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シタールに惹かれたギタリストたち

2014-05-01

ここ数カ月,「雑記帳」の書き込みペースが速くなっています. というのも,ことしのメサイア合唱団の活動が本格化して忙しくなる前に,「雑記帳」に書き込める分は書き込んでおこうという思いがあったからです. 今後は,書き込みペースが遅くなるかも?

初めに

みなさん「シタール」という楽器をご存知ですか? インドの民族楽器で,弦楽器の一種です. この楽器が,いまどの程度知れわたっているかはよく存じ上げませんが,私のように60~70年代のロックを聞いてきたものにとっては,結構なじみ深い楽器なのです. それは,当時のシタール奏者,ラビ・シャンカール(1920-2012)の影響が非常に大きいです. 彼は,当時のロック・ギタリストに大きな影響を与えましたし,ロックからみのコンサートにたびたび登場しています.

というわけで,今回は,シタールの魅力に惹かれたロック・ギタリストを何人か紹介したいと思います.

シタールの演奏

シタールをご存じないかたもいらっしゃると思いますので,まずはシタールの演奏をご覧ください. 演奏は,さきのラビ・シャンカールの娘さん,アヌーシュカ・シャンカール(1981-)です. (彼女は,歌手・ピアニスト・女優であるノラ・ジョーンズの異母妹でもあります.) ここで紹介する演奏は,2002年,ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行なわれた "Concert for George" ,すなわち,元ビートルズのメンバーであるジョージ・ハリスンの1周忌コンサートにおけるものです. (YouTube 映像のタイトルでは [2003] となっていますが,このコンサートが行なわれたのは2002年です.) このコンサートには,ジョージゆかりの著名なミュージシャンが大勢登場していますが,彼女の演奏は最初の2曲です. 演奏が始まるまでの前置きが長いですが,6分30秒くらいから彼女の演奏が始まります. (YouTube のページにおいて「もっとみる」をクリックすれば,演奏曲の一覧が表示されて,個々の曲にすぐに飛んでいけるようになっています.)

ジョージ・ハリスン(ビートルズ)

では,シタールに関心を持ったギタリストを紹介していきましょう. まずは,なんといってもビートルズのジョージ・ハリスン(1943-2001)が有名です. ビートルズといえば,シタールだけでなく,マハリシ・ヨーギーとの交流,といったことでもインドからみの話題がありますね. 彼がシタールの師匠であるラビ・シャンカールから手ほどきを受けている珍しい映像を見つけましたので,ここに紹介いたします.


ジョージ・ハリスンとラビ・シャンカールとの親交は続き,その後「バングラデシュ難民救済コンサート」(1971年8月,ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン)というチャリティー・イベントを開くこととなります. 1970年11月,当時の「東パキスタン」(現「バングラデシュ」)をサイクロンが襲います. そして,犠牲者の数はなんと20~50万人に達したといわれています. さらに翌年3月,バングラデシュ独立戦争(1971年3-12月)が勃発します. というか,サイクロンの甚大な被害が,戦争の引き金になったともいえます. この戦争では,独立反対派による大量殺戮があり,市民の犠牲者は30万人とも300万人ともいわれています. そして大量の人々が難民となりました. こうした筆舌しがたい惨状に心を痛めたベンガル人であるラビは,ジョージに相談を持ち掛けます. そした,このコンサートが実現する運びとなりました. 私はラビの名前や演奏は,このコンサート以前から知っていましたが,このコンサートの記録映画で彼の演奏をじっくりと聞かせてもらいました.

今日にいたるまで,ミュージシャンによる大規模なチャリティー・コンサートがいろいろありました. この「バングラデシュ難民救済コンサート」は,この種のコンサートの「はしり」といえます. クラシック音楽ファンのかたには馴染みのない顔ぶれかもしれませんが,そうそうたるミュージシャンが同じステージに立つという,すごいコンサートでした.


