講演・発表要旨/登壇者紹介

【発表】9:30-9:55
「人工物と時間のメタファー」 

鍋島 弘治朗(関西大学)

【要旨】
Fauconnier and Turner (2008) では、時間のメタファーを融合理論(Blending theory:BT)で分析することによって、メタファーにBTを使用することが有効であると主張している。一方で、時間のメタファーおよびメタファー一般で登場しない重要な要素として人工物(artifact, アーティファクト、Norman 1988; 有元 2011など)がある。特に時間概念の発達にとって日時計、水時計、砂時計といった人工物が顕著な役割を果たしたことは想像に難くない。そこで、本稿では、Fauconneir and Turner (2008)を解題しつつ、その融合の展開と、時間の人工物の発展をすり合わせることによって、時間の概念の発達と時間のメタファーがより明確に理解できる可能性を探るとともに、BTのメタファー分析に対する有効性を検証する。


【発表】10:00-10:25
「時間概念再考」

岩崎 真哉(大阪国際大学)

【要旨】
本発表では, 時間概念、特に直示が関わる時間概念は、時間メタファーのレベルと主体性のレベルを合わせて分析すべきであることを提案します。具体的には、これまでの時間メタファーと時間参照枠の研究に焦点を当て、主体性の観点からそれらを捉え直すことを目的とします。そうすることにより、時間表現とfictive motionに表されるような主体的な移動表現を統一的に説明することが可能になると主張します。また、概念形成者は本来的に移動可能であることを考慮に入れることにより、「観察者は動的であるのか静的であるのか」という問題も解決することを主張します。
 
【発表】10:30-10:55
「日本語の時空間メタファーにおける"動き"と"眺め"の表現について」

大神雄一郎(大阪大学[院])

【要旨】
本発表は、空間移動に関する表現によって時間に関する意味を表すメタファーのうち、いわゆる(Ego-centered)Moving Time型の表現、すなわち、形式的には「時間的対象が話者に接近すること」を述べるものと見なされる表現に焦点を当て、その意味と成立基盤について検討する。日常的に用いられる時間表現と移動表現のふるまいについて語彙レベルで対照し、日本語の時空間メタファーの成り立ちについて改めて整理を行うことが目的である。ここでの議論を通じ、問題となる日本語の時間メタファーには、「実際には動かないものが動いているように見えること」を述べるタイプの移動表現と体系的な対応性が認められることが示される。結論として、「接近」に関する語彙による日本語の時間メタファーのふるまいについて妥当な説明を与えるには、Moving TimeとMoving Egoの発想だけではなく、「動き」の描写と「眺め」の描写を区別する見方が求められることを確認する。 


【講演】11:00-12:00
哲学における時間論の系譜」

宮原勇(名古屋大学)

【要旨】
西洋哲学史上、時間に関する重要な説としてアリストテレス[前後に関する運動の数としての時間]、アウグスチヌス[三重の現前としての過去・現在・未来]、ライプニッツ-クラーク論争[時間・空間の相対性か絶対性か]、カント[感性の形式としての時間・空間]、フッサール[時間的対象の成立のメカニズム]らの時間論の系譜を辿りながら、根本的には何が問題となってきたかを論ずる。その際、McTaggart[彼はもともとヘーゲル主義者であった]の「時間の非実在性」に関する論文が提示して見せているオントロジーを一般化して、考察の基準とする。


【講演】12:00-13:00
「時間知覚の不良設定問題と錯覚」

一川 誠(千葉大学)

【要旨】
 時間に関する知覚・認知過程は,一義的な解のない不良設定問題を解決する過程と見なすことができる.すなわち,自分自身や環境における事象について,その都度の点的な現在の0次元的な知覚経験から,1次元的な進行する時間軸上に位置づけ,時間間隔や時間順序についての表象を形成する過程である.本来,知覚経験の中には,この問題を解決するための十分な情報はない.それでも,我々の知覚認知系は巧妙な方略を用いることによって,この不良設定問題に一応の解を与えている.立体視研究においては,様々な錯視の特性を整理することで,不良設定問題の過程の解決方略についての理解が進められている.本講演でも,時間に関する錯覚の特性を紹介し,知覚認知系が時間の不良設定問題解決に用いている方略を整理する.特に,顕著な情報による引き込み的処理や,処理促進による遅延短縮などの方略が用いられていることを紹介する.


【シンポジウム「時間を巡る時間」】14:10-15:50

「時間のメタファーを巡る理論的変遷」

谷口 一美(京都大学)

【要旨】
Lakoff and Johnson による概念メタファー理論において、時間概念の空間概念への依存性、FUTURE IS FRONT / BACK の2系統の対応関係が指摘されて以来、認知意味論とその関連分野では時間のメタファーを巡る議論が今日まで多数なされてきた。主な論点として、参照枠の適用に見られる空間と時間の並行性および相違、時間概念の固有性とマッピングの問題、過去・未来と空間的前後関係のマッピングに対する動機づけなどを挙げることができる。本発表は、時間のメタファーに関するこれらの論点についての議論を整理するとともに、言語類型や言語習得、実験的手法による実証的研究の一端を紹介し、本多発表・篠原発表への導入としたい。

「時空間メタファーにおける時間概念の多重性について」

本多 啓(神戸市外国語大学)

【要旨】
言語には、空間表現から時間表現を生み出す仕組みがある一方で、時間表現から空間表現を生み出す仕組みもある。前者が時空間メタファーであり、後者は空間的分布を表す時間語彙である。これまで両者は独立に研究されてきたように思われるが、両者の相互作用を考慮に入れると、時空間メタファーに現れる時間概念は原理上、多重的な性格を帯びうることになる。この、「空間として概念化される、概念化の対象としての時間」と「空間を知覚するプロセスに伴う経験としての時間」という時間概念の多重性をいくつかの言語現象に即して検討するとともに、この多重性が時空間メタファーに対して持つ理論的な意味合いについて考察したい。


「時間メタファーの言語相対性 」

篠原 和子(東京農工大学)

【要旨】
レイコフ流の概念メタファー理論の枠組みで《空間→時間メタファー》を分析しようとする際に陥りがちな,言語普遍性追究の姿勢を,いったん保留してみる.言語間で異なる時間感覚が立ち現れるかもしれない.あるいは言語として現れきれない時間感覚が,言語の使用者の内部に存在するかもしれない.上下関係としての時間概念,時間と主体が同方向に移動する時空間メタファー,前方に広がる空間が見渡せるときに変化する空間参照枠,などを取り上げて,主流モデルとは異なる側面から時空間メタファーを捉え直してみる.

ディスカッション 
 コメンテーター: 一川誠 宮原勇 今井むつみ

【講演】16:00-17:00

「語彙習得とメタファー」

今井 むつみ(慶應義塾大学)

【要旨】
子どものことばの意味を事例から帰納的に推論して覚えていく。初めて聞いたことばを子どもは「似ている」と考えた他の事例に積極的に汎用していくが、このときに子どもが発話する過剰汎用(大人の慣習からすると誤りである使い方)をする。例えば「いちごのしょうゆ」(コンデンスミルク)、「手裏剣をまく」(投げる)、「糠床を耕す」(まぜる)などはメタファーそのものであり、子どもの語意習得はメタファーによって支えられていると言ってもよい。本講演ではメタファー・類推が語意推論に用いられている例を紹介しながら、これらの推論の発達の過程とその起源について考察する。

【謝辞 】本講演は、JSPS科研費  15K12881の助成を受けています。

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