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音楽は数学,物理学

平均律と純正律

2013-05-01


はじめに

 書名は忘れてしまったのですが,音楽関係のある本を読んでいたら「音楽は数学であり物理学である」と書いてある本がありました.私としてもある意味理解できる面があったので,今回は「理系」の観点から書き始めていきたいと思います.

音程と弦の長さ

 昔々(半世紀くらい前?),小学生向けの簡単な理科の実験器具(実験おもちゃ?)で,金属の板の上に 20~30cm ほどの長さで太さの違う数本の針金を張ったものをいじっていた記憶があります.針金の太さが違う場合や,針金の張りの強さを変えたり,針金の途中に琴柱のようなものを入れて針金の長さを変えたりした場合に,音の高さが変わるのを確かめる器具でした.
 小学生にここまで教えていたかどうかの記憶はないですが,弦の張りはそのままに長さを半分にすると,周波数が倍,すなわち1オクターブ上の音になります.

等比数列の音階

 さて,1オクターブあがるごとに音の周波数は倍になりますが,では,1オクターブ範囲内のド,レ,ミ,…の各音の周波数比率はどうなっているでしょうか? みなさん,合唱の練習を始める前に発声練習をしますよね? このとき,たとえば,ドレミファソファミレドをピアノの伴奏に合わせて「アアアアアアアアア」と歌います.そしてこれを,半音ずつ上げながら繰り返してゆきます.ピアノは半音ずつ上げながら弾いているのに同じ感じの旋律で歌えているわけですから,個々の音同士の間隔は同じ比率になっている,と容易に想像できます.そもそもピアノという楽器が,ある曲をどの調に転調しても全体の音程が上下するだけで同じ感じで演奏できるのは,「ピアノの半音ずつの音程で隣り合っているキー同士の周波数の比率は(通常)すべて同じ」だからです.
 このことをもう少し「数学的」にいうと,「ピアノの各キーの出す音の周波数は,等比数列を構成する」となります.ではその「公比」はいくつなのでしょうか? これは簡単です.1オクターブ上がれば,周波数は倍になります.そして1オクターブにある半音の数は12個ですから,12乗したら2になる値,2の12乗根がその値です.
 公比を x とする方程式を書けば,次の式になります.
x12 = 2
そして,その解は 2の12乗根 ,
x = 12√2 ≒ 1.059463094...
となります.
(この WEB ページでの数学表記は少し手を抜いています.2の12乗根 “12√2” の記法は本当はルート記号 “√” の上の横棒が数字の“2” の上にまでかかってこないといけないのですが,ここの表記では数字の上にかかっていません.悪しからず…. m(._.)m

