がんゲノムの情報と数理

開催趣旨:

近年の高速シークエンス技術の発展により、がんに生じているゲノム変異を網羅的に検出することが原理的に可能になり、多くの新規がん遺伝子が発見されました。さらに検出された変異のアレル比率による分類、すなわちクラスタリングを行うことで、サブクローン集団の有無や個数を調べることが可能になり、がんゲノムのヘテロジェネイティ構造と進化メカニズム、分類等に関して多くの新規知見が得られようとしています。さらには、今後患者ごとにシークエンスを行い、その結果に基づいて治療の方針を決定する「クリニカルシークエンス」技術にも期待が高まっております。

一方で、多くの数理的な課題が生じつつあります。大量のシークエンスデータ解析のためには、がんゲノムに生じている多様な変異を正確かつ高感度に検出するための情報的・数理的手法の開発が必須であり、特に構造変異と呼ばれる大域的な異常などの検出については現在も決定的な方法論の開発がなされていない状況です。さらに、検出した変異について、変異ごとの相関関係、パスウェイとの関係、転写やエピジェネティクスなどのマルチオミックスデータをあわせて特徴的な情報をマイニングする方法論、がんゲノムのヘテロジェネイティ構造を解明する新規手法の開発がますます重要性を増してきております。

我が国においては、米国や英国を始めとする欧米の国々に比べて、上記のような数理的ながんゲノム解析手法の開発が進んでいない状況です。これにより、新規がん遺伝子の発見やそれに伴う薬剤開発、クリニカルシークエンスのプラットフォーム構築などが遅れ、我が国の医療産業が海外に比べて競争力を失ってしまうことが強く危惧されます。効率的・実用的な情報・数理手法の開発体制を整備することが我が国の医療産業を防衛する上で急務であります。

本ワークショップにおいて、数理・情報的手法に強い統計学・機械学習の研究者、及びがんゲノム解析に従事している第一線の研究者を集め、講演を通じた議論を行うことで、がんゲノム研究の活性化を目指します。

日時:

9月30日(水)

場所:

東京大学医科学研究所(http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/access/access/)

一号館講堂(http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/access/campus/)

事前登録:

必要なし(ただし懇親会に参加される場合は、出来るだけ事前にyshira@hgc.jpに連絡下さい)

講演日程:

10:20 - 10:30

はじめに

10:30 - 11:00

藤本 明洋 (理化学研究所・統合生命医科学研究センター)

「がんゲノム変異解析とドライバー遺伝子の検出」

11:00 - 11:30

新井田 厚司 (東京大学医科学研究所)

「がんの進化シミュレーションによる腫瘍内不均一性生成原理の探索」

11:30- 12:00

加藤 護 (国立がん研究センター)

「臨床シークエンス、一細胞シークエンスの生物情報学」

12:00 - 13:15

昼食

13:15 - 14:00

(特別講演)

小川 誠司 (京都大学大学院・医学系研究科)

「がん研究の今と展望」

14:00- 14:30

島村 徹平 (名古屋大学大学院・医学系研究科)

「がん悪性化に寄与する発現制御調整因子のイン・シリコ探索」

14:30 - 15:00

瀬々 潤 (産業技術総合研究所)

「ゲノム配列解析に潜む統計・情報〜構造変異の同定と、変異の相乗効果の検出」

15:00 - 15:20

休憩

15:20 - 15:50

吉田 亮 (統計数理研究所)

「生命科学におけるデータサイエンス駆動型アプローチの開拓と実践」

15:50 - 16:20

上田 宏生 (東京大学先端研・ゲノムサイエンス / 富士通株式会社)

「ビックデータ解析フレームワークを用いたがんゲノム解析」

16:20 - 16:50

白石 友一 (東京大学医科学研究所)

「がんゲノムシークエンスデータからの変異の検出とマイニング法」

16:50 - 17:00

終わりに

17:20 -

懇親会 (総合研究棟8Fにて)

世話人:

白石 友一 (東京大学医科学研究所)

yshira@hgc.jp

*本ワークショップは、文部科学省委託事業数学協働プログラム(受託期間:統計数理研究所)の支援の元で開催されます。