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澄んだ音・歪んだ音 (1/2)

音を歪ませるのはエレキだけじゃない!

2012-06-30

はじめに

 「澄んだ音と歪んだ音のどちらがいいですか?」とたずねられたら,あなたはどう返事しますか? 「そんなの,澄んだ音に決まっているではないか!」というかたは多いと思います。でも,ちょっと待ってください。そんな単純な二元論で,音楽の響きを切り分けられるものではありません。

すべての周期波形は複数のサイン波の組み合わせ

 音は空気の粗密波なわけですから,究極の澄んだ音は,空気の粗密が均一のリズムで繰り返される音,オシロスコープで表示すれば,サイン波になる音といえるでしょう。このサイン波の音を「純音」といいます。音叉の音がこの純音に近い形をしています。でも,通常の私たちの耳に入ってくる音は,そんな単純な音ではありません。実は「音」というもの,厳密にいうと周期的に繰り返される任意の形をした波形は,いろいろな周波数のサイン波が合成されてできあがったものなのです。逆にいえば,任意の音は,いろいろな周波数の純音(サイン波)に分解することができる,ということです。
 みなさん,いろいろな周波数の光の集まりである太陽光をプリズムに通すと,各周波数成分(各サイン波=純色)に別れて虹の七色が見えるのはご存知ですよね? これと同じ理屈が,音の場合にも,というか「波一般」に関していえます。そして,人間の目に見える光ならば,波長が約 380~800nm(ナノメートル=10億分の1メートル)の純色の集まりですし,人間の耳に聞こえる音ならば,周波数が 20~15,000ないし20,000Hz の純音の集まりになります。

 なお,「光の波」の成分を区別する場合は「波長」(繰り返される単位となる波の長さ)を使うのに対し,「音の波」の成分を区別する場合は「周波数」(1秒間に何回同じ波が繰り返されるか)を使うのが一般的です。また,「波長×周波数=伝播速度」という関係になります。

 「きれいに澄んだバイオリンの音色」は,いくら澄んだ音色に聞こえていても「純音」ではありません。その音程が ドであるならば,そのドと同じ周波数のサイン波(基音),2倍の周波数のサイン波(1オクターブ上のド),3倍の周波数のサイン波(1オクターブ上のソ),4倍の周波数のサイン波(2オクターブ上のド),……という具合に倍音が重なっています。このように楽器の音とか歌声とかは,周波数が整数倍のサイン波が合成された音になっていて,一番低いサイン波の周波数が,その「音程」として人には聞こえます。

基音のサイン波の図
基音

2倍音のサイン波の図
2倍音

3倍音のサイン波の図
3倍音

4倍音のサイン波の図
4倍音



 この各倍音成分の強さの違いが,音色の違いとなって聞こえてきます。もっともこれは,同じ音程,音量で持続する音を比較する場合の話です。楽器の音の違いを細かくみていくと,倍音成分の違い以外にも,たとえば時間とともに音量がどう変化するかによっても,音色の違いが感じられます。

 ところで,「音程感」の感じられる音は,このように整数倍の周波数を持つサイン波,つまり倍音成分から構成されるのですが,自然界の楽器や歌声には,いやでも若干の整数倍の周波数の音も混ざってきます。整数倍音中心ならば澄んだ音に聞こえますし,非整数倍音が増えてくると濁った音に聞こえてきます。ベルカントで歌ったときと,だみ声でがなったときの声の違い,といえば分かりやすいかと思います。

 ついでに書きますと,ドラムセットの,ハイタム,ミッドタム,ロータムの音は,高い音程,中くらいの音程,低い音程,と聞き分けられますが,「このハイタムはラの音だ」とか,「このロータムはドの音で鳴っている」というような明確な「音程感」はありません。これは,ドラムの音が非整数倍音中心で構成されているために,音程感を感じられない(基音が見つからない)からです。(ただし,同じ打楽器の仲間でも,ティンパニは整数倍音成分が多く,音程を聴き取ることができるちょっと特別な打楽器です。)

