない。

結論から言えば、入学許可をもらってから、その大学とコンタクトをとるのでもかまわない。先輩(オーストラリア人)の言によれば、「障害サービスの充実度で大学を選ぶよりも、研究内容で選ぶべきである」ので、とりあえずは入学許可を学部からもらうことに専念するべきだと思う。

ただし、ロチェスター大学のように「うちは、字幕サービスはなくて手話通訳だけです、来るなら手話おぼえてきてね」という大学もあるので、せめて希望するサービス内容があるかサイトでチェックする必要はあるかもしれない。聴覚障害の場合のサービスは、たいてい「ASL, English Sign, Oral-interpreter, C-print, CART, Notetake」というメニューがある。各大学のサイト内でdeaf, disability, heard of hearingなどで検索すれば障害サービスセンターのサイトに行き着くはず。

難聴であることをEssayに書くか

願書には障害の有無を書く欄はない。したがって、難聴であることを告知しなくても出願できる。実際、英語が第一言語である難聴者は難聴であることを告げないで出願することもある。しかしながら、英語が第二言語である留学生の場合は、TOEFLのスコアを提出する必要があるので、どうしても難聴であることを告げることになる。

学部の教授たちが読むEssayそのものに、その点を書くかどうかは、個人次第である。最近の風潮では、Essayはアカデミックな内容に重点をおくべきであって、むしろ自分の生い立ちなどといった「お涙ちょうだい」っぽい内容は嫌われる、という見方がある。となれば、Essayに難聴のことを書くのは(「閉鎖的」とは違った理由で)むしろマイナスになるかもしれない。一方で、自分がこれから付き合っていくであろう教授たちには、難聴であることを承知の上で受け入れてほしい、という意思表示も必要であるし、悩ましい。私自身は、Essayの最後に「ちなみに」という感じで書いた。

電話インタビュー

大学によっては、入学許可候補者に選考過程の仕上げとして電話インタビューをするところがある。健聴者にとってもドキドキもののこのインタビュー、難聴の場合はどうなるのか、残念ながら私には経験がないので分からない。おそらく、入学許可候補となった時点で、電話インタビューを省くのかもしれないし、現在ではskypeなどのメッセンジャー機能を用いるのかもしれない。

ある留学生を多く受け入れている大学では、アドミッションオフィスが留学生の質問を一定期間、チャットで受け付ける、というケースがあった。これは聴覚障害とは関係なく、全ての願書提出者にチャット招待メールがくる。

ASL

大学によっては、願書に言語能力を記入する欄がある。選択リストに「フランス語、ドイツ語、スペイン語・・・」と続く中に、「American Sign Language」とある大学もある。私は、それを選んで「中レベル」と記入した。(日本的感覚で言えば「初心者」レベルだけれども 、入学する頃には中レベルのはずだ、と強気で記入。)


大学院留学の渡米準備:難聴者の場合(私の経験)

入学予定の大学のDSと連絡をとる

大学院からの合格通知を受け取り、入学意思を伝える前に、是非ともチェックするべきなのが、入学予定の大学院のDisability Serviceである。もし、合格通知を複数受け取って、どこへ行くか迷うという、うらやましい状況の場合は、このサービス度合いの比較を考える。例えば、テキスト通訳があるかASLのみではないか、聴覚障害専門のスタッフがいるか、など。

入学予定の大学のDSにメールする内容は、これらサービスの確認。私の入学予定の大学のDSはなかなか返事がこなく、かなり不安を覚えたが、以前お世話になったミシガン大学のDSに相談したところ、ミシガンからの電話一本で解決した。また、現地にいる日本人学生にセンターまで足を運んでもらうことも手段の1つ。

例えば、ミシガン大学のサマープログラムの例では、プログラムの担当者が障害サービスというものになれておらず、私からの問い合わせのメールを「どうしよう~」と画面にむかってつぶやいたまま数週間放置していた。私の依頼を受けて、現地にいる日本人留学生が「どうなっていますか」と足を運んでくれたところ、その担当者は、おもむろに「やるか」と学内電話帳から障害サービスセンターを調べ、電話し、一挙解決した。

Visa申請

すべての留学生が何よりも先に行うべきなのが、ビザの申請であり、大学からのI-20などのフォームを待つ。これらの書類が届くまで、大学側に何回か督促する羽目になることが多い。そのさい、メールでは返事が遅かったり後回しにされたりするので、英語の話せる友人や、在米の友人に代わりに電話をかけてもらうことも考えておいた方がよい。注意すべきことは、代わりに電話をしてくれる友人に、会話内容をメモしてもらうこと、友人だけが納得しないで、ちゃんと説明してもらうこと、そのために質問を箇条書きにして、友人に渡すこと。

諸書類がそろったら、アメリカ大使館でビザ面接を行う。このさい、最大の問題は、面接官による名前呼び出しが聞こえない、ということ。マイクを通して、日本語たどたどしい面接官が「○○さん○番窓口にきてください」と呼ぶので(明らかに日本人ではなさそうな名前の場合は英語で呼ばれている)、非常に聞こえにくい。フロアには、全体を見渡している大使館員が1人はいるので、その人に、自分の名前を告げて、呼ばれたら教えてくださいと頼む。面接自体は、たいした事は聞かれないし、面接官が私のビザ申請書を見ながら自問自答してしまい、一言も発しないまま終わった。

Housing

留学先での家探しは、留学生センターのサイトから探せることが多いし、現地の日本人留学生コミュニティから紹介があることが多い。大学によっては寮に「聴覚障害者対応」の部屋がある。説明を読む限りでは、非常用ベルがライトになっているだけ、であるが、火事・ハリケーン・トルネードやテロなど緊急避難のとき、この部屋には聴覚障害者がいたはずだ、と認識してもらっておくことは便利かもしれない。ただし、アメリカの大学の寮は若い学部生が大多数を占め、大学院レベルで寮に入る人は少ない。

Flight

航空会社にもよるが、航空会社のサイトで購入した航空券情報を入力し(旅行会社からの購入でも予約番号があれば入力できる)、個人情報として「Deaf」を選んでおくと、E-ticketにもDeafと表示され、何かと便利かもしれない。明らかに日本人な外見だと、難聴であるために聞こえないのではなく、ステレオタイプに「英語ができない、しょうもない日本人」とみなされるが、そういった誤解を回避することができる。


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