「音程」は「対数表現」

 ところで,音程を「周波数」で表わすと,音程が上がっていくにつれて桁数がどんどん増えてしまい,扱いにくい表現になってしまいます(なにしろ1オクターブごとに倍の値になりますから…).この種の「桁数の爆発」は,「音程」に限らず,「音量」,「明るさ」,「放射能の強さ」,「地震の強さ」といったいろいろな人間が感じる物理量に関して発生します.すべての場合にちょうど当てはまるのかどうかは知りませんし,きっちり「裏」をとったわけではないですが,「人間が2倍の強さになったと感じたとき,物理エネルギーとしては10倍になっている」ということを読んだ記憶もあります.このように値が「指数関数的に」非常に大きく変動するものを分かりやすく表現するために使われるのが「対数表現」です.「対数表現」とは,本来なら掛け算で表わされる値の増減を,足し算で表わすことにより,「桁数の爆発」を防ぐための表現なのです.
 「対数」というと数学の苦手なかたはとたんに「退(ひ)けて」しまわれるでしょうが,みなさん音楽ではあたりまえのように「対数表現」を使われていますよ.つまり,「周波数が2倍」になることを,「1オクターブ上がる」と表現されているわけです.4倍だったら2オクターブ,8倍だったら3オクターブ,という具合に,「×2(掛ける2),÷2(割る2)」を「+1(足す1),-1(引く1)」という対数表現にして,みごとに使いこなされています.
 そもそもピアノの鍵盤の並びが,周波数を「対数目盛り」で表わしたものですね.もし「対数目盛り」にしなかったらどうなるか? それはギターのフレットです.音域が低くなるにつれフレットの間隔がどんどん広くなり,高くなると狭くなっていきます.特定の弦に着目した場合,ある音から「半音」だけ移動するときに,低い音域の場合は指を大きく動かさないといけませんが,高い音域だと指の移動は少しですみます.このフレットの刻みは,弦の長さそのものに対応します.すなわち,「周波数」ではなく,周波数の逆数である「波長」に対応しています.
 フレットの間隔が広すぎると(あるいは狭すぎると)弾きにくいですし,そもそもネックが長すぎると腕が届かなくなるので,太さの違う弦を並べて張ることで,広い音域をカバーする構造になっています.いっぽうピアノの鍵盤は「対数」にしたおかげで,半音の指の横移動は常に同じです.(「白鍵と黒鍵では幅が違うじゃないか?」と思わないでくださいね.黒鍵のある部分を横方向に見ていくと,白と黒の鍵盤が同じ幅で並んでいます.)

平均律(Equal Temperament)

 各半音階の高さ(周波数)を「等比数列」で均等に区切った音律を,「平均律 /the equal temperament」と呼びます.ピアノやオルガンなどの鍵盤楽器やギターのようにフレットのある弦楽器など,明確に半音きざみで音を出すしくみを持った楽器は,通常この平均律で調律されています.こういうしくみになっているおかげで,いろいろな調の曲に対応できるわけですし,特定の曲を半音単位で好きなように上げ下げ(転調)して演奏することもできるわけです.

さらに細分する

 ところで半音単位では,音程の刻みが「粗すぎて」不便なときがあります.楽器のチューニングなどのことを考えると,半音以下の微妙な音程を表現する単位も必要になってきます.
 そこで使われるのが「セント(cent)」という単位です.「セント」というくらいですから1/100ですね.「セント」とは,1オクターブを12に分けた半音をさらに100で分けた単位です.ですから,1オクターブは1200セントになります.この「セント」も対数表現ですから,「1セント音程が上がる」ということは「周波数が 1200√2 倍になる」ということになります.
 ピアノなど演奏者自身がチューニングをすることのない生楽器を使っていると,「セント」という単位に触れる機会はないかもしれませんが,電子楽器の音程合わせやチューニング・メーターなどで目にする単位ですね.

音律は平均律だけじゃない

 実は私,昔は「各半音間の周波数比率が同じなのは当たり前」と思っていました.「そうでないと,いろいろな調に対応できない」と思っていました.でも,その後いろいろ分かってきたところでは,平均律の音程というのは,いうほど「当たり前」のことではないんですね.バイオリンのように,半音の間の任意の音程を出せるような楽器の場合,演奏者は無意識に一番よくハモる音程をとって演奏するわけですが,この場合「平均律」になっていない場合が多々あるのです.もちろん,われわれがコーラスで歌の場合も,人間の声の音程は鍵盤やフレットで区切られておらず,半音以下の細かい音程を調整できるわけですから,平均律になっていない場合があるのです,

ハモる音とは?