 ということで,整数倍音,非整数倍音に関しては次の関係が成り立ちます。

整数倍音の集まり 音程感のある音 楽音
非整数倍音の集まり 音程感の無い音 噪音(そうおん)

 「音楽だったら音程感のある楽音がいいに決まっている!」というわけではなく,この両方の音がうまく調和して音楽ができあがります。現に,ドラムやシンバルのような音程感のない音も,曲の中では立派に役割を果たしています。 ただ,みなさんがメサイアを歌われるときは,なるだけ整数倍音中心のベルカントの声を出すようにしてくださいね。「がなって」しまうと,非整数倍音を大量に発生させてしまい,コーラスに向かないノイズっぽい声になってしまいますので,ご注意のほどをお願いいたします。
 なお,(原理的には「打楽器」である)ピアノや木琴は打撃の瞬間には噪音を出しますし,トランペットの吹きはじめや,バイオリンの弓の動かし始めでも噪音(つまりノイズ的な音)が出ます。しかし,その後の持続音では楽音,純音になっていくという「音色」の変化があり,このことがそれぞれの楽器の「味」となっています。

「歪んだ音」とは?

 「倍音」の話が(多少は)分かったところで,やっと「歪んだ音」の話です。みなさん「歪んだ音」とはどういう音だとお思いですか? 「耳で聞いて不快な音」なんていう,個人の嗜好に依存する「情緒的」な説明じゃだめですよ。ここでは,具体的にイメージしやすいように,エレクトリック・ギターなどが出す「歪んだ音」で説明しましょう。

 ギターの音の波形はもっと複雑なのですが,分かりやすいように,サイン波を歪ませる場合で図示します。
 さて,ここで音量をどんどん上げていくと,波形はどう変わるでしょうか? 音量を上げるということは,波の振幅を大きくする,ということです。

元の音のサイン波の図
元の音
音量を大きくした音のサイン波の図
音量を大きくした音

 ところが電気回路の場合,その回路が扱える「音量の限界」というのがあります。それ以上の音量を出したくても原理的に無理,という限界です。これを「(音量の)ダイナミック・レンジ」といいます。さてここで,この限界を無理やり超えて大きい音を出そうとすると,どういう現象が起きるでしょうか?
 ダイナミック・レンジを越えることは回路として原理的に不可能なので,越える部分は最大音量に置き換えられてしまいます。 結果として,下の図のように,滑らかだったサイン波の上下がちょん切られて,矩形波に近い形になります。

歪んだ音のサイン波の図
歪んだ音

 ちょん切られたところの波形に角(かど)ができますが,角ができたということは,もともとの音にはなかった高周波成分が増えたことです。これが歪んだ音です。「音が割れる」ともいいますね。悪く言えば「ノイズっぽい高周波成分が増えた」ことになりますが,好意的(?)に言えば「原音に無い高周波成分が増えて音色が豊かになった」ことになります。この歪んだ音,「ギュワァ~~~ン」とエレキを大音量で鳴らして歪んだ音を出しても,時間経過とともに音が減衰していくと,ダイナミック・レンジの範囲内に収まってしまい,歪みの無い音に戻る,という時間経過による変化があるのも面白いところです。

 エレキの音を歪ませるエフェクターには,ファズ,デストーション,オーバードライブなどなど,いろいろあって細かい違いまでを説明する知識は持ち合わせていませんが,基本的には,上のように音量のある限界を超えた部分で波形をちょん切る操作が,音を「歪ませる」という操作です。
 エレキの音を歪ませ始めたのは,1960年台のファズあたりからだと思うのですが,ジージーとノイジーな音ができるを嫌って,ブースターで無理やり出力を上げて歪ませるという手法をとる方法もありました。ただ,後者の場合,機器に負担を掛けるために,アンプから煙や火が出る場合もあったとか。まあ,それはそれでライブ・ステージの「演出効果」として迫力がありますけれど,真空管やアンプそのものをすぐ壊わしてしまのが欠点です。
 しかし,いまはデジタル・エフェクター全盛の時代です。回路に負担をかけることなく,波形を歪ませることができますし,歪ませるだけでなく,エコー,リバーブなど,そのいろいろなエフェクトもデジタル回路で行なえるようになっています。

