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フーガは楽し

「みんなが主役」のコーラス

2017-07-09

はじめに

ヘンデルのオラトリオ「メサイア」の中には20曲あまりの合唱曲があります. みなさんは,その中でどの曲がお好きですか?  私の場合,ポピュラーなハレルヤやアーメン・コーラスはもちろん好きですが,自分自身が歌っていて気持ちの良いのはフーガです. 今回はその「フーガ」について書いてゆきたいと思います.

フーガとは?

「フーガ」を手元の広辞苑第六版で引いてみると,次のように書かれて あります.
フーガ【fuga イタリア】
楽曲形式の一つ。ある声部の主題で始まり、これに第2声部が模倣的に応答、以後も声部が加わるごとに主題と応答が繰り返される対位法的な楽曲。
私にとっての最初のコーラスといえば,小学校か中学校の音楽の授業です. 2部合唱で,なじみのある主旋律で歌うパートと,下の音程の「変な」メロディーを歌うパートに分かれて,歌ったのを(歌わされたのを)覚えています.

その後,高校の音楽の授業や社会人になってから入った合唱団では,パート数も増え,私にとっては混声4部が一般的な編成となりました. 混声4部,すなわちソプラノ,アルト,テノール,バスの4パートに分かれて歌う場合,通常,主旋律はもっぱらソプラノが担当します. そしてほかのパートは,それぞれのパートの「変な」メロディーを歌うことになります. 私は,パス,テノールの両方を経験しているのですが(本来の声はバリトン?),こうした「副」の旋律を歌っていると,主役はあくまでソプラノで,私のパートはソプラノの「引き立て役」みたいな気がしないでもないです.

しかし,フーガの場合は,ちょっと話が違ってきます. 主旋律を歌うのがアルトになったりテノールになったりバスになったりと,「主役」のパートが入れ替わりながら,各パートの「掛け合い」みたいな感じで歌が進んで行きます. いわば,それぞれのパートがそのときそのときの「主役」になるわけです.

各パートが主題を引き継ぎながら歌う. それも,小中学校の音楽の授業の合唱のように,各パートはメロディーが違うだけで歌詞とリズムは同じ,という歌い方ではありません. 各パートの歌い始めるタイミングも歌詞も違っています. つまり,違う歌詞,違うメロディーのフレーズが,歌い始めのタイミングをずらせて,複雑に折り重なり合いながら曲が進んでゆくわけです. そしてあるときに,全パートの歌詞の文言と歌い始めのタイミングがそろってフレーズを締める. こういう歌い方が私は好きです.

というわけで,枚方でのメサイア公演において,中程の休憩時間のあと後半部に入ったとき,テナーソロに続いて歌われる合唱曲 “He trusted in God” や,最後の “Amen” コーラスなどは私がとくに好きな曲です.

Royal Choral Society:
'He Trusted in God' from Handel's Messiah
He trusted in God
オープニングでは,バス→テノール→アルト→ソプラノの順に主題が受け継がれています. あとは各パート入り乱れて(?),違うメロディ,違う歌詞が折り重なっていきます. この「絡み合い」が私は好きです.
でも気になるのは,違うメロディの違う歌詞が折り重なった歌を聴いていて,聴くほうはそれぞれの歌詞を聞き分けられているのでしょうか? 少なくとも私にとっては,日本語で歌っていただいたとしても厳しいですね. (^_^;

GEORGE FRIDERIC HANDEL
Worthy is the Lamb & Amen (Chorus)
CHRISTOPHER HOGWOOD
Worthy is the Lamb & Amen
大作「メサイア」の終曲です.この曲の後半が有名な「アーメン・コーラス」です.この歌の場合も,上の He tructed in God のときと同様,バス→テノール→アルト→ソプラノの順に主題に入っていきます.
歌詞は“Amen”だけですから,これならちゃんと聞き分けられる! (^_^;

「フーガ好み」の傾向はロックでも

実をいいますと,「フーガはいいなぁ」,「歌っていて気持ちがいいなぁ」なんて思っていたときに,ふと気づいたことがあります. それは,「フーガ好み」と同じような傾向が,私のロック音楽の好みにもでているな,ということです. といっても,ロックでフーガを歌う,という話ではありません. 特定のパート(通常はボーカル,あるいはリード・ギター)だけが注目され続けるような曲は私の好みではない,ということです.

ロックバンドの演奏となると,まず目立つのはボーカルやリード・ギターです. そんなわけで,ボーカルが「主役」で,あとのメンバーはボーカルのための「伴奏」,という傾向になりがちです. でも私としては,「特定のパートが主役を務め,残りのパートがそれを支える」のではなく,みんなが入り乱れて演奏し,みんなが主役になる演奏,というのがいいのです. もちろん私もボーカル中心の曲も聴きます. でも,私の好みの傾向としては,特定パートだけが常に引き立っている,という曲はしいやですね.

