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光の三原色・音の三原音?

音の「三原音」はない!

2012-09-30

音の三原音?

 皆さん,カラーテレビやパソコンの液晶画面をルーペで大きく拡大してみると,赤・緑・青の小さな升目がたくさん集まっているのが見えることは,ご存知ですよね?

液晶画面の拡大写真
液晶画面の拡大写真

 そう,「光の三原色」というやつです。よく RGB(Red, Green, Blue)というアルファベット3文字でも表わされます。波長でいえば,R は 625-740nm,G は 500-560nm,B は 445-485nm (nm: ナノ・メートル,1メートルの十億分の一)あたりの色になります。 「この3つの色の光の強さの組み合わせるだけで,すべての色を表わすことができる」のですから,不思議な話ですし,なかなか便利な原理もあります。このことに最初に気づいたかたは「エラい」と思います。
 ところで,われわれがとくに関わっている「音」も,「波」という意味では「光」と同じものですよね? (ここでは「光は粒子としての性質も持つ」という量子力学のお話はやめときます。) ならば,「光の三原色」に相当する,「音の三原音」というものはないのでしょうか?
 実はこの「疑問」,私が子供の頃というか若い頃というか,昔,結構長い間不思議に思っていた課題なのです。結局,ある本 [1] を読んですっきりと理解できたのですが,このことをこれから説明していきたいと思います。

色の認識方法

 3つの色の組み合わせだけで,すべての色が表せるのは,実は人間の視覚神経のしくみをうまく利用しているからです。
 人間の目の網膜には,色を感じる錐体(すいたい)という感覚器官があります。これには3種類あって,それぞれ赤色,緑色,青色に反応し,この3種類の色の感じ方の組み合わせでひとつの色を感じるようになっています。(細かくいうと,人間の目にはもうひとつ杆体/桿体(かんたい)という色は識別できませんが暗さに強い感覚器官もあります。ネコなどの動物はこの杆体が発達しているわけですが,こちらの器官は,今回の話にはあまり関係がないので,これ以上の説明はやめておきます。)
 要するに,人間の目は3種類の波長に敏感に反応する器官があって,その「3種類の波長の強さの組み合わせで,ひとつの色を感じる」ようになっているのです。ですから,人間に色を感じさせるには,この3種類の感覚器官のそれぞれを適切な強さで刺激すれば良いわけで,RGB の3つの色があれば十分,ということになります。

 というわけですから,太陽光線の「白」とカラーテレビの「白」とは,人間の目にはほとんど同じに感じられても,その周波数成分の構成は大きく異なっています。この2つの「白」を,プリズムを使って分解してみると,違いは明らかです。
 プリズムを通った太陽光線の「白」の場合は,きれいな虹の七色に分かれて見えます。すなわち,波長の長いほうからいえば,赤外線(これは肉眼では見えない)~赤~緑~青~紫外線(これも肉眼では見えない)の各波長の光が,多少の強弱はあるにせよ,まんべんなく入っています。ところがカラーテレビの「白」の場合は,赤と緑と青のところの3箇所に極端なピークがあります。
 こう考えていくと,「光の三原色」といっても,あくまで人間の色識別能力に基づいた「原色」にすぎない,ということが分かってきます。テレビ画面に,きれいな色のお花畑が映っていたとします。人間には「きれいなお花畑」と映ったとしても,人間とは違った色識別能力を持った動物,たとえば昆虫がそのテレビ画像を見た場合,実際の自然のお花畑の色とは全く違った,とんでもない色の景色に見えているはずです。
参考URL ⇒ 眼の常識・非常識 視覚系とカラー認識-1

音の認識方法

 さて,カラーテレビが3つの色だけからすべての色を表現できる理屈は,これでご理解いただけたと思います。では,「音」の場合はどうなのでしょう?
 音は耳で聞きます。正確にいえば,「外耳道」(要するに耳の穴」)を通ってきた空気の振動は外耳と中耳の境目にある「鼓膜」を振動させます。鼓膜の振動は,中耳にある3つの骨を介して,内耳の蝸牛管(かぎゅうかん)/渦巻細管(うずまきさいかん)に伝わります。蝸牛管はその名の通り,かたつむりのような形をした渦巻き状の管で,中にはリンパ液がたまっています。空気の振動は最終的にはこのリンパ液の振動となり,蝸牛管の内側にある有毛細胞がその振動を拾って神経に伝えます。この音の検出器官は蝸牛管の中にずらりと並んでいて,入り口に近いところは高い音,奥の方は低い音に反応します。