バングラデシュ

作詞・作曲: ジョージ・ハリスン
訳詞は http://ameblo.jp/komekko1121/entry-10935037384.html より.

友達*が 僕を訪ねて来た
悲しそうな目をして
助けて欲しいと 僕に話した
彼の国が滅びる前に
僕には 苦しみはわからないけれど
何かしなければいけないと思った
今 僕は みんなにお願いしたい
人々の命を救うため 手を貸して欲しい

バングラデシュ バングラデシュ
多くの人々が飢えて死んでいく
困難だらけのようだ
あんな絶望的な光景は 今まで見たことがない
君たちの力を貸して欲しい
そしてわかって欲しい
バングラデシュの人々を救おう

バングラデシュ バングラデシュ
なんという大惨事だろう
僕には理解できないけど
こんな苦しみは 初めて味わった
今 現実から目をそらさずに
君たちに 叫び続けて欲しい
バングラデシュの仲間達を救おう



ジョージがラビとの交流の中から始めた活動は,UNICEFも関係していまも続いています.⇒ The George Harison Fond for UNICEF  いや~,実にすばらしいことですね. ……訂正します. いまだにこのような活動が必要となるくらい,世界各地で難民が次々と出てくることを考えると,少しも「すばらしい」ことではないですね.

ブライアン・ジョーンズ(ローリング・ストーンズ)

「シタール」の話を書き始めたはずが,初っ端から脱線していますが,ビートルズを紹介したのですから,次はローリング・ストーンズでいきましょう! 1966年,最初の英米ナンバー1ヒットとなった初期のヒット曲「黒くぬれ」では,ブライアン・ジョーンズ(1942-1969)がシタールを弾いています.


1962年の結成以来,多少のメンバーの入れ替わりはあったものの,ローリング・ストーンズの活動はいまも続いています. 今年の2~3月にも来日公演を行なっています. しかし,ストーンズ結成時の中心メンバーであったブライアンは,1969年に27歳の若さで亡くなっています.   ストーンズは,ブライアン亡きあと,「黒くぬれ」をシタール伴奏つきで演奏することはあったのでしょうか? 私の知る限りではないのですが,だれかシタール奏者を入れて演奏したことぐらいあるのじゃないかな? ご存知でしたら教えてください.

ここでも脱線しておきますと,ウェールズ出身のブライアンは,グラマー・スクール時代に、上級生で,いまは日本に住んでいるC・W・ニコル(1940-)と知り合って仲良くなっています.  ブライアンの早すぎる死は,ニコルさんにとってたいへんなショックだったとか.詳しいことはC・W・ニコル著「C・W・ニコルと21人の男たち」(講談社)に書かれてあります.

しかし,この本を読んで初めて知ったのですが,ニコルさん,少年時代に学校ですごい「いじめ」にあっていたんですね. ご本人自身が,「○○グラマースクールでのいじめは猛烈で、苛酷を極めた」と表現されています. そのせいもあってか,ニコルさん,柔道などの格闘技で体を鍛えて,大学生の頃には北極に行くかたわらプロレスラーのバイトをするくらいになっていました. 私は,C・W・ニコルさんといえば,大柄だけど穏やかなイメージを持っていたのですが,どうしてどうして,かつては結構激しい「大立ち回り」を演じていらっしゃったようです. 詳しくは,本を読んでください.

