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音楽と小説

「いとみち」の場合

2017-07-10


はじめに

今回は,音楽(津軽三味線)からみの小説の紹介です. ずっと以前,この雑記帳の欄で「クラシック音楽と映画」と銘打って,いろいろな音楽にからんだ映画を取り上げました. ほんとうならば今回はその「小説版」として,いろいろな「音楽」を取り上げた小説をご紹介できればよかったのですが,あまり「ネタ」がなかったので,ここは1冊だけの紹介でご勘弁願います. 1冊だけですが,その代わり,長めにいろいろと書かせてもらいました.

いとみち

で,今回紹介するのが越谷(こしがや)オサム氏が書いた「いとみち」(2011年),そしてその続編の「いとみち 二の糸」(2012年),「いとみち 三の糸」(2014年)です.

いとみち   いとみち 二の糸   いとみち 三の糸
「いとみち」三部作

カバーの絵を見ると,なにか「萌えラノベ」みたいな印象を受けますが,そうではないです. (多少,そういうところもありますが…….) 一言でいえば「青春小説」です. 津軽訛りと人見知りがひどくてドジで泣き虫だけれど,津軽三味線の腕は抜群の高校生の女の子「相馬いと」が,成長してゆく姿を綴った物語です. 全3巻で,彼女の高校生時代3年間のできごと,淡い恋,出会いと別れなどを描いています.

メイド喫茶

物語は,高校生になったばかりのヒロインが,人見知りをなおすためにメイド喫茶(メイドカフェ)のウェイトレスのバイトを始めるところから始まります.

枚方市民メサイア関係者のほとんどは,「メイド喫茶」に縁のないかたばかりと思いますので(実は私も「メイド喫茶」に行ったことはない (^_^;念のために書いておきますが,メイド喫茶はあくまでも「喫茶店」です. この小説の中にも勘違いして来る迷惑な客が登場しますが,「風俗店」ではありませんのでお間違えのありませんように! ウェイトレスがメイド服を着ていて,「いらっしゃいませ」の代わりに「おかえりなさいませ,ご主人様(女性客なら「お嬢様」)」と言ってくれて,「ご主人」気分を味わえるバーチャル空間です. なお,「メイド喫茶」はおもに男性客をターゲットにした喫茶店ですが,逆に女性客をターゲットにした「執事喫茶」というのもあります.

私もこの「記事」を書くにあたって,「メイド喫茶」なるものをあらためて調べ直したのですが,たとえばめいどりーみんのウェブサイトを見ると,なんと11か国語に対応しています. それだけ外国人の関心も高い「日本文化」ということでしょうね. こりゃ私も,現場に行ってもっと知っておいた方がよいかな?

ところで,私たちの「枚方市民メサイア公演」が毎年行なわれている枚方市民会館大ホールのすぐ近くにも「メイド喫茶」があるのをご存じですか? ただし,こちらは正確には「メイド喫茶&バー」とうたっており,営業時間も夜~深夜のみです. ですから,この小説に出てくる「喫茶店」とは,あきらかに違う雰囲気のところですね.

ウェイトレスにメイドの恰好をさせる喫茶店があるわけですから、ホステスにメイドの恰好をさせるバー,キャバクラもあって当然です. 風俗嬢にメイドの恰好をさせて,いろいろな「サービス」をする店があっても不思議ではありません. そのお店がどういうところなのかはっきり開示されていれば別に構わないと思いますが,中には「メイド喫茶」と称しながらとんでもない料金を吹っかける「ぼったくりカフェ/バー」もあるみたいなので,注意してください! ともかく本来の「メイド喫茶」は,「喫茶店」なので,メイドが客の横に座ることはありえませんし,そういうことを期待して行くところでもないです.

お,おがえりなさいませ,ごスずん様

話を小説に戻します. ヒロインは,お母さんに早くに死に別れて,三味線の名手のおばあちゃんに育てられました. このおばあちゃん,孫が幼少のころから三味線を教えたのはよいのですが,ついでにこてこての津軽弁まで教え込んでしまいます. かくして,ヒロインは,お店にやってきたお客さんに向かって,強い訛りの「おがえりなさいませ,ごスずん様」という挨拶を直せないで苦労します.