 たとえばドミソの和音がハモるのはなぜなのか? と考えたことはおありでしょうか? なぜハモる音(協和音)とハモらない音(不協和音)があるのでしょうか?  これは倍音の話が絡んでくるので,「雑記帳 > 澄んだ音・歪んだ音」や「雑記長 > のど歌(喉歌,Throat Singing)/倍音唱法」で書いていたことも参考にして読み進めてください.別の WEB サイトになりますが,「1.「神が作った?音階」=純正調音階について」なども,参考になるかと思います.
 「雑記長 > のど歌(喉歌,Throat Singing)/倍音唱法」でも書きましたように,
  • ドの音の2倍音(2倍の周波数の音,弦の長さを1/2にしたときの音)は1オクターブ上のド.
  • 3倍音(弦の長さを1/3にしたときの音)は,1オクターブ上のソ.
となり,さらに続けると,
  • 4倍音(弦の長さを1/4にしたときの音)は2オクターブ上のド,
  • 5倍音(弦の長さを1/5にしたときの音)は2オクターブ上のミ.
  • 6倍音(弦の長さを1/6にしたときの音)は2オクターブ上のソ.
となります.
 さてここで,ドミソの和音を鳴らすとします.このドミソの3つの音の周波数比は,ドを1とした場合,1 : 5/4 : 3/2となります.(この和音のミは,ドの5倍音であるミの2オクターブ下なので4で割ります,またこの和音のソは,ドの3倍音であるソの1オクターブ下なので2で割ります.) しかし比の中に分数があるといやらしい(?)ので,全体に4を掛けると,比率は,4:5:6となります.
倍音の図
C4 の倍音
 ここでは音階を表わす記法として,クラシック音楽で一般的なドイツ語方式ではなくポピュラー音楽で一般的な英語方式を使うこととします.つまり「シ♭」と「シ」は,「B」,「H」ではなく,「B♭」,「B」と表記します.あと,真ん中のCを「C4」とする,といった具合に,アルファベットのあとに数字をつけ,オクターブあがるごとに数字部分を増やすことで区別するものとします.(真ん中のドを「C4」するのが国際的に一般的? とは思うのですが,世界的にもメジャーな楽器メーカーである YAMAHA は,なぜか真ん中のドを「C3」で表わしていて,このやりかたも結構使われているのでややこしいです.)
 和音の3つの音の周波数比が4:5:6という単純な整数値になっていることが,ハモるためには大切なのです。この3つの音の波形を簡単のためにサイン波で表わしてみましょう.下の図の上側のグラフを見てください.3つの波形を0から立ち上がる位置でそろえて描き始めた場合,ドの4周期目とミの5周期目とソの6周期目で,3つの波のパターンが最初と同じ状態に戻ります.つまり,3つの波が同時に0から立ち上がる状態に戻ります.
 「最初の状態に戻る」ということは,あとは,「この同じパターンが繰り返される」ということです.下の図の下側のグラフは,3つのサイン波が合成された波を表わしています.この合成波は,2オクターブ下のドの周波数で同じ波形が繰り返されることになります.

ド,ミ,ソの各音程のサイン波とその合成波のグラフ

ド,ミ,ソの各音程のサイン波とその合成波

 どうです? 各音の周波数が単純な整数比だと,各波の形が短い周期で同じ状態に戻ります.これがハモる音,協和音です.もし,各音の周波数比が半端な値だと,同じ状態に戻るのに長い周期が必要となります.これだとハモりません,不協和音となります.
 では,いつまで経っても元の状態に戻らないのならどうなるのか? これはつまり,波形に周期性がなく,ランダムな波形が延々と続くわけですから,「不協和音」を通り越して「ノイズ」になってしまいます.

うなり

 ところで2つの波の片方の周波数がもう片方の周波数とほんの少ししか違わない,という極端な状態になると,面白い現象が生じます.同じ状態に戻るのが「非常に長い周期」になってしまい,「不協和音」としてではなく,この「長い周期」で音量が大きくなったり小さくなったりする「うなり」として聞こえるようになります.
 下の図がこの「うなり」の例です.ここでは,グラフ線を単純にするために周波数比を10:11にしています.このグラフの両端では2つの波の「山と山」,「谷と谷」が一致するので,合成波は大きい音となります.ところが,グラフの中央付近では「山と谷」が一致するので,音が小さくなってしまいます.このグラフ例のような周波数の違いだと,音程にもよりますが,音量の大小変化の周期が速すぎて,「うなり」としては聞こえないかもしれません.しかし,これがたとえば 440Hz と 444Hz の場合だと,うなりの周期は 4Hz(444-440)となります.つまり,1秒間に4回大きくなったり小さくなったりするので,明確に聞き取ることができます.