石間秀幾(フラワー・トラベリング・バンド)

シタールに関心を寄せたポップ・ミュージシャンは大勢いると思いますが,私の知識と情報収集能力(と時間)には限界があります.中途半端な知識・情報に基づいて列挙だけしても仕方ないので,あとひとり,日本人をあげておきます. 「なぜあのミュージシャンを紹介しないのか?」と思われるかたがいらっしゃるかもしれませんが,ごめいなさい! m(._.)m

フラワー・トラベリング・バンド石間秀幾(1944-)の場合は,ギターとシタールとを合体させた「シターラ」というオリジナル楽器まで,作ってしまっています. 一見「エレキ」なのですが,シタール風の幅の広いネックに,シタールのように上寄りに6本の弦が張られています. ギターの場合,チョーキングといって弦を左手の指先で上のほうに押し上げて音程を滑らかに高くずらせる演奏方法がありますが,シターラの場合は(シタールでも),逆に弦を下のほうに大きく引き降ろすことで,ギター以上に音程を大きく変えることができます. また,フレットの「谷間」がギターより深いので,弦を強く押しつけることでも,音程を変えることもできます. 要は,音色はギターだけれどシタールの演奏テクニックが使える,という楽器です. まずはシターラの演奏をご覧あれ!


ギタリストでありシタール奏者でもある石間秀幾だからこそ使いこなせる楽器といえます. ただし,フラワー・トラベリング・バンドが最初に活動していた1970~1973年の時期には,シターラは使っていません. シターラが出来上がったのは2000年頃です. ですので,2008年のバンド再結成からは,基本シターラを使っています. (ちなみに,私はこのバンドを複数回ナマで見ています.もちろんシターラの演奏も.)

シタールの弾き方

肝心のシタールそのものについての説明をあまりしてこなかったので,これから書かせてもらいます. シタールには,全部で20本ほどの弦が張られています. フレットの上に7本の主弦があります. さらに,フレットの下にも通常は弾かない共鳴弦が13本張られています. シタールを見ると,弦の張り具合を調整するつまみがずらりと並んでいますが,大きめのつまみが主弦用で小さめのものが共鳴弦用です. たくさんある共鳴弦のおかげで,シタール独特の響きが奏でられるわけです. (でも,チューニングがめんどくさそう….) そういえば,ずっと昔,ギターをやっている人から,「ギターの弦のチューニングを,全部同じ音にすると,シタールみたいな音にできる」という話を聞いたことがあります. 実際に,全部同じ音に調弦したギターの音色を聞いたことはないのですが,要するに,シタールのたくさんある共鳴弦に似た効果が出るということだと思います.

弦を弾く,というかはじくには,指につけた「mezrab」と呼ばれる「爪」を使います ここで興味深いのが,たくさんの弦があるのに,実際にはじくのは通常1本,それも一番下側の主弦が中心です. ですので,ギターなどに比べると,左腕の横の動きが大きくて速いです. シタールは,20本の弦があるけれど「単音楽器」なんです. ギターのように和音を押さえてジャカジャカとリズムを刻むような弾き方はしません. 1本鳴らすだけでも,共鳴弦のおかげで独特の響きが出る,そして,ギターのチョーキングに相当する操作で細かく滑らかに音程を揺れ動かす. これがシタールの音色の魅力です.

ついでにまた脱線しますと,ギターで「和音を押さえてジャカジャカとリズムを刻む」という弾き方は,フォークソングの伴奏ではよく見かけますが,メタルロックではあまりやりません. メタルロックの場合,ギターは単音でメロディーを弾くことが中心になります. なぜかといいますと,ディスト―ションのかかった(音を歪ませた)エレキで和音を弾くと,ごちゃごちゃした濁った音になるからです. ディスト―ション・ギターの音色というのは倍音成分がたくさんあります. (このあたりの話は,以前の雑記帳「済んだ音・歪んだ音」の内容も参考にしてください.) しかもギターは「平均律」ですから,この倍音たっぷりの音色で平均律のコードを弾くと,音が濁ってしまう,とうわけです.

また,生ギターなら音量がすぐに減衰するのでまだよいのですが,ディスト―ション・ギターの場合,音量がなかなか減衰しません. ギターなのに,なぜ「減衰しない」のか?  分かりやすくサイン波で説明しますと,サイン波にディスト―ションをかける(ひずませる)と,一定振幅以上がクリップされ矩形波(台形波)の出力となります.以前にも書きましたが,「ひずませる」とは,回路が扱えるダイナミンクレンジを超えて増幅することなので,このレンジを超える部分はカットされることになります. ここで,大元のサイン波が時間とともに減衰しても,台形の斜辺の角度が緩やかになるだけで,やっぱり目いっぱい振り切れた音量になっているわけです. つまり,「減衰しない」のです.(下図参照.)