このヒロインを中心に,メイド仲間や店長,オーナー,メイドカフェ「廃人」の常連客たち,そして学校の友達などなど,実に個性豊かなひとたちが登場します.

「いとみち」とは?

ちなみにタイトルの「いとみち(糸道)」というのは,三味線奏者の左手人差し指の爪にできるわずかな「切れ込み」のことです. これがあると,糸を押さえやすくなるし,音もよくなるみたいで,あらかじめヤスリなどで作っておいたりすることもあるみたいです. ですがこのタイトル,もちろんヒロインの「いと」が歩んでいく「道」の意味も掛け合わせています. (「いと」というちょっと変わった名前は,おばあちゃんが三味線の糸からつけた名前.)

ヴァン・ヘイレン


蜷川べに

アニメにしてほしい小説?

ネットでいろいろなこの小説の感想を読んでいると「アニメにしてほしい小説」とか「そのうち実写化されるのでは?」なんて書いているかたがたがいました. 私自身実際に読んでいて,なにかアニメを見ているような気分になってくるのを感じました. 本のカバーのすてきなイラストや,体型の描写も含めて個性豊かに描かれているいろいろな登場人物のおかげで,「映像イメージ」を持ちやすかったのかもしれません.

それぞれの登場人物にあった俳優が個性豊かに演じていただけると,「のだめ」みたいなおもしろさも出てくるかと思います. ただし,津軽弁を巧みに操れる声優,俳優が何人も必要ですね.(^_^)

音楽が聞こえてくる小説

この小説,「映像」をイメージさせてくれるとともに,「音楽」もイメージさせてくれます. 小説だとアニメや実写のように実際の音楽を聴かせることができません. 逆にいえば,そこが小説家の腕のみせどころです.

当然ながら,三味線の演奏の描写はたびたび出てきます. その中で一番印象に残ったのは,第3巻に登場する三味線二丁弾きというか「三味線バトル」です. ヒロインと後輩メイドの掛け合いの激しい演奏が,実にたくみに描写されています. 「実写化」されるのであれば,ぜひとも見ておきたい(聴いておきたい)シーンですね. というか,こんなすごい演奏の「三味線バトル」は,ぜひ生で聴いてみたいものです.

いまはインターネットでいろいろな曲を簡単に探し出して聴くことができます. 小説の音楽描写を味わう一方で,この小説に登場するいろいろな三味線曲,民謡,ヴァン・ヘイレンやビーチ・ポーイズの曲を,読み進めながら耳と映像で確かめてみるのもよいかと思います.

三味線とロック

あまりネタバレはしたくないので,細かいところは伏せておきますが,三味線達人のおばあちゃんは,なぜかアメリカのロック・ギタリスト「ヴァン・ヘイレン」の大ファンでもあり,ヴァン・ヘイレンの曲を三味線で弾いたりもします. このスーパーおばあちゃんについては,第三巻でヒロインが友達に「三味線の腕もすごいばって,音楽がらみのどきは体力もすごいんです.79歳で一人で東京ドームさ行っで〔ヴァン・ヘイレンの〕コンサート見て帰ってくるぐらいだはんで.最初から最後まで,2時間立ちっぱなしだったらスいです」と語る場面があります. これは小説のなかでのお話ですが,ロックと津軽三味線はつながるところがあるんでしょうね. 私はロックファンだけど,蜷川べにの津軽三味線を生で(正確には和楽器バンドのコンサートで)聴いているわけですから……. そうそう思い出しました, 以前の雑記帳「『大道芸』はスゴイ!」で触れた大道芸人ギリヤーク尼ヶ崎の前衛舞踏を何度も生で観ていますが,彼は踊るときの伴奏曲としてカセットテープに録音された津軽三味線の曲を多用しています. こうして考えなおしてみると,私も結構津軽三味線と縁があるのかもしれません.

最後に

この小説をきっかけに,津軽三味線に興味を持ったかたもいるのじゃないかな? と思っています. さてみなさん,津軽三味線でもやってみますか? とはいえ,三味線は決して安くはない楽器ですし,それなりに時間をかけないと上達はしません. そういうことが面倒なら,ぐっと手軽にメイドカフェにでも行って楽しんでみるのもいいかも? メイド服のかわいい女の子が給仕してくれて,「ご主人様」気分を味わえますよ!

Signature of Grotle