 回路の能力の限界を超えた「音量」で音を出そうとすることで,本来あるべき波形の形が崩れるのが「歪む」ことです。でも,勘の鋭いかたでしたら,「『音量』だけなの? 回路の能力の限界を越えた『周波数』で音を出そうとすることだってありえるのでは?」と指摘されるかもしれません。そう,そういう機器設定もやろうと思えばできます。たとえば電子オルガンの音を,本来使うべきキーボード用アンプではなく,ギター用アンプを通して鳴らした場合です。アンプ(増幅器)というものはそれぞれが対象とする楽器が出す音域の音を正確に増幅するように設計されています。ですから,対象とする楽器の出せる音域を越えた音に対しては,正確な動作ができません。ということで,オルガンより音域の狭いギター向けに作られたアンプをオルガンに使ってしまうと,当然ながら,高い周波数,低い周波数の音が充分に増幅されません。結果として,高い周波数,低い周波数の音がカットされた「しょぼい」オルガン音になってしまいます。
 もっと身近な例をあげれば,人間の声を伝える前提で設計されてる電話機で,音楽を伝える場合をあげることができます。「人間の話の内容を理解できる音質」しか持っていない電話機回路では,音楽を聴く気にはとうていなれないと思います。
 このように「周波数」に関しても,「回路の能力の限界を超えた」使い方があります。「本来あるべき波形の形が崩れる」という意味では,先の「歪み」の場合と同じです。しかし,本来なかった周波数成分が増えるのではなく,本来あった周波数成分の一部が弱くなってしまう/なくなってしまう場合は「歪む」とはいわないです。

歪みサウンドの例

JimiHendrixの写真

 さて,せっかくですから,「歪みサウンド」の例として,(たぶん)ファズとワウワウを使って歪み効果を最大限に生かした,「伝説」のギター名演奏を紹介しておきましょう。「のだめカンタービレ」に登場する峰龍太郎があこがれたジミ・ヘンこと Jimi Hendrix の演奏です。峰クンあこがれなだけあって,ロックファンなら必見(必聴?)のハンパじゃないすごい演奏です。「これでもか!」というくらい見事に歪ませています。さらにいえば,みなさんの耳の「ダイナミックレンジ」(?)を超えるくらいにボリュームを目一杯上げて聞いていただきますと,もっと効果的に聞こえます(^_^)。ただし,極端な大音量は,難聴などの健康障害を引き起こす危険性が高いので,ボリュームを上げるのは自己責任で行なってください。(^_^)
 ともかく,この種の演奏をボリュームを絞った小さい音で聴くことは,メサイアの Since by Man came death をフォルテッシッシモで歌い始めるくらい不自然なことなのでやめてください。そのような聴き方は,この演奏の2年後に27歳の若さで亡くなった Jimi Hendrix に対して失礼でもあります。ま,「そういう曲」ですから,この種の音(歪んだエレキの音)のお嫌いなかたは,初めから聞かないほうがいいと思います。


Jimi Hendrix - The Star Spangled Banner
これぞ歪みサウンド!

伝統楽器でも音を歪ませている!

 さて,ここで私が本当に書きたかったのは,実は,エレキの歪んだ音の話ではないのです。ここまでの話は長い「前口上」(予備知識の説明)にすぎません。ここからが本題。みなさん! エレクトリック・ギターが誕生するはるか以前に,「生楽器で,エレキテルの助けを借りることもなく,『歪み』をたくみに実現している楽器がある」のをご存知ですか? みなさんよくご存知の,日本の伝統楽器ですよ。さきに読み進む前にちょっと考えて,当ててみてください。


Signature of Grotle