周波数比10:11の波とその合成波のグラフ
周波数比10:11の波とその合成波

平均律で「倍音」を見ると…

 さて,さきに取り上げたドミソ和音各音の周波数比(4:5:6)を,平均律の値で見てみましょう. ミはドから4半音はなれていて,ソはドから7半音離れています.ですから,ドの周波数を1とした場合,ミとソの周波数は以下の値になります.

ミの周波数 = ドの周波数 × (12√2)4 = 1.2599...
ソの周波数 = ドの周波数 × (12√2)7 = 1,4883...

 あれれ? ミの周波数はドの5/4なのだから 0.125,ソの周波数は,ドの3/2だから 1.5 にならないといけないはずなのに,なにか変ですね.これじゃハモらなくてうなりが出てしまいます.そうなんです,均等に分割する平均律は,転調するには便利な音律なのですが,ハモりを厳密に追求すると,ちょっと外れた音になってしまうのです.
 では,ハモり優先でチューニングするとどいう音律になるのでしょうか? これが「純正律(Just Intonation))」という音律になります.平均律と純正律での各音の周波数比率を下の表にまとめました.

  ファ
平均律 1 (12√2)2 =
1.1225...
(12√2)4 =
1.2599...
(12√2)5 =
1.3348...
(12√2)7 =
1.4983...
(12√2)9 =
1.6818...
(12√2)11 =
1.8877...
(12√2)12 =
2
純正律ハ長調長音階 1 9/8 =
1.125
5/4 =
1.25
4/3 =
1,3333...
3/2 =
1.5
5/3 =
1.6666...
15/8 =
1.875
2
平均律と純正律の場合の周波数比

 たとえば,ハ長調の曲でアルトがド,ソプラノがミを歌う場合,ちゃんとハモらせるには,ソプラノはアルトの 1.25 倍の周波数の音を出さなければなりません.けれども,平均律で調律されているピアノのミの音は,ドの音の 1.2599... 倍の周波数になっています.つまり平均律のミは,一番よくハモるミより,14セント(半音の 14%)も高いのです. 平均律や純正律などの音律についての解説は,下に「参考サイト」をあげています.このほかにも WEB サイトや書籍がいろいろありますので,ご興味のあるかたはご自身でも調べてみてください.

最後に

 平均律と純正律の違いは,たとえばドとミの和音を使って聞き比べると,うなりのあるなしではっきりと分かります.でも,曲の流れの中で聞いた場合には,私のように「しょぼい耳」だと気づかないですね.というか,私が歌うと14セントどころか,もっと派手に音を外している場合があるような…….
 常に微妙な音程を探りながら音を出さないといけないバイオリニストや歌手の場合は,純正の響きに敏感なのでしょうが,自身で調律はせずに出来合いの音程をだすだけのピアニストは,微妙な音程を探ることがないので,音感が甘くなりがちになる恐れがありそう.私も下手ながらキーボーディストであって,バイオリンは弾けないので,気を付けないと….でも,最近の電子楽器の中には平均律以外の音律に簡単に切り替えられるものもあります.キーボーディストのかたは,そういうものを買って聞き比べてみるのもよいかもしれません.
 ちなみに私が最近買ったシンセサイザーは,純正律やヴェルクマイスター,キルンベルガーなど,平均律以外のいくつかの音律に設定することができるようになっています.もっとも,こうした細かい音律の違いを聞き分けられないものにとっては「猫に小判」かもしれませんねぇ~.でも考えようによっては,聞き分けられないからこそ,こういう音色を区別して出すことのできる楽器を弾いてみて,違いを聞くようにする必要があるのかも?