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カラスムギ

概要

  • カラスムギの小穂(しょうすい)を手で分解して、その構造を調べる。
  • 芒(のぎ)と頴(えい)を顕微鏡で観察する。
  • 芒の「ぜんまい仕掛け」を観察し、水を垂らして回転を観察する。

はじめに

カラスムギはイネ科の植物で、食用になるエンバク(オート麦)の野生種です。名称に「カラス」とつくものは食べられない種子が多いのですが、このカラスムギは人間が食べても普通に美味しいそうです(参考:デイリーポータルZ:雑草の実で作ったお粥がうまかった)。

さてこのカラスムギ。よく見られる雑草ではあるのですが、いざ都内で探そうとすると意外に苦労します。生えているところにはたくさんありますが、どこにでもあるわけではないので、なかなか見つかりません。散歩中に群生地を見つけたら場所を覚えておくと良いでしょう。

このページに載せているカラスムギは、JR山手線の目白駅の南の方、線路脇の草っぱらにありました(Google Maps)。ここには大量に生えていたので、おそらく今後も毎年カラスムギが見られることでしょう (^^)。

カラスムギは春に花を咲かせて6月頃に種子が成熟します。ここに載せている写真は4月下旬のものなので、まだ若いものです。

カラスムギの種子の構造

カラスムギはイネ科であり、米やコムギの仲間です。その種子は、他のイネ科の植物と似たオーソドックスな構造を持っています。

小穂(しょうすい)

イネ科の植物は、小花が複数集まってひとかたまりになるような種子の付け方をします。この一単位を小穂(しょうすい)と呼びます。

カラスムギの場合、ぶらりと垂れ下がったひとつの固まりが小穂です。上の写真では、ふたつの小穂を押し開いて観察しています。

芒(のぎ)

種子から伸びている長い毛のようなものを芒(のぎ)と呼びます。「ぼう」と読むこともあるようです。

写真などでよく見ますが、オオムギではこの芒がよく目立ちます。カラスムギでもはっきり見えます。

穎(えい)

穎(えい)はイネ科の植物の穂に見られる、実を包み込む葉の一種です。カラスムギで言うと、種子をバラしたときの5つのカバーというか包み紙というか……の部分ですね。お米の籾殻(もみがら)も頴です。

カラスムギの5つの穎は、観察してみると3つに分類することができます。それぞれの頴には外穎・護穎など名前が付いているのですが、これが歴史的な理由により(?)植物学者によって呼び方が微妙に違うそうです。そのためここではそこまで深く突っ込まないことにします。

  • 一番外側の穎2セット:ここからは、芒が出ていません。また他の穎に比べて薄っぺらいです。
  • ひとつ内側の穎2セット:ここからはとても長い芒が出ています。一般に、カラスムギの実がぶら下がっているのを見ると長く見える芒は、ここの芒です。
  • 中央の穎:5つのちょうど中央にある穎です。短い芒が出ています。

このうち、芒が出ている真ん中の3つが小花です。そのためここに種子が入っています。

まずはこの芒を顕微鏡で観察してみましょうか。

カラスムギの芒

以下の写真は、芒の先端部分を切り取って顕微鏡で観察したものです。

カラスムギの芒は、手で触ってみると何かざらざらした感触があります。植物でそんな感触がある場合は、たいていこんなトゲのようなものが生えています。

このトゲは、種子が地面に潜りやすくするために一役買っていると思われます。それを以下の「芒の回転」で示します。


芒の回転

カラスムギの芒は、途中で大きく折れ曲がった形をしています。なぜでしょうか?

実はこの曲がった芒には、自然の巧妙な仕組みが隠されているのです。

カラスムギの芒は、水を含むとゆっくりと、しかし力強く回転します。採集したばかりの状態では多少水分が残っているので、屋内でよく乾燥させてからスポイトで水を垂らすと、以下のように芒が動く様子を簡単に観察できます。

さて、こんな回転がどうやって起こるのでしょうか?

ここで、さきほどは芒の先端を顕微鏡で見ましたが、今度は芒の根元側の黒い部分をよく見てみます。

芒の根元付近(基部)は、乾燥した状態では繊維状となり、らせん状に巻かれています。これが水を含むと、巻かれた繊維状の組織がほどけていき、芒を回転させるのです(乾湿運動)。言わばドリル、あるいは自然の「ぜんまい」でしょうか。なんという巧妙な仕組みでしょう。

こうして芒が回転すると、根もとの種子は地面の上で押される形となり、地中に潜り込もうとします。こうして種子の発芽を助けているというのが芒の回転の役目だと言われています[1]。

頴の基部の毛

さて、種子をくるむ頴の根もとには、何やらふさふさした毛が生えています(B)。ついでにこちらも切り取って、顕微鏡で観察してみました。

芒と違って、トゲのようなものがなくツルツルですね。このような毛は、手触りもサラサラとしています。

頴の顕微鏡観察

さて最後に、カラスムギの一番外側の頴(中に種子が入っていないもの)に注目します。

この頴(写真の丸で囲った葉)はとても薄く、そのまま顕微鏡で観察できそうです。そこでここをカミソリの刃で切り取り、丸まっているのを手で開き、スライドガラスに挟んで伸ばしました。

ライトボックスに置いてマクロレンズで撮影したものです。葉脈の縞模様が見えますね。このように葉脈が並行に走るのは、単子葉植物で共通して見られる特徴です[2]。これを顕微鏡で観察してみます。

わー、面白い! と、見たとき思わず声をあげてしまいました。このプレパラートには盛大に空気の泡が入ってしまいましたが、それは置いといて、なんとも美しい姿ですね。カラスムギの葉にこんな世界が広がっていたとは、なんとも素敵です。

さらに拡大すると、もっと不思議な細胞の世界が表れます。このように波打つ細胞壁を持つ植物はそんなに珍しいわけではないのですが、こんなに見事に整列した波打つ細胞ははじめて見ました。ところどころに見える、三日月のような形の細胞はなんでしょうか? 調べてみましたがよく分かりませんでした。

また、波打っている細胞壁に沿うように、小さな赤色の点が直線上に並んでいるように見えます。これも何なのかはまったく分からず……。

こちらの部分には、気孔が見えます。気孔はすべて整列しており、孔辺細胞が細胞壁に沿ってタテになるように並んでいますね。

いやはや、カラスムギは大変に美しく面白い植物でした。見どころ満載です。

参考文献

  • [1] 浜島繁隆, 鈴木達夫 「植物の観察実験法 (グリーンブックス 102)」ニュー・サイエンス社、1983
  • [2] 矢野興一 「観察する目が変わる植物学入門」ベレ出版、2012
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