Sine2.gif
音量が減衰しないディスト―ション・ギター
サイン波を大きく歪ませた波形(左)と,それが減衰したときの波形〔右)
点線部がサイン波形で,実線部が歪ませた波形

というわけで,ディスト―ション・ギターで和音を弾くと,濁った響きをを延々と聞かされることになります. なにせ「パワーコード」といって,和音の真ん中の音を抜く,つまりドミソなら,一番音が「外れている」ミの音を抜いてドとソだけ鳴らす,という弾き方があるくらいです. ドミソの和音でミの音程がずれていることについては,雑記帳「音楽は数学,物理学 平均律と純正律」も参考にしてください.

私はギターは持っていませんが,シンセをディスト―ション・ギターの音に設定して,和音を弾いて試してみました. 音色の種類にもよるのですが,三和音を鳴らすと,ひどく濁った音というか,「グワングワングワングワン……」とすさまじい「うなり」が聞こえてくる場合がありました. こんな「和音」は,ちょっと使えませんね. この場合でも,パワーコードにすると問題はなくなりますし,シンセを純正律にセットすれば,3音同時に鳴らしてももちろん濁り(うなり)はありません. (音のサンプルをここで紹介したかったけれど,データ作成がめんどくさかったし (^_^;,上の「パワーコード」のリンク先で,実際のギターの音を比較して聴けるので,シンセによる音の紹介はやめておきます.)

小うるさい話をうだうだと書きましたが,早い話,ロックファンはたとえばこんなギタープレイを聞きたいのであって,歌の「伴奏ギター」を期待しているわけではないのです.

話を,シタールに戻します. 雑記帳「済んだ音・歪んだ音」では,三味線の「さわり」と同じようなしくみがシタールにもある,と書きましたが,それ以上は詳しく触れませんでした. シタールの「さわり」は「jivari」と呼ばれるもので,ギターやバイオリンでいうところの「ブリッジ」部分にあります. (右上の「シタール各部の名称」の図では「JIWARI」と綴られています.)

シタールの魅力

20本も弦があるのに,基本1本しか弾かない「単音楽器」. しかし,共鳴弦と jivari による独特の響きがある. そして,ギターのチョーキングに似ているけれど,ずっと複雑に変化する音程の「揺れ」. これは,1オクターブの音程を固定で12等分してしまったピアノなどでは,到底出すことのできない音色ですね. こういったところが,シタールの音色の魅力でしょうか? 私はギターはやらないですが(はるか昔に「挫折」した),左手の動きでこれだけ音程を「動かせる」楽器というのは,ギタリストとしては興味をそそられると思います. 石間秀幾が,ギターではどうがんばっても物理的にできない奏法をやりたくて,シターラというオリジナル楽器を作ってしまったも納得できます. (鍵盤楽器でも,シンセサイザーなら「ピッチ・ベンド・ホイール,あるいはピッチ・ベンド・レバー」というのがついているので,滑らかに音程を揺らせることができます. またシンセの場合は,ホイール/レバーを目一杯動かしたときに動く音程の幅を半音とか1オクターブとかいろいろ変えることができるので,シタール以上の音程の動きを出すことも可能です.)

そうそうそれから,「ラーガ」と呼ばれるインド音楽独特の音階がありますね. でも,西洋音楽の音階もきちっと正確に使いこなせられないのに,これ以上音階の話までするのは私の能力の限界を超えてしまって「ディスト―ションのかかった歪んだ文章」になりそうなので(^_^),このあたりで話をやめておきます.
 

Signature of Grotle