具体的には

文章で書くと分かりにくいので,実際の演奏映像をご紹介しておきます.


CREAM Crossroads 1968


The Last Revenge / D_Drive
懐かしいところでは,イギリスのロックバンド Cream の演奏など,まさに私好みのものです. ギター,ベース,ドラムの最小限の3人編成で,演奏をがんがん聴かせるバンドです. 動画は半世紀近く前の演奏ですが,当時私はラジオやレコードでこのバンドを聞いていました. このバンド,歌よりも演奏を聴かせるバンドで,私なんぞは,このバンドの歌は「イントロ」みたいなもの,という感覚で聴いていました. ギターがリード・パートを務めて,ベースとドラムがそれを下から支える,という演奏ではなく,ギター・ソロとベース・ソロとドラム・ソロを一緒くたにしたような演奏で,各パートがアドリブのリードの奪い合いをしている,といった感じのグループでした.

この Cream はわずか2年半で解散してしまうのですが,その後のロックシーンに与えた影響は大きく,いまとなっては「伝説」のロック・バンドです. クラシック音楽ファンはご存じないかもしれませんが,ここのギタリストが,かの「ギターの神様」といわれている Eric Clapton です.

古いバンドを紹介したので,もうひとつ,今度は比較的新しい,いまも活動しているバンドを紹介しておきます.

ボーカルがいるとどうしてもボーカル中心の曲になってしまうので,「ならばボーカルなしにして演奏家中心のバンドを作ろう!」ということで 2009 年に結成されたのが D_Drive です. このバンド,ツイン・リード(リード・ギターふたり)にベース,ドラムの4人編成で,ボーカルがいないだけに,ボーカリストのことを気にすることなく,4人がガンガンン演奏しまくっている,という感じのバンドです. (男2人,女2人という構成もこの種のバンドでは非常に珍しい.) 何度もライブを観に行っていますが,各自が弾きまくっているので,だれの演奏に注目したものか,迷ってしまうくらいです. ボーカリストがいて歌っていれば,とりあえずは歌っている人に注目することになるのですが,そうはならないわけです. まぁ,真ん中に立っている Yuki さんが一番目立つので(美人だし… (^_^; 注目されがちですが,リーダーのギタリスト Seiji さんは,「Yuki を前面に出して売りにすることはしない,みんなが主役」といったことを語られていました.

フーガならではの間違い

話をクラシック音楽に戻します.

各パートが入り乱れて歌うフーガは,当然ながら,歌うことがより難しくなります. 実際,枚方市民メサイアでのあるフーガの曲の練習のとき,テノールだけでも3パートに分かれてしまっていたことがありました. もちろん,「3パートに分かれる歌」ではありません. 本来テノール全員が同時に歌い始めるべきところで,入るタイミングがずれている人がいて,私が気づいただけでも3種類に分かれていた,ということです.

それでも,それなりの「歌詞」を歌っている歌なら,間違いを訂正しやすいのですが,アーメン・コーラスに至ってはたいへんです. なにしろ,歌詞が “Amen” しかない上に,各パートの歌いだすタイミングがばらばら. 1拍目だったり2拍目,3拍目,4拍目だったりなので,いったん楽譜での位置を見失うと,なかなか「復活」できません. しっかりと頭の中で4拍子のリズムをキープしていないと,たいへんなことになります. ある日の練習で,私の真後ろでアーメンコーラスを大きな声で1拍ずれて延々と歌い続けたかたがいたのには,参りました(早く気づいて修正してくれ!). まぁ,そういう「間違い」がいろいろ起こるのもフーガならではの「楽しさ(?)」のひとつです.

いろいろ起こるフーガの練習ですが,何年もメサイアを歌い続けられているかたがたが増えてきた現在は,アーメン・コーラスもかなり暗譜できてきている(と思う)ので,上のような楽しい(?)間違いを聴かされる機会が少なくなってきたのは,ある意味残念(?)ですねぇ.
ともかく,フーガを歌うときには(フーガに限らないけど…),しっかりとリズムを把握しないといけません. 昔,小学校の音楽の授業で,「歌うときに足でリズムをとるように」と言われた記憶があります. しかし,トントントン…と1拍の繰り返しリズムを足で取るだけでは,1拍のずれには気づきません. メサイアの場合,結構重い楽譜を手に持って歌います. そこで私は,楽譜に添えた右手の親指を使って,ごく小さく「指揮」をしています. 4拍子の曲なら4拍子の振りを,3拍子の曲なら3拍子の振りを右手の親指でしています. ほかの合唱団員のかたがたは,どうされているでしょうか?  しっかりリズムをキープして,フーガを楽しく歌いましょう!



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