耳の構造図
耳の構造図(文献 [1] より)

 しかも,このずらりと並んだ聴覚器官は,目の錐体のように3種類の波長だけに反応するのではなく,20Hz から 20kHz くらいまでのそれぞれの周波数を個別に識別できます。これはどういうことを意味するでしょうか?
 目の場合は,「3種類の波長の強さの組み合わせから1種類の色」を感じます。ですから赤色と緑色の升目がびっしりと繰り返し並んでいた場合,個々の升目が十分に大きければ,赤い升目と緑の升目の2つの色が見えますが,カラーテレビのように非常に小さいサイズで赤と緑が並んでいると,「黄色」として感じてしまい,その中に含まれている「赤色」と「緑色」を区別して感じ取ることはまったくできません。
 ところが,音の場合は違います。ピアノの C と E と G の音が同時に鳴った場合,聴覚神経は個別周波数をそれぞれの音として感じることができます。だからこそ,3つの音がなったドミソ和音であることが分かります。そればかりではなく,たとえばピアノの C の音を聞いて,C の音だけでなく,そのピアノの音に含まれている倍音成分,つまり1オクターブ上の C,1オクターブ上の G,1オクターブ上の C …,も聞き分けることができます。もっとも,どこまで細かく聞き分けることができるかは,そのかたの「音感」に大きく依存するわけでして,私はさほど細かく音の周波数成分を感じることはできませんけれど… (^_^)
 このように,人間は音の各周波数成分を細かく聞き分けられるので,「音の三原音」といったものは存在しようがないのです。

目の感覚機能は手抜き?

 耳はこんなに細かく周波数成分を聞き分けられるのに,目はたった3つの波長の強さの組み合わせで1種類の色しか感じられません。目はずいぶん「手抜き」をしているようにも思えますがそうではありません。
 目は目で,耳にはないすぐれた能力を持っています。それは,波のくる方向を網膜上で2次元でとらえることができるということです。さらには,2つの目を使って3次元としてとらえることさえできます。つまり相手の位置,形を,視覚として非常に正確にとらえることができるわけです。これは「直進性」の強い「光」だからこそできる技です。
 一方,物の陰にも回り込んでしまう「音」ではそうはいきません,ある程度の音の来る方向は分かりますが,相手の位置を正確にとらえるまでには至りません。その代わり,といっては何ですが,方向性をとらえにくい代わりに周波数を細かく識別できるようにして,音の違いを細かく聞き分けられるようになっているわけです。目と耳は,「波を感じる器官」という意味では同じですが,光と音の「波」としての特性の違いにうまく合わせた機能を持つ感覚器官になっているわけです。
 なお,「音」であっても,人間の耳には聞こえない高い周波数の超音波ならば,直進性が強くなるので,位置も正確に判断しやすくなります。コウモリは,この超音波を使って真っ暗な洞窟の中でも飛び回っているわけです。

音の合成はたいへん

 さて,このように,人間は「音」の個別周波数を識別できます。ですから,音を合成する場合には,カラーテレビで「色」を合成するときように,3つの周波数だけから合成するような単純な方法は使えません。
 では電子楽器のシンセサイザーは,どうやっていろいろな楽器の音を合成しているのでしょうか? クラシック音楽の生楽器ばかりを聞いているかたには関心のない話題かもしれませんが,シンセサイザーの原理を理解することは,生楽器の音の原理を理解することでもあり,なかなかおもしろい話で,生楽器の音の理屈を理解する参考にもなります。
 とはいっても,この話題だけでも,かなり長い文章になってしまうので,ここで書くのはやめておきます。また機会があって気が向いたときに書くこととします。


参考文献
[1]
P.H.リンゼイ,D.A.ノーマン共著,情報処理心理学入門Ⅰ 感覚と知覚, 1983年,サイエンス社,ISBN4-7819-0052-6(3巻1組の本の1巻